ベーシックインカム導入のご提案2021

ベーシックインカムの導入方法として、これまで同様に月額1万円支給からスタートして徐々に支給額を増やす方法に加えて、段階的導入という考え方を採用し、第一段階から第三段階へと、段階的に導入することで、より導入のハードルが下がった提案だと思います。(2021.10.26改定しました)

2021.10.26改定

A)ベーシックインカムの目的

 人間の代わりに機械が働く未来社会の実現が最終目的となる。すなわち、人工知能やロボットなどの生産機械が十分に進化した未来おいては、機械が働き、人間は遊んで暮らす社会になると予想されるが、そのような未来社会における、社会と金融の基本システムとしてのベーシックインカム(未来型ベーシックインカム)を実現することが最終目的となる。貧困問題や年金問題の解決は目的ではないが、そのような社会においては、結果としてそれらの問題は解決することになる。

B)具体的な構想の要約

基本方針 

①段階的な実現を目指す、まずはおカネを配ることから始める

②十分におカネが行き渡ったら、未来社会のための改革を行う

 基本的な導入方法は、月額1万円支給から始めて、支給額を毎年1万円ずつ増加させ続けることで行う。状況によって、引き上げ額や引き上げペースの変更も検討する。ただし、次の3つの段階で行う。

第一段階  ヘリマネ期

 支給月額: 3万円

 財源など:通貨発行=MSの4.5%程度で

第二段階  最低保証期

 支給月額:7万円

 財源など:所得税を10%増税、および年金など組み換え

第三段階  拡大期・改革期

 支給月額:継続増額

 財源など金融資産課税の導入、および規制改革など


第一段階 ヘリマネ期(月額3万円程度まで)

 財源は通貨発行(政府紙幣の日銀預金または永久国債の日銀引き受け)。月額1万円の支給から始めて毎年支給額を増額し、3万円支給程度まで。この段階では、増税や社会保障制度の変更は一切行わない。景気の回復が不十分な場合は支給額をさらに増やしても良い。月額3万円の通貨供給量はマネーストック(MS)の4.5%程度なので、インフレには金利引き上げで対応可能。このMSの4.5%が、今後の金融制度における通貨供給のベースとなる(二階建て金融システム)。景気回復と金利の正常化を目論む。

第二段階 最低保証期(月額7万円程度まで)

 第一段階の状況を分析し、支給額を徐々に7万円程度まで引き上げる。財源としては、先に述べた通貨発行に加えて、所得税の10%引き上げを行う(手間がかからないから)。株式や不動産取引等のキャピタルゲインへの課税強化(総合課税化)も行う。また、財源として、景気回復による税収の自然増も期待できる。また、各種控除の見直しや、予算の組み換えも含む。社会保障の統廃合は行わないが、二重給付の抑制の観点から給付型の社会保障制度における支給の減額を行い、減額分を財源に組み込む(予算組み替え)。財源としては通貨発行(45兆円)+所得税10%(30兆円)+もろもろ(19兆円)で、月額成人7万円と未成年3万円に必要な金額(94兆円:原田先生試算)は出せるとみる。

第三段階 拡大期・改革期(支給額を増やし続ける、そのための改革)

 月額7万円の支給額では満足な生活を送ることは難しいので、支給額は増やし続けなければならない。第二段階までの状況を分析し、新たな財源として金融資産課税(個人・法人)を創設する。なお、支給額を増額し続けるためには、生産の自動化や資源の再利用などを促進する必要があることから(供給力の確保)、支給額を増額しつつ、同時に規制緩和などの構造改革を行う。とりわけ、人工知能やロボット、完全自動生産工場、再生可能エネルギーなどの導入や開発の妨げになる規制を緩和し、テクノロジーへの投資促進を図る。こうした分野への公的な研究開発投資(財源は通貨発行)も十分に行う。

 支給金額の明確な目標はないが、イメージとしては、人工知能やロボットなどの自動生産システムが普及することにより、将来的に、ほぼすべての国民が仕事を失う(仕事をしなくてもよい状態になる)ことを想定すれば、支給額は最低限の生活を保障する額ではなく、社会の平均的な所得水準としなければならない。例えば、実質値(インフレを除く)で言えば、最低でも毎月20万円以上(未成年は半額)は必要と考える。

 こうした継続的な支給額の増額を図るうえで、長期的な財源(税)について検討する必要があるが、経済や社会情勢によって最適な税制が変化することも十分に考えられるので、必ずしも現段階で決めなければ制度をスタートできないわけではない。

(当方式のメリット)

・第一段階は、すぐにでも実行可能、かつ内需の底上げによる景気回復が期待できる。

・二階建て通貨供給(固定供給+変動供給)を制度化し、通貨供給を底上げすることで、インフレ目標の達成と金利の正常化が可能(金利政策の有効性を保つことができる)。

・支給額を徐々に増額することで、社会へのマイナスの影響を最小限に抑えることが可能。

・インフレへの対応が十分に可能(支給額を徐々に増額し、増税も金利政策も併用するから)。

・痛みを伴う改革ではなく、痛みのほとんどない改革を行う=多くの国民が受け入れやすい。


C)補足

①通貨供給に伴うインフレ懸念について

ベーシックインカムによる通貨供給を4.5%程度に留めるなら、過度のインフレを引き起こす可能性はほとんどないと考えられる。実例として、日本のマネーストック(MS)の伸び率とインフレ率の推移をグラフで示す。極めて特殊な例外を除き、インフレ率がMSの伸び率を上回ることはない。ベーシックインカムによる通貨供給を行った場合、通貨の伸び率(世の中の借金の増加率)は「政府による通貨供給率(政府の借金の伸び率)4.5%+市中銀行の信用創造による通貨供給率(民間の借金の伸び率)」であるから、景気過熱の際には後者(民間への貸し出し)を金利引き締めで抑えて、全体としてMSの伸び率を7~10%以下に抑えてしまえば、インフレについては、まったく問題ないと考えられる。ゆえに、インフレの際にはベーシックインカムの支給額を減らす必要はなく、金利政策で対応できる。

②金融資産課税の必要性について

 ベーシックインカムの財政的な持続可能性(通貨循環)を考えた場合、政府がベーシックインカムとして市中に支給した通貨をすべて税で回収しなければならない。しかし、それらのおカネが資産家や企業の貯蓄や内部留保として蓄えられてしまえば、税では回収できなくなり、財政的な持続可能性は厳しくなり、財源は「増税につぐ増税」、あるいは「通貨の過大な新規発行」に頼らざるを得なくなる。こうした問題が生じる理由は、今日の税制がフロー課税に偏っているからである。そこで、ストックに課税することで、循環しなくなった通貨を回収する必要があると思われる。一方、資本主義のシステムにおいては、「カネを増やすことが行動原理」であることから、資産家や企業の金融資産の増大は、資本主義のシステムを採用する以上、容認せざるを得ないところでもある。むしろ、こうした資産の膨張を容認するためにも、その原資となる通貨発行は必要となる(市中の通貨の総量を増やさなければ、金融資産が膨張し続けることはできないから)。なお、金融資産全体に課税する理由は、仮に預金(つまり通貨)だけに課税した場合、金融商品のバブルが生じる恐れがあると思われるから(不動産バブルにも警戒)。

③目標とする月額20万円のベーシックインカム支給額は過剰なのか

 月額20万円は過剰だと思わない。現在の雇用者と自営業者の混合所得はおよそ年間300兆円(原田先生試算)なので、国民一人当たりの所得は、300×10の12乗円÷1.2×10の8乗人=250×10の4乗円、つまり、およそ250万円となる(10の12乗=兆、10の8乗=億、10の4乗=万)。一方、ベーシックインカムの支給額が全国民一人当たり月額20万円の場合、年間では支給額240万円となる。仮に国民の全てが無職になるなら、格差はゼロなので、計算上は成り立つ。もちろん、実際にはすべての人が無職にはならないし、資産家は不労所得があるので、格差がなくなるとは考えられないが、現在でもこのレベルなので、資源のリサイクルを含めて、将来的に総供給力が拡大する(経済成長する)と考えるなら、荒唐無稽な話ではない。


D)私がベーシックインカムを支持するに至った経緯

①二度のバブル崩壊の経験

 1990年ごろの日本におけるバブル崩壊と、2007年ごろの米国におけるサブプライムローンバブル崩壊を受けて、バブル経済とは何かを考えることになった。その結果、バブルが崩壊すると、カネが回らないという理由だけで、戦争で供給力が破壊されたわけでもないのに、経済が停滞して人々の生活を苦しめる事態になることがわかった。これは極めて不合理である。簡単に言えば、カネが無いだけの問題であり、国民にカネを配れば、供給力が活性化して、バブル崩壊前と同じ状態になると考えた。

②失われた20年の経験

 失われた20年の間に、科学技術は、とりわけITを中心として飛躍的に向上した。にもかかわらず、経済はデフレ不況のままであり、果たして科学技術が進歩しても、問題は解決できないのではないかと考えた。さらに考察した結果、現代の市場経済においては、科学技術が進歩すればするほど、労働の価値は低下し、むしろ貧困と格差を生み出す原因になることがわかった。これは極めて不合理である。科学技術が進歩するほど、国民にカネを配る必要があると考えた。

③人工知能の飛躍的な進化

 最近は、人工知能が人間を超えて、人間の代わりに複雑な仕事を行うことができるようになってきた。また完全自動生産工場も登場し、人間の労働を必要としない社会が射程内に入りつつあることを知った。しかし、このままでは技術的失業により、大部分の人々が職を失う、または低賃金のサービス業に追いやられることが明白である。無味乾燥な労働を人工知能やロボットが担う社会になるにもかかわらず、人間の生活が楽になるどころか、大多数の人が貧困化するという結果になるのは、極めて不合理である。システムの大胆な転換が必要と考えた。

④ベーシックインカム(給付金制度)が必要との考えに帰結

 大多数の国民が仕事をする必要がなくなるのであれば、賃金所得によって生活することは不可能であり、賃金に代わる所得制度が不可欠である。しかし考えてみると、多くの国民は本音では「仕事などしたくない」と考えており、機械が人間の代わりに労働するなら、その方が良い。また、企業から国民に賃金が支払われない以上、政府が給付金の形で国民に所得を配らなければ、生産者と消費者の間における通貨の循環がマヒし、経済そのものが崩壊する。従って、ベーシックインカムは未来における経済システムの基本となるはずである。

⑤残された課題は、ベーシックインカムの導入方法

 未来社会の経済において、ベーシックインカム的な給付制度が必須であるとしても、それは現在のシステムとは大きく異なっている。課題は、社会に大きな混乱をきたすことなく、段階的に未来の経済システムへ移行することであり、そのためのロードマップ、制度の段階的変更などの計画を立案し、実行することである。

以上