金融緩和って何だ

2015.5.28修正

<金融緩和で景気が良くなるの?>

(ねこ)

金融緩和ってなんなのにゃ。なんでそんなことするにゃ。

(じいちゃん)

金融緩和というのは、日本銀行が現金を発行して世の中のおカネの量を増やすことなんじゃよ。なんでそんなことをするかというと、景気を良くするためなんじゃ。

世の中のおカネを増やして、その結果としてみんなのお給料が増えると、おカネを使う人が増えるじゃろう。そうしておカネを使ってモノ(商品やサービス)を買う人が増えれば景気が良くなるんじゃ。そして、みんながモノをたくさん買うようになれば、企業もたくさん作ろうと思うようになる。たくさん作ればたくさん売れて、儲かるってわけだ。すると、企業でも商店でも、従業員をもっと増やそうとして、人を採用するんだ。すると失業している人が減って就職している人が増える。失業している人が就職して給料をもらえるようになると、もらった給料を使って何かを買おうとするだろう。すると、さらに商品やサービスが売れてもっと景気が良くなる。経済は連鎖反応なんじゃよ。

(ねこ)

んにゃ。日本銀行が現金を発行するって、お札をいっぱいいっぱい刷っているのかにゃ?

(じいちゃん)

お札は刷っておらんぞ。今は電子的に数字が増えるだけじゃ。

つまり、現代のおカネの多くはコンピューター上にあるのじゃ。ちなみに自分の預金通帳を見てごらん。預金額が書いてあるけど、あの数字と同じ額のお札が銀行に保管されてるかというと、答えはノーじゃ。現代のおカネってのはお札じゃない、コンピューター上の数字じゃ。だから、輪転機なんか回さなくても、日銀が現金を発行する場合は、一瞬で10兆円とかのおカネが出来てしまうわけなんじゃ。ただ、便宜上、日銀が「カネを刷る」というがね。実際には刷っていない。コンピューター内の帳簿に書き込まれるだけじゃ。

<現代の社会は借金に依存している>

(ねこ)

ふ~ん。じゃあ、日銀が増やしたおカネは、そのあと、どうなるの?どうやって社会に流れるの?

(じいちゃん)

まず日銀が、発行したおカネを民間銀行に渡すんじゃ。どうやって渡すかは、あとから説明する。そして、日銀から受け取ったおカネを、今度は民間銀行が企業や個人に貸し出す。すると、おカネが世の中の誰かのところに行くんじゃ。つまり、おカネというものは、銀行が誰かに貸し出す事で、「貸し出し」として世の中に流れ出すんじゃよ。驚くかも知れんが、本当の話なんじゃよ。調べればすぐにわかる。日銀の発行したおカネは、誰かが民間銀行から借金して初めて世の中に流れ出し、世の中のおカネを増やすんだ。

(ねこ)

それなら、銀行から誰も借金しなかったら、世の中のおカネは増えないのかにゃ。

(じいちゃん)

ほっほっほ。そのとーりじゃ。日銀がおカネを増やしても、借りる人が居なければ世の中のおカネはまったく増えないのじゃ。つまり世の中のおカネは、すべて銀行からの借金でできておるのじゃよ。だから誰も借金しなくなったら、世の中のカネがすべて消えてなくなる。なんか変な気がするが、金融の仕組みから言って、それは間違いないのじゃ。そうなったら経済は成り立たなくなってしまうのじゃ。つまり、今の貨幣制度は「借金することが前提」の貨幣制度なんじゃよ。まず、そこを正しく理解しなきゃ経済の事は何も理解できないのじゃ。今の世の中は、借金なしじゃ成り立たない仕組みなのじゃよ、だから景気を刺激するために銀行からの貸し出しを増やす政策を日銀が行っておる、それが金融緩和政策なのじゃ。

(ねこ)

なんか変な感じだにゃ。私たちの経済は永久に銀行からの借金に依存し続け、永久に銀行へ金利を払い続ける運命なんだにゃ。誰かが借金をしなければ成り立たない経済、その仕組みから決して逃れる事はできないのにゃ。それって良い事なの?

(じいちゃん)

良いとか悪いとかとは別にして、そのような経済システムになっておる。その結果、世の中のおカネを増やせば増やすほど世の中の借金が増える宿命にある。つまり、おカネを増やして景気を良くすれば良くするほど世の中の借金も増えるというわけじゃ。現代の社会は銀行からの借金の上に成り立っとるんじゃよ。それが良いシステムかどうかは、みんなが判断する事じゃ。重要なことは、国民が銀行のシステムについて深く理解することが必要だと言うことじゃ。

銀行の基本的な仕組み・信用創造についてはこちら

<金融緩和のやりかた>

(ねこ)

金融緩和で世の中のおカネを増やすには、具体的にどうやるのかにゃ?

(じいちゃん)

それは、民間銀行などが保有しておる国債を、日本銀行が買い取ることで行われる。日銀が民間銀行の保有する国債を買い取る事を「量的緩和」というのじゃ。金融緩和にもいくつか種類があるが、現在行われているのはこの量的緩和なのじゃ。

(ねこ)

ふ~ん、金融緩和にも種類があるのか。ところで国債ってなんにゃの?

(じいちゃん)

国債は、政府の借金の一種じゃ。じゃが普通の借金ではなく、それを「債券」って形にして、誰でも売買できるようにしたのが国債なんじゃ。国債を買っておくと、定期的に利息がもらえて、満期には全額が返済される。民間銀行ってのは、預金を運用するために様々な債券を買って保有しているんじゃよ。国債もその一つで、その利息が銀行の儲けになるわけだ。

(ねこ)

日銀が国債を買うと景気が良くなるって、どういうことにゃ?

(じいちゃん)

その仕組みはこうじゃ。まず、民間銀行がすでに保有している国債を日銀が買い取る。その買った代金を日銀が民間銀行に支払うんじゃが、その時、日銀が現金を発行して、その現金で民間銀行に代金を支払う。支払いのために新たに現金を発行するから「おカネの量が増える」わけじゃな。民間銀行は国債を売って日銀から代金を受け取ったから手持ちの現金が増える。そのおカネを元に企業や個人に貸し付けを行い、世の中に借金としておカネが流れ出す。世の中の借金が増える事で、景気が良くなるって寸法じゃ。カネ=借金じゃからな。

(じいちゃん)

それにしても借金が増えて景気が良くなるって、微妙だにゃ。

(ねこ)

ほっほっほ、まったくそのとおりじゃな。でも、本当の事じゃ。マスコミや識者が「腫れ物にさわるように遠まわしに」話していた事を、はっきり言ったまでの話じゃよ。「信用」という言葉を聴いたことはあるかな?「信用拡大とか、信用創造とか、言うけどな、信用とは「借金」の事を遠まわしにいう言葉じゃ。借金拡大とか、借金創造とか言うと聞こえが悪いからじゃな。カードに表と裏があるように、世の中の全ての事にも表と裏がある。もし、表の理論で問題が解決できなかったとしたら、裏の理論を覗いてみることも必要なんじゃよ。長生きしておると、いろいろ裏の世界が見えてくる。まあ、そういう人間は「変人」扱いされるがな。いずれにしろ、真実は「世の中の借金が増えれば景気が良くなり、世の中の借金が減れば景気が悪くなる」ということじゃ。

(ねこ)

ひねくれてるのにゃあ。でもひねくれてるのは世の中の方なのにゃん?

<金融緩和は効かないの?>

(ねこ)

新聞には「日銀が国債を買っても効果は疑問」みたいな記事がいっぱい出てるけど、本当かにゃ。

(じいちゃん)

このあたりは意見が分かれておるようじゃ。しかし量的緩和を開始して以降、現在の経済状況をみると失業率が改善したり、設備投資が増加したり、春闘の賃上げも伸びており、明るい兆しがあることは間違いない。じゃから金融緩和には効果があると言えるじゃろう。しかし予断は許さないと思う。2014年4月の消費税増税の悪影響が続いており、個人消費は低迷したまま先が見通せない。本格的な景気回復は正念場にあると言えるじゃろう。金融緩和だけでは十分な景気回復が達成できないかも知れないのじゃ。

何回も繰り返しになるがな、日銀が民間銀行に供給する現金は、必ず「借金」として世の中に流れ出す。これが問題じゃ。今の日本はデフレ不況に加えて消費税増税の悪影響で、表面上の経済成長率はゼロあるいはマイナスという悲惨な状況にある。こんな状況だから、「借金して事業を拡大しよう」なんて考える企業はなかなか増えない。おまけにマスコミが盛んに「日本は成長しない」「これからは中国市場だ」とか言っておるから、ますますもって「ああ、借金してまで日本に投資しても無駄だな」とみなが信じ込んでおる。そうなると、いくら民間銀行に現金がたくさんあっても、借りる人がいないのじゃから世の中におカネは流れ出さないわけじゃ。だから日銀が国債を買っても効果が薄いんだ。これが「借金に依存する通貨制度」という現代社会の最大の弱点なんじゃよ。

<日銀の国債直接引き受けとは?>

(ねこ)

それじゃあ、日本はもうダメなのかにゃ。景気が悪くなってネコも捨てられてしまうにゃ。

(じいちゃん)

いやいや、そんなことはまったく無いから安心せい。借金に頼らなくても、直接的に世の中のおカネをふやす方法があるんじゃ。それが日銀の「国債引き受け」だ。これは量的緩和とは違って、民間銀行が保有しておる国債を日銀が買い取るのではない。政府が新規に発行した国債を、民間銀行を経ず、直接に日銀が買い取る方法なんじゃ。

(ねこ)

日銀が直接に国債を買うと、何がいいのかにゃ?

(じいちゃん)

日銀が直接に政府から国債を買い取ると、そのおカネは直接に政府に入るわけじゃ。量的緩和の場合は、おカネは民間銀行へ入るから、誰かが銀行に借金をしなければおカネは銀行でストップしてしまうじゃろ。ところが直接引き受けの場合は、おカネは直接政府に入るから、そのおカネを政府が使うことで世の中におカネを直接に流す事ができるって寸法なんじゃ。たとえば、東北の被災地の復興を大規模に行うためにおカネを使ったり、脱原発のための研究開発や自然エネルギー発電施設の建設におカネをつかったりすれば、被災地の人も喜ぶし、雇用が増えて景気も回復する。まさに一石二鳥というわけだな。

(ねこ)

すごいすごいネコにゃあ。すぐに日銀が国債を引きけるのにゃ。

(じいちゃん)

ところがそう簡単にはいかないのじゃよ。いわゆる抵抗勢力が既得権益を守るために必死に抵抗してきておる。こやつらの論点は「そんなことすると、おカネの発行に歯止めが利かなくなってハイパーインフレになる」というものだな。そんなもの法律で上限を規制すれば防止できるんじゃが、彼らに言わせると「一度始めたら歯止めが利かなくなる」のだそうだ。日本は法治国家なんじゃから、法律で政策をコントロールできないなどあり得んがのう。そんなことも出来んのなら法治国家ではないぞ。

(ねこ)

既得権益との戦いなんだにゃ。ところで、日銀が国債を引き受けても、結局は政府が国債を発行するんだから借金することにゃん。国債をこれ以上増やして大丈夫かにゃ。

(じいちゃん)

大丈夫じゃよ、安心せい。なぜなら日銀は政府の銀行だからなんじゃ。確かに日銀の持っている国債には、政府が利息を支払わなければならない。だから政府は日銀に利息を支払う。その利息は日銀の収益になる。日銀は政府の銀行じゃから、日銀の収益は政府に納めなければならないんじゃ。つまり政府の支払った利息は政府に戻ってくる。国債が満期になった場合も大丈夫だ。満期になって政府が日銀に払い戻す際に、再び同額の国債を発行して、日銀がまた引き受けすればよいだけのこと。つまり「借り換え」じゃよ。日銀が国債を直接引き受ける以上は、借り換えをずっと続けられるから、絶対に返済不能な状態にはならないんじゃよ。じゃから財政破綻は絶対に起こらないのじゃよ。

(ねこ)

でも、それって自転車操業にゃ?

(じいちゃん)

ところが、これで世の中のおカネが増えておカネが回り始めると、税収もどんどん増加し始めるんじゃ。すると、国債の発行額をどんどん減らす事ができるようになる。なぜなら、景気が良くなると今まで使われずに貯め込まれていたおカネが動き出すし、企業も借り入れを増やすようになるから、財政はどんどん健全化の方向へ向かうんじゃよ。世の中にはおよそ1000兆円ものおカネがあるんじゃ。

それに、そもそも政府にとって国債は借金なんだが、政府の銀行である日銀にとって国債は貸し付け。同じ政府内部で借金と貸付があるんだから帳簿上は相殺されて、日銀の保有する国債はいくらあっても国の借金にはならないのじゃ。じゃから日銀が政府の国債をどんどん買っても、事実上は国の借金は一円も増えないってわけだ。何が変化したのかといえば、世の中のおカネの量が増えるだけなんだよ。

(ねこ)

日銀引受は、世の中のおカネが増えるだけなのにゃん?

(じいちゃん)

その通り。世の中のおカネが増えたとしても、その結果として経済が活性化してモノがたくさん生産されて、人々に行き渡るようになったほうが人々は幸福じゃ。すると、問題は「そのおカネの用途」と「インフレのコントロール」ということになるのじゃよ。

以下は、金融制度の問題点と解決法についてワシが詳しく書いた本じゃ。もし興味が沸いたら、ぜひ購読いただけるとうれしいのう。

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