財政再建は必要なし:第2話ナレーション

「国債を返済する必要はない」

はっはー、私は、ばらまきマンだ。前回の説明で、現在の社会は借金なしに成り立たない「借金経済」であることがわかったと思う。世の中のすべてのおカネは銀行からの借金で作られる仕組みになっている。今回は、もう少し詳しく、おカネのしくみと政府の借金の関係について考えてみよう。

<おカネの供給>

現代の社会では、おカネは政府が供給しているとされる。とはいえ、政府が直接に供給しているのではなく、政府の銀行である「中央銀行」がおカネを供給するかたちになっている。中央銀行とは、日本で言えば日本銀行のことだね。しかし、実際におカネを世の中に供給しているのは、中央銀行ではなく、一般の銀行であり、これを中央銀行に対して市中銀行という。

おカネの供給の仕組みの全体像を示したのが次の図だ。おカネの供給には2つの段階がある。一つは①マネタリーベースの供給、もう一つは②マネーストックの供給だ。マネタリーベースは日銀が供給するおカネのことで、マネーストックは市中銀行が供給するおカネを指す。通貨制度はマネタリーベースとマネーストックの二重構造になっている(下図

ややこしいかもしれないけど、ここが非常に重要なポイントになる。前回も説明したように、日銀が発行したおカネがそのまま私たちの経済活動に導入されるわけではない。まず日銀がマネタリーベースを発行し、それによって市中銀行がマネーストックを供給する。必ず市中銀行を通じておカネが供給されている。だから、通貨制度はマネタリーベースとマネーストックの二重構造になっているんだ(下図)。

これを知らないと、通貨制度を何も理解したことにならない。じゃあ、おカネの供給の流れを順に見ていこう。

①日銀によるマネタリーベース(現金)の発行

日本銀行から市中銀行への貸し出しとして、現金が発行される。この日銀が発行した現金がそのまま世の中に出回るわけではない、そのため、日銀の発行した現金を世の中に出回っているおカネと区別するため、マネタリーベースと呼ぶ。文章中では短く略してMBと表記されることもある(下図)。

日銀が市中銀行におカネを貸すことで、市中銀行と貸し借りの関係が生じる。これを貸出債権という。基本的には、このように日銀が市中銀行に貸し出すことで現金が発行される。

一方、市中銀行の保有する国債を、日銀が購入することでも現金は発行される。それが今日、日銀の行なっている量的緩和政策に該当するが、このしくみは後で説明でしよう。今は基本的なしくみだけを説明する。

②市中銀行によるマネーストックの発行

さて、この銀行が日銀から借りたマネタリーベースを元にして、今度は銀行が貸し出しを行なう。市中銀行が貸し出したおカネは、企業や家計の間を回って実体経済を支えることになる。だから、これを先ほどのマネタリーベースと区別してマネーストックと呼ぶ。文中ではMSと表記されることもある(下図)。

市中銀行は日銀から借り入れたマネタリーベースを使ってマネーストックを貸し出す。といっても、市中銀行は日銀から借りたマネタリーベースの何倍ものおカネを貸し出している。つまり、貸し出す際におカネの量が増えているんだ。おカネの量が増えるということは、事実上、市中銀行がおカネを発行していることを意味する(下図)。

市中銀行がおカネを発行しなければ、おカネが勝手に増えるはずはないよね。市中銀行がおカネ発行し、これを貸し出すことで、世の中のおカネの量が増えることになる。これを「信用創造」と呼ぶ(下図)。

さて、市中銀行がおカネを貸し出す対象は、大きく分けると二つある。一つは企業や家計、そしてもう一つは政府だ(下図)。

まずはじめに、企業や家計に貸し出す場合を考えてみよう。銀行が信用創造によっておカネを作り出し、企業や家計に貸し出すと、世の中のおカネの量が増える。世の中のおカネが増加すると、消費が刺激されて景気が良くなる(下図)。

市中銀行が企業や家計におカネを貸すことで貸し借りの関係が生まれ、市中銀行には貸出債権が生じる。だから企業や家計は市中銀行におカネを返済する義務を負うことになる(下図)。

企業や家計が借りたおカネを銀行に返すためには、世の中に出回っているおカネを回収して、銀行に返済する必要がある。そのため、銀行におカネを返済すると、おカネの量が減って景気が悪くなる(下図)。

ただし、世の中全体で見ると、毎日毎日、誰かがおカネを銀行に返済する一方で、その金額と同じだけのおカネが銀行から別の誰かに貸し出される。そのため、返済と貸し出しを合計して考えると、世の中のおカネの量が減ってしまうことはない。ただし、もし銀行から借金する人が減ってしまえば、たちまち世の中のおカネの量は減ってしまうことになる。

市中銀行がおカネを貸すもう一つの対象は政府だ(下図)。

ただし、政府が直接おカネを借りることはない。政府が国債を発行し、これを銀行が買うことで、事実上、銀行が政府におカネを貸したことになる。銀行が政府におカネを貸しても、企業に貸した場合と同じように、世の中のおカネであるマネーストックが増加して景気が良くなる(※正確に言えば、マネーストックを貸し出すわけではないが、仕組みが複雑なので、ここでは省略しています)。

この場合もおカネを貸した銀行には貸出債権が生まれるが、これが国債という債券になる。だから政府は国債を保有している銀行におカネを返さなければならない。

そして政府が銀行におカネを返す場合は、増税によって世の中のおカネを回収することになる。そのためおカネの量が減って景気が悪くなるわけだ。つまり、政府の借金を返すと、世の中のおカネが減って景気が悪化し、国民は貧しくなる(下図)。

財政再建が一筋縄ではいかないのは、このためだ。単に消費税を増税して政府の借金を返せば世の中が良くなるわけではない。ここまで理解できたなら、そこから色々なことが見えてくるはずだ。次にそれを考えてみよう。

<政府の代わりに誰が借金を負うのか?>

世の中のすべてのおカネは誰かが借金することで作られている。だから、景気を悪化させることなく、政府の借金を減らしたいのであれば、政府が借金を減らす代わりに、別の誰かが同じ額の借金を背負えばよい。そうすれば、借金の返済で世の中のおカネが減ってしまう心配はない。政府以外といえば、企業または家計のどちらかだ。だから、財政再建をするには、企業または家計の借金を増やすしかない。

結論から言えば、企業が借金を負うべきだと言える。なぜなら、家計が借金を増やすことは自殺行為に他ならないからだ。

企業の場合、仮に銀行から借金したとしても、そのおカネを生産設備や技術開発などに投資することで、売り上げを拡大し、利潤をあげることができる。だから企業が借金しても返済することができる(下図)。

ところが家計の場合は、借りたおカネは消費に向けられる。おカネを消費してしまえば、それまでだ。企業と違って投資するわけじゃないから、利潤を生み出すこともない。だから借金を返済できなくなって、破産する家計が続出することになる。そんなことしたら、経済は大混乱になってしまうだろう(下図)。

だから、企業がどんどん借金を増やさなければならない。これが財政再建のためには絶対に必要な条件なのだ。実際、日銀の金融緩和政策は、企業などの借り入れを促進する目的で行なわれている。しかし、驚くことに、こんな基本的なことも新聞やテレビは報道しない。口を開けば消費増税の話しかしない(下図)。

とはいえ「もっと借金しろ」と企業に強制することはできない。日本経済がデフレを脱却できず、景気が悪くて売り上げも増えないような環境のもとでは、企業が借金を増やすことは難しい(下図)。下手に銀行から借金すると、倒産してしまうかもしれない。だから家計も企業も銀行から借金したいとは思わない。では、いったい、どうすればいいのだろうか。

<政府の借金を返す必要はあるのか?>

すべての借金を銀行に返済すると、世の中のおカネがなくなって、経済が破綻してしまう。現代の通貨制度がそういう仕組みなのだから、そもそも、政府の借金を返す必要はあるのか?と思うはずだ。そう、実は返す必要は無いんだ。とはいえ借りたおカネを返済しなければ、国債を買った銀行は困ってしまう(下図)。

そこで、とても良い方法がある。市中銀行が保有している国債を日本銀行が買い取る方法だ。市中銀行が国債を保有している状態では、政府は市中銀行におカネを返済しなければならない。もし日銀が市中銀行の国債を買い取ると、その国債は日銀が保有することになる。すると、政府は日銀に対しておカネを返済することになる(下図)。

もちろん、政府は日銀におカネを返済しなければならない。しかし、日銀は政府の銀行だから、もし国債の返済期限が来た場合は、日銀からおカネを借り換えることができる。借り換えができるなら、おカネを返す必要はない(下図)

しかし、もし国債を市中銀行が保有したままであれば、簡単に借り換えることはできない。だから日銀が市中銀行から国債を買い取って、日銀が国債を保有するわけだ。そうすれば、国債の借り換えは簡単にできる。

この「日銀が市中銀行から国債を買い取る」という政策は、実はすでに日銀が行っている「量的緩和政策」のことだ。だから、特別におかしな政策ではない。つまり、現在、日銀が行なっている量的緩和政策をそのままずっと継続し、買い取った国債を日銀が保有したままにしておけばいいだけなんだ(下図)。

<日銀が国債を買い取るとハイパーインフレになるのか?>

「日銀が国債を買い取るとハイパーインフレになる」と騒いでいる人をたまに見かけるよね。しかし、これまで説明したことを思い出していただければ、それはあり得ないことが理解できる。日銀が市中銀行から国債を買い取るには、日銀がマネタリーベースを発行して、そのおカネを支払って銀行から国債を買い取る。これによりマネタリーベースが増加する。

しかし、世の中におカネが供給されるには、市中銀行から企業や家計などに貸し出される必要がある。いくら日銀がマネタリーベースを増やしたところで、市中銀行からの貸し出しが増えなければ、世の中のおカネは増えない。だから、ハイパーインフレにはならないわけだ(下図)。

実際、量的緩和によってすでに300兆円以上のおカネを日銀が発行したけれど、市中銀行の貸し出しが増えないために、ハイパーインフレどころか、2%のインフレすら達成できないほどの不景気が続いている(下図)。

さて今回は、国債を発行することは、おカネを発行することと同じであることを説明してきた。そして、その国債を返済すると、世の中のおカネが減って景気が悪化する。だから、国債を返済するのではなく、国債を日銀が買い取ることによって、世の中のおカネの量を維持することができることを説明した(下図)。

このように、財政再建とおカネの仕組みは非常に深い関係がある。おカネの仕組みを知らなければ、財政再建を論じることは不可能だ。この関係については、まだまだ考えなければならない事がいっぱいある。それは、またの機会にご紹介しようと思う。今日はこれまで!