グローバリズムは2種類ある

2017.1.9

(ねこ)

トランプ氏が米国大統領に当選してからというもの、毎日のように新聞マスコミには、グローバリズムを賞賛して反グローバリズムの動きを非難する記事が掲載されているにゃ。よくまあ飽きもせず、同じ事を繰りかえすにゃ。そんなにグローバリズムがいいのかにゃあ。

(じいちゃん)

そうじゃのう、新聞マスコミのあまりの熱心さには、鬼気迫るものを感じるわい。ところでグローバリズムと一口に言うが、グローバリズムには大きく二つの種類があると考えられるのじゃよ。じゃが新聞マスコミはそれをあたかも同一であるかのように記事に取り上げておる。ここには人々の誤解を利用した世論操作が潜んでいると思うのじゃ。

(ねこ)

ふにゃ、またマスコミの世論操作かにゃ。ところで二種類のグローバリズムって何かにゃ?

(じいちゃん)

それは「世界の単一市場化」と「世界の協調体制」のことじゃ。「世界の単一市場化」とは、世界各国の市場を単一の同じ競争ルールの下に置くことじゃ。各国市場間の関税や参入規制を撤廃し、使われる通貨さえも統一することで、まさに世界をグローバル企業の活動できる一つの市場にすることじゃ。これは経済イデオロギーと言ってよいじゃろう。一方、「世界の協調体制」とは、地球温暖化や途上国の貧困問題、平和問題のような一国で解決することができない世界規模(グローバル)の課題を、世界中の国々が協力・協調することで解決しようとする試みじゃ。これは必ずしも経済イデオロギーと関係しておるわけではない。

このように、その二つの概念は明らかに違うものであり、その両者が同時に行われることが必ずしも必要とは言えない。にもかかわらず、新聞マスコミがグローバリズムを語るとき、その両者を分けることなく用いるのじゃ。そのため、多くの人はグローバリズムと聞けば、その両方を同時に連想してしまう。つまり誤解する。そこに問題があるんじゃ。

(ねこ)

何が問題なのかにゃ。

(じいちゃん)

いま、世界では、グローバリズムに反対する人々・懐疑的な人々が増えてきておる。こうした人々を新聞マスコミは「反グローバリズム」であると言っておる。そのように新聞マスコミが言えば、一般の人々はこのように思うはずじゃ。「反グローバリズムの人々は、世界の協調体制に反対して、グローバル(地球規模)な問題の解決をないがしろにしている無法な人々」であると。しかし、反グローバリズムの人々が反対しているのは主に「世界の単一市場化」なんじゃ。彼らの中で「世界の協調体制」が不要であるなどと考える連中は、ごく少数の過激な連中に過ぎないのじゃよ。

(ねこ)

でも、新聞マスコミは「反グローバリズムの人達は、移民政策に反対する人種差別主義者だ」と言ってるにゃ。

(じいちゃん)

それも明らかな間違いじゃ。グローバリズムに反対している人々は実に様々な立場がある。右派の人も居れば左派の人もいる。その中で人種差別主義者だから移民に反対しておる人は一部の極右勢力だけじゃ。それらすべての人々を「反グローバリズム」という括りで一緒くたに扱うのはおかしい。普通の反グローバリズムの人々の立場から言えば、移民政策とはそもそも世界の単一市場化(労働市場の統一)の動きであるし、また移民が社会にさまざまな軋轢を生む原因になるから反対しておるのじゃよ。むしろ移民を規制せずに放置しておれば、どんどん移民が流入し、それが人々の間に問題を引き起こし、やがて民族間の対立感情や差別意識を生み出すことにもなりかねんのじゃ。反グローバリズムを唱える大多数の人々は、正規の手続きで移民として生活している善良な人々を国外に排除しろと主張しておるわけではない。

また、反グローバリズムは移民政策や無制限貿易といった単一市場化に反対しておるだけではない。いま世界中でグローバリズム経済の拡大に伴って途上国の地下資源が大量に掘り起こされ、世界規模の環境破壊が進んでおる。こうしたグローバル経済による環境破壊に対する反対運動でもあるのじゃ。エコロジーや持続可能社会を目指しておる人々も含まれる。しかしこうした点は新聞マスコミから完全に無視されておる。

(ねこ)

「反グローバリズム=差別主義者」は、新聞マスコミの決め付けなんだにゃ。

(じいちゃん)

その通りじゃ。そもそも反グローバリズムの人達にとって「世界の単一市場化」や「環境破壊」に反対する理由はあっても、グローバリズムのもう一つの側面である「世界の協調体制」に反対する理由などない。むしろこうした世界的な協調体制は、地球温暖化や地球環境破壊を食い止め、世界平和を推進することで安全保障を確保し、先進国においては途上国へ支援を行うことでその見返りとして資源の確保につながる。つまり世界の協調体制は反グローバリズム政党の支持母体である大衆の利益に資するわけじゃから、まさに積極的に推進すべき考え方なんじゃよ。ただしこうした世界の協調体制は、世界の単一市場化と切り離して行うべきだとの考えなんじゃ。

(ねこ)

なるほど、反グローバリズムといっても、ごろつきのように、何でも反対と言っているわけじゃないのにゃ。グローバリズムの中でも「世界の単一市場化」に反対しているのであって「世界的な協調体制」に反対しているわけじゃないのにゃ。「世界の単一市場化」と「世界的な協調体制」を切り離して考えるべきだにゃ。

(じいちゃん)

左様じゃ。それを無視して新聞マスコミは「反グローバリズムはとんでもない考えだ」と主張しておるのじゃよ。それが世論操作じゃ。とはいえ、反グローバリズムを主張する人達の中には、人種差別主義者や暴力主義の人々も含まれている点には注意が必要じゃろう。正統派の反グローバリズムの人々は、そうした人々と一線を画した行動が求められるじゃろう。

(ねこ)

新聞マスコミは「反グローバリズムは一国主義のナショナリストだ」とも言っているにゃ。

(じいちゃん)

本当にマスコミのレッテル貼りには疲れるのう。そもそも今日の世界において各国が孤立して生存できるわけがない。そんなことは子供でもわかる。問題はその関わり方にある。しつこいようじゃが、それが単一市場でなければならないという理由はない。確かに単一市場の方が生産効率が高いことは明らかじゃ。じゃが、生産効率が高ければすべての人がハッピーになれるかといえば、そうではない。だから今日、グローバリズムが進展する中で一部の人々だけに富が集中し、多くの不幸な人を生み出している。つまり生産効率と人々の幸福追求のバランスが重要だということなんじゃ。それは単一市場化では達成できなかった。もう何十年もこんなことを続けている。「もうこりごり」なんじゃよ。

じゃから、反グローバリズムは他国を排除して自分だけ利益に預かるとか、他国から搾取するとか、そういう意味における「一国主義」「ナショナリズム」とは無関係なんじゃ。効率化よりも人間性を大切にしたいだけなのじゃ。そもそも搾取しておるのはグローバリズムの方なんじゃよ。新聞マスコミは「グローバリズムによって途上国の人々が豊かになった」といっておるが、その代償として膨大な量の資源が途上国から抜き取られ環境は破壊されておる。また先進国においては、グローバリズムにより多くの一般労働者の賃金や労働条件が悪化しておる。その一方でグローバリズムを利用してグローバル企業と資本家が信じられんほど莫大なカネや富を貯め込んでおるのじゃ。いわゆる1%の人々じゃ。それはグローバル化抜きには実現できなかったはずじゃ。つまり、途上国の発展のためと言うより、こうした富を得るためにグローバリズムが巧妙に利用されていると考える方が自然じゃ。まさに「拝金主義」じゃ。

(ねこ)

拝金主義グローバリズムだにゃ。

(じいちゃん)

そう、拝金主義グローバリズムじゃ。新聞マスコミの唱えるグローバリズムは、美しい「世界の協調体制」の理念とは裏腹に、強欲で熾烈な「拝金主義」が隠されておると思うのじゃ。美しい言葉に踊らされて毒を飲まされないよう、我々は十分に注意しておかねばならんと思うのじゃ。

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