「輸出が増えれば豊かになる」は短絡的

2016.12.13

(ねこ)

新聞マスコミは「自由貿易は輸出を増やすから国民を豊かにする」というにゃ。新聞マスコミの記事を長年にわたって読まされてきた多くの人々も、言われるがままに、自由貿易で輸出が増えれば国民が豊かになる、と信じ込んでいるみたいだにゃ。でも、本当に輸出が増えると豊かになるのかにゃ?

(じいちゃん)

なぜ、輸出が増えると国民が豊かになると思う?

(ねこ)

おカネが儲かるからだと思うにゃ。おカネが儲かるから豊かになる。

(じいちゃん)

ほう。もしそうなら、輸出しなくとも、日本の政府がおカネをどんどん刷って、そのおカネで輸出用の商品をどんどん買えば、企業は儲かるぞ。過去に発行したおカネであろうと、新しく発行したおカネであろうと、おカネに違いはないわけじゃから、刷ったおカネで企業の売り上げが増えても企業が儲かることには代わりない。輸出を増やさんでもよいのではないかな。

あるいは日本の政府じゃなく、外国がおカネを発行して、たとえばアメリカがどんどんドルを発行して、そのおカネで日本から輸出用の商品をどんどん買えば、企業はやはり儲かるぞ。タダで刷ったカネで儲かっても、豊かになるわけじゃ。

(ねこ)

う~ん、なんかしっくりこないにゃ。

(じいちゃん)

そりゃそうじゃろ、何しろおカネが儲かったところで、それは早い話がおカネという「紙切れ」じゃ。紙切れをいくら持っていても豊かにはならん。実際にワシらが豊かになったと感じるのは、その紙切れで財(商品やサービス)を買って、消費した時に感じるものじゃ。いくら預金通帳のおカネが増えても、ボロ服を着てインスタントラーメンばかり食べているようでは、豊かになったとは言えん。儲けたカネでモノ(財)を買うことで、豊かになるのじゃ。

(ねこ)

ということは、輸出して儲けたカネでモノを買わないと意味ないのにゃ。

(じいちゃん)

そういうことじゃ。つまり儲けただけでは意味が無い。例えば輸出で儲かっても、紙切れを手に入れただけじゃからな。そのおカネで相手の国から財を買う、つまり輸入を増やさねば豊かにならない。そもそも自由貿易とは、互いに生産を分業し(国際分業)、生産した財を交換することで成り立つんじゃ。だから、あくまでも輸出した分だけ輸入しなければ分業にはならん。それで初めて貿易によって豊かになるんじゃ。

(ねこ)

でも、今は「貿易戦争」とか言ってるし、どの国も輸入を増やすどころか、オレの国の製品を買えといって、通貨安戦争まで起きているのにゃ。国際分業どころか、国際押し売り状態にゃ。

(じいちゃん)

まったくじゃな。本来であれば、輸出を増やしたぶんだけ輸入も増やさねば意味がない。しかし、実際に輸入をどんどん増やすことはありえるのか?確かに各国の生産力が低かった物不足の時代には、国内で生産できない商品をどんどん輸入すれば国民は豊かになった。国際的に多くの国が分業して世界全体の生産量を増やせば増やすほど豊かになった。じゃから前の世紀では、自由貿易はそれなりに有効じゃった。

ところが今はどうじゃ。先進国ではテクノロジーの進化によって、多品種かつ大量の商品が生産できるようになった。さらに途上国への産業移転などにより、途上国における生産力も高まり、全世界的な生産過剰になっておる。モノが余っておるのじゃ。じゃから輸入を増やしても意味がない。

とはいえ途上国はまだまだ貧しいし、先進国でも貧富の格差が拡大しておるから、おカネのない人におカネを配分すれば消費は増加するじゃろう。そうすれば人々は豊かになれる。しかし「カネがないのは自己責任」というのが今の政治家の考えじゃ。だから貧富の格差を解消したり、途上国の人におカネを分配したり、などはほとんどしない。これでは生産過剰と消費不足が解消する見込みなどまるでない。

生産過剰状態なのじゃから、外国からの輸入を増やす必要はない。それどころか、生産過剰の状況で外国から輸入を増やせば、その分だけ国内の製品が売れなくなってしまう。すると国内企業の業績が悪化して、最悪、倒産してしまうじゃろう。そうなれば失業率が上昇して人々の不満が増大し、政治も社会も不安定となる。

(ねこ)

輸入を増やしても意味がないのに、どうして輸出を増やすのかにゃ。

(じいちゃん)

それは、企業が財ではなく「おカネ」で動く仕組みになっておるからじゃ。人間の生活にとっては財(モノやサービス)が最も重要じゃが、企業にとってはおカネが最も重要じゃ。企業のおカネに関しては、バランスシート(貸借対照表)と呼ばれる会計の仕組みによってコントロールされておる。従って、輸出でおカネが儲かれば、バランスシートの状態が良くなり、それで企業は評価される。じゃから、輸出企業にとって、輸入がどうなろうと、関係ない。

(ねこ)

う~ん、単純に「輸出を増やせば豊かになる」なんていえる時代じゃなくなったんだにゃ。だったら、どうすればいいのかにゃ。

(じいちゃん)

輸出を増やすと豊かになるのは、じつは別の理由があると考えられるのじゃ。それは貿易黒字によって世の中のおカネが増えるという点じゃ。たとえば日本の企業がアメリカに商品を輸出して、アメリカからドルを受け取ったとする。このドルはそのままでは国内で使えないから、これを外為市場で円と交換する。そしてこの円は従業員や仕入先の会社などに支払われるので、国内で回るおカネの量が増える。回るおカネが増えれば景気が良くなる。

また、変動相場制の為替市場において貿易黒字が続くと円高になるが、このとき、政府日銀が円を発行してドルを買う介入(非不胎化という)を行えば、やはりおカネが増える。こうして回るおカネだけではなく、おカネそのものの量が増えることもある。これはおカネの量を増やすから、いま日銀が行っている金融緩和と同じような意味もあるのじゃ。

じゃから、輸出を増やさなくとも、国内で回るおカネを増やしたり、おカネの量そのものを増やしてやれば、輸出を増やす場合と同じ効果が期待できるのじゃよ。

(ねこ)

にゃるほど、生産過剰の時代では、無理やり輸出を増やさなくとも、国内でしっかりおカネを回せばいいんだにゃ。そもそも財が足りないわけじゃないから、必ずしも国際分業して世界の生産を増やし、輸入しなければならないわけじゃないのにゃ。

(じいちゃん)

もちろん貿易を止めて鎖国するとか、そういう極端な話をしておるのではない。先進国は資源に乏しく、資源を輸入するために貿易が不可欠なのは考えるまでもないことじゃ。そうではない。今までの常識や思い込みのまま、盲目的に自由貿易を加速するのではなく、変化する情勢にあわせて政策を見直したり、政策転換するといった柔軟性が必要というだけの話じゃ。すぐに話が極端になり、保護主義だとか、第二次世界大戦前のブロック経済だとか言い出すヒステリックなヤツがおるので閉口しておる。何十年も時間をかけて変化してきた現在の国際貿易構造を、一年や二年で変えたら大混乱になるに決まっておる。あくまでも徐々に変化しなければならんのじゃ。

「自由貿易か鎖国か」、などという極端な二元論で考えることは単純すぎる。新しい時代の貿易は「儲かればよい」という拝金主義から脱し、世界中の社会や人々の暮らしとの、新しい、世界調和的な思想が必要だと思うのじゃよ。

(※今回、資本収支の話は触れていません)

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