政府通貨とは何か 国債を廃止せよ

(ねこ)

前回は政府通貨の話が出たのにゃ。ところで政府通貨って何かにゃ。

(じいちゃん)

「硬貨と紙幣の違い」の記事で説明したので、それを思い出して欲しい。政府通貨とは銀行ではなく政府が発行するおカネのことじゃ。銀行制度ができる前の時代のおカネはすべて政府が発行する政府通貨だったのじゃ。たとえばローマ金貨や江戸幕府の大判小判も政府が発行する政府通貨じゃ。その後、銀行制度ができたことでおカネは政府ではなく銀行が発行するようになったのじゃ。今でも政府通貨はある。それが100円や500円などの硬貨じゃ。硬貨は銀行ではなく政府が発行しておるから「政府通貨」なのじゃ。

(ねこ)

政府通貨も借金として作り出されるおカネなの?

(じいちゃん)

そうではない。銀行のおカネがすべて借金(貸し付け)から作り出されるのに対して、政府通貨は借金を前提としないおカネなのじゃ。ここに根本的な違いがある。預金通貨はすべて民間銀行の貸し付けによって生まれるおカネじゃし、銀行の一種である日本銀行が現金を発行する場合も、国債という債権(借金)を買い取ることで発行されておる。銀行制度では、基本的におかねはすべて借金から作られる。じゃから銀行のおカネは銀行が貸し付けることによって初めて世の中に流れ出す。一方で政府通貨は借金とは無関係じゃ。ローマ政府も江戸幕府も、鉱山から金を採掘してきて貨幣を鋳造すればおカネになる。それらのおカネは政府が使うことによって世の中に流れ出す。

(ねこ)

なるほど、銀行の作り出すおカネはすべて借金から作られるけど、政府の作るおかねは借金とは無関係にできるのにゃ。政府がおカネを作ると、どんな良いことがあるのかにゃ。

(じいちゃん)

そうじゃな、一番大きなメリットは「信用収縮がおきない」ことじゃな。たとえば前回も説明したように、預金通貨は貸し付けによって生まれるおカネじゃから、借りたおカネを銀行に返済すると消えてなくなる。だからもしおカネを借りる人よりも返す人が多くなると、世の中のおカネがどんどん減ってゆくのじゃ。これが信用収縮じゃ。景気が悪くなるとおカネを借りる人が減って返す人が増えてくる。そうすると世の中のおカネが減り、ますます景気が悪くなる。これが「デフレ」を引き起こす。じゃからデフレの根本的な原因は銀行制度という通貨制度にあるとも言える。

一方、政府通貨は借金とは無関係に政府が作り、それを政府が使うことで世の中に流れ出す。従って「返済する必要はない」のじゃ。返済しないのだから、当然ながら消えることが無い。政府通貨は消える事の無いおカネなのじゃ。だから景気が悪くなってもおカネは減らない。これが非常に大きなメリットなのじゃ。ただし預金も政府通貨も、金持ちが貯め込んでしまえば、おカネが世の中に流れ出さなくなる点は同じじゃよ。

(ねこ)

政府通貨は消えないおカネ、預金は消えるおカネなのにゃ。それなら消えないおカネの方が良いのにゃ。他にも政府通貨のメリットはあるのかにゃ。

(じいちゃん)

まず、政府が借金をする必要がなくなる。政府が活動するためにはおカネが必要で、そのおカネの多くは税金によって賄われるのが原則じゃ。しかし1929年の世界大恐慌の以後は政府が経済政策に積極的に関与して不況を克服すべきであるとの考えが一般化した。財政政策の役割が大きくなったのじゃ。そのため政府には非常に多くのおカネが必要とされるようになってきたが、歳入を税収では補いきれない場合がある。そのおカネを借金で調達しておるのじゃ。

ずっと昔の政府はおカネが必要であれば、税収のほかに政府通貨を発行しておった。ところが今の時代は政府通貨を発行するのではなく借金をするのじゃ。これでは借金は膨れる一方じゃな。もし、政府通貨を財源として利用するとしたら国の借金が増える心配はない。もちろん税収は基本的に必要じゃが、政府通貨を使えば歳入はもっと容易に確保できる。

しかも、「借金から生まれたおカネを誰かが貯め込むと、別のだれかが借金を背負い込むことになる」という悲惨な状況を回避できる。

(ねこ)

ふにゃ?「借金から生まれたおカネを誰かが貯め込むと、別のだれかが借金を背負い込むことのなる」って、どういうことなのかにゃ。

(じいちゃん)

預金が発生する時には必ず誰かが借金しておる。その預金が取引を通じて世の中をまわり、やがて誰かの貯蓄になる。だから誰かの貯蓄は誰かの借金が元になっておるのじゃ。貯蓄とは誰かの借金を貯めこんだものじゃ。じゃから、ある人がおカネを貯め込めば貯め込むほど、実は別の誰かの借金がそのぶんだけどんどん増えているのじゃよ。

もし世の中の借金を減らそうと思ったらどうするか?貯めているおカネを減らすしかないのじゃ。前回も説明したが、それが財政再建の真の意味じゃ。国民の貯蓄も政府の借金から生まれたおカネを貯め込んだものじゃ。じゃから政府の借金を減らすには国民の貯蓄を減らすしか方法がない。つまり現在の国債制度の場合は、国民や企業が貯蓄すればするほど財政が悪化する。国民や企業が貯蓄すればするほど将来世代の借金が増える、という仕組みになっておる。

ところで政府が借金しておカネを作るのではなく、政府通貨としておカネを作るとどうなるか?そのおカネは借金ではないから返す必要が無い。だから国民や企業がおカネを貯め込んでも政府の借金は増えないのじゃ。政府通貨で不足したおカネを調達すれば国の借金は増えないから、おカネを貯めても将来世代の借金が増えることもない。政府の借金を返済するために増税で国民が苦しめられる心配も無い。

(ねこ)

なるほど、国債という借金制度によって将来世代の借金が発生したのにゃ。根本的な原因は国債にあるのにゃ。政府通貨だったら、そんな心配はまったくないのにゃ。すばらしいにゃ。ところでローマ時代や江戸時代じゃなくて、もっと近年になって政府通貨が発行されたことはないのかにゃ。

(じいちゃん)

アメリカのリンカーン大統領が南北戦争の戦費調達のため、銀行から戦費を借金せずに、政府通貨を発行することで戦費を調達し、北軍を勝利に導いた。その後もリンカーンは銀行からの借入ではなく政府通貨を正式に通貨制度に組み込む計画をしたが、暗殺されたために計画は消えたのじゃ。その後、ケネディ大統領が政府通貨の発行を政府に指示したが、やはり暗殺されて政府通貨は中止になった。

(ねこ)

う~ん、政府通貨を発行すると暗殺されるのかにゃ。恐ろしい世界だにゃ。ところで政府通貨に賛成する人たちは居ないのかにゃ。

(じいちゃん)

1929年の世界大恐慌の際に猛烈なデフレの嵐が吹き荒れたが、こうした惨劇が繰り返されないように政府通貨を検討する人々が増えた。その当時は政府通貨を立法化しようとする動きもあったのじゃ。それはシカゴプランと呼ばれておる。有名な経済学者ではアービング・フィッシャーやノーベル経済学賞を受賞したミルトン・フリードマンも政府通貨の熱烈な支持者だったらしい。そのような政府通貨の動きが盛り上がってきたとき、第二次世界大戦がはじまって政府通貨の話はぶっ飛んでしまった。第二次世界大戦によって生産資本が破壊され、今度は猛烈なインフレの嵐が吹き荒れた。大恐慌の時代とは経済環境が180度かわったのじゃ。「のど元過ぎれば熱さを忘れる」のことわざ通り、ほとんどの人は大恐慌のデフレの嵐の恐ろしさを忘れてしまったのじゃろう。

じゃが2008年、アメリカのサブプライムローン・バブル崩壊により再び世界的な不況が襲いデフレの嵐が吹き荒れた。歴史は繰り返す。そのため、政府通貨に対する関心も高まりつつある。IMFも政府通貨に関するレポートを出したほどじゃ。とはいえ、政府通貨に賛同する人々はまだまだ少ない。そもそもマスコミは政府通貨についてまったく取り上げないから、政府通貨の存在すら多くの人は知らないじゃろう。

(ねこ)

ほとんどの人は政府通貨という考え方があるなんて知らないのにゃ。もっと多くの人が政府通貨について知るべきなのにゃ。

(じいちゃん)

その通りじゃとワシも思う。が、政府通貨を発行すれば銀行の権益を損なうことは間違いない。カネは権力じゃ。銀行の強大な権力に真っ向から反対することになる政府通貨制度は、間違いなく潰されるじゃろう。経済学者も政治家も政府通貨に首を突っ込めば、相当に不利な状況に立たされるじゃろう。命さえ失いかねない。つまり「さわらぬ神にたたりなし」じゃよ。

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