国会議員のタイプ別分類と攻略法の検討

 月額3万円の少額ベーシックインカム政策について、その実現のためには幅広い国会議員(および影響力を有する有名人など)の皆様から賛同を得る必要がある。そのため、彼らをタイプ別に分類し、それぞれの価値観等に応じた最適なアプローチ(攻略方法)について検討したい。

1)MMTに賛同する議員


>特徴

 MMT(現代貨幣理論)の考え方に賛同し、それに沿った政策を行いたいと考えている議員。例えば、西田昌司氏、馬淵澄夫氏、山本太郎氏。人数的には、かなり少数派である。国債を発行し、大規模な財政出動を行うことで、景気回復・経済再生を図ろうとする。ケインズ派の流れからきている。彼らは国債の発行を通貨供給として捉えている。そのため、国債の発行に関しては、過度なインフレにならない範囲で発行する分には、発行残高そのものは問題としない。積極財政を主張するが、ベーシックインカムのような給付金政策には批判的で、公共事業によって雇用を作り出す、JGPと呼ばれる雇用保障制度を目指している。なお、MMTについては、MMT以外は認めないタカ派のMMT原理主義の派閥と、それ以外の、MMTの貨幣に関する解釈を支持する程度の、ハト派のMMT支持者がいる。ここでは、基本的にはタカ派を想定。また、財源としての政府通貨については、それが新自由主義であるフィッシャーやフリードマンの考えに近いことから、タカ派のMMT派閥の中には、批判的な論者が多い印象がある。


>説得における留意点

 財政出動の拡大により景気回復を図るという考え方は、月額3万円の少額ベーシックインカム政策と共通している。また財源について、国債とする点については、異論はないと思われる。ただし、彼らは、ポイント(あるいは現金)を配るよりも、仕事を作り出して賃金を払うことを重視しているため、賛同を得にくいかもしれない。


・小額ベーシックインカム政策と並行して公共投資も行うことを説明して理解を得る(財政支出拡大のためには、給付金と公共事業の片方に限定する必要はなく、同時に取り組むことで社会の多様なニーズに応える方が良い)。また、仮に公共事業だけに、例えば毎年50兆円も費やすというのは、さすがに無駄な事業が多くなるリスクがある。国民に直接給付することで、民間需要を刺激する政策も必要ではないか。



2)積極財政派の議員


>特徴

 財政出動を拡大すべきと考える議員で、自民党・安倍晋三および安倍派の一部、あるいは国民民主党の議員。人数としてMMT派より多いものの、多数派ではない。財政出動に賛同しているが、ケインズ派というより、もともとはリフレ派が多く、リフレ政策だけでは景気浮揚効果が十分でないことから、財政政策を行うべきと主張している。価値観が新自由主義に近いため、財政出動より金融政策を重視し、財政出動はあくまでも「一時的なもの」と考えている。国債の発行と通貨供給は別であると捉えている。そのため、国債の発行については、MMTより抑制的と思われる。国債の発行残高については、対 GDP 比の国債残高が増えないこと、利子率<経済成長率であること(ドーマー条件)を重視する(よってインフレ率にかかわらず、国債の発行残高は制限する)。新自由主義の流れを組むので、財源としての政府通貨の発行に理解を示す可能性はあるかも知れない。


>説得における留意点

 財政出動を拡大することにより景気回復を図るという考え方は、小額ベーシックインカム政策と共通している。また新自由主義的な立場から言えば、公共投資よりも給付金の方が市場をゆがめることがない点は、賛同を得られるかも知れない。ただし、彼らは、本質的には財政出動には批判的で、財政出動は一時的なものにすべきだと考えているので、毎年およそ45兆円もの金額を、未来永劫に財政支出し続けることには、反対するかもしれない。また、インフレの懸念を示すかもしれない。大量の国債を増加し続けると、ドーマー条件を満たさなくなる(国債の発行残高が発散する)と主張するかも知れない。


・ドーマー条件に関して。国債を市中消化するのではなく、日銀が保有するのであれば、国債発行は単に通貨発行(通貨供給)を意味するので、仮に国債発行残高が発散しても財政が破綻(=国債デフォルト)することはないため、制約条件はインフレだけであることを説明する。

・インフレの懸念については、年間45兆円程度であれば通貨供給率としてはマネーストックの4%程度なので、金利の引き上げ(金利の正常化)で対応できる範囲であると説明する。また、国債増発に伴うインフレ懸念に対しては、毎年の国債の発行額は将来的に減額が可能であることも合わせて説明する。すなわち、景気回復に伴う各種税収の自然増および、インフレを抑制するための、所得税などの増税を行う(景気が十二分に回復してから、例えばインフレ率2~3%が持続)ことで財源を確保することにより、仮に毎年45兆円を支出するとしても、その一部は税で賄うことが可能である。



3)維新の会の議員


>特徴

 維新の会はベーシックインカムの実現を政策に掲げている。少数派ではあるが、維新の会は議席を伸ばしつつあり、一定の影響力を有すると考えられる。新自由主義の流れを組み、とにもかくにも、「規制緩和や構造改革によって経済成長すべき」としており、当初はリフレ政策にも理解を示さなかった。小さな政府を志向することから、財政政策の拡大には批判的であり、しかも財政規律を重視している。ベーシックインカムの目的については、景気対策としての効果を期待するよりも、構造改革や規制緩和によってはじき出される労働者のセイフティーネットという位置づけと思われる(財政出動や金融政策による景気回復は、むしろ悪いことと考えている向きがある)。財政再建の立場から、国債の発行残高の増加には激しく反対する。彼らの主張するベーシックインカムの財源は、仮に当初は国債の発行で財源不足を補ったとしても、最終的にはすべて税財源にしたいと考えている。国債の発行残高の適正水準についてどのように考えているかは不明だが、プライマリーバランスを重視するようなので、将来的には国債発行残高をゼロにし、政府の黒字化を目指しているのかもしれない(?)。


>説得における留意点

 維新の主張するベーシックインカムと月額3万円の少額ベーシックインカムは、無条件給付という点では共通している。しかし、彼らには、財政出動を拡大することにより景気回復を図るという考え方はなく、あくまで規制緩和や構造改革をしなければ意味がないと考えている。つまり、財政均衡主義の立場から、ベーシックインカムの財源は必ず税収でなければならず、国債を財源とすることには強い抵抗が予想される。


・財政出動は規制緩和や構造改革の妨げになるのではなく、むしろ改革を促進する効果があると説明することで理解を図る。金融緩和と同様に、国債の日銀引き受けも、通貨供給量を増大させることから、国民の購買力を高め、消費を刺激することで「モノが売れる社会」に改革できる。そういう社会になれば、より起業や投資が促進されるため、規制緩和や構造改革が容易に、かつ効果的になると期待される。不況のまま強引に改革を行えば、痛みが激烈で、国民に犠牲を強いることになるため、国民の理解を得られにくい。

・例えば、リフレ派の推進するリフレ政策の効果は、明確だったわけではない。しかし、リフレ派は理論的な考察に基づいて、リフレ政策「だけ」で充分と考えていた。が、現実として十分な効果はなかった。そのため、リフレ派も今になって財政出動を強く支持するようになった。そういった事例も参考にすべきではないか。残念ながら、規制緩和や構造改革「だけ」で景気が回復する確たる証拠はない。一方、財政支出の場合は、経済シミュレーションから景気回復効果が明らかである。ゆえに、規制緩和や構造改革に財支出動を組み合わせる方が、着実に景気を回復しつつ、構造改革を実現できるので、国民の支持を得られるうえに、経済にとってプラスである。自説の理論的な正しさの証明よりも、実利を優先すべきであると説得する。

・財政均衡主義的な考え方に対しては、国債の日銀引き受けが、通貨の発行であることを理解いただくよう説明する。

・維新の会はシンプルで効率的なシステムを目指していると考えられるので、そうであれば、現在のような一般国民がほとんど理解できないような複雑な金融システムを、誰でもわかる、よりシンプルで効率的な通貨システムに改革することに賛同するかも知れない。つまり、金利操作による通貨供給の仕組みをやめて、単におカネを発行するだけの通貨供給システムであるところの、政府通貨制度に改革すれば、財源は、政府が社会に通貨を供給するための基本的なしくみになるだけである。そうすれば、国債を発行する必要はなくなり、財政赤字の問題も即座に解決する。



4)左派系野党の議員


>特徴

 左派系野党の勢力は停滞気味である。彼らは社会保障を重視しており、貧富の格差の是正も主張する。しかし無条件給付に関しては「バラマキである」として反対しており、あくまでも低所得層に限定した支給や、「ベーシックサービス」のような実物支給に限定した考えを持っている(れいわを除く)。また、財政均衡主義であり、国債のさらなる増発には反対で、富裕層や大企業の課税を強化し、それを社会保障の財源にすべき(再分配の強化)と考えている。国防費を削減して社会保障に財源をまわすことに非常に熱心である。経済成長に関して、あまり熱心ではなく、むしろ経済成長はしなくて良いと考えている向きがある。また、アベノミクスに異論を唱えることに熱心なため、その反作用的に金融緩和に否定的な立場であり、通貨供給による景気浮揚に関して懐疑的と思われる。世界的に見て日本の通貨供給量は少ないにもかかわらず、「世の中はおカネがじゃぶじゃぶだ」と信じているかも知れない。


>説得における留意点

 月額3万円の給付は、貧困者支援として強力なので、その点においては賛同を得られやすい。ただし、富裕層に支給することには「無駄だ」との異論が予想される。また、財政均衡主義であるため、国債を財源とすることには反対し、あくまでも富裕層や大企業への増税による再分配を主張すると思われる。社会保障さえ拡大すれば、増税による景気へのマイナス影響は気にしないらしい。つまり、社会保障の拡大に賛同するものの、社会保障の拡大による景気回復を目的としていない点で、考えが大きく異なる。


・富裕層や大企業の課税を行わないのではなく、まず最初は経済活動を活性化することを最優先するためにあえて増税はおこなわず、景気が良くなってきたところで(例えばインフレ率が2~3%を継続的に超える状態)、しっかりと富裕層や大企業への課税を強化することで、格差が広がらないように十分に配慮する。

・社会保障制度の持続可能性にとって、貨幣的な財源(税)を確保するだけでは意味がなく、経済力・供給力(財)の維持向上が欠かせないことを説明する。そのためには増税による経済へのマイナス影響を避けつつ、経済を維持拡大する必要があることを説明する。

・日銀の国債保有は通貨発行であることを理解させ、インフレにならない限り、国債による社会保障の充実、弱者救済を強化できることを説明し、「国債=悪」ではなく、「国債=社会保障=善」という良いイメージを作る。


5)緊縮財政派の議員

 財務省による工作の影響が深刻なためか、与野党を問わず、数的には圧倒的に多数派。従って、小額ベーシックインカム政策の実現のためには、自民党内の緊縮派の切り崩しは不可避と考えられる。彼らの最大の特徴は「財政均衡主義」である。財政均衡と同時に、現在の国債発行残高を減らそうと考えている。国債は将来世代へのツケであると信じており、国債=借金なので、返さなければならない、という短絡的な固定観念から前に踏み出すことがない。


>説得における留意点

 取り付く島もなさそうだが、財政均衡主義という以外は、議員ごとに価値観は異なる部分があるはずなので、彼らが本当に何を望んでいるか、それによっては、そこから切り崩せるかもしれない。


①ベーシックインカムに興味のある議員

 ベーシックインカムに興味のある議員は、そこそこ居るのではないか?人工知能などによる技術的失業問題などに関心がある議員。ただし財源などの問題があるため、すぐには難しいと考えているかもしれない。そうであれば、小額からスタートする方法もあることをご説明する。ベーシックインカム政策に段階的に発展させることは現実的な政策である。財源について不安があるはずなので、合わせて、国債に関する正しい知識を伝えることで、国債発行の不安を解消する。


②国防を重視する議員

 防衛力の強化を望んでいる場合、防衛予算が経済規模の拡大に比例することを理解しているはずなので、ここから切り崩せないか。中国やロシアに対抗するには、経済規模を拡大しなければならない。国防費だけ増強すると国民生活にしわ寄せが来るので、国防費も含めた全体として経済規模を拡大することが肝要。経済成長を促すには、消費を拡大することが有効であり、小額ベーシックインカム政策はそれに適していることをご説明する。財源について不安があるはずなので、合わせて、国債に関する正しい知識を伝えることで、国債発行の不安を解消する。


③財務省の族議員

 財務省の役人と利害を共にする関係である場合は、説得はかなり難しい。


さらに、検討の必要あり。