財政再建は必要なし:第3話ナレーション

2019.4.22

銀行は無限におカネを発行できる(信用創造のしくみ)

はっはっはー、私は、ばらまきマンだ。前回までの説明で、世の中のおカネはすべて銀行からの借金によって作られることを説明した。このように、銀行の貸出によっておカネが発行される仕組みを「信用創造」という。今回は、この信用創造のしくみを詳しく考えてみよう。

<信用創造のしくみ>

ところで、一般の人は、おカネは紙幣を印刷したり、硬貨を打刻して作るものだと考えている。ところが、これまで見てきたように、実際には、銀行の貸出によっておカネが作られている。これはいったい、どういうことなのだろうか。

これを手っ取り早く理解するには、シミュレーションとして、自分が銀行の役を演じて、実際におカネを貸し出してみればよい。例えば私が、ばらまき銀行を設立して、おカネを貸してみよう。

ばらまき銀行を設立するにあたって、現金として1万円札で100枚、つまり100万円を金庫に用意したとする。ここで出てくる金額はあくまでも仮の話しだ。さて、ばらまき銀行に山田さんがおカネを50万円借りに来たとする(下図)。

おカネを貸す場合、一般の人は、ばらまき銀行が金庫から50万円の現金を取り出して、これを山田さんに貸し出すと思うはずだ。これが一般の人の考える貸し借りだからね(下図)。

ところが銀行の場合はまったく異なる。銀行は現金ではなく預金を貸し出すからだ。これを可能にするのが預金通帳だ。銀行は、金庫のおカネはそのままにして、山田さんの預金通帳に50万円、と記載する。これで山田さんに50万円の預金を貸し出したことになる。何も無いところから、預金通帳に50万円と書き込むだけで50万円ができあがる。これが信用創造の基本的なしくみだ(下図)

もちろん、ただ50万円と通帳に書いただけでも、立派におカネとして機能する。たとえば山田さんがデパートで10万円の洋服を購入したとすると、山田さんの預金通帳から10万円を引いて、デパートの預金通帳に10万円を加算すればよい。銀行の預金を通じて支払いが成立する(下図)。

さて、今度は、田中さんが100万円をばらまき銀行に借りに来たとする。この場合も先ほどと同じように、田中さんの預金通帳に100万円と記載すれば貸し出しが完了する。さらに長谷川さんが80万円を借りに来ると、長谷川さんの預金通帳に80万円と記載する(下図)。

これで、ばらまき銀行は、山田さんに50万円、田中さんに100万円、長谷川さんに80万円を貸し出したので、合計で230万円のおカネを貸し出したことになる。ばらまき銀行が最初に金庫に用意した現金は100万円だが、すでに230万円のおカネを貸し出したことになる。しかも、銀行の金庫の現金100万円はそのままだ。

つまり、信用創造の原理から言えば、銀行は無限におカネを貸すことができるわけで、同時に、無限におカネを発行することができる。もちろん、これは原理だけ考えた場合の話だ。

<現金はなんのためにあるの?>

じゃあ、何のために最初に現金を用意するのか、現金なんかいらないじゃないか、と多くの人が思うはずだ。しかし現金が無意味と言うわけじゃない、現金には大きく考えて二つの意味がある。

一つは「現金を手渡しして支払いたい」という要望があるからだ。実際、多くの人が買い物をする際に、紙幣や硬貨を使って支払いをしている。預金通帳に記載されたおカネはおカネとして使えるが、それを手渡しすることはできない。だから、一時的に「預金を現金と交換」して、利用するわけだ。

例えば山田さんが寿司屋で食事して代金を現金で支払うとする。山田さんは預金通帳をばらまき銀行に持ち込んで、その金庫から1万円札を引き出す。そして寿司屋さんに1万円札で支払う。寿司屋さんがその1万円札をばらまき銀行に預金すると、1万円札は金庫に戻る。金庫の100万円はそのままだ(下図)。

このように、預金を一時的に現金に変えることで支払いに利用しているんだ。しかし、あくまで銀行が貸し出した預金が元になっている。しかし、紙幣や硬貨を使わない、いわゆるキャッシュレスの社会になると、こうした現金は必要なくなると考えられている。

もう一つは、おカネの発行量を制限することに現金が使われる。というのも、先ほど説明したように、信用創造の原理だけで考えると、銀行は無限におカネを発行することができる。しかし、そんなことをしたら、世の中がおカネだらけになるし、借金を返せない人も続出して、世の中が滅茶苦茶になるかもしれない。そこで、銀行の信用創造を制限する必要があり、それが今日の金融制度である「準備預金制度」なんだ。

<準備預金制度>

準備預金制度によると、銀行は自らの預金の金額に応じて、一定割合の現金を日本銀行に預け入れなければならないとされる。では、具体的にどんな作業が行われるのだろうか。

先ほどの例に戻ってみよう。ばらまき銀行は金庫に現金100万円を保有している。ここに山田さんが50万円を借りにきました。先ほどと同様に、銀行は信用創造によって、山田さんの預金通帳に50万円と記載して、50万円の預金が作られました。このとき、ばらまき銀行の預金は50万円になりました(下図)。

準備預金制度では、この預金の金額の一定割合を日銀に預け入れるルールになっている。その割合のことを預金準備率という。例えば、預金準備率を仮に10%としよう。その場合は、ばらまき銀行の預金が50万円なのですから、その10%である5万円を金庫から引き出して、日銀の当座預金口座に預け入れます(下図)。

さらにその後、田中さんに100万円を貸すと、その10%である10万円の現金を引き出して、日銀の当座預金に預けます(下図)。

このように、信用創造によって銀行の預金が増えるたびに、ばらまき銀行の金庫のおカネは減っていきます。そして、金庫の現金がすべてなくなってしまえば、それ以上はおカネを貸すことができなくなるのです。これが準備預金制度の基本です(下図)。

<信用創造の利点と欠点>

今日の銀行制度は信用創造という仕組みによって成り立っている。この信用創造のしくみには利点と欠点があり、それを正しく理解する必要がある。

信用創造の利点は、通貨の供給量が、金や銀など金属の量によって制約を受けないことなんだ。王侯貴族が政治を行っていた昔の時代、おカネは政府が金貨や銀貨を発行することで供給されていた。しかし、この場合は金や銀がないとおカネを発行することができない(下図)。

経済活動にとって、おカネは極めて重要な役割を果たしている。つまり、経済活動が活発になれば、その分だけより多くのおカネが必要となる。時代が進んで、大航海時代になると、経済活動が活発化し、より多くのおカネが必要になった。しかし、金や銀はそもそも量が少ないので、おいそれと金貨や銀貨を発行することはできない。

一方、信用創造によれば、金庫に一定量の金貨や銀貨を入れておけば、おカネを貸し出すことによって、無限におカネの量を増やすことができる。つまり金や銀が不足する心配は少ない。簡単におカネの量を増やすことができるので、経済活動を活発にすることができたんだ。そのため、当時は銀行制度が経済に重要な役割を果たした。

しかし、今日は政府が金貨や銀貨を発行する時代ではないし、そもそも紙幣は紙なので、おカネは本質的に金や銀とは無関係に発行できる。つまり、必ずしも信用創造によっておカネを作り出さなければならない必然性はなくなったと言える。

信用創造の最大の欠点は「バブルとバブル崩壊の原因になる」という点だ。バブルと言うのはおカネがどんどん膨らむ現象だけど、それは、信用創造という、原理的には無限におカネを発行できる仕組みに原因がある。だから、そもそも信用創造がなければ、バブルは起きない(下図)。

バブルでおカネが膨張するだけなら、それほど大きな問題にはならない。しかし、バブルは必ず崩壊して、経済や社会に大きなダメージを与えることになる。

また、信用創造によるおカネの供給は、おカネを借りる人が居なければ成り立たない。高度成長期のように経済がどんどん成長する時代では、おカネを借りる人はいくらでも居るので、おカネもどんどん増える。しかし、経済成長が難しい時代になると、おカネを借りるよりも返す人が増えてくるので、世の中のおカネが増えなくなる(下図)。

おカネの量が増えなくなると、どうしてもおカネは富裕層に集中するようになってしまうため、格差が拡大するし、一般庶民の消費も低迷することになる。だから財政出動が必要になるわけだ。

現代の通貨制度は、世の中のおカネをすべて借金によって作り出す制度、つまり準備預金制度だが、必ずしも借金によっておカネを作り出す必要はない。昔は日本でも世界でも、別の方法によっておカネを作り出してきた。それが政府通貨制度だが、それはまた別の機会に説明しようと思う。今日はこれまで。