生産性と生産資本の独占
2017.12.6
現代社会におけるほぼ全ての生産資本は私的に所有されています。この生産資本の私有が社会格差の根源的な原因であるにも関わらず、それがこれまで許されてきた理由は、生産資本の独占的な使用が高い生産性を実現したためだと考えられます。
(じいちゃん)
「現代は格差社会などと言われておるが、人々の間に経済的な格差が生じる根本的な原因は何だと思う?」
(ねこ)
「うにゃ、やっぱり資本家と労働者という関係があるからじゃないかにゃ。」
(じいちゃん)
「そうじゃな、富裕層はカネを持っているから一般には資本家と考えられる。こうした人々は株式などを直接あるいは間接的に保有しておるから企業を所有している立場にあるのじゃ。こうした人々は配当金、利息などにより高い所得を得ることができるから、どんどん資産が増加する。また、そうした企業の運営に関わる経営者などの人々もその恩恵を他の労働者より多く受けることができる。だから一般の労働者と富裕層の格差が拡大するのは当たり前じゃな。
企業が保有する建物や生産機械を生産資本という。生産活動のおおもとになる部分じゃ。その企業は株主のモノだから、世の中のほぼ全ての生産資本は株主によって私的に所有されておることになる。会社だけではない。個人事業や農業、漁業も生産資本はすべて私的に所有され、その利用は所有者によって独占されておる。生産資本を持つ者は財(モノやサービス)を生産することができるが、生産資本を持たない者は何も生み出すことが出来ない(無産階級)。これが格差の根本的な原因となる。」
(ねこ)
「う~ん、生産資本の利用が所有者に独占されていると言っても、企業に就職して働けば利用できるのにゃ。」
(じいちゃん)
「確かに利用していることにはなるが、企業で働いて生産された製品は基本的にすべて企業のモノ(株主のモノ)じゃ。あくまでも生産物はすべて資本家のモノであって、それを企業の判断によって労働者に分け与えているに過ぎない。どの程度を分け与えるかの判断は生産資本の所有者が決める。資本家と労働者は常にこうした関係にあるため、両者の経済的な格差が生じるのは当然じゃな。」
(ねこ)
「確かにそうにゃ、すべての生産資本は資本家に独占されているんだにゃ。それが社会格差の原因だから、生産資本を資本家に所有させるのではなく、国有としてみんなで共有することにしたのが共産主義なんだにゃ。でも共産主義は失敗したにゃ。なぜかにゃ。」
(じいちゃん)
「共産主義よりも資本主義の方が生産性(物的生産性)が高い。それは生産資本の独占的な利用を認める方が生産性が高いからなんじゃ。そのため共産主義の国と資本主義の国が生産競争をすると、資本主義の方が生産効率が高いために、物質的な豊かさでは最終的に資本主義の方が勝つことになる。ではなぜ生産資本の独占的な利用が高い生産性を実現するのじゃろうか。
話は簡単じゃ。生産資本を高い効率で利用できるノウハウを持った企業(個人)に生産活動を集中すれば、社会全体としての生産性が高くなるからじゃ。もし誰でも生産できるなら、生産性の低い人も高い人も同時に生産手段を利用するため全体としての効率は低くなってしまう。生産性の高い人にもっぱら生産させたほうがより多くの財を生み出せる。
では、どのようにして生産効率の高い企業(個人)に生産を担わせるか?これは市場原理によって自動的に決まる。生産効率の最も高い企業の製品は最も安いコストを実現できる。だから生産性の高い企業が価格競争で勝ち残り、生産効率の低い企業は倒産して排除される。こうして、より生産性の高い企業に生産がどんどん集中することで、社会全体としての生産性が高まる。共産主義では生産資本の独占と市場原理を否定したため、このメカニズムがまったく機能しなかった。」
(ねこ)
「生産資本の独占は経済格差の原因でもあると同時に、高い生産性を実現するメカニズムとしても機能しているんだにゃ。ややこしい問題なのにゃ。」
(じいちゃん)
「ところで、生産資本の独占と言えば普通は資本家による独占を思い浮かべる人が大部分じゃろう。しかし人工知能やロボットの登場によって、人手がいらない、労働者をあまり必要としない時代になると、今度は就業者による生産資本の独占という考え方も登場してくると思われるんじゃ。」
(ねこ)
「就業者による生産資本の独占ってどういうことかにゃ。」
(じいちゃん)
「生産資本は資本家が所有している。一方で就業者(労働者)は賃金労働としてではあるが、この生産資本にアクセスすることで企業の生産過程に参加し、その代価として企業から賃金を与えられている。一方で企業はすべての人を雇用するわけではない。失業している人は企業の生産資本にアクセスすることはできず、生産過程に関わることはできず、所得も得られない。こうした状況を客観的に見ると、これは就業者による生産資本の独占状態であると判断することができるじゃろう。
こうした状況は就業者と失業者の間に経済的な格差を生み出す。人工知能やロボットが進歩するほど人手は不要になり、失業者が増加することになるじゃろう。すると就業者によって生産資本が独占されていること(仕事が独占されていること)がいずれ大きな問題となるはずじゃ。」
(ねこ)
「労働者が労働者を駆逐する事態になっているのにゃ。労働者は団結して、雇用を守る運動をしないといけないのにゃ。」
(じいちゃん)
「そういう考えもあるじゃろう。しかし現実には無理じゃ。市場原理によればコスト競争に勝ち残れない企業は淘汰される宿命にあるからじゃよ。もし日本の労働者が団結して雇用を守ったところで、自由貿易によって海外から安いコストで作られた製品がどんどん輸入されてくれば、日本の企業が倒産に追い込まれるじゃろう。そうすれば大量の雇用が失われる。元も子もないのじゃ。」
(ねこ)
「うにゃ~深刻な問題だにゃあ。」
(じいちゃん)
「ところで、人工知能やロボットが進化すれば、近いうちに完全自動生産も可能になるじゃろう。こうなると生産性が極めて高くなるだけではなく、企業間の生産性にあまり差がなくなってくる。製品が完全自動生産になるのだから、どこが作っても似たようなコストになる。
また製品が大量に生産可能であるため供給過剰となり、市場価格が暴落するようになる。こうなるとコストの安い企業が競争に生き残るという機能もほとんど意味がなくなる。
そもそも生産資本が不足していた前世紀の時代では、生産効率を高めることが豊かさを実現するために必要だった。少ない生産資本を効率的に利用する必要があるのじゃ。しかし、人工知能やロボットの登場により生産資本が過剰なほど溢れる時代になると、生産性を高めることにあまり意味がなくなってくる。すなわち、より高い生産性を実現するために生産資本の独占が必要だった時代は終わりを迎えつつあることがわかるのじゃ。」
(ねこ)
「なるほど、昔と違って生産資本が過剰な社会になりつつあるから、生産資本の独占はあまり意味を持たなくなってきたんだにゃ。」
(じいちゃん)
「むしろ生産資本の独占は経済を破綻させかねないリスクを負うことになった。なぜなら生産資本の独占は生産物(成果物)の独占も意味しておるからじゃ。先ほども触れたが、企業が生産したモノは原則としてすべて企業の所有物じゃ。これまでは生産過程に携わった労働者に対して、その生産物の一部を賃金の形で分配してきた。だから曲がりなりにも社会全体に生産物を分配する機能を果たしてきた。
しかしこの分配方式は「完全雇用」を条件として成り立つのじゃよ。もし完全雇用が実現せずに失業者が大量に発生すると、生産物を社会全体に分配する機能が麻痺してしまう。それが貧困の原因となる。ところがロボットと人工知能の急速な進歩によって仕事の多くが機械に代替されると考えられることから、完全雇用を維持することは極めて困難になりつつある。つまり「生産資本の独占=生産物の独占」という既存の常識が経済を破綻させる原因となりかねない。」
(ねこ)
「時代遅れなんだにゃ。」
(じいちゃん)
「テクノロジーの進化は常に人間の社会や価値観に革命的な変化をもたらして来たのじゃ。農業や産業革命がそうだった。そして今、まさに次なる局面を迎えつつある。これまでの常識は通用しないどころか、害をもたらす可能性がある。ところが既存の常識から一歩も踏み出すことのない政治家、官僚、マスコミによって現代社会は管理されており、大きなひずみを生じつつある。
政権争いに明け暮れる政治家(与党も野党も)、財源ガーばかり叫ぶ官僚、揚げ足とって騒ぐだけのマスコミには呆れるばかりじゃ。もっと頭を使っていただきたいのじゃよ。」