ベーシックインカム動画・第3話ナレーション

第3話 良いベーシックインカムと悪いベーシックインカム

はっはー、私は、ばらまきマンだ。前回は、ベーシックインカムにも、いろいろな考え方があると話したよね。では、どんな考えがあるのか。それは簡単に言うと「良いベーシックインカムと悪いベーシックインカム」があるということなんだ。今回は良いベーシックインカムと悪いベーシックインカムについて考えてみよう。

A)悪いベーシックインカム

「悪いベーシックインカム」と聞いても、何のことかピンと来ないよね。全ての国民に、おカネを配る政策がベーシックインカムなんだから、悪いベーシックインカムなんてあるわけがない、と思うのが普通だ。

しかし、前回も説明したように、ベーシックインカムの思想には長い歴史があって、様々な立場の人が、それぞれの目的から主張してきた。だから、庶民にとって必ずしも好ましいとは思えないようなベーシックインカムもあるのではないか、と考えられるわけだ。

私は、悪いベーシックインカムにも、幾つかの種類があると考えている。私の考える悪いベーシックインカムは次のようなものだ。

①格差拡大型のベーシックインカム

②緊縮財政型のベーシックインカム

③清貧型のベーシックインカム

では、順に説明しよう。

①格差拡大型のベーシックインカム

どんなタイプのベーシックインカムであっても、ベーシックインカムである以上は、最低生活を保障する程度のおカネを、全ての国民に支給するはずだ。ただし、ベーシックインカムに賛同する識者の中には、「ベーシックインカムの支給額は、あくまでも最低限の生活水準でなければならない」と主張する人も出てくると思われる。つまり支給額を、将来にわたってずっと最低水準のままにするわけだ。

彼らが、なぜそのように主張するのかと言えば、「働いてもいないのに、多くのおカネを支給するのは道徳的におかしい」とか、「おカネを支給すると人間が働かなくなる」と言った考え方が、背景にあるからだと思われるのです。

しかし、考えてみると人工知能やロボットなど、テクノロジーが進化すればするほど、生産される商品やサービスと言った財の量、つまり生産される富の量は増え続けるはずだから、本来であれば、それにあわせて、全ての人々の生活水準も向上し続けるはずだ。だから、最低生活のままである必然性はどこにもない。それどころか、新たに別の問題が心配されるんだ。

例えば、テクノロジーが進化した未来の社会の姿を想像してみよう。人工知能やロボットが、今よりもっと進化しているはずだから、仕事の大部分は機械が担当しているだろう。すると、世の中の仕事の量は非常に少なくなるから、働いている人よりも、働かずにベーシックインカムで生活する人が、国民の大部分を占めるようになると考えられる。

未来の社会では、国民の大部分がベーシックインカムで生活するようになる。にもかかわらず、ベーシックインカムの支給額が最低生活の水準のままなら、国民の大部分が最低生活を送ることになる。それって、おかしくないか?

もし、そんなことをしたらどうなるか?人工知能やロボットによって自動生産された多くの富のうち、最低生活を保障する分だけをベーシックインカムとして人々に分配し、残りのすべての富を、人工知能やロボットを所有する大企業の株主、あるいはそこで働く経営者や労働者が独占してしまうことを意味する。

そうなると社会は「極めて裕福な一部の人々」と「最低限の生活を営む大多数の人々」に分断されることになる。そして、その格差は、技術が進歩すればするほど拡大することになる。これが格差拡大型のベーシックインカムだ。

②緊縮財政型のベーシックインカム

「緊縮財政型のベーシックインカム」も主張されるようになるだろう。このタイプのベーシックインカムも、最低生活を保障する点では同じだ。しかし、その目的は「社会保証制度の廃止」にある。なぜそうなるのか?

ところで、ベーシックインカムを導入すると、これまでバラバラに管理されてきた様々な社会保障制度、例えば年金制度、失業保険、児童手当、福祉手当などをベーシックインカムに一本化することができる。そうすることで、社会保障制度の運用の効率化を図ることが可能になると考えられる。

このように、効率化を図ることで、経費として費やされてきたおカネの量を減らし、その分だけ国民の受け取る保証を厚くすることができる。その意味では社会保障制度の効率化は良いことだと言える。

ところが、政策的に「小さな政府」を目指す人達にとって、社会保証の効率化は別の意味を持つ。小さな政府とは、政府が経済に関与しないことを理想とし、政府の財政支出を減らそうとする考え方だ。そのため、小さな政府は社会保障に反対する立場だ。

そうした人にとって、ベーシックインカムの導入の目的は、「社会保障制度の向上」にあるのではなく、あくまで「現在の社会保障制度の廃止」にある。そのため、十分な額のベーシックインカムが支給されないままに、一方的に社会保障制度が廃止されてしまうリスクもある。

彼らのベーシックインカムの目的は、社会保障制度の廃止にあるのだから、「ベーシックインカムの支給額を増やすことはトンでもない」と考えるだろう。これでは、ベーシックインカムが実現したところで、社会保障は逆に減らされてしまう。これが緊縮財政型のベーシックインカムだ。これを新自由主義型のベーシックインカムと呼ぶ人もいる。

③清貧型のベーシックインカム

左派系の人たちの中には、おそらく「清貧型のベーシックインカム」を唱える人も出てくると思う。清貧とは、清くて貧しいことを美徳と考える思想だ。これも先ほどと同じように、支給額を最低水準に留めるという考えだ。むしろ国民が貧しいことを、肯定的に捉える傾向がある。これはどういうことか?

その根底には「日本は衰退する運命にある」との思想がある。日本は少子高齢化社会に突入しており、社会はこれ以上豊かにならない、むしろ貧しくなるのが当然だ、だから豊かになることは諦めて、平等な社会を目指すべきだ。貧しくても平等であれば良い、そのために消費税をどんどん増税して再分配を強化すべきだ、そのような考え方だ。

確かに人工知能やロボットの登場していない20世紀の時代であれば、少子高齢化の日本が貧しくなるのは避けられないと、考えるのは当然だろう。

しかし、人工知能やロボットが進化すると、それらが人間に代わって労働するようになるから、少子高齢化による労働人口の減少とは無関係に、より多くの富を生み出すことが可能になる。だから将来的に日本が貧しくなる必然性はまったくない。むしろ、より豊かになる可能性が高いはずだ。つまり、この考えは基本的な前提が間違っている。

ところが、厄介なことに、こうした「増税して再分配を強化する」という考えは、さらなる増税を目論む財務省の思案と一致する。財務省は「財政再建のために増税したい」と考えているから、両者とも増税を望んでいる。だから、財務省と清貧思想を持つ左派系の人たちが組んで、清貧型のベーシックインカムを推進してくることも考えられる。なぜだろうか。

財務省は、増税したくてウズウズしているが、増税は国民の抵抗がとても強いから、簡単には増税できない。そこでもし、「社会保障の充実のために、消費税を増税してベーシックインカムを導入しましょう」という大義名分があれば、増税に対する国民の抵抗を減らすことができる。もちろん、財務省の本当の狙いは、社会保障の充実ではなく、財政再建だ。

つまりベーシックインカムを実施するため、と称して集めた税金の何割かを、財政再建に回してしまおうと企むだろう。すでに2014年の消費増税によって得られた税収の多くを、社会保障の充実ではなく、財政再建に回してしまった前科がある。これでは、ベーシックインカムが実現したところで、国民が貧しいままに、留め置かれてしまうのは必然だろう。

しかも、清貧思想によれば「日本は貧しくなるのが当然だ」と考えるから、財政再建によって経済がデフレ不況になったとしても、財務省の責任が問われる心配はない。まさに財務省にとって、願ったり叶ったりのベーシックインカムになるだろう。これが清貧型のベーシックインカムだ。

以上のように、ベーシックインカムを推進したい、と考えている人には、様々な立場の人がいる。だから、こうした悪いベーシックインカムを導入したいと考える人がいても、不思議ではない。十分な注意が必要だ。

B)良いベーシックインカム

では、良いベーシックインカムとはどんなものだろうか。これは未来の社会を想像してみれば、誰にでもわかるはずだ。これを私は「未来型のベーシックインカム」と呼んでいる。

未来型のベーシックインカム

未来の社会になると、人工知能やロボットが自動的に富を生産してくれるから、大部分の人は働かずに豊かな生活をしているはずだ。

もちろん、人工知能やロボットの開発技術者、あるいは起業家、エンターテイナーなど、人間でなければできない仕事をしている人は、より多くの所得を得て、さらに豊かな生活をしているかも知れない。それは、ある意味で当然だ。しかし、そういう人たちに富の大部分が独占されてしまうことはないはずだ。つまり未来の社会では、働かなくとも、すべての人に豊かな生活が保障されると考えられる。

もちろん、それは今すぐじゃなくて、未来の話だ。だから、明日からすぐにベーシックインカムで豊かな生活が保障されるわけではない。しかし、ベーシックインカムの支給額は、未来に向かって徐々に増加するはずだ、と予想できる。ベーシックインカムの支給額は、テクノロジーの進化と共に、当然のこととして増加しつづけなければならない。

とはいえ、あまり急激に支給額を増やすと、インフレが激しくなったり、資源が枯渇したり、環境破壊を招く恐れもあるだろう。そうなると、ベーシックインカムそのものが維持困難になる。だからベーシックインカムには、持続可能性への配慮が不可欠だ。そのためには、再生可能エネルギー、リサイクル技術、代替資源テクノロジーなど、科学技術へのますますの投資が欠かせない。

つまり、未来型ベーシックインカムの条件は、

①支給額はテクノロジーの進化と共に増加し続ける

②持続可能性への配慮が必要となる

③科学技術にさらなる投資が必要となる

ベーシックインカムは、僕たちみんなの、未来社会への架け橋なんだ。

さて、ベーシックインカムにもいろいろやり方があるから、みんなで知恵を出し合って、より良いベーシックインカムの制度を考えなくちゃいけない。国民自らが、自分達の未来のこととして、真剣に考えなければ、成り行きのままに流され、悪いベーシックインカムが導入されてしまう危険性もある。それを覚えておいて欲しいんだ。

さて、ベーシックインカムはまだまだ奥が深い仕組みだ。これまでのビデオが好評だったら、さらに続きを作るから、よろしく頼むよ。それじゃあ、今日はこれまで、ベーシック!