書籍紹介)

「ベーシックインカムの時代が始まる」

その理由と財源および導入手順

・テクノロジーの進化に伴う必定の帰結

・導入しなければ市場経済が崩壊してしまう

著者:のらねこま

 ロボットとAIによって20年後の日本では50%の仕事が奪われる?!。そんな予測が多くの専門家から指摘されています。もしそうなれば失業者が溢れデフレ恐慌で経済が崩壊してしまいます。そうしたリスクに備えてベーシックインカムという仕組みがにわかに注目を集めてきました。ベーシックインカムとは就労している、していないにかかわらず、全ての国民に一定の所得を無条件に給付する仕組みです。一方、ベーシックインカムは大多数の人々にとってまだ理解が進んでいるとは言えません。

 ベーシックインカムと聞けば多くの人は「最低限の生活保障」つまり社会保障の延長であると考えがちですが、その考えはすでに時代遅れになりつつあります。ベーシックインカムは社会保障ではありません。社会保障を必要としない未来社会を実現するための、新しい経済システムなのです。テクノロジーの進化によって人間の労働が不要になりつつある現代、資本主義や共産主義というそれまでのイデオロギーに変わる新しい時代の幕開けがまもなく始まろうとしています。

<目次より>

第1章 ベーシックインカムの時代が始まる

(1)テクノロジーが経済を破壊する

人工知能と深刻化する失業リスク

これまでの失業問題とはワケが違う

従来の雇用対策は通用しない

このままでは経済が破綻する理由

(2)ベーシックインカムによる解決法

ベーシックインカムによる通貨循環

所得は労働の対価なのか

資本の独占が正当化された理由

ベーシックインカム以外の解決法

労働なしに生まれた富は誰のものか

第2章 ベーシックインカムの効果と懸念

(1)ベーシックインカムの効果

・デフレ脱却と景気回復

・産業空洞化への対策

・貧困と格差の解消とブラック企業の根絶

・生産性の向上

・資源の効率的利用

・「もったいない」の精神が活きる

・GDP至上主義からの脱却

・人口増加の効果

・地方経済と農業の活性化

・自殺や犯罪の発生率低下

・社会保障制度の効率化

ほか

(2)ベーシックインカムの懸念

・自分の生活が犠牲になる

・働く人が減って経済が衰退する

・共産主義国と同じ考えではないのか

・モラルハザードになる

・社会や文明が進歩しなくなる

ほか

第3章 ベーシックインカムの導入方法と財源

(1)ベーシックインカムの導入方法

満額支給スタート方式

小額スタート増額方式

年金&子供手当て方式

失業給付方式

(2)ベーシックインカムの財源など

通貨発行と法人課税が基本財源

デフレ不況を引き起こす貯蓄の問題

金融資産課税の併用

社会保障費の付け替え

など

(3)ベーシックインカムと通貨改革

通貨制度の仕組みと改革の必要性

ビットコイン技術のベーシックインカムへの応用

ベーシックインカム通貨が主流通貨となる

第4章 未来社会と予想される課題

(1)未来社会とベーシックインカム

ベーシックインカムの持続可能性

未来社会に求められる価値観

(2)ベーシックインカムに関わる課題

平等に貧しくなる危険性

富裕層による資源の独占

人口爆発と環境破壊の影響

ベーシックインカムを阻害するグローバリズム

グローバル・ベーシックインカムの未来

(文字数:約11万文字)


<本文より~「はじめに」を転載>

 「ベーシックインカム」という言葉をご存知でしょうか。ベーシックインカムの知名度は最近高まっていると思いますが、それでもご存じない方はまだ多いのではないでしょうか。ベーシックインカムとは、ベーシック=基礎的、インカム=所得、すなわち国民に基礎的な所得(おカネ)を給付する制度のことです。これを国民への配当金と考えて「国民配当」と呼ぶ場合もあります。ベーシックインカムは人々におカネを給付することにより、すべての人々の生活を豊かにする政策です。おカネを支給する政策は一般に社会保障であると考えられています。ただし、これまでの社会保障の考え方は貧しい人の生活を支えるために行われてきましたが、それとは異なり、ベーシックインカムは個々の家計の所得の貧富に関わらず、無条件にすべての家計に等しい金額のおカネが支給されるのです。生まれたばかりの赤ん坊から高齢者まで、男性も女性も、働いている人もそうでない人も、資産家も貧困な人々も、政府から同じ金額の給付金が定期的に支給されるのです。

 どの程度の金額を国民に支給するのでしょうか。支給金額については主張する人や目的によって幅があると思いますが、一般には「必要最低限の生活が可能な金額」と考えられています。つまり最低生活保障と考えられています。なぜそのように考えられているのでしょうか。ベーシックインカムは最近になって提唱されるようになった政策ではなく1960~70年代から主張されていましたが、その当時は貧困者対策としての側面が強かったため、伝統的なベーシックインカムの考え方の根底には社会保障の理念が今でも強いと考えられます。しかし今日におけるベーシックインカムは社会保障を目的とした考え方だけではなく、肥大化する行政の効率化あるいは人工知能やロボットの進歩が引き起こす技術的失業問題(後述)に対する解決策として様々な分野の人達に広く支持されるようになりつつあります。そうした観点から言えば、それぞれの立場によってベーシックインカム政策が国民に給付すべき金額は異なり、最低生活保障として毎月12万円程度(現在の生活保護の水準)の支給から毎月1万円のような小額の支給まで含め、幅広く考えることができると思うのです。あるいは最低生活保障を「狭義のベーシックインカム」、金額の多少に関わらず全ての国民に継続的に支給される給付金を「広義のベーシックインカム」と考えることもできます。いずれも共通する点は「すべての国民に無条件で所得が支給される」ことです。本書ではどちらかと言えば広い意味でのベーシックインカムを考えています。つまりベーシックインカムは毎月1万円の小額からスタートして徐々に増額し、やがて最低生活を保障できる毎月12万円に到達し、その後も増額を続け、未来において人々の生活をより豊かにする基本制度となるはずだと考えています。それは後ほど詳しくご説明します。

 今日、ベーシックインカムはその効果や影響について多くの国で実験が始められています。フィンランドでは2017年1月から失業者2,000人を対象に毎月560ユーロ(約6万8,000円)を2年間支給する実験が開始されました。またオランダのユトレヒト市において福祉受給対象者となっている人の中から300人を選んで毎月900ユーロ(約12万円)を支給する実験がまもなく開始されるといいます。他にもアメリカのオークランド市、アフリカのケニアでベーシックインカムの実験が計画されているといいます。過去の実験としては、カナダのマニトバ州ドーフィンで1974年から1979年にかけて行われた例があり、その効果としていわゆるワーキングプアに該当する貧困者数が減少し、支給対象者の生活が安定する効果が得られたとの結果が出ているようです。またインド政府がベーシックインカムの導入を前向きに考えている趣旨の発言をしたようです。EUでは2016年にベーシックインカムの賛否を問う初の本格的な世論調査が行われました。この調査はEUの支援を受けた調査会社が28カ国のべ1万人を対象に行っており信頼性が高いと思われます。それによれば64%の人々がベーシックインカムの導入に賛成であり、反対は24%に過ぎませんでした。賛成者の多かった国は順に1位が71%でスペイン、2位が69%でイタリア、3位が63%でドイツ、4位が63%でポーランド、5位がイギリス、6位がフランスとなり、経済規模の大きな国を中心に賛成派が多数を占めていることが判ったそうです。その一方、2016年6月にスイスで実施されたベーシックインカム導入の可否を問う国民投票では、反対多数で導入が否決されています。まだまだベーシックインカムの実施については超えるべき壁が大きいようです。

 日本ではベーシックインカムの導入に関する公的な大規模アンケートは実施されていないと記憶しています。インターネット上での調査は見られますが、必ずしも賛成意見が多いわけではなさそうです。アンケートに反対意見として書き込まれた内容に目を通した印象から言えば、反対意見の多くには次のような共通点があると感じました。

①ベーシックインカムの財源を確保するため増税されると自分が損をする。

②ベーシックインカムは働かない貧困者にカネを与える不道徳な社会保障。

 こうした意見には社会保障の古い考え方に基づく誤解や思い込みが強く影響しているように思われます。これまで「ベーシックインカムは社会保障制度」と考えられてきましたが、今では社会保障制度とはまったく別の側面からも注目されています。社会保障制度ではなく社会保障制度を必要としない豊かな社会を実現するための「新たな経済システム」と考えることもできます。従来の社会保障とは異なる考え方であるため、制度の導入に当たって人々(家計)への増税が必ずしも必要ではありません。新しい視点におけるベーシックインカムの本質は所得の再分配政策ではなく「所得の分配政策」なのです。ですから一部の富裕層を除き、大多数の人々はベーシックインカムによって損をすることはありません。また働かない貧困者の救済を目的としたものではなく、すべての人々の豊かさを底上げするための政策なのです。もちろんベーシックインカムを推進する人々の中には、消費税を増税して財源を確保すべきとの主張もあります。しかしこれは供給力が不足していた頃の古い考え方だと思います。テクノロジーの進化によって供給力が極めて大きくなった現代社会では、経済におけるおカネの流れを良く観察すれば、消費税や所得税を増税することなくベーシックインカムの財源を確保する方法は見つかります(後述)。

 ネットにおける多数の書き込みを観察すると、ベーシックインカムに人々が反対する大きな理由は「自分は損をしたくない」と考えているためであると思われます。人間なら誰しもそう思うのが当然でしょう。しかしそうした不安は本書をごらんいただければ杞憂に過ぎないことがご理解いただけると思います。それどころか人工知能やロボットが急速に進化しつつある現代社会においてベーシックインカムを導入しなければ、需要不足のためにやがて経済はデフレ恐慌へ突入し破綻してしまう恐れが十分にあるのです。ベーシックインカムの導入は不可避です。もはやベーシックインカムの是非を議論する段階ではなく、導入は必然であり、残された課題は「いつどんな方法で導入するか」だけであると思うのです。

本書へつづく・・・