残業代ゼロ法案とロボットによる生産性

2017.8.04/2018.4.23改訂

残業代をゼロにして生産性を高める必要があるとの主張があります。しかし生産性を向上する上で人間の生産性など取るに足りません。実際に生産性を支えているのは機械だからです。

(じいちゃん)

世間では「残業代をゼロにすると生産性が高まる」と騒いでおる。しかし仕事の効率を高めるなら、残業をゼロにするより機械を導入するほうが遥かに効率的じゃ。じゃからそんなに生産性で騒ぐなら、設備投資を増やすことを最優先に考えるべきじゃな。仕事の効率化の効果は知れておるのじゃよ。

(ねこ)

ふにゃ、仕事の効率化なんか知れているのかにゃ。

(じいちゃん)

機械による効率化と仕事の効率化を数値で比較するのは難しいが、そんなことしなくとも、よく考えてみると理解できるはずじゃ。例えば、もし人間が機械に頼らない生産活動を行ったとしたらどうなるか。発電所も工場も停止し、自動車も農耕機械も使わない。すると生産量は10%以下、いや数パーセントにも満たないと思う。こうなるといくら「仕事の効率がー」と言ったところで知れておる。

つまり、生産の効率化のほとんどすべては、機械によって成し遂げられておると考えるのが自然なんじゃ。人間の生産効率性(=能力)は機械のように何十倍、何百倍にも伸びるものではない。せいぜい機械の進歩にあわせて、それに適合するよう労働の内容を変化させるだけなんじゃよ。じゃから「仕事の効率」に血眼になって取り組んでも生産性はあまり増えない。

生産性を向上するための最も効果的な方法は「機械化」なんじゃ。設備投資を増やして生産用の機械を導入し、従業員にそれを操作させることで、生産効率は飛躍的に向上するんじゃ。それを一般には「資本装備率を高める」という。

(ねこ)

じゃあ、なんで新聞マスコミは企業に設備投資を求めず、労働者に対して仕事の効率化をうるさく注文つけるのかにゃあ。

(じいちゃん)

それは単に企業が残業代を払いたくないからではないかと思う。「労働者へ支払う賃金を下げるための、それらしい理由が欲しい」のじゃよ。それはデフレ不況が影響しておる。生産効率を高めるには機械を導入するのが最も有効じゃが、仮に生産効率を上げてより多くの商品を生産したところで、今日のようなデフレ不況では売れ残り在庫の山ができるだけじゃ。そうなると逆に生産性(≒投資利益率)が低下してしまう。じゃから企業は設備投資よりも人件費のカットによる生産性の向上を目指すんじゃ。

(ねこ)

にゃにゃー!不況はろくでもないにゃ。早くおカネを国民に配って、不況を終わらせるべきだにゃ。

(じいちゃん)

まったくその通りじゃな。ところで、これまでの歴史において、社会における生産性はどのようにして高まってきたのじゃろうか。一つはすでに述べたように「機械化」がある。より生産能力の高い優れた機械を開発し、それを企業に導入することで生産性が高まってきたのじゃ。

もう一つは雇用の流動化じゃ。生産に機械を導入すればやがて人手が余剰になってくる。そうした余剰労働力を企業がリストラする。一方で技術が進歩することによって今までにない新しい商品が発明されると、その新しい商品を生産するために人手が必要になる。すると人手が余った企業から新たに人手を必要とする企業へと労働者が移ることになる。そして労働者が新たに商品の生産活動に従事することによって、社会に新たな商品を供給するようになるのじゃ。

じゃから、機械化による余剰労働力の発生と、技術の進歩による新しい産業の誕生によって、社会の生産性が向上してきたわけなんじゃよ。機械化によって余剰労働力が発生するが、もしその時に新しい産業が誕生しなければどうなるか?失業者が増加して社会が不安定化してしまう。だから技術革新によって新しい産業が生まれることが重要だとされてるのじゃよ。

(ねこ)

なるほどにゃあ、それで技術革新の必要性が叫ばれているんだにゃ。それにしても、最近は景気がちっとも良くならないから、技術革新が停滞しているのかにゃあ。

(じいちゃん)

技術革新が停滞しているのではなく、むしろ機械化による生産性向上のスピードがどんどん速くなっているため、新しい産業の育成が間に合わなくなってきていると考えたほうがよいじゃろう。そして人工知能やロボット、3Dプリンタといった画期的な生産機械の登場によって、それがますます加速する恐れが出てきたのじゃよ。

これまでの社会の生産性向上のパターンは、「機械の導入によって生まれる余剰生産力を別の生産現場で再雇用し、その労働力が新たな機械を操作して、新たな商品を生産する」という流れじゃった。これまでの機械は人間が操作しなければ商品を生産することはできなかった。ところが人工知能などが登場すると、人間が操作することなく、機械が自動的に商品をどんどん生産するようになる。すると労働力がいらないという事態が生じてくる。

つまり、余剰労働力を再雇用する必要がない社会になることを意味するのじゃ。こうなると今までの生産性向上のパターンはあまり意味を持たなくなる。雇用の流動性が意味を失う。その結果、失業者は失業したままになる。もちろんそれは極端な話じゃが。これがいわゆる技術的失業問題と呼ばれるものじゃ。

これまでの常識で言えば、余剰労働力を解雇することで社会全体の生産性を高めてきた。しかし技術的失業の時代になると、余剰労働力を解雇するだけでは済まなくなる。もし解雇するだけなら失業者がどんどん増加する一方なので、そうなれば経済が停滞して社会は貧困化し、やがて破綻してしまう。従って社会全体の生産性を高めるためには別の方法も同時に必要になるのじゃ。

(ねこ)

じゃあどうやって生産性を高めるのかにゃ。

(じいちゃん)

労働時間や成果とはまったく無化関係に、一定の所得をすべての国民に無条件で支給することによって社会の生産性を高めることができる。これはベーシックインカムのような給付金の支給じゃな。これを同時に行なうことで、これまでと同様に余剰労働力をリストラしても社会全体の生産性を高めることができる。

社会の生産性が高まるとは、社会における総生産量を増やすことと同じじゃ。そうすれば国民は豊かになる。人工知能やロボットのような生産技術が飛躍的に向上すれば社会の総生産力は間違いなく増加する。しかし、いくら生産力が高まっても、生産した商品が売れなければ意味がない。もし余剰労働力を解雇しただけで終わったなら、世の中はおカネのない失業者だらけになり、いくら生産しても意味がない。するとどれほど生産力が大きくても、生産活動そのものを停止してしまわざるを得なくなる。

ベーシックインカムのような給付金を支給することで人々の所得を保障すれば、生産された製品が売れることで人々に行き渡り、人々が豊かになると同時に、テクノロジーの進化によってもたらされた生産力が人々のために生かされることになる。

これが将来における生産性向上の新たなパターンになると思う。

(ねこ)

ふにゃ~、生産性は奥が深いにゃあ。そしてすごく大切だにゃ。

(じいちゃん)

そのとおりじゃ。生産性は一言で片付けられるほど簡単ではない。しかし最も重要なポイントは「何のために生産性を高めるのか」じゃ。それは人々が労働する時間をなるべく減らしながら、より豊かな生活をするためじゃ。もしそうならないのであれば、明らかに間違っておるのじゃよ。