基本的な通貨供給とバランスシート

2016.6.25

(じいちゃん)

今回は日銀による基本的な通貨供給と銀行の関係をバランスシートで考えてみよう。一般には日銀がおカネを刷ることで世の中のおカネが増えると言われておる。では、日銀が刷ったおカネ(現金)はどのようなルートで世の中に流れだすのじゃろうか?これに即答できる一般人は誰もおらんじゃろう。

一般に、そこまで考える人はめったに居ない。しかし質問されると、実は「何も知らされていない」ことに驚くじゃろう。偉そうな上司でも、この質問には頭を抱えるはずじゃ。

日銀の刷ったおカネは基本的に貸し出しを通じて世の中に供給されるんじゃ。つまり日銀が銀行(民間銀行)に貸し出し、銀行が企業や個人に貸し出すことで始めて世の中に供給される。じゃから、借りる人が居ないと日銀がどれほど大量のおカネを刷っても世の中のおカネは一円も増えない。では、貸し出しによって世の中のおカネが増える様子をバランスシートを使ったモデルで考えてみよう。

(図D-1)まず日銀と銀行のバランスシートの関係を見よう。今回から、日銀のバランスシートと銀行のバランスシートを上下にならべて表記する。ここで示す日銀のバランスシートは極端に単純化したモデルじゃ。基本的には日銀は資産を保有しており、その資産に応じて負債として現金を発行する仕組みになっておる。そのため、左側には資産、右側には負債として日銀券(日本銀行券:紙幣)がある。

ところで、銀行は信用創造で預金を発生してこれを貸し出ししておる。ここでは100万円の現金を準備金として日銀当座預金口座に積むことで、1億円の預金を発生して貸しておるとしよう。準備率を仮に1%とすれば、1億円の預金に必要な準備金は100万円じゃから、銀行はこれ以上の預金を貸すことはできない。

(図D-2)貸し出しを増やすため、銀行が日銀から100万円の現金を借りることにする。この時、日銀が100万円の信用創造を行う。つまり①資産として銀行への貸出金100万円を計上し、負債として日銀当座預金100万円を計上する。この日銀当座預金とは実質的に現金を意味する。日銀券も当座預金も現金なんじゃよ。日銀が信用創造を行うと現金が発生するのじゃ。すると②貸し出した現金100万円を銀行に振り込んだことになる。そして銀行は100万円を借りたから、銀行の負債として借入金100万円が計上される。

さて、日銀当座預金の金額は200万円になったが、そのうち100万円はすでに銀行の保有する預金1億円の準備金じゃ。しかし新たに借りた100万円は準備金をオーバーした預金じゃ。これを「超過準備金」という。この超過した分の現金を利用して銀行は新たに貸し出しを行うことができる。ちなみに、超過準備で貸出できる預金金額は準備率やその他の規制で決まる。

このように、日銀が現金(この場合は日銀当座預金)を発行して、銀行がこれを借り、それを準備金として利用することで預金の貸し出しを増やす。すると世の中のおカネの量が増える。これが基本的な通貨供給の仕組みじゃ。つまり、世の中のおカネは貸し出しによって供給される。

日銀はこの銀行へ貸し出す現金の金利を上げたり下げたりすることで世の中への通貨の供給量(預金の量)を調整しておる。これは「金利政策」と呼ばれるのじゃ。昔は日銀が直接に銀行へ現金を貸していたので、この金利を当時は公定歩合と呼んでおったが、近年はコール市場と呼ばれる銀行間取引市場への資金供給として行われるため「政策金利」と呼ばれるようになったんじゃ。

ちなみに、当座預金には原則的に金利は付かないはずじゃが、日銀当座預金には特別に0.1%の金利が付いており、日銀が銀行へ利息を払っておる。日銀が銀行へ特別ボーナスを支給しているようなもんじゃな。エサとも言えるが・・・。

(図D-3)次に、銀行のバランスシートを用いて、マネタリーベースとマネーストックを考えてみよう。今までの流れからお分かりのように、世の中に供給されているおカネは基本的にすべて預金として供給されておる。つまり、銀行の負債の項目にある「預金」のことじゃ。基本的に預金の量が世の中のおカネの量を表している(後ほど補足する)。このように貸し出しによって世の中に出回っているおカネのことを「マネーストック」と呼ぶんじゃ。一方、銀行の資産に計上されている日銀当座預金や銀行の金庫にある現金は、実際には表に出てこない。このおカネは預金発行の準備金として利用される。このように金融機関の中にある、信用創造の元になる現金を「マネタリーベース」(ベースマネー)という。

さて、日銀が現金をどんどん発行して世の中におカネを供給しても、基本的には、すべてのおカネは預金として世の中に貸し出しされたものじゃ。ではいったい、日銀の印刷した紙幣(お札)はどうやって世の中に出てくるのじゃろうか?

(図D-4)銀行が紙幣(お札)を必要とする場合は、日銀の当座預金から紙幣を引き出すことになる。たとえば50万円の日銀券を引き出す場合、日銀のバランスシートにおいて、銀行の日銀当座預金から50万円を減らし、代わりに日銀券として50万円分が計上されて、そのぶん紙幣が発行される(あらかじめ発行してある)。預金と引き換えに紙幣(お札)を銀行が銀行へ持ち帰って銀行の金庫へ保管すれば良い。つまり、50万円の当座預金と50万円分の紙幣を交換したようなものじゃ。こうして銀行には紙幣が準備されたが、それだけではまだ世の中には出回らない。この紙幣を預金者が預金と交換に引き出さないとずっと金庫の中にあるだけで終わる。

(図D-5)すでにお分かりのように、日銀は資産として何かを計上すれば、日銀券(紙幣)や日銀当座預金を発生させることができる。そして日銀券も日銀当座預金も、現金を意味している。ややこしいが、現金は必ずしも紙幣であるとは限らんのじゃ。日銀当座預金も現金じゃが、帳簿上の数字に過ぎん。

(図D-6)さて、銀行が紙幣を銀行の金庫に保管した後、預金者のB社が50万円の紙幣(現金)を引き出したらどうなるか。銀行の預金は50万円減って9950万円となり、現金は銀行の金庫から引き出されて世の中に流れだす。この時のマネーストックをみてみよう。50万円分の紙幣は銀行の金庫の中にある時は世の中には流れ出していなかったが、引き出されて世の中に流れだしたので、この50万円はマネーストックとなる。そして預金の9950万円もマネーストックなので、合計で1億円がマネーストックとなる。つまり1億円あった預金の一部が50万円の現金の形に変化したが、これも元は預金なので合計金額は1億円なのじゃ。世の中に出回っている紙幣も、元をたどると信用創造から発生した預金である事がわかる。つまり、世の中のおカネは現金が混じっていても、もともと預金として供給されたものじゃ。

そして、こうして世の中に出回っている現金と預金の合計が、いわゆる金融の指標である「現金預金」

(M1)を意味するんじゃ。

以上より、

①世の中のおカネは基本的に貸し出しとして供給される

これは以前から何度も繰り返しておるが最重要じゃ。おカネを借りる人が多いほど世の中のおカネが増え、少ないほど世の中のおカネは減り、だれも借りる人が居なくなるとおカネは世の中からすべて消える。じゃから、資産家の貯蓄も労働者の貯蓄も、すべて誰かが借りたおカネが元になっている。そして、世の中のおカネを増やすためには貸し出しを増やさねばならない。そして日銀が銀行へおカネを貸す時の金利を調整することで世の中のおカネの量(マネーストック)を調整する。これを金利操作といい、この金利を政策金利という。これが日銀の政策の基本となる。

②マネタリーベースとマネーストックの違い

マネタリーベースとは日銀の発行する現金(日銀券または日銀当座預金)のことじゃ。しかし、これがそのまま世の中に流れだすわけではない。このマネタリーベースを準備金として利用することで銀行が預金を発生し、これを企業や個人に貸し出すことで世の中に預金としておカネが流れだす。したがって世の中のおカネ(マネーストック)は基本的に預金。ただし預金の一部を紙幣(現金)としての引き出し要求にこたえることで、紙幣(現金)が世の中に流れだす。この現金と預金を合計したおカネがマネーストックとなる。

いわゆる「通説」とはずいぶん違うじゃろうが、このように考えた方が遥かに分かりやすく、迷いがない。

内容の紹介ページへのリンクはこちら