信用創造とバランスシート

2016.6.20

(じいちゃん)

銀行の信用創造をバランスシートで説明しよう。この手の情報は驚くほど世の中に公開されていない。新聞・マスコミで報道されることもまったくない。ということは「信用創造のしくみに触れてはいけない」という暗黙のルールがあるのかも知れん。じゃから下手に触れるとこの世から抹殺されるかも知れないという怖さがある。

(ねこ)

不気味なのにゃ。

(じいちゃん)

そうじゃな。しかし信用創造は現代における金融の根幹システムなので、これを理解しないと資本主義を何も理解していないに等しい。そして新聞マスコミや御用学者が、「消費税を増税しようと垂れ流している悪質な誘導記事」にあっけなくやられてしまう。あのような連中のウソに騙されないためのは金融に関する知識がどうしても必要じゃ。だから危険でもあえて説明する必要があるのじゃ。

まず銀行を設立するとしよう。資本金は1億円じゃ。なお数字はあくまで架空じゃ。銀行を作ったばかりの時のバランスシートは(図B-1)のようになっておる。資本金として現金(日銀券・貨幣)1億円を用意したので、この現金は資産じゃ。そして同時に資本は純資産を意味する。元手じゃな。このとき、借入は何もしていないので、負債はゼロじゃ。資産=1億円、負債+純資産=1億円で左右のバランスは取れておる。

さて、普通のこの状態で普通の企業がおカネを貸すことを考えてみよう(図B-2)。現金1億円のうち、1000万円を誰かに貸すと、手元から1000万円がなくなるので、現金は9000万円に減る。そのかわり、資産として貸付金1000万円が計上される。現金1000万円が貸付金に変化したようなもんじゃ。じゃから資産総額は変化しない。負債も変化しない。この場合、どんなに頑張って貸し付けしても、最大で1億円までしか貸すことはできない。普通の人が「おカネを貸す」といえば、この仕組みを意味するんじゃ。企業がおカネを貸したり、夫婦の間でおカネを貸し借りするのはバランスシートで説明するとこれにあたる。ところが、銀行の貸し出しはそれとはまったく違う。信用創造によっておカネを貸すのじゃ。

(ねこ)

にゃー、それ以外におカネを貸す方法があるのかにゃ。摩訶不思議なのにゃ。

(じいちゃん)

信用創造でA社に1000万円を貸す場合を考えてみよう(図B-3)。この場合、現金はまったく動かない。貸出金として1000万円が資産に計上され、同時に負債として預金1000万円が計上される。この預金はA社の預金通帳にリンクしており、A社の預金通帳にも1000万円の預金が計上される。こうしてA社は預金1000万円を借りたことになるのじゃ。これを「信用創造」という。周知のように、預金とはおカネのことじゃ。つまり、信用創造によっておカネが増えるのじゃ。これは事実上、通貨発行を意味する。預金というおカネを発生させ、それを貸すのじゃ。この時、資産および負債+純資産の合計値はそれぞれ貸し出した分だけ増えて合計1億1000万円になる。このようにバランスシートの合計値が増加することを、バランスシートが拡大するという。銀行のバランスシートは貸し出しを増やすと拡大する。

つまり、銀行は預金者の預けたおカネを貸しているわけではない。預金を発生させて貸しておるのじゃ。それを理解しなければ何も理解できん。

ここで今度はB社に9000万円を貸してみる(図B-4)。この時も貸出金としてさらに9000万円を発生させ、負債として預金9000万円を発生させる。そして9000万円をB社の預金口座に振り込む。現金は相変わらずそのままじゃ。ここまで説明すれば、すぐ気が付くと思うが、この方法だと預金を発生させることで無限におカネを貸すことが出来てしまう。保有する現金の金額とは無関係に無限に貸し出しできる。まさに「信用創造は打ち出の小槌」なのじゃ。銀行はこのようにしておカネを貸しておるんじゃ。しかし、これは考えてみるとヤバい方法じゃ。銀行が無限に貸し付けなどしたら大変な事になるので、法的に規制されておる。それが「準備預金制度」と呼ばれる仕組みじゃ。そして、信用創造は銀行だけに許可されておる。

(ねこ)

うにゃ~銀行は預金というおカネをどんどん作り出しているのにゃ。

(じいちゃん)

準備預金制度の考え方を説明しよう(図B-5)。さて最初に1000万円をA社に貸した時に戻ってみる。貸出金1000万円と預金1000万円を発生させてA社の預金通帳に振り込むまでは同じじゃ。しかし、今度は手元の現金に動きがある。手元現金1億円のうちの一部を、帳簿上の預金額に応じて日本銀行に預け入れなければならん規則なのじゃ。それが「準備預金制度」じゃ。このとき日銀に預け入れる現金を「準備金」という。いくらの準備金を日銀に預けなければならんのか。それは日銀が決める「預金準備率」という数値で決められておる。具体的にみてみよう。

仮に預金準備率1%で、1000万円の預金を発生して貸し出したとしよう。帳簿上の預金は1000万円、1000万円の1%は10万円のなので、10万円の現金を日銀の日銀当座預金口座に預け入れる(準備金を積むという)。この預金を銀行は勝手に引き出すことはできない。このように、銀行の預金が増加するたびに現金の一部を準備金として日銀当座預金に積まなければならないため、次第に手元現金が減り、やがて貸し出しは限界を迎える。それまでに発生できる預金の量は=1/準備率つまり1%なら手元現金の100倍まで預金を貸すことが可能じゃ。

銀行は預金準備率に応じて預金を貸し出すことができる。日銀の金融政策の一つに「預金準備率操作」というのがあるが、これはこの準備率を上げたり下げたりすることで、銀行が貸し出しできる最大量の預金量をコントロールする政策なんじゃ。もし日銀が世の中のおカネ(預金)を増やしたいと思ったなら、預金準備率を下げれば良い。ただし、実際は他にも貸し出しを制限する決まりがあるので、単純に準備率だけでは決まらない。

さて、A社に1000万円、B社に9000万円を貸した段階のバランスシートを確認しよう(図B-6)。A社とB社の合計で1億円の貸し出しを行ったので、預金は総額で1億円となった。1億円の1%は100万円なので、準備金として日銀当座預金に100万円を預け入れ、手元には9900万円がある状態じゃ。ちなみに預金者が現金を引き出したいと希望した時、この手元の9900万円から引かれるため(これは後日説明する)、手持ちの現金をすべて準備金に積んでしまうわけにはいかない。

(ねこ)

なんだか、わかったような、わからんような、難しい仕組みだにゃ。

(じいちゃん)

なかなか一発ではわからんかも知れん。しかしバランスシートを理解出来れば御用学者のウソが見抜けるようになるので頑張って欲しい。ここで重要な点は二つじゃ。

①銀行は貯蓄したおカネを貸しているのではない

一般には銀行は「預金者が貯蓄したおカネを貸す」と言われておるが、そう考えるとまったく辻褄が合わなくなり、頭が混乱する。バランスシートから見れば、預金を発生して貸していると言える。これだと分かりやすい。つまりこちらの考えの方が自然じゃ。

②銀行は預金通貨を発行している

バランスシートでは無から資産(貸出金)と負債(預金)が同時に生まれる。つまり信用創造とは、無からおカネ(預金)を発生させることなんじゃ。これは通貨発行を意味する。そしてこのように世の中のおカネは誰かへの貸付によって発生する。だから世の中のおカネ(預金)を増やすためには貸し付けをどんどん増やす必要がある。逆に言えば、企業や政府が借金をどんどん返済すると、世の中のおかね(預金)はどんどん減ってゆく。このような性質を有する。

①②ともに新聞マスコミの説明とは違うはずじゃ。しかしバランスシートで考える限り、実際には新聞マスコミの話とはまったく違うことが明らかじゃ。そして実際に①②であると考えると、金融の仕組みが驚くほどよく理解できるようになる。これに気付かなければ、大衆は永遠に真実を見極めることなどできんじゃろ。今回は触れると非常にあぶない話じゃった。

※上記の図はバランスシートを利用した考え方であって、バランスシートそのものではありません。

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