マイナス金利とバランスシート

2016.7.31

(じいちゃん)

日銀が始めたマイナス金利政策とは、民間銀行が日銀に持っている日銀当座預金の預金金利をマイナスにするという政策じゃ。しかし銀行の当座預金すべての金額にマイナス金利が適用されるのではなく、一部がマイナスなのだという。日銀当座預金の中身を3つの部分に分けてその一つがマイナス金利になるのじゃ。しかし、この3つの区分けがマスコミの話ではちっともわからん。それで、今回はその3つの区分を簡単に考えてみた。

(図H-1イ)日銀が量的緩和で銀行から国債を買い取る前の状態じゃ。以前に説明したように、準備預金制度では銀行は保有する預金の金額に応じて日銀当座預金に準備金を預け入れる義務がある。ここでは仮に準備率1%とすれば、預金3000に対して30が必要な準備金となる。じゃから、日銀当座預金には30の現金が積まれておる。そして、当座預金とは金利が発生しないのが普通じゃから、①準備金30の金利はゼロじゃ。

(図H-1ロ)日銀が量的緩和で銀行から国債を買い取るとどうなるか。仮に1000の国債を日銀が買い取って国債を資産に組み込み、現金として日銀当座預金1000を発生する。この1000の当座預金は国債を売った銀行の口座に振り込まれる。銀行が日銀に積まなければならない準備金の金額は30じゃから、これを超える金額は「超過準備金」と呼ばれる。この超過準備金の分②については、日銀が0.1%の利息を銀行に支払っておる。これは銀行の儲けになっている。平成27年ではおよそ2000億円ほどのおカネが銀行に支払われたんじゃ。

ところで、もしこの超過準備金を元にして銀行が企業や個人におカネを貸すとどうなるか?おカネを貸すと預金が増え、その分だけ準備金①が増えて超過準備金②が減るので、日銀からもらえる利息が減ってしまう。もちろん企業や個人から利息を取れば良いのじゃが、貸し出しはリスクを伴う。それなら企業や個人に貸すより積んだままの方が良い、と考える銀行があっても不思議はない。すると貸し出しは増えない。

(図H-1ハ)日銀がマイナス金利を導入した後ではどうか。日銀はマイナス金利を導入する以前に積んだ超過準備金②には、そのまま金利0.1%を維持するとした。そして新たに増える超過準備③についてマイナス金利を適用するとしたんじゃ。じゃからマイナス金利が導入された直後の2月時点では、実質的にはほとんど影響がない(ただし市場は予測で動くからその影響はある)。その後、銀行の超過準備が増えるにつれて徐々に影響が出始める。

以上が日銀当座預金の3区分のざっくりした考え方じゃが、実際にはややこしい調整がいろいろ入っているらしい。それで、実際のところ、3区分の金額が2016年5月の段階でどうなっているか、ネットで調べたところ、以下のようじゃった。

マクロ加算残高 45兆円 ・・・金利ゼロ、①に該当する

基礎残高 210兆円 ・・・金利0.1%、②に該当する

政策金利残高 21兆円 ・・・金利マイナス0.1%、③に該当する

この政策金利残高にあたる部分がマイナス金利部分じゃ。銀行にとってみると、基礎残高で2100億円の利息がもらえて、政策金利残高で210億円の利息を取られるので、差し引き、まだ年間で1890億円はお小遣いとしてタダで銀行に入るわけじゃ。日銀の損失が国民負担になると騒ぐ連中がおるようじゃが、その考えから言えば、銀行にタダで2000億円ちかくも与えて、損を出していることになる。なぜか、連中はこの点についてはダンマリを決め込んでおる。

ところで、なぜマイナス金利で貸し出しが増えるのか?たとえば、マイナス金利適用後、新たに銀行が日銀に国債を売って得た売り上げ代金つまり超過準備金③にはマイナス金利が適用される。銀行がこのおカネを積んでいるだけだと、おカネが減ってしまう。もし貸し出しを増やして預金額が増加すれば必要準備金の額は増加する。準備金はマイナス金利の対象外なので、貸し出しを増やして準備金を増やせば必然的に超過準備金は減り、おカネの減る量を抑えることが可能なのじゃ。もちろん貸し出しを増やせば、貸し出し先から利息も得られる。

また、銀行にとっては必要のない超過準備金③を日銀当座預金に積んでいても損じゃ。そこで金利を取られるくらいなら金利ゼロでも他の銀行に貸してしまった方が良い。そこで銀行間取引市場(コール市場)を通じて、貸し出し能力の高い銀行へ現金が流れることも期待される。

しかし、なかなか市場は思う様に反応してくれないようじゃ。いくらマイナス金利でも、経済環境が悪すぎるのでリスクが大きくて、簡単に貸し出しは増やせない。そもそも大企業は莫大な内部留保があるので銀行からおカネを借りる必要も無い。

こうなると金利政策にばかり固執するのではなく、財政出動を促進する必要もあるわけで、その意味で政府の財政支出を日銀が支えるヘリコプターマネーのような踏み込んだ政策がどうしても必要だと思うんじゃがの。

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