増税の代案・NEED法案

増税して借金を返すしか道は無い。新聞は盛んにそればかりを繰り返しています。しかしマスコミの思案とは裏腹に、増税の代案はいくつもあるのです。その代案の一つをご紹介します。これはアメリカで昨年9月21日にアメリカ議会に提出された法案であります。端的に言えば通貨制度改革であり、財政収支問題そのものを永久に解決する方法です。

(以下ネット上の記事より抜粋。)----------------

米NEED 法案 貨幣改革 再生への希望に

金融システム崩壊から米国を再生させる法案が9 月21 日にデニス・クシニッチ下院議員によって議会に提出された。NEED法(国家非常事態雇用防衛法、HR 2990)と呼ばれるこの法案の骨子は3 点である。

① 民間会社である連邦準備制度理事会(FRB)−米中央銀行−を財務省に統合し、政府のみ貨幣を発行する。

② 無からお金を作り出す民間銀行の信用創造を禁止し、100%政府貨幣とする。

③ 経済成長に必要な貨幣は、政府が常時流通に投入する。

金融・債務危機の根本原因はすべて誰がマネーを支配するかに帰着する。わが国のマネーストック(M1=現金通貨と預金通貨の合計)を例に取ると、実質「株式会社」である日銀が日銀券を約16%発行し、民間銀行が約83%の預金通貨(コンピュータ上の数字)を無から信用創造している。すなわち99%もの貨幣は、民間が利付き債務貨幣として発行している。

もしこの法案が通過すれば、貨幣は100%公共貨幣となる。その結果、米政府は債務を政府貨幣で徐々に完済でき、8 月2 日のような14.3 兆ドルの債務上限デフォルトの悪夢から解放される。サブプライムローンに端を発する銀行の暴走、金融危機を食い止めることができる。さらにインフラ、教育、医療、福祉、環境ビジネス等に必要なお金は政府が直接投入し、雇用の創出、内需拡大ができる。

この法案は、1929年の世界大恐慌の直後、その教訓をもとにシカゴ大学の経済学者らが呼びかけた貨幣改革提案「シカゴプラン」に依拠している。全米157 大学275 名(86%)の経済学者が当時この提案に賛成の署名をしたが、実現されなかった。今回も金融ウオール街は、ロビイストを用いて法案阻止の圧力を議員にかけてくると予想される。

私はこの夏、会計システムダイナミックスという新しい方法で開発したマクロ経済モデル(方程式約900 本)を用いて、NEED法の妥当性をシミュレーション分析で検証。増税なしでも国の借金は完済でき、不況、失業、インフレ、世界同時不況も引き起こさないという驚きの結果をえた。

— 京都新聞 2011年12月2日(金曜日)—

山口薫

同志社大学大学院ビジネス研究科教授

(以上引用)-----------------

補足します。

NEED法案(国家非常事態雇用防衛法、HR 2990)とは米国において2011年9 月21 日にデニス・クシニッチ下院議員によって議会に提出された法案です。その目的は「カネがカネを生む」投機的なマネーゲームに終止符を打ち、働いて財を生産することで豊かになるという「堅実な社会」を実現する事にあるようです。これを日本でも導入すれば増税の必要が無くなるかも知れません。

同志社大学大学院ビジネス研究科教授の山口薫先生によれば、この法案の骨子は3 点であるとのことですが、金融について知識の無い普通の素人には補足的な説明が必要かも知れませんので、自分なりに考えてみました。

①米中央銀行を財務省に統合し、貨幣の発行は政府だけが行う

通貨制度は国の経済の根幹に関わる制度であり、おカネの発行や管理は国が行っていると普通の人は理解しています。だから中央銀行は国の機関であると思い込んでいます。しかし実態は違います。民間企業が行っています。米中央銀行(FRB)は民間会社なのです。日本ではやや曖昧ですが、アメリカの民間企業は「株主利益が最優先」です。コーポレートガバナンスも社員のためではなく「株主のため」にあるのです。そのような性質を持つ民間会社が国の通貨制度を管理するなら何が行われるか?当然、株主の利益が最優先されるでしょう。ちなみに、FRBが設立してまもなく世界的なバブルが発生し、その後の大恐慌へと突入します。

したがって、中央銀行を財務省に統合するとは、私物化した中央銀行を「公共の手に取り戻す」ということです。通貨制度の主権は国民にあるのですから。そして、私企業が通貨を発行するのではなく、政府が通貨を発行する「政府通貨」に戻すということです。アメリカも1862年から1879年まで当時大統領のリンカーンが「グリーンバック」と呼ばれる政府紙幣を発行し、これを財源とすることで北軍は南北戦争に勝利します。その後1870年~1900年頃にかけてグリーンバックの発行継続による経済成長を望む「グリーンバック運動」が人々の間に広がり、グリーンバック党が結党されて多くの支持を集めました。

なお、日本銀行も株式会社です。日本銀行が独立性を獲得した1998年以降、日本は世界に例を見ない15年以上のデフレに突入しています。

②無からお金を作り出す民間銀行の信用創造を禁止し、100%政府貨幣とする

多くの人は、おカネは中央銀行が作っていると信じています。しかし実際に流通している貨幣のほとんどは民間銀行が「貸付け」として作り出した債権です。それが預金と呼ばれる通貨です(多くの人が勘違いしますが、預金とは貯金の事ではありません)。それに対して中央銀行の作ったおカネは現金と呼ばれます。民間銀行がおカネを作るとはどういうことか?

銀行は、たとえば100万円の現金を元手に、1000万円のカネを貸し付けることが許されています。つまり900万円を水増しします。これが「信用創造」と呼ばれるマジックです。そして誰かに貸し付けたおカネが世の中を回って私たちの給料として振り込まれています。私たちの給料も、元はすべて誰かの借金なのです。

そして100万円のカネを10倍にも膨らませて貸し付ける~つまりこの仕組みが「バブル」を生むのです。そしてマネーゲームが生じる原因もここにあります。つまり民間銀行が勝手におカネを作り出す事を止めさせる事で、バブルの発生と崩壊を防ぐ事ができるのです。おカネは民間銀行ではなく、政府が発行する。それが民主国家の原則ですね。

③ 経済成長に必要な貨幣は、政府が常時流通に投入する

経済成長にはおカネが必要です。おカネが不足した状態だと経済は「デフレ」になります。デフレで何が起こるのか?今の日本人には痛いほどわかるはずです。不況で失業者が溢れ、自殺者が年間3万人(自殺認定以外を含めればさらに)になり、人々の所得が減って貧しくなり、財政が破綻する。おカネは循環するごとに一定割合が常に貯蓄として退蔵されてしまいますので、おカネを常に増やし続けなければデフレになります。ですから政府は毎年一定の割合でおカネを供給し続ける必要があります。そのために発行する通貨を政府が財政支出として利用すれば、公共投資や社会福祉財源などに充てることが可能となります。政府が紙幣を発行すれば国債を発行する必要はありません。返済のための増税を行う必要も無いのです。

以上が3つの骨子です。残念ながらアメリカでも日本でも、多くの国民が金融に関する知識をほとんど持っていません。「信用創造」という言葉すら知らない人がほとんどです。なぜでしょうか?マスコミが決して金融の仕組みに触れないからです。マスコミにとって金融に都合の悪い部分に触れることは最大の「タブー」なのです。御用マスコミしか存在しない日本の悲劇ですね。

多くの国民は金融に無知なままバブルに踊らされ、不況に苦しみ、「1%の人々」の利益のために一生を働き続ける事になるのです。

そんな日本でも金融の本質に切り込んだ意欲的なアニメ作品があります。

「C」The Money of soul and possibility control.というタイトルで、制作はタツノコプロです。

2012.1.8 初稿