一億総活躍は給付金で実現できる

2015.11.2

(ねこ)

安倍首相が一億総活躍社会を実現するとか言ってるけど、何のことかわからないにゃ。老若男女の国民すべてが参画する社会という話もあるし、左派の人は一億火の玉の戦争スローガンだとか言ってるにゃ。

(じいちゃん)

定義があいまいじゃからな。ワシは一億総活躍とは広い意味で就業率、つまり働く人の割合を高める狙いがあるんだろうと考えておる。就業率は一般に生産年齢人口(15歳~64歳)のうち、報酬を得て働いている人の割合を示している。つまり中学生以下の子供と、65歳以上の高齢者や疾病等の身体的理由で働くことのできない人を除いて、どれだけの人が働いているかという割合じゃ。この定義から言えば、現在の日本で就業率を高めるには主婦に働いていただくという話になる。これが「女性が輝く」というスローガンだ。だがこれは慎重に行わなければ、子育て家族の団らんの時間を奪い、子供のストレス増加による社会問題を悪化させかねないリスクもある。それに日本の就業率は決して低くは無い。2012年の日本の就業率は70.6%だったが、アメリカは67.1%、フランス63.9%など日本より就業率が低い国もある。

しかし最近は平均寿命が延び、65歳以上の高齢者でも知識を生かしてまだまだ働くことが可能な人も多い。年金財源を確保する観点から、こうした高齢者にもっと働いて欲しいと政府は考えていると思われる。こうした人々の労働参加は一般的な指標では就業率の計算に含まれない。だからこの場合は広い意味で、就業率は「日本の総人口に対して労働に参加している人の割合」という意味で捉える必要があると思う。これには高齢者も女性も、あるいは若干の労働が可能な身体障害や病気の人も含まれるじゃろう。これが一億総活躍の狙いだと考えておるのじゃ。

(ねこ)

65歳以上の高齢者や体の悪い人にも無理矢理に労働させるのかにゃ。

(じいちゃん)

やり方を間違えればそうなる。たとえば年金や社会保障費を削減して「働かなければ生活できないようにする」方法だ。これは財務省が年金や社会保障を削減することに該当する。事実上の強制労働とも言える最低の方法じゃ。そうではなくて、自発的に労働に参加できるような状態にすることが重要じゃ。

(ねこ)

ふ~ん、じゃあ、じいちゃんならどうするの?

(じいちゃん)

一億総活躍を実現するには国民に給付金を支給するだけで良いと考えておる。極めてシンプルじゃ。どうせ役所に考えさせると利権がらみの企業に対する補助金政策や企業を強制する規制なんかをやりかねない。もっとシンプルに給付金を支給するだけで十分じゃと思う。

たとえば企業の立場で考えてみよう。一億総活躍だか何だか知らないが、企業にとって欲しい人材は「若くて優秀で猛烈に働く人材」じゃ。当たり前じゃろ。だから企業が従業員を募集するときも若くて優秀で猛烈に働く人じゃなければ、採用しない。人材が確保しにくかったとしても中高年の人や女性の採用は見合わせて、希望する人材が応募するまで気長に待つはずだ。ワシが社長なら間違いなくそうする。そして今いる従業員の残業を増やしたり、機械を導入して乗り切ろうとするはずじゃ。

それどころか、中高齢者や女性を採用するくらいなら、若くて猛烈に働く外国人労働者を採用したいと考えるじゃろう。実際のところ、企業はその方がカネになる。企業にとってはカネがすべてじゃ。企業は会計システムで動いておるから、利益が出なければ何もできない。綺麗ごとでは動かない。つまり、企業はまだまだ「余裕をかましている」と思うのじゃ。政府や日銀が必死に「景気は着実に回復している」と主張しておるが、企業にも庶民にもそんな実感はない。回復のペースは相当に緩慢であり、多くの人は半信半疑じゃ。これでは就職にハンデのある中高齢者や女性の採用に積極的に踏み切る企業は多くないじゃろ。現状の社員だけでなんとかしたいと考える。

ところが、もし本格的に景気が回復を始めて需要が大きく増えれば供給が不足する。商品がどんどん売れれば企業は大規模な増産に迫られるじゃろう。こうなると間違いなく「猫の手も借りたい状態」になる。猫でも良いのだから中高年も女性も大歓迎じゃ。こうなると企業は「中高年や女性の労働力を如何にして活用すべきか」を真剣に考えるようになる。なぜなら、それが企業の成長に直結するからじゃ。現在のような不景気では「中高年や女性の労働力を如何にして活用すべきか」を真剣に考える企業は奇特な存在に過ぎない。

そこで一気に需要を増やす方法が「給付金の支給」なのじゃ。消費者に給付金を支給することで日本の購買力を直接に引き上げることができる。もちろんこれは現在の日本がデフレだからできることじゃ。最近はデフレギャップが解消したとか主張する人もおるが、実際には工場や労働力が100%稼働しているわけではない。

(ねこ)

でも、日本の失業率は減って、人手が不足しているというにゃ。

(じいちゃん)

日本の失業率は改善していると言うが、失業率という統計には問題がある。長期失業者を失業者にカウントしないからだ。失業率はあくまでも「職を求めてハローワークに来ている人の失業率」なのじゃ。失業給付の期間が切れてしまった長期失業の人や高齢者は労働人口から除外されてしまう。つまり潜在的な失業者がごまんとおるのじゃ。だから完全失業率の統計だけで景気を見るのは間違いじゃ。まだまだ失業者が溢れておる。失業率ではなく、むしろ就業率で判断しなければならんのじゃ。

(ねこ)

でも、5万円や10万円のおカネを配っても、砂漠に水を撒く様なものだにゃ。

(じいちゃん)

麻生政権の給付金のような金額ではお話にならん。国民一人あたり最低でも毎月3万円を3年間支給するのじゃ。できれば毎月6万円は欲しい。年間にすると国民一人あたり36万円~72万円、3年総額で108万円~213万円だ。とんでもない金額だと思うかもしれんが、これは日本銀行が金融緩和で発行している金額を考えれば、その半分から同額程度の金額なのじゃ。同じ現金を発行するのであれば、銀行の所有する国債を買い取るためにカネを使うんじゃなくて、それを国民の購買力の向上に使うべきじゃろ。

(ねこ)

にゃ~そんなことすると、インフレになるにゃ。

(じいちゃん)

ほっほっほ、今でも日銀が必死にインフレ誘導しておるではないか。日銀のインフレ目標が達成できれば日銀が喜ぶ。おまけにインフレになって庶民が生活に困るのではない。庶民は給付金によって、かえって豊かになれるから庶民も喜ぶ。企業は給付金で消費が増加すれば売り上げが増加して喜ぶ。企業の売り上げが増加すれば株価も配当金も増えるから投資家も喜ぶ。ついでに、インフレが過熱してくると、それを押さえるためには消費税を増税する必要がある。めでたく増税できるし税収も増えるから財務省も喜ぶ。おお、みんな大喜びじゃぞ。

(ねこ)

なんかいいことずくめだにゃ。具体的にはどうやるのかにゃ。

(じいちゃん)

政府が給付金のための特別な国債を発行し、それを日銀が現金を発行して買い受ける。つまり日銀の直接引き受けによって通貨を発行する。その通貨を国民に給付するのじゃよ。もちろん、マイナンバーに関連付けすればマイナンバーが一気に普及するじゃろう。基本的には銀行口座や郵便貯金の口座に振り込む。それ以外は郵便局での受け取りにすれば良いじゃろ。

一億つまり全国民が活躍できるかどうか、それは仕組みよりもむしろ需要の方が大きな影響力を持つはずじゃ。中高年や女性の採用を促進する政策を打ったところで、需要が伸びなければ企業は決して人を採用しない。そして需要が伸びれば、仕組みは政府が作らずともむしろ企業が自ら考えるようになる。それこそが本当の民間主導ではないのか。

役人が変な小細工をする必要はない。今こそ大胆な給付金政策で需要にショックを与え、企業の意識を変えさせなければならないと思うのじゃ。だらだらと戦力の逐次投入をするのではなく、やるならドンとやるべきじゃ。