貿易って何だ 貿易の基本は物々交換

2015.6.29/2018.4.25修正

(じいちゃん)

貿易について考えてみよう。今回もおカネを使わないで貿易とは何かを考えてみるのじゃ。ところで経済活動にとって貿易は必ずしも必要なわけではない。必要最低限の衣食住をまかなうためには、日本の国内だけで生産して国内だけで消費すれば生きてゆける。ところが最近は「何が何でも自由貿易だ」という考えが広まっておるが、こんな強迫観念に縛られることはないと考えておる。

(ねこ)

でも日本には石油も鉄鉱石もほとんどないにゃ。貿易しないと豊かな生活はできないのにゃ。

(じいちゃん)

その通りじゃな。最低限の生活が出来たとしても、それですべての人々が幸福になれるわけではない。人々が豊かな生活をするためには、日本では手に入りにくい資源や財(物)を手に入れる必要がある。そのために貿易を行うのじゃ。貿易は基本的に「交換」じゃから、日本が欲しい石油や鉄鉱石を手に入れるためには、それらを保有している国の人たちが欲しがる商品と交換しなければならん。日本には他の国が欲しがるような資源はほとんどない。じゃから資源を輸入してそれを加工して製品を作り出し、製品を輸出する「加工貿易」が行われるのじゃ。

(ねこ)

そうにゃ、たとえば産油国から石油を輸入して、その石油でいろんな製品を生産して産油国に輸出するのにゃ。だから石油製品と石油を交換していることになるのにゃ。ほかにも日本では作れないような美術工芸品とかブランド品なんかも欲しいと思えば、自動車や家電製品を作って外国と交換するのにゃ。

(じいちゃん)

あくまでも輸入するために輸出するのじゃ。おカネを使わずに考えるなら、貿易とは物々交換のために行われるのじゃ。じゃから必要以上にたくさん輸出しても、相手から代わりに貰うものがなければ成り立たない。つまり、あくまでもお互いの国で必要とするものを交換するのが貿易じゃ。だから貿易の不均衡という考えは存在しない。交換だから、あくまで輸出と輸入は1:1の関係じゃ。輸出や輸入だけ多くなるようなことは生じない。

おカネが関係しない状況では、世界の貿易が拡大することは非常に良いことじゃ。基本的には互いに交換できるものがなければ貿易をする必要はない。逆に互いに交換できるものがあれば、貿易はどんどん拡大できる。シンプルに考えると貿易に回される商品は国内で大量に作られて、消費しきれない余剰になった商品だと考えられる。余剰な商品を互いに交換し合えば、すべての国がハッピーになれる。貿易で困る国はでてこない。貿易が拡大して様々な商品が交換されれば、すべての国の人々の暮らしは豊かになる。

(ねこ)

おカネを使わない貿易でも、何か問題はないのかにゃ。

(じいちゃん)

あるといえばある。そうじゃな、たとえば日本のように加工貿易をやってる国は、資源国の技術が進歩して加工品の生産ができるようになると、資源国の資源と交換するものがなくなってしまうので困る。たとえば産油国が日本と同じような自動車を自国で生産できるようになれば、日本から自動車を輸入する必要はなくなる。じゃから資源のない日本は技術開発に熱心に取り組む必要がある。交換できるものがないと交換できないのだから仕方ない。これは貿易が「交換によって成り立つ」のじゃから止むを得んな。

また、日本の他にも自動車を作る国があるとすれば、市場で競合してしまう。もし日本の作る自動車の魅力が他の国に負けてしまうと、産油国が日本の自動車を輸入してくれなくなるかも知れない。そうなると、自動車をつくる国同士で競争となり、市場の奪い合いが起きる。

経済評論家の中には「貿易は国際分業だ」なんて呑気なことを言う人がおるが、そんな生易しいものではない。分業の場合はあくまで作り出された財は分業を担当した人々に平等に分配されるものじゃ。つまり共同生産、共同分配というわけじゃよ。しかし実際には貿易とは分業ではなく「仕事の奪い合い」になってしまう。これは基本的に分業ではなく「交換」によって貿易の経済が成り立っておるからじゃ。

(ねこ)

いろいろ問題はあるけど、貿易の基本はあくまでも「物々交換」なんだにゃ。基本的には自国で手に入らない物資を輸入するために商品を輸出をするのにゃ。もし国内で使い切れないほど生産された商品があれば、それを互いに交換すれば、すべての国はハッピーになるのにゃ。

<おカネが絡むと・・・・>

(じいちゃん)

そこで例によっておカネが絡むと、話はややこしくなる。おカネによる貿易は便利で効率的なのは確かじゃ。しかしおカネが絡むと、貿易の目的が「カネを稼ぐこと」に変化する。貿易相手国から資源や加工品などの財を貰うのではなく、カネを貰うことが目的のようになってしまう。また同時に、輸出できる商品を何も生産できない国であっても、おカネがあれば輸入できるようになる。こうして、貿易赤字と貿易黒字という概念が発生する。

たとえばドイツのような工業国は優れた工業製品を作り出すことが出来る。そのような商品を他国へ輸出して、その代価として財を交換するのではなくおカネを手に入れる。どんどん輸出しておカネを手に入れるから貿易黒字になるわけじゃ。一方でギリシャのような国は輸出する商品も資源もほとんどない。本来であれば、輸出する商品がなければ輸入できない。しかしおカネがあれば輸入できる世の中じゃ。ドイツにおカネを払ってドイツ製品をどんどん輸入する。輸入ばかり増えるので貿易赤字になるのじゃ。

ところで貿易赤字を続けると、やがて支払いのためのおカネ(外貨)がなくなってしまう。するとそこで貿易はストップするはずじゃ。ところが現代社会では「借金」という手段が用意されている。これが例の「ギリシャ国債」じゃな。借金をすればさらに輸入を続けることができる。輸入品によってギリシアの人々は一時的に豊かな生活を送ることが出来る。しかしやがて借金で首が回らなくなるわけじゃ。これがギリシャ破綻騒ぎじゃな。

(ねこ)

ふにゃ~、おカネで貿易するのは便利だけど「貿易黒字、貿易赤字」の問題が発生するのにゃ。貿易赤字を続けていると借金の歯止めが効かなくなってしまう危険性があるにゃ。そして借金が増えすぎて、自由に行動ができなくなる。まるで罠のようだにゃ。

(じいちゃん)

また、産業空洞化の問題が発生する。産業空洞化とは、自国で生産していた財(商品)を他国で生産するようになることじゃ。そのために自国の産業が衰退して失業者が溢れる。そもそもおカネが絡まなければ、このような問題は発生しにくいと思うのじゃ。

物々交換で貿易を考えると、日本で作ることのできる商品を日本で作らず、わざわざ外国で生産して輸入する必要などないはずじゃ。もちろん、それと同時に日本から外国へ輸出する商品が輸入をうわまわるだけ増加するのであればメリットはあるし、産業空洞化の問題は生じない。

たとえば、日本で作ることのできる衣類を外国で作って輸入したとしても、日本で作られる家電製品が衣類の輸入以上に外国に輸出されるようになれば、衣類プラスそれ以上の商品が輸入できる。今まで衣類を作っていた人が家電製品の製造をすれば失業も生まれない。しかし、外国が日本の家電製品をあまり輸入しないのであれば、こんどは逆に衣類の輸入ができなくなってしまう。それなら日本で衣類を作った方が良い。日本で生産できるものをわざわざ外国で生産して輸入するのであれば、その代わりに日本で別の商品がどんどん生産されて輸出できるようにならない限り、失業者が増えるだけで、日本にとってはメリットにならないと思うのじゃ。

ところがおカネが絡むとややこしくなる。おカネで貿易を行う場合は、おカネを稼ぐことが目的化する。すると、為替(おカネの交換レート)の安い外国で生産して、それを日本国内に持ち込んで高く売れば儲けが大きくなる。そのため、工場はこぞって海外へ移転してしまう。カネを儲けるために、日本で生産できる製品をわざわざ外国で生産して輸入するようになる。この場合は日本から外国への輸出が増えようと増えまいと関係ない。日本からの輸出が伸びなくても、海外へ工場を移転すれば企業は確実に儲かる。その結果として産業が空洞化して失業者が増えても関係ない。企業としてはカネが儲かれば良いというわけじゃ。これは日本の労働者にとって良いこととは思えない。

(ねこ)

でも自由貿易はすべての国の利益になるとマスコミが盛んに主張してるにゃ。

(じいちゃん)

もちろん、比較生産費説という自由貿易理論があって、それは理論上は正しいと思うのじゃ。仮に国内ですべての財を生産する能力を有していたとしても、すべて自国で生産するのではなく、それぞれの国でより低コストで生産できる財の生産に特化し、貿易で交換したほうが総生産量が多くなる。総生産量が多くなるのだから豊かになるはずじゃ。ところが実際には自由貿易は「貿易戦争」を引き起こし、「貿易黒字・貿易赤字」を生み出し、国内の雇用を奪う。こうした矛盾も「おカネ」が絡んでいるのではないかと思うのじゃ。

(ねこ)

おカネが絡むとややこしいことがいっぱい起こるのにゃ。でも貿易の基本は「物々交換」なんだにゃ。だからそれぞれの国が生産に余力のある製品を互いに交換したり、国内で調達できない物資を輸入するために商品を輸出していれば何の問題もないのにゃ。そう考えれば、むやみに輸出を増やす必要もないにゃ。逆に、輸出する商品がないのに輸入に頼る事もできないにゃ。それなのに、今は「おカネ」で貿易をするから、おカネを稼ぐためにいくらでも輸出する国が出てくるし、またおカネで輸入できるから、借金で首が回らなくなるまで輸入する国も出てくるのにゃ。

(じいちゃん)

そうじゃな。しかし貿易の原点は何かを忘れないようにすれば、重要な何かを見失ってカネに振り回されることはなくなるのではないかと思うのじゃよ。