経済成長って何だ~おカネを使わず考える

2015.6.26/2018.4.25修正

(じいちゃん)

経済成長とは何じゃろ?経済成長をおカネを使わずに考えてみたいと思うのじゃ。経済の話と言えば、多くの人はおカネで理解しようとするじゃろう。しかしおカネで考えると経済は非常にややこしいので、かえって頭が混乱してしまう。じゃから最初はおかねを使わずに経済を考えてみたい。

では、最初に経済の最も根本的な「経済の3要素」を考えたい、それは「労働力」「生産設備」「技術」の3つであると考えられるのじゃ。この3つが備わっていれば経済が成り立つのじゃ。この3つがあれば人間は生産活動を行って生活してゆけるのじゃ。

(ねこ)

へえ~、経済の3要素は「労働力」「生産設備」「技術」なのかにゃ。おカネは含まれていないにゃ。経済におカネはいらないのかにゃ。

(じいちゃん)

確かにおかねがあった方が便利じゃが、おカネがなくても経済は成り立つんじゃ。考えてみよう。まず「労働力」が必要なのは説明するまでもないのう。働く人がおらんのでは何も作り出せないから経済は成り立たん。そして労働者が働くための設備が必要じゃ。たとえば自動車組み立て工場だったり、建設現場だったり、水田だったり、いろいろあるのう。生産設備で労働者が働けば、いろんな財(物やサービス)が生まれる。これをみんなで分け合って生活するのが経済活動じゃ。おカネは基本的に関係ない。ただし作ったものを分け合うときにおカネを利用した方が便利じゃから、おカネを使っておるだけじゃ。

(ねこ)

ところで、もう一つの要素である「技術」はどうにゃの?

(じいちゃん)

技術が進歩するほど、生産設備の性能が高まったり、生産手順が効率化されたりするんじゃ。すると生産性が高まって、1人の労働者、1つの生産設備から生み出される財の量が増える。あるいは、技術の進歩によっていままでにない、新しい機能を持った財(物やサービス)が発明されることもある。たとえば、品種改良によって美味しいお米ができたり、技術開発によって自動運転の自動車が発明されたりする。そういう意味で技術は大切じゃな。

(ねこ)

それじゃ、経済が成長するって、どんなことなのかにゃ。

(じいちゃん)

経済が成長すると生産活動が活発になって、より多くの量の、より多くの種類の財が生産されるようになる。じゃから経済成長すれば一般に人々の生活が豊かになって、幸福な社会になると考えられるのじゃ。つまり経済成長するとは「生産力が拡大する」ことを意味する。「労働力」「生産設備」「技術」はいずれも生産力を増加させる要素になる。

ところで経済成長は、経済の3要素がそれぞれに成長することで達成されるんじゃ。たとえば「労働力」が増える。人口が増えて、働く人が増えれば労働力が増えて、より多くの財を生産できるようになるんじゃ。そうすれば経済は成長する。また「生産設備」が増えても良い。農耕地が増えたり、発電所の数が増えれば、それだけ多くの食料や電力が生産できるようになるから経済は成長する。また科学技術が進歩して優れた「技術」が開発されると、1人当たりが生産できる財の量が増えたり、もっと多くの種類の財を生み出すことができるようになるのじゃ。そうなれば、やはり経済は成長する。

(ねこ)

でも日本は少子高齢化で労働力が減少しているにゃ。それなら経済成長ができなくなるのかにゃ。そしたら日本は貧しい国になるのかにゃ。

(じいちゃん)

確かに労働力が減少すれば経済成長し難くなる。しかしそれは総額としての経済規模が成長しないだけであり、1人当たりの生産で考えてみれば、生産設備や技術が増えれば1人当たりの生産は増え続ける。だから総額としての経済規模が成長しなくても、1人当たりの豊かさは拡大を続けることになる。

(ねこ)

なるほど、経済の基本は簡単なのにゃ。経済の3要素である「労働力」「生産設備」「技術」を増やせば生産力が拡大して経済が成長し、人々の生活は豊かになるのにゃ。

<おカネが絡むと・・・・>

(じいちゃん)

左様じゃな、ところが、ここに「おカネ」が絡んでくると、突然に複雑怪奇となる。たとえば「生産過剰」と「貧困」という現象が同時に発生する。これはおカネが絡んでおるからじゃ。経済の3要素だけを考えてみると、生産力が大きければ大きいほどより多くの財(物やサービス)を生み出すことができることがわかる。社会全体として、より多くの財を生み出したのであれば、一人一人に分けあうことができる財の量が増えるわけじゃ。多く作った分だけ多く配れば、財が余ることは基本的にあり得ない。

ところが、おカネを使った経済じゃと、多く作ると財が残ってしまうのじゃ。なぜなら、おカネを使う経済(市場経済)の場合、すべての財は市場での売買を通じて人々に分配されるようになっておる。すると、おカネの関係で売れ残りや生産過剰の現象が生じるのじゃ。これはおカネを使う取引に特有の現象じゃ。

(ねこ)

う~ん、でもそれは必要以上に作っているからじゃないのかにゃ。多すぎても余ってしまうにゃ。

(じいちゃん)

そういうわけでもない。というのも、財が余って倉庫に山積みになる一方で、失業している人々には、そうした財が行き届かないし、低所得の人も十分な財を手に入れられない。そのため貧困な人が世の中に多数発生している。つまり「生産過剰と貧困」が同時に発生しておるのじゃ。社会全体で見た時、決して財の量が多すぎるわけではない、財の不足している人がたくさんいるのじゃよ。それにも関わらず、財が余って倉庫に山積みになっておる。これは明らかに経済システムが正常に機能していない事を意味するのじゃ。

(ねこ)

それは変なのにゃ。う~ん、失業している人が働けばよいのにゃ。働いておカネを稼げば財が買えるのにゃ。なぜ働かないのかにゃ。努力が足りないにゃ、本人に責任があるにゃ、自己責任にゃ。

(じいちゃん)

そうではない、働きたくても不況になると仕事がないんじゃ。たとえば働きたい人が10人いても、仕事は3人分しかない。どれほど頑張っても7人は絶対に仕事を得られない。それを「自己責任で何とかしろ」というのは無茶な話じゃ。こうした現象は「市場とおカネの機能不全」によって生まれる。

(ねこ)

それもそうにゃ。だったら、自分たちが必要な財を自分たちで作れないのかにゃ。

(じいちゃん)

それもできない。食料が不足している人が居たとして、自分で食料を作りたくても農地が無い。農地があっても、他の人がすでにそこで働いておるから、働く余地はない。つまり自分で食料を作る事も不可能なじゃ。働かないと給料としておカネが貰えない、おカネがないと飢えてしまう。ところが世の中には食料が余るほどある。しかし、どんなに世の中に食料が余っていても、おカネがなければ渡せない。それが市場経済のシステムじゃ。

社会全体で生産した財を社会全体で分配するなら、そもそも財が余るなどあり得ない。また財が山のように余っているのに、それをもらえない人が発生することもあり得ない。こうした現象は「市場とおカネの機能不全」によって生まれるのじゃ。そういうのを「市場の失敗」などと言って、失敗の一言で済まされておる。

(ねこ)

困った物なのにゃ。

(じいちゃん)

それだけではない。たとえば「技術」が進歩すると失業者が大量に発生してしまうのじゃ。たとえばロボットじゃ。人間並みの能力を持った産業用ロボットや、人工知能を備えたロボットがどんどん開発されたとする。すると人間がやっていた仕事をロボット担うようになる。人間に比べてロボットはコストが安いので、会社はロボットを採用して社員をどんどん首にするようになるのじゃ。失業者が世の中に増えるようになる。

一方で、ロボットが大量の財(物やサービス)を自動的に生産するようになる。財は以前にも増してどんどん生産されて山積みになる。ところが同時に失業者もどんどん増えるため、せっかく生産された財を買える人がどんどん減るのじゃ。つまり、ロボットの導入で生産力が飛躍的に高まって、ますます大量の財が生産されるようになる一方で、失業者がますます増加して、財がどんどん余るようになり、貧困な人が増加する。本当はロボットが普及すれば人間は豊かになるはずなのに、まったく逆の世界になるのじゃ。それでも失業者は「自己責任」「努力が足りない」のじゃろうか。

(ねこ)

ふにゃ~、おカネが絡むと突然にへんな現象がいっぱいいっぱい発生するのにゃ。

(じいちゃん)

その通りじゃ。じゃから最初からおカネを通じて経済を理解しようとするのは無理がある。そもそも経済にとっておカネは不可欠ではない。ただしおカネをうまく利用すれば、経済活動をより活発にすることが出来るからおカネを使うのじゃ。しかし逆におカネを利用することで大きな矛盾も発生する。

経済を活性化して人々を豊かにするためには、経済の3要素である「労働力」「生産設備」「技術」を高めることが重要じゃ。そのために、矛盾を発生することなく、どのようにおカネを利用するか考えるのじゃ。おカネはあくまでも、そのための道具なのじゃよ。おカネは道具じゃ。おカネに価値は無い。どのように使うかによって、あとから価値(物やサービス)が生み出されるのじゃ。

おカネに振り回されてはいかんのじゃ。