テクノロジーの進化で資源価格は暴落する?

2015.10.22/2018.4.25修正

(ねこ)

原油価格がどんどん値下がりしているにゃ。このまま原油の価格が安くなりつづけた方がありがたいにゃ。でも今は世界の景気が悪いから一時的に安いだけで、どうせまた値上がりしてくると思うにゃ。それどころか、将来は資源が枯渇してトンデモナイ高価格になるんじゃないかにゃ。

(じいちゃん)

ほっほっほ、そうじゃな。じゃが将来に資源価格が必ず値上がりするとは限らん。むしろ資源価格がほとんど無料なほど安くなる可能性もあるのじゃ。

(ねこ)

ふにゃ、そんなことがあるのかにゃ。

(じいちゃん)

テクノロジーが今よりもずっと進歩した未来の社会において、ほぼ100%リサイクルの完全自動化システムが完成したり、金属のような希少資源に変わる代替資源が発明されると、資源の枯渇問題が解決するだけでなく、資源価格が非常に安くなると考えられるのじゃ。そもそもモノの価格はどのように決まるのじゃろうか。

(ねこ)

う~ん、市場における需要と供給の関係で決まるのにゃ。より多くの人々が欲しいと思った商品は値段が高くなるにゃ。でも、どれほど需要が高い商品でも売れ残るほど大量に供給されると値段が安くなるにゃ。だから数が少ない商品ほど価格が高くなるにゃ。

(じいちゃん)

その通りじゃな。商品の価格は数か少ないほど高い、つまり希少性によって決まるのじゃ。たとえば空気の場合はあまりにも大量かつ身近にあるため、価格が無料なのじゃ。水の場合も日本だとほとんどタダ同然の低料金じゃが、砂漠に行けば水が少ないから値段が付く。

そんなわけじゃから、資源の供給量が増えれば資源価格はどんどん下落する。現代はリサイクルが進歩してはいるが、まだまだ多くの資源がゴミとして捨てられたり、石油のように燃やされたりしておる。じゃから資源は常に買わなければならない。もしリサイクル技術が格段に進歩して100%リサイクルを達成したらどうなるか。あるいは代替資源技術が進歩して、炭素やセラミックのような身近な物質が資源としてもっと利用できるようになったらどうなるか。資源の希少性がとても小さくなる。

(ねこ)

う~ん、確かにリサイクルで必要な資源をまかなう様になれば資源を外国から買う必要はなくなるし、身近にある物質が資源化されれば、それこそ水や空気と同じだから希少性もなくなるにゃ。いつでも誰でも使える。でもタダになるとは思えないのにゃ。

じいちゃん)

左様じゃな、実はいくら希少性が皆無になっても製造コストやリサイクルコストが依然として残る。つまり人手がかかっておるのじゃ。この製造コストを販売価格が下回るといわゆる「原価割れ」を引き起こして、供給そのものが不可能となる。製造コストを考えた場合、それは突き詰めるとすべて人間の労働の総和で出来ていることがわかる。複雑な機械でも、すべてバラバラに考えると最終的には労働時間の総和に分解することができるのじゃ。

だとすれば、もし未来においてロボットや人工知能が人間の代わりにすべての労働を担ってくれるのであれば、人間の労働時間はほとんどゼロになるじゃろう。つまり完全自動化を実現するのじゃよ。すると人手が不要になるので製造コストも限りなくゼロとなるはずじゃ。同様に考えるとリサイクルのコストもゼロになり、資源の供給コストもゼロになるのじゃ。

(ねこ)

エネルギーはどうなのかにゃ。エネルギーはリサイクルできないのにゃ。

(じいちゃん)

確かにエネルギーはリサイクルできん。じゃが太陽エネルギーやそれから派生した風力、波力などのエネルギーは絶えることなく地球上に供給されておる。こうしたエネルギーを完全自動化したシステムで電力や水素などの利用可能な形に作り替えることができるようになれば、こうしたエネルギー資源の供給コストも最終的にはゼロになるはずじゃ。もし太陽エネルギーで不足するようならマグマ地熱もある。これらはリサイクルできないものの「再生可能エネルギー」と呼ばれたりする。

そして資源価格がゼロになり、完全自動化で人手もいらなくなれば、消費財なども無料で供給できるようになるんじゃ。つまり未来社会では多くの人はあくせく働かなくても生きてゆけるようになるんじゃ。もちろん、この時点で現代経済最大の懸念である資源の枯渇問題は解決する。

とはいえ、文字通りに資源を無料化すると、おかしなことを考える人間が必ずでてくるじゃろう。たとえば、使いもしないのに膨大な量の資源を買い込んだり、エネルギーを無意味に浪費する不道徳な連中が必ず発生する。じゃから実際には使用量に制限を設けたり、一定の価格水準を維持することで使用量が増えすぎないようにするなどの措置が必要になるじゃろう。

(ねこ)

なるほどにゃ~、完全自動化システムの実現が欠かせないのにゃ。でもそれって遠い未来の話なのにゃ。今は関係ないにゃ。

(じいちゃん)

そうではないぞ、科学技術の進歩によって生産の自動化が今でもどんどん進んでおる。確かに数年でそんなすごいシステムを実現できるわけではない。しかしそうした未来のビジョンを描いて、そこに向けて技術開発を着実に進めれば、いつかそれを実現することは可能じゃろう。重要なことはビジョンをしっかり描くことじゃ。すぐにそんな夢のような未来は実現しなくとも、次の段階として到達すべきステップがあるはずじゃ。しかし現在の政治も経済も、どこへ向かって進んでおるのかさっぱりわからん。さだめし欲望のままに暴走しているといった感じじゃ。

(ねこ)

そうだにゃあ、おカネになる商品はどんどん開発されて発売されるけど、それはあくまでもカネ儲けのためであって、社会としての長期的なビジョンも何もないのにゃ。でも仮に資源完全リサイクルや代替資源のビジョンを持ったとしても実現できるのかにゃ。

(じいちゃん)

そうじゃな、前途に難しい問題が横たわっておる。それは利潤の問題じゃ。仮にすぐに資源価格がゼロにならなくても、もし資源価格をゼロにするというビジョンを実現する方向を目指すなら、やがて資源の希少性が失われて徐々に資源価格が下落することになるじゃろう。すると希少性から得られていた利潤もどんどん減ってくるのじゃ。

現在の経済システムは利潤に依存しておるから、利潤がどんどん減少するようになると経済が動かなくなってしまう可能性もある。そうなると投資や研究開発が停滞する可能性もある。そもそも資源の販売で莫大な利益を得ている連中が、資源の希少性を完全に消失させるような技術開発に投資するじゃろうか。これは資源価格だけでなく、あらゆる商品について言えることじゃ。科学技術の進歩と共に利潤は減り続ける。つまり利潤を動機付けとするだけでは経済はやがてダメになる可能性があると思うのじゃ。

たとえば、いま(2015年)原油の価格が値下がりしておるが、こうした現象は普通の消費者にとっては望ましいことじゃが、経済の専門家に言わせると逆に問題だという。産油国の得られるおカネの量が減って産油国の経済が低迷するだけでなく、先進国から産油国への輸出が減って景気が悪くなるとか、物価が下がって投資が抑制されるとかいうのじゃ。

これがもし、おカネと市場が関係しない経済じゃったら、石油という資源の供給量が増えることは何の問題も生じないじゃろう。より多くの資源が供給されるのだから、人々の生活は向上する。