ベーシックインカムQ&A

2016.4.16/2018.4.23改訂

Q.(ねこ)

ベーシックインカムって何かにゃ?

A.(じいちゃん)

ベーシックインカムと言っても、人によってとらえ方が違う場合がある。まず最初にベーシックインカムを定義しておくと「すべての人に無条件で最低限の生活に必要なおカネを支給する政策」がベーシックインカムじゃ。お金持ちでも無職の人でも、すべての人に支給される。たとえば年齢性別に関わらず、1人毎月15万円を支給するといった政策じゃ。無条件で支給されるので、基本的には労働しようがしまいが、最低限の生活が保障される制度じゃ。

Q.(ねこ)

ベーシックインカムと給付金とはどこが違うの?

A.(じいちゃん)

ベーシックインカムの考え方は憲法でも謳われている「生存権」に近い理念じゃ。国民は等しく最低限の生活を保障されるのじゃ(もちろん国民としての義務はあるが)。だから無条件にすべての国民におカネが支給され、しかも最低限の生活が可能なだけの金額が支給されるのじゃ。もし毎月2~3万円のおカネを無条件にすべての国民に支給したとしても、正確に言えばそれはベーシックインカムとは違うものじゃ。2~3万円では生活できないからじゃ。

毎月2~3万円のおカネを支給する場合は、給付金じゃ。給付金はそれだけでは生活できない低額で、しかも支給対象者や支給期間が限定される場合もある。なぜなら、給付金は「生存権」ではなく「経済対策」として行われるからじゃ。ヘリコプターマネーが欧州で最近話題に取り上げられるようになったが、ヘリマネで国民におカネを配るのはベーシックインカムと基本的には異なる考え方じゃ。ただしヘリマネと同様に、ベーシックインカムも通貨の分配を通じて経済対策として働く側面がある。

ただし、ワシが主張しておる「小額からスタートする方式のベーシックインカム」は、小額なのはあくまでも導入段階だからであって、徐々に支給額を増額してやがて最低生活を保障する金額を実現し、最終的には十分に豊かな生活を保障することが目的になる。じゃから小額であっても、「ベーシックインカム政策」であると言えると考えておる。未来型ベーシックインカムとは給付のことではなく政策のことじゃよ。

Q.(ねこ)

ベーシックインカムを実施すると生活保護や年金はどうなるの?

A.(じいちゃん)

生活保護や年金、児童手当などの給付は、最終的にはすべてベーシックインカム制度に統合される形になるのじゃ。たとえば生活保護費を毎月15万円受給していたなら、それがベーシックインカム毎月15万円に置き換わる。年金は、たとえば現在の基礎年金の毎月約6万円がベーシックインカム毎月15万円となり、厚生年金分はそのまま上乗せ加算されるじゃろう。高齢者の貧困は無くなる。児童手当などの育児支援もベーシックインカムとして支給されるから毎月15万円となり、相当に手厚くなるじゃろう。子供の貧困や学費不足の問題は解決する。

現在、社会保障の給付に関しては、生活保護、基礎年金、児童手当、失業手当、福祉手当など多数あるが、それらをベーシックインカム制度に一本化することで行政の合理化や経費削減、給付漏れの問題を解決できるとの主張もある。行政の生産性を高めることは必要なので、合理化の効果についても十分に検討の価値があると思う。専門家がきちんと検討して欲しいところじゃ。

Q.(ねこ)

現在の税制のままベーシックインカムを導入することは可能なの?

A.(じいちゃん)

これについては簡単に試算した例がある(下記※1)。それによるとこういう話じゃ。厚労省のホームページで、社会保障給付費を見ると、平成21年度で総額が約99兆8500億円であり、ここから「医療」の約30兆8400億円を差し引くとざっと69兆円となるが、これを人口を1億2500万人として単純に割り算すると、月に4万6000円くらいのベーシックインカムに相当するという話じゃ。じゃから今でも毎月4万6000の給付は可能じゃが、この金額では生活保護や国民年金を代用するのは難しいし、まして最低限の生活は不可能じゃ。現在の税制において予算を組み替えるだけでベーシックインカムを実現するのは難しいと言える。今すぐに完全な形で実施するなら、あらたな財源の仕組みが必要じゃろう。

Q.(ねこ)

ベーシックインカムを導入すると働かない人が増えるの?

A.(じいちゃん)

これは非常に難しい質問じゃ。これについては実例が無いため確たることは何も言えない状況じゃ。ある記事によれば、ベーシックインカムを検討しているスイスにおける世論調査において、ベーシックインカムが導入されれば仕事を辞めると回答した人は全体の約8%に過ぎなかったとされている。一方、日本における直接の世論調査データはないが、おカネのために仕事をしていると回答した人が約50%、収入よりも自由時間を増やしたい人が約38%だったのじゃ。人々がどう動くかは予測が難しい。

一つ確実に言えるのは、もし現段階で働かない人が急に増えすぎると財(物やサービス)を生産する人が減ってしまうため、総じて国民が貧困化する可能性があるということじゃ。日本では高齢化で労働人口が減少し続けているので、こうした点も考慮されるべきじゃろう。もしベーシックインカムを導入しても働く人がそれほど減らなければ、理想的な制度となるじゃろう。ベーシックインカム制度はスイスやフィンランドが導入に向けて検討中であり、もし導入が成功したなら、その結果は現在の行き詰まった経済システムにとって極めて重要な意味を持つと考えておる。

Q.(ねこ)

ベーシックインカムは実現できないの?

A.(じいちゃん)

将来的には必ず実現すると考えておる。なぜなら、ロボットや人工知能は現在でも劇的に進化を続けており、こうした生産マシンによって財の生産が自動化されるようになると、そもそも人間が無理に労働する必要がなくなるのは当然じゃ。もし生活に必要最低限の消費財を機械がすべて自動的に生産するようになれば、必要最低限の消費財は無料で人々に支給されても不思議はない。じゃから将来的には必ずベーシックインカムは制度として成り立つと確信できる。それどころか、生産の自動化が高度に発達したにも関わらず、もしベーシックインカムを導入しなければ、生産者と消費者の間で循環している通貨量が減り続けて経済システムが崩壊するじゃろう(下記※2)。今すぐに完全なベーシックインカムが可能かどうかは判断が難しいのじゃ。

Q.(ねこ)

ベーシックインカムはいつ、どうやって実現するの?

A.(じいちゃん)

人によって考え方は違うが、ワシは完全なベーシックインカムは機械による自動生産が十分に実現した段階で完全に達成すると考えておる。とはいえ、生産の自動化は徐々に進むから、ベーシックインカムの実現も徐々に進むと考えることが可能じゃろう。つまりベーシックインカムの段階的な導入じゃ。これには二つの考え方があると思う。

①支給金額を徐々に増やす方法

ベーシックインカムは本来は最低限の生活を保障するだけの金額を支給しなければならない。しかしはじめは毎月1万円からスタートして、状況を見ながら徐々に支給額を増やしてゆく方法も考えられる。つまり、給付金としてスタートして最終的にはベーシックインカムになる。生活保護や基礎年金はそのまま制度を維持し、毎月支給される給付金の金額だけ生活保護や基礎年金の支給金額を減額する。最終的には生活保護や年金はベーシックインカムに統合される。この方法だと、いきなり仕事をしなくなる人が大量に発生する可能性は低いため、ベーシックインカムの導入に伴う社会の構造的な変化は、対応可能な程度に抑えられると思う。たとえば10年かけて実現する。

②非生産年齢から徐々に対象者を増やす方法

少ない支給金額からスタートするのではなく、対象者を限定した形でスタートする方法じゃ。まず非生産年齢、つまり15歳以下の子供や65歳以上の高齢者から支給を開始するんじゃ。そもそも非生産年齢人口は労働人口ではないから、こうした人々にベーシックインカムを給付しても仕事をしなくなる人が増える事はないじゃろう。そして対象年齢を徐々に拡大するんじゃ。子供は15歳以下から初めて大学卒業年齢の22歳まで徐々に拡大してストップ。高齢者は65歳以上から初めて、支給開始年齢を60歳、55歳、50歳・・・と言う具合に早めるのじゃ。子供のベーシックインカムは児童手当に該当するし、学費の支援にもなる。少子化や子供の貧困化に対応するためにも、まずは子供のベーシックインカムから始めるのが良いと思う。高齢者のベーシックインカムは年金に該当する。年金について言えば、基礎年金がベーシックインカムになるということは、基礎年金分の保険料(毎月1.5万円)を払う必要がなくなるということじゃ。つまり若い世代の保険負担も軽減される。

Q.(ねこ)

ベーシックインカムの財源はどうするのにゃ?

A.(じいちゃん)

「財源」という概念は2種類の意味があると考えておるんじゃ。そもそも財源の「財」とは本質的に物やサービスの事じゃ。じゃから一つは生産面、もう一つは通貨調達面の意味があるのじゃ。

生産面としては、人々の生活に必要十分な財(物やサービス)を生産する生産力が社会にあるかどうかじゃ。必要十分な財を生産する能力があるのであれば、財が不足する心配は無い。つまり財源は十分にあると言える。もちろん海外から資源などを輸入する必要があれば、その代価として輸出する財を余分に生産できなければならない(海外からの所得収支除く)。そしてベーシックインカムの受給額は社会の生産能力が拡大するほど増加するはずじゃ。またベーシックインカムは労働投入量の減少を促すため、生産性の向上が極めて重要じゃ。以上より生産能力(生産性)がベーシックインカムの財源となる。従って、生産能力を高めるために今後は研究開発投資(生産技術および新しい財の発明)、生産設備投資(消費財および生産財の生産性向上)、公共投資(基本的な社会資本の維持拡大)が欠かせないじゃろう。

通貨調達面は難しい問題じゃ。ただし徐々に支給額や支給対象を拡大する方法であればそれほど難しくはないと考えるのじゃ。例えば全国民に毎月1万円の支給から始める場合、当初に必要な予算は年間約15兆円となる。この程度であれば通貨発行(ヘリマネ)によってまかなう事が可能じゃ。現在の金融緩和では日銀が年間80兆円のペースで現金を増やしておるから、それにくらべて15兆円は決して大きい金額ではない。通貨発行によって財源を賄う場合に問題となるのはインフレじゃ。じゃからインフレ率が大きくなりすぎないよう、インフレターゲットを3~4%程度に決めて通貨発行量をコントロールすればよいじゃろう。もしインフレ率が高くなるようであれば消費税の増税によってインフレを抑えることもできる。

通貨としての財源を税制に求める場合、はじめから消費税でベーシックインカムを支えようとしても、消費が滞って不況を悪化させるリスクがあるし、所得税を増やしすぎると、それこそ勤労意欲を損なうじゃろう。ベーシックインカムを実施するためとはいえ、所得のほとんどを税金で取られてしまえば、苦労して働く意味なくなる。ところで信用収縮の影響を除外すれば、基本的に世の中のおカネの量は減らない。好況でも不況でもおカネは減らない。じゃから、金融資産に課税することが最も安定した財源となるんじゃ。おカネの所有者は家計であったり企業であったりするので、その両方へ課税する必要があるじゃろう。

また、金融資産に課税する場合、世の中におカネを供給すればそのぶん税収が増えるという性質がある。たとえば世の中の金融資産の総額が2500兆円から3000兆円に増えると、税率が1%のままであっても税収は25兆円から30兆円へ増加する。じゃから税収を増やすことが容易であり、この点からも持続性が高い。金融資産に課税するとタンス預金が増えるとの指摘はあるが、金融資産の税率はせいぜい1~2%程度じゃろう。景気が良くなれば金利も上昇するので、タンス預金ではなく運用したほうが良いじゃろう。

実際には、金融資産課税と通貨発行益を組み合わせて運用する必要があると思うのじゃ。

一方、ベーシックインカムの財源を考える場合、閉鎖系(国内だけ)の経済であれば比較的方法は容易じゃが、解放系(グローバル)の経済の場合は、カネも人も国境を越えて自由に動き回るので、複雑で予測が難しい部分はあると思うのじゃ。もし世界が協調してベーシックインカムに取り組むなら、話は簡単なのじゃが。

Q.(ねこ)

ベーシックインカムの導入にはいろいろ難しい問題もあるにゃ。

A.(じいちゃん)

そうじゃな、一筋縄ではいかん。反対意見も多いし、世界との関係もあるし、システムをどう構築するかも簡単ではない。しかしロボットや人工知能による生産の自動化は今後も確実に進むはずじゃ。経済システムを持続可能にするために、ベーシックインカムは最終的に不可避であることは間違いないじゃろう。問題はどのタイミングで、どのような形で始めるか、その判断だけじゃろうと思う。2016年現在、欧州ではヘリコプターマネーのように、おカネを刷ってすべての国民に無条件におカネを給付する政策が議論されておる。欧州だけでなく、日本も含めて先進国でこれを実施することは、新たな仕組みに対する世界共通認識の一つのきっかけになるような気がするんじゃ。

(※1)

「ベーシックインカム」の誤解を解く:山崎 元

http://diamond.jp/articles/-/16672

(※2)

経済は通貨の循環で成り立ちます。企業(生産者)で労働者が働くことで財が生産され、労働者は賃金としておカネを受け取ります。その賃金を使って労働者(消費者)は財を購入し、代金としておカネが生産者へ戻る。それを繰り返すことでおカネが企業(生産者)と労働者(消費者)の間をぐるぐる循環し、財の生産と分配が成り立っています。機械化によって生産性が向上すると生産される財の量が同じでも、人手が余るようになる。そのため企業は労働者を解雇してしまいます。解雇された労働者は収入が無いので企業が生産した財を購入することが出来ません。結果として、生産される財の量は同じだが売れ残りが生じることになり売り上げが減る。つまり循環するおカネの量が減ってしまうのです。

最終的には機械がすべての財を自動で生産するようになり、すべての労働者が失業する。財は自動で大量に生産されるが、誰も買うことはできない。この時、おカネはまったく循環しなくなり、経済システムが破綻します。これを防ぐためには、労働の如何にかかわらず、すべての消費者におカネを支給することにより、生産者と消費者の間で通貨を循環させる必要があります。これをベーシックインカムと考えることができる。

この場合、おカネは生産者から消費者に対して無償で支給されることになる。これは現在の経済システムでは考えられない事態なので、利潤、金利、投資そして銀行、私企業といった常識は将来的に通用しなくなり、経済システムは資本主義とは別の何かに生まれ変わると思われます。もちろんそれは最終段階であって今すぐにそうなるわけではありません。しかし現在はその移行期間中であると考えるなら、すでに変化は起こりつつあると理解すべきでしょう。

(補足)

ベーシックインカムの持続可能性については、資源(石油、金属等)の持続性についても検討する必要があります。