反論に対する応酬話法(トーク)

・国債を日銀が引き受けることは禁じ手である。違法である。


「財政法第5条:すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。」


 おっしゃるとおり、確かに財政法第5条において日銀の国債引き受けは、基本的に禁じられておりますが、国会の議決を得れば法律の範囲内と言えます。また、財政法は昭和22年に制定された非常に古い法律であり、今日における経済・社会・技術レベルの状況は、制定当時とは大きくかけ離れております。とりわけ、デフレやディスインフレという状況は当時はまったく想定していなかったはずです。法律が今日の社会に適合していないのであれば、法律の改正も視野に入れた対応が求められると思います。

・政府の依頼で日銀が国債を買うのは、日銀の独立性を損なうのではないか


 なぜ日銀に国債を買ってもらうのかと言えば、硬貨のような小額貨幣を除き、政府が直接に通貨を発行する仕組みがないからです。政府が直接に通貨を発行できれば、日銀が国債を買う必要はまったくなく、日銀の独立性に影響しません。つまり、現行の制度上、通貨を発行するためには、日銀の国債引き受けは、やむを得ない方法なのです。

 しかし、現実的には国債を日銀に買わせるわけなので、日銀の独立性を損なっているかのように見えます。しかし、国家は、通貨を発行する権利である「通貨発行権」を有します。これは国民の主権です。ですから、国民が望むのであれば、国家すなわち政府は通貨を発行しなければなりません。例えば、小額ベーシックインカムのような給付政策を行うために、国民が、おカネを発行すべきだと考えたとしたら、政府は通貨を発行しなければなりません。今日の金融システムでは、国家が通貨を発行するためには、日銀が国債を買い入れるしか方法はありません。発行の基本的な手続きとしては、国民を代表する機関であるところの、国会の承認を経て立法化され、政府の要請に基づき、日銀が国債を買い入れることになるでしょう。日銀の独立性とはいえ、主権者である国民や国会から独立して、民意を無視してもよいという独立性はあり得ません。それでは、日銀の独裁になってしまいます。


※国家、政府、日銀、主権の関係をはっきり確認する必要ありそう。

・借金(国債)は、返さなければならないのであって、国債を日銀が保有しつづける(借金をしつづける)のは問題だ。借金を返さないと、社会がモラルハザードになる。


 おっしゃるとおり、確かに家計や企業の場合は、借金を返さなければなりません。借金を返さなくて良いなら、モラルハザード、道徳上の問題になるかもしれません。なぜなら、借りたもの勝ち、という、特定の個人や企業の利益になるからです。これは不公平です。しかし政府の借金であるところの国債は、特定の個人や企業ではなく、国家全体の利益にかかわるものであり、それが国家全体の利益に資するのであれば、日銀が国債を保有し続けることそのものに道徳上の問題はありません。家計や企業と異なり、国家全体の利益のためであれば、借金をしつづけるべきです。問題があるとすれば、道徳ではなく、システムとしての持続可能性の問題があるだけです。

・国債をこれ以上発行すると、財政が破綻する。日銀が買い入れたとしても、政府の借金が増えていることには変わりないので、いずれ破綻する。


 確かに家計や企業の場合は、銀行から借り入れた借入金は銀行に返済しなければならない仕組みになっています。ですから、借金を増やせば、支払金利が膨らんで支払できなくなり、いずれ必ず破綻します。しかし、政府が日銀から借りる場合は事情が異なります。もちろん、日銀の買い入れた国債に関しても、政府は日銀に対して金利を支払わねばなりません。しかし、日銀に支払われた金利は日銀の利益になり、日銀の利益は政府(国庫)に支払われますので、政府が日銀に支払った金利は政府に戻ってきます。つまり日銀の保有する国債の支払金利はゼロになります。また、国債を借り換えることで、元本を返済する必要もありません。ですから、日銀が買い入れる国債の量がどれほど増加しても、それによって財政が破綻することはありませんので、ご安心ください。

・その国債に関する考え方は、MMTではないのか?MMTは、とんでも理論だと聞く。


 MMTはまったく参考にしていません。MMTの国債に対する考え方は、MMTが広く知られる以前から知られており、MMTに固有の考え方ではありません。例えば通貨改革を目指している論者にとっては、何をいまさら、といったところです。最近はマスコミなどの不正確な報道によって、MMTに関する誤解が広まり、MMTと聞くだけで思考停止して拒絶する人が増えているようですが、金融における信用創造の仕組みを正しく理解すれば、「国債の発行は通貨の発行である」という結論になるのは当然です。たとえばリフレ派の浜田宏一先生がMMTの考えに賛同するのも、リフレ理論や新自由主義を否定したり、捨て去ったわけではなく、単にMMTの国債に関する認識は正しいと理解しただけと思われます。むしろタカ派のMMT論者はベーシックインカム政策のような無条件給付の仕組みに反対しており、我々とは立場が異なります。MMTの国債に関する考え方は正しいと言えますが、それは、本政策には関係ありません。

・国債を増やすと、国家の信用が損なわれ、日本が売られる。株が暴落して、円が暴落して、経済が混乱する。


 おっしゃるとおり、大量の借金を抱えている家計や企業は、金融における与信上の信用が低くなります。なぜなら、借金を踏み倒す危険性、すなわちデフォルト(債務不履行)のリスクが高くなるからです。しかし、家計と政府を単純に同じと考えることはできないと思います。政府とはまさに国家であり、国家は通貨を発行する権利を有するからです。食Pay政策では、政府が発行した新規国債を、日銀が日銀当座預金を発行して買い入れる計画なので、この国債はまったくデフォルトしません。この国債を永久国債とする方法もあります。また既発国債への影響についても、日本の国債は円建て債であり、仮に償還期限を迎えた国債を、政府が税収で返済できない場合でも、日銀が日銀当座預金を発行してそれを買い取ることができますので、日本の国債のデフォルト・リスクはありません(しくみは日銀の量的緩和政策と同じだが、必要に応じて立法化すれば良い)。デフォルト・リスクがないので、国債を増やしたからといって、国家の与信上の信用が損なわれることはないと思われます。国家の信用は損なわれませんので、日本が売られることもありません。一方、株価は収益率つまり「儲け」に連動しますので、むしろ国債の増発をためらって、デフレ不況を放置する方が株価が下がる原因になると思われます。ただし、国債の発行残高を増やし続けると、おカネの量(マネーストック)が増えることから、為替市場では円安傾向になりますので、過度な国債の発行には注意が必要と思われます。ですから、国債発行を財源とする給付金は、基本的に月額3万円に抑えています。

・ますます円安になるのではないか。(最近、円安ガーと騒ぐ人が増えているので)


 国債を発行し続けると通貨供給量が増加するため、円安傾向になると思います。ただし、これまでは「円が高すぎた」という点に留意が必要だと思われます。といいますのも、日本の通貨の供給量は他の先進国と比較して一貫して低く維持されてきました。日本がおカネを増やさないわけですから、これまでは円が高めに誘導されてきたと考えられます。もし、日本が他の先進国と同じ程度に通貨を増やしていたなら、もっと以前から円安に振れていたはずだと考えられます。つまり、おカネを増やさないことで、「経済の実力以上に円が高く評価されてきた」わけですから、もし他の先進国と同じ程度まで通貨供給量を増やせば、円安になるのは当然であり、今日の円安は通貨供給の正常化にともなう調整局面であると考えられます。この場合、短期的な円相場に一喜一憂するのではなく、通貨供給量を他の先進国並みに行うなかで、正常な円相場の均衡点を見出すべきだと思います。こうしたなかで、仮に食料品などの輸入品の価格が上昇することで低所得層の生活が苦しくなるようであれば、まさしく食Pay政策のような「低所得層の生活支援」によって支えることが可能だと思われます。つまり、食Pay政策は今日の円安対策としても有効であると考えられます。

・投機筋によって、円が売られて、円相場が暴落するのではないか


 おっしゃるように、短期的に円が暴落する可能性がないとは言い切れません。投機はマネーゲームですから、あらゆる機会をとらえて売ったり買ったりし、儲けを抜こうとします。しかし長期的には「円を無限に売り続けてもカネにならない」ので、買戻しが入って、一定の水準に戻ると考えられます。ただし、過去の政府があまりに長期にわたってデフレをほとんど放置してきたため(失われた20年)、日本経済の供給力が大きく棄損することとなり、実力としての円の価値は、現在の水準(1ドル110円程度)よりも低いものになるのは不可避と考えられます(それが今日の円安の原因)。円の価値を正しく評価するには、他の先進国と同程度の通貨を供給する必要があると思います。

・現金であろうとポイントであろうと、ばらまきを行うとインフレになる。インフレになったら、給付は中止するのか。


 おっしゃるように、インフレになる可能性はあると思います。しかし、インフレになっても給付は中止しません。小額ベーシックインカムは、低所得層の生活をささえるための重要な政策であり、インフレ時における低所得層の生活支援になるからです。もしインフレによって食料品の購買力が目減りするのであれば、むしろ支給額を増額することで対応します。もし、さらなるインフレを懸念される場合は、高額所得層の所得税の引き上げで対応すべきと思われますが、それはよほどのことであって、月額3万円程度の支給であれば、高インフレが生じる恐れは低いと思いますし、金融政策で対応できる範囲内と思います。

・インフレになると、坂道を転げるようにインフレが止まらなくなる。インフレを、止められるのか。


 おっしゃるように、インフレになる可能性はあると思います。しかし、十分にコントロール可能と考えられます。小額ベーシックインカム給付に必要な予算は、仮にすべてを国債の発行で賄ったとしても、年間45兆円程度です。現在のおカネの量であるマネーストックはおよそ1170兆円(2021年10月)ですから、45兆円はマネーストックの3.8%程度です。年間の供給率としてはそれほど高くありません。と申しますのも、コロナ以前の近年の通貨供給率は年間3~4%程度であり、仮に小額ベーシックインカムに関連した通貨供給と両方を合わせた場合でも、合計で年間7~8%程度の通貨供給率であり、これは失われた20年より以前の日本では普通の通貨供給率にすぎません。ですから、仮にインフレになったとしても、生活に多大な影響を及ぼすような高インフレ(例えば10%)になる恐れはないと思われます。

 いわゆる「坂道をころげるようなインフレ」は、民間の信用創造の暴走、すなわち「市中銀行による預金通貨の大量発行」によって引き起こされます。ですから、もしインフレ率が上昇した場合は、小額ベーシックインカムと同時に、金融の引き締めを実施し、民間の信用創造による通貨供給を抑えてしまえば、インフレはコントロールできます。現在は超過準備がかなり大きいと思いますので、金融引き締めの方法としては、預金準備率の引き上げを行います。

・ばらまきを増やすと、通貨の価値が棄損してインフレになるだけで、景気は良くならないのではないか(スタグフレーション)。


 おっしゃるように、そのようにご心配される方は多いと思います。しかし、おカネをばらまいただけでは通貨の価値は棄損しません。おカネが消費に向けられて、企業の売り上げがどんどん増えて、品物やサービスの供給が追い付かなくなったときに、需要と供給の関係から、インフレが生じ、その結果として、通貨の価値が棄損したように見えるわけです。ですから、景気が悪いまま、インフレだけが生じる、ということは、通常は考えられません。

 (為替市場における円安が引き起こすインフレについては、先に記載したとおり、通貨供給を他の先進国と同じレベルに引き上げるうえでは避けられないし、そうした調整から逃げることは、為替問題を先送りするだけ)。

・世界的なインフレが懸念されるこのタイミング(コロナ、ウクライナ)で行うべきなのか。


 コロナ問題やウクライナ侵略戦争のような事態が生じると、資源などの供給そのものが減ることになるため、景気が悪いままインフレになる(スタグフレーション)恐れはあります。しかし、これは小額ベーシックインカム政策が原因なのではなく、コロナ問題やウクライナ戦争が原因なのであって、それが小額ベーシックインカムを中止する理由にはなりません。仮にインフレになっても、インフレによる低所得層の生活支援の観点から、むしろ、なおのこと小額ベーシックインカムは推進すべきと考えられます。コロナ問題やウクライナ戦争の影響は避けられないため、インフレは不可避であり、インフレを抑制するよりも低所得層の生活支援を優先すべきであると考えます。

・(仮にポイント給付だとしても、所持金が)貯蓄に回されるので、費用対効果が低い。GO TO なんとかのような政策の方が費用対効果が高い。


 小額ベーシックインカムの財源の基本は、税収ではなく、通貨を発行して財政出動を行うため、そもそも貨幣的な意味での費用という考え方は必要ありません。費用ではなく通貨供給です。資源や供給力という意味から言っても、現在はデフレ、良く言ってもディスインフレなので、それらを著しく圧迫するという意味での費用(負荷)はあまり考える必要はないと思います。

・(改革大好きな維新の会に対して)


 そもそも通貨発行権を有する国家が、通貨を発行せず、わざわざ銀行に金利を支払って、銀行からおカネを借り、その金利の負担を国民に押し付ける行為が、公平であると言えるのでしょうか。その意味で、国債の発行には問題があると考えます。しかしその一方で、おカネは経済活動のために国家が発行しなければならないものです。現代の金融システムでは、国家が通貨を発行するためには、政府が国債を発行しなければならない仕組みになっています。これは問題ではないでしょうか。国家が国債を発行することなく、通貨を発行できる仕組みが必要です。では、発行した通貨をどうするのか?現在は、民間部門に借金させることで、世の中におカネを供給しています。なぜ国民に借金を負わせる必要があるのでしょうか?発行したおカネは、国民に平等に配ることこそ、公平ではないでしょうか。小額ベーシックインカムの本質はここにあります。ここは、改革政党である維新の会にしかできない、大きな改革になると思います。これこそ、真の構造改革です。