ベーシックインカムは再分配ではなく分配

2017.2.3/2018.4.22改訂

(ねこ)

ベーシックインカムに対する批判として、行き過ぎた再分配政策は社会の活力を損なうからダメだとか、税金を引き上げて働かない人に再分配するのはおかしいという意見があるにゃ。再分配を強化するのはいいことなのかにゃ。

(じいちゃん)

ほっほっほっ、ちと誤解があるようじゃが、ベーシックインカムは再分配政策ではない。基本は分配政策なんじゃよ。若干は再分配の意味もあるが、あくまでも基本は「分配政策」じゃ。

(ねこ)

でも、ベーシックインカムは税金を徴収して、そのおカネを全国民におカネを配るんじゃにゃいの?それだと再分配なんじゃないかにゃ。

(じいちゃん)

おカネの側面から考えるとそう思えるかも知れない。しかし経済はあくまで財(モノやサービス)を生産して分配する活動であることを忘れてはならないのじゃよ。そうした意味から技術的失業の問題を考えるとベーシックインカムは再分配ではなく、あくまで分配政策であることが理解できる。

(ねこ)

ふにゃ、どういうことかにゃ。

(じいちゃん)

テクノロジーが高度に進化すれば財の生産に人手が必要なくなる。すると大部分の人々は仕事がなくなり、いわば失業状態となる。そのため大部分の人々は賃金として所得を得ることができず、財を買うことができずに貧困化する。一方で企業は人手を必要とせず自動生産によって大量の財を生産できるが、大部分の人が失業しているため、企業の生産した財のほとんどが売れ残って在庫の山になる。そのため企業の売り上げがなくなり、倒産する。結果として経済活動が破綻して貧困社会になる。

こうした馬鹿げた事態を回避するためには、企業が自動生産した財を仕事のない人に分配すればよいだけじゃ。これがベーシックインカムの本質なのじゃよ。ベーシックインカムの本質はおカネを配ることではなく、テクノロジーが自動的に生み出す財を人々に分配することにあるんじゃ。

とはいえ、現代は市場経済だし貨幣経済でもあるのじゃから、そうした状況においては、財を直接分配するのではなく、おカネを分配するほうが賢い方法なのじゃよ。そうすれば市場経済も貨幣経済もきちんと機能して、企業が倒産することもない。だからベーシックインカムはあくまでも分配政策であって再分配政策ではないのじゃ。

(ねこ)

なるほど、ベーシックインカムの本質は再分配ではなく分配政策なんだにゃ。でも実際には税金を集めてそれを財源にするから再分配になるんじゃないのかにゃ。

(じいちゃん)

それは、おカネの性質上、必ずそうなるのじゃよ。というのも、おカネは循環するものだからじゃ。循環するとはすなわち「再使用」されることを意味する。そのため、どんな方法を用いても再分配にならざるを得ないという側面がある。たとえば「賃金」も、企業の売り上げを再分配したものと言える。こうしたおカネの性質を抜きにして再分配を語ることはできないじゃろう。

とはいえ、給料として分配されたおカネに課税されるのは誰しも嫌なものじゃ。多くの人は「自分の所有物として分配されたおカネを取られたくない」と思う。そうした心理は人間の性質上やむを得ないじゃろう。であるなら、個人に分配される前の段階で課税すればそうした問題は生じないと考えられる。具体的に言えば、企業から社員に分配される前の段階、例えば企業の粗利益の段階で課税する、などの方法を検討するのも一つの方法じゃと思う。

(ねこ)

う~ん、どういうことなのかにゃ。

(じいちゃん)

例えば財の分配を行なうためにおカネを発行し、ベーシックインカムとして人々に分配するとしよう。人々におカネを配れば購買力が十分に確保されるわけじゃから、商品は在庫になることなく順調に売れるじゃろう。すると企業の売り上げが増加し、企業の利益も増加する。つまり、ベーシックインカムのために発行したおカネが企業にどんどん集まってくるはずじゃ。

(ねこ)

にゃるほど、そこで企業に集まってきたおカネに課税すればいいんだにゃ。

(じいちゃん)

左様じゃ。企業にどんどん貯まってきたおカネに課税してそれをベーシックインカムとして再び消費者へ流す。そもそも技術的失業によって通貨循環が滞る原因は、失業が増加することで消費者へおカネが流れなくなってしまうことにある。とはいえ、企業は人手が要らなくなれば必ず解雇する。じゃから企業が人々に給料を払うかわりに、政府が企業から給料分のおカネを回収して消費者へ流す。そうすれば通貨の循環は維持される。

この方法の場合は企業への課税によってベーシックインカムの財源を確保するため、家計への課税によって財源を確保する必要はないのじゃ。じゃから再分配には該当しない。あくまでも分配に当たるのじゃ。

具体的には法人税と内部留保課税を組み合わせて財源にすればよいと思う。

(ねこ)

でも企業への課税を増やすと企業の投資意欲が減り、企業が海外へ逃げて、経済が低迷する心配はないのかにゃ。

(じいちゃん)

もちろん、いきなり法人に課税なんぞすれば企業にダメージを与えてしまうし、海外に逃げるかも知れん。じゃから「手順」がとても重要になるんじゃ。例えば、ベーシックインカムを始める当初は法人への課税強化は一切行なわず、新たに通貨を発行して財源にするんじゃ。おカネを発行してベーシックインカムを実施すると景気が回復して企業が儲かるようになるし、内部留保としておカネがどんどん蓄積されるようになると考えられる。

通貨を発行して人々に供給することで、まずは企業に利益を発生させることが重要じゃ。その上で少しずつ法人への課税を開始するんじゃ。そうすれば企業経営が苦しくなる心配はまったくない。逆に通貨を発行せずに法人への課税を先に行なえば景気も悪化するし企業の経営は苦しくなるじゃろう。同じ事をする場合でも手順によって良くも悪くもなるのじゃよ。

しかし、この方法はベーシックインカムによる通貨循環の最終形態あるいは理想形であって、最初からそれで100%うまくいくとは思えない。そのためベーシックインカムの財源について、当面は、様々な税を組み合わせることが現実的だと思う。

(ねこ)

法人への課税だけでベーシックインカムの財源が足りるのかにゃ。

(じいちゃん)

法人への課税だけで100%カバーすることは難しいかも知れん。というのも「おカネは必ず貯め込まれてしまう」という性質があるからじゃ。ベーシックインカムで家計へ給付したおカネの一部は貯蓄によって退蔵されてしまうじゃろう。またベーシックインカムによって企業の利益が増大すると、その利益の一部は配当金として株主に流れてゆく。個人株主は富裕層が多いはずじゃから、この配当金はそのまま貯蓄されてしまうじゃろう。家計だけではなく、企業も内部留保を増やそうとする。おまけに官僚は埋蔵金を貯め込む性質がある(笑)。こうしてあらゆる経済主体がおカネを貯め込むため、世の中のおカネが回らなくなる。

じゃから、いずれは貯蓄にも課税しなければならない時が来ると思われる。それが金融資産課税じゃ。金融資産とは現金預金、株式、証券債券などのことじゃ。

(ねこ)

貯蓄に課税されるのは嫌だにゃあ。

(じいちゃん)

多くの人はそう思うじゃろう。じゃが貯蓄に課税するといってもせいぜい1%や2%の話じゃろう。例えば税率1%としたとき、貯蓄が100万円しかない低所得者の税負担は1万円程度じゃから、消費税などに比べて遥かに負担額は低い。貯蓄に課税されると聞くと感情的な反発は強い。しかし冷静に考えれば消費税を増税する代わりに金融資産税を課す方が、庶民にとって負担は遥かに軽いのじゃよ。逆に貯蓄が10億円もあるような富裕層は1%の課税で負担は1000万円じゃから、ある意味では資産格差の是正にも役立つ税制だと言える。

実体経済の規模に比べて世の中の金融資産額が増え過ぎることはインフレリスクを抱えることになるので好ましいことではない。その意味からも金融資産に課税する必要があると思うが、これはベーシックインカムの主財源というより、貯蓄=通貨退蔵による影響を軽減するための補助的な財源と考えるべきじゃ。

(ねこ)

金融資産課税は所得税や消費税と何が違うのかにゃ。

(じいちゃん)

金融資産課税には面白い性質がある。一つは「税収が景気の変動にほとんど左右されない」点じゃ。所得税や消費税は景気が悪くなると減少する傾向がある。景気が悪くなると賃金が引き下げられたり、消費が低迷するためじゃ。ところが金融資産は不況になってもどんどん増え続ける。失われた20年の間に労働者の賃金が低下したにも関わらず、家計の貯蓄等である金融資産は逆に増加した。つまり金融資産に課税すれば、ほとんど景気に左右されない安定財源を確保できるんじゃ。

(ねこ)

日本の貯蓄率はどんどん低下しているから貯蓄が減っているのかと思ったにゃ。

(じいちゃん)

新聞マスコミは「貯蓄率」で騒ぐが、「総貯蓄額」についてはほとんどスルーしておる。じゃから多くの人は誤解しておるが、貯蓄の総額はどんどん増加し続けておる。だから将来に貯蓄がなくなるなどという心配はまったくない。

金融資産課税のもう一つの面白い点は「世の中におカネを供給すればするほど、金融資産課税による税収が増える」ということじゃ。しかも景気とは無関係にじゃ。失われた20年の間にどうして貯蓄が増加したのか?それは政府が財政政策のために国債を発行し、世の中のおカネの量(マネーストック)を増やしたからじゃ。当たり前の話じゃが、世の中のおカネを増やせば、世の中の金融資産の総額は増加する。

世の中の金融資産の総額が増加すれば、当然ながら金融資産課税による税収も増加する。つまり、もし税収が不足したなら、おカネを発行して世の中に流せばよいのじゃ。すると貯金の総額が増加するから自動的に金融資産税の税収は増える。つまり財源の心配は完全に解決できるんじゃよ。

(ねこ)

すごいにゃ、でも財源の心配がなくなっても、おカネが増えすぎるんじゃないかにゃ。

(じいちゃん)

重要なのは財の生産力(供給量)なんじゃ。設備投資によって世の中の生産力が増加すれば、それに見合うだけの通貨を増やしても問題は無い。ただし生産力の増加を何倍も超える速度でおカネを増やせばインフレがひどくなってしまう。そこのあたりをうまく調整すれば心配は無用じゃ。

話が長くなってしまったが、最初に戻るとしよう。ベーシックインカムは再分配ではなく分配政策じゃ。あくまでもテクノロジーの進化が生み出す財を分配する方法として存在する。しかしこの世の中が貨幣経済であるために、ベーシックインカムはおカネの分配によって実現される。

だから主たる財源は家計への課税ではなく、通貨発行と法人への課税で賄われるはずじゃ。しかし多くの人はベーシックインカムを再分配と勘違いしておるので、これはとても重要なことじゃ。もし「ベーシックインカムは再分配だ」と主張する人がいたなら、再分配ではなく、分配政策であることを是非ともご説明していただきたいと思うのじゃ。

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