銀行はこうやっておカネを貸す 信用創造

2015.7.1

(ねこ)

前回は現代の経済が借金に依存しているって話を聞いたにゃ。日本銀行が発行した現金がどうやって世の中に出回るのかといえば、日銀が民間銀行に現金を貸して、その現金を元にして民間銀行が企業や個人に預金を貸すことで成り立っているのにゃ。だから、おカネのシステムは借金によって成り立っているのにゃ。そこで、銀行がおカネを貸す仕組みをもっと考えてみたいにゃ。

(じいちゃん)

そうじゃな、それでは昔の銀行の話からしようかの。前にも話したが、銀行はもともと金庫業者で、金持ちから金貨を預かって金庫に保管し、その預り証を発行して金持ちに渡していた。この預り証を銀行に持っていけば、いつでも金貨と交換してもらえる。だから金貨をいちいち銀行から持ち出さなくても、預り証を金貨の代わりに取引に使うようになった。この預り証がいまの銀行券(紙幣)じゃ。やがて金貨の代わりに銀行券がおカネとして流通するようになったのじゃ。ところで「貸金業」、金貸しを商売にしている業者は銀行が生まれるよりも、はるか昔からあった。キリスト教に金貸しを禁じた話があるように、金貸しの起源は古い。しかし、これらの金貸しは、あくまでも自分たちが所有する「金貨」などを貸しておった。カネを貸して利息を得るわけじゃが、自分たちが所有する金貨の量を超えてカネを貸すことはできなかった。

銀行は金貨を金持ちから預かっているわけじゃが、金持ちの許可を得れば、これを貸し出すことで利息を得ることができる。そこで、金貨を貸し付けることで得られる利息の一部を金持ちに支払うことを約束して、金貸し業を始めたんじゃろう。これが「預金金利」の始まりじゃな。そして銀行は金貨でおカネを貸すのではなく、金貨の預り証として発行していた銀行券を用いて貸し出しをしたのじゃ。

ところで、銀行券で貸し出しを行えば、金持ちから預かっている以上のおカネを貸し出せることに銀行は気が付いた。金貨で貸し出しを行えば、当然じゃが保管している金貨以上のおカネを貸すことはできん。しかし、銀行券は基本的に紙で出来ているだけなので、刷ればいくらでもできる。金庫に保管している以上の金額の銀行券を発行してもバレる心配はない。なぜなら銀行が保管している金貨の量と、発行している銀行券の量を突き合わせてみる人は誰もいなかったし、金貨と銀行券を交換に来る人はほとんど居なかったから金貨が足りなくなることもなかったのじゃ。こうして銀行は預かっている金貨の何倍もの銀行券を発行して企業や個人に貸しつけ、莫大な富を築いた。

(ねこ)

へえ~、銀行は預かっている金貨を何倍にも膨らませて貸し付け、利息を儲けたんだにゃ。驚くにゃ。銀行って今でもそんなことしてるのかにゃ。

(じいちゃん)

もちろんじゃよ。そのような仕組みを「信用創造」と呼ぶのじゃ。前回も話した通り、いまの銀行は現金を貸しておるわけではない、預金を貸しておるのじゃ。これは昔の銀行が金貨ではなくて銀行券を貸していたのと同じことじゃ。そして昔の銀行が預かっている金貨の何倍もの銀行券を貸し出ししたのと同じように、いまの銀行も預かっている現金の何倍もの預金を貸し付けておるのじゃ。

そのため、もし預金者が大挙して銀行に押し掛けて、預金を現金に交換しようとすると、現金が足りなくなる。そもそも現金の何倍もの預金を貸しているのだから、足りなくなるのは当たり前じゃ。もともと「有りもしないカネ」を貸しておるのじゃからな。多くの人は、預金者の預金が引き出せないのは、そのおカネを誰かに貸しているからだと思い込んでおるがそうではない。おカネが何倍にも膨れておるからなんじゃ。

(ねこ)

すごいにゃ~、錬金術なのにゃ。具体的にはどうやって預金を作り出すのかにゃ。

(じいちゃん)

帳簿を操作することでおカネを作ることができる。詳しく説明すると難しいが、興味があればワシの著作(金融緩和の天国と地獄)を読んでもらえばわかる。預金というのはあくまでも貸し出しするために作られるおカネじゃ。じゃからそのおカネは企業や個人におカネを貸す時に発生する。極めて単純に言えば、銀行の帳簿に貸出金を発生させ、同時にこれと同じ金額の預金を帳簿に発生させて、借りたい企業や個人の預金口座に振り込めばOKじゃ。つまり帳簿に預金を発生させて作る。

(ねこ)

たったそれだけなのかにゃ。帳簿操作だけで預金というおカネができたのかにゃ。

(じいちゃん)

左様じゃ。昔の銀行が紙でポンとおカネを作ったのと同じじゃよ。今でも帳簿でポンとおカネができる。昔も今も銀行の基本的な仕組みがまったく同じなのじゃから、おなじように簡単におカネができる。このようにして無からおカネを発生させることを「信用創造」といい、信用創造で作られる預金のことを「信用通貨」と呼ぶのじゃ。

(ねこ)

でも、帳簿操作だけでおカネが出来るなら、無限におカネを発行して貸し付けができるにゃ。

(じいちゃん)

そのとおりじゃ、銀行は帳簿を使って無限におカネを作ることが出来る。じゃが、それをやり過ぎると預金者が預金と現金を交換しに銀行へ来るとすぐに現金が不足してしまう(取り付け騒ぎ)。おまけに世の中のおカネが増えすぎてハイパーインフレになってしまう。そこで、銀行には貸し出しに関するの様々な規制が設けられておるのじゃ。最も一般的な規制は「準備預金制度」と呼ばれるもので、簡単に言えば、銀行が預かっている現金の総額に対して発生させることのできる預金の量を制限している。つまり「現金を何倍まで膨らませて貸し付けても良いのか」を規制しておるのじゃよ。

こうして民間銀行が無から作り出した預金が、企業や個人の預金通帳に振り込まれ、その預金が社員の給料となり、仕入れ元への支払代金となり、世の中をどんどん回ってゆくのじゃ。これが現代のおカネのシステムじゃ。従って、世の中のおカネのほとんどは民間銀行が作り出した「借金」でできておる。その証拠に、日本の金融資産を集計してみると、資産(広義のおカネ)と負債(広義の借金)の金額は同額じゃ。これは日本銀行の資料に書いてある。

(ねこ)

へぇ~、それじゃあ、借金をする人がいなくなったらどうなるの?

(じいちゃん)

借金をする人が誰も居なくなったら、基本的におカネはまったく流通しなくなるのじゃ。なぜなら世の中に出回っているおカネはすべて銀行が誰かに貸し付けることで初めて流通するからじゃ。必ず誰かが借金しなければ通貨制度が成り立たず経済は崩壊する。残念ながらそういう仕組みになっておる。じゃから世の中からすべての借金を無くすることは不可能であり、借金が減るほど経済は麻痺する。逆に、経済が活性化するほど借金が増えるシステムになっておる。

(ねこ)

ウソみたいな話だにゃ、ほんとかにゃ。

(じいちゃん)

本当じゃ。例えば最近日銀が行っている金融緩和政策は何をしておるのか。日銀が銀行から国債を買い取って銀行へ大量の現金を供給しておる。それを元に銀行が企業や個人への貸し付けを増やすというのが金融緩和政策じゃ。新聞などにこう書いてある「おカネを借りる人が増えて景気が回復する」と。つまり借金が増えることで経済が回復するのじゃ。借金する人が増えると世の中におカネが流れ出すから、そのおカネが景気を刺激するのじゃ。逆に借金をする人がいないと不況になる。日本のバブル崩壊後は借金する人が大幅に減ってしまったから世の中のおカネが減り、デフレ不況になった。だから政府が国債を発行して、つまり借金して世の中におカネを流し、景気を下支えしなければならなくなったのじゃ。つまり、現代社会は「借金依存経済」なのじゃ。

(ねこ)

すごいにゃ。財務省が「国の借金を返せ」とか叫んでるけど、政府の借金をみんな返済したら世の中のおカネが減って、不況になって日本の経済が崩壊するにゃ。

(じいちゃん)

その通りじゃ。もちろん、政府が借金を返済する代わりに、企業や個人が借金を増やせばプラスマイナスゼロで世の中のおカネは減らないから景気は維持できる。つまり、政府債務の問題は「誰が借金を背負うか」の問題なんじゃ。現代の経済は常に誰かが借金を背負わなければ成り立たない。では、誰が借金を背負うのか?政府が借金を背負わないなら、企業か家計のどちらかが借金を背負わねばならない。そういう話をもっと詳しく知りたければワシの本(金融緩和の天国と地獄)に書いてあるが、内容はけっこう難しいかも知れんな。

ところが、そういう根本的な問題にマスコミは絶対に踏み込まない。スルーしておる。そして盲目的に「国の借金ガー」「増税やむなし」ばかり言っておる。だからワシは一切マスコミを信用しないのじゃ。