現金と預金の違い 預金は民間の発行するカネ

2015.6.30

(じいちゃん)

現金と預金の違いを考えてみよう。預金と現金の違いは何だと思う?

(ねこ)

現金はみんなが財布に持っているおカネにゃ。そのおカネを銀行に預金すると預金になるのにゃ。だから預金は銀行に預けた現金のことにゃ。だから預金も現金も同じことにゃ。だから、ローンじゃなくて一括で支払うときは「現金の振り込みで払う」というのにゃ。

(じいちゃん)

そうじゃろうな。普通の人はみんなそう思っておる。しかし現金と預金は根本的に別のものじゃ。ただし銀行では現金も預金も同じように扱うから、実質的に同じように感じておるだけじゃ。預金は現金そのものではなくて、銀行が現金を元にして作り出したおカネなんじゃよ。と言っても、何のことかわからんじゃろうから、順に説明しよう。

さて、現金(日本銀行券)は日本銀行が発行しておる。世の中に供給される現金の量は経済成長に伴って次第に増えていくものじゃ。日本銀行が現金を発行することで世の中のおカネの量が増えていく。ところで新たに日銀が発行した現金は、どうやって世の中に出回るのかな?

(ねこ)

にゃー、そんなこと考えたこともなかったにゃ。う~ん、それは日銀が刷った現金を民間銀行に渡すからじゃないのかな。民間銀行が受け取った現金を世の中の人に渡すのにゃ。そうすれば世の中のおカネの量も増えるんじゃないかな。

(じいちゃん)

それでは、日本銀行は発行した現金を「タダ」で民間銀行に渡すのかな?

(ねこ)

へんだにゃ、タダで銀行に渡したら、銀行が丸儲けなのにゃ。おまけにそれを世の中の人に渡したら、世の中が丸儲けなのにゃ。そんなわけない、それじゃあ、どうやって世の中の現金が増えるのかにゃ。

(じいちゃん)

日銀が銀行に現金を渡す場合は、基本的に銀行への「貸し付け」として渡される。または「国債等の買い取り」によって渡されることもある。しかし基本的には日銀が銀行へ現金を貸し付けることで銀行に現金が渡るのじゃよ。それでは、銀行から世の中の人におカネが出回るにはどうするのかな?

(ねこ)

同じように考えれば、民間銀行が企業や個人に貸し付けることでおカネが出回るのにゃ。最初からいうと、日銀が発行した現金を民間銀行に貸し付けて、民間銀行がその現金を企業や個人に貸す。それで世の中に現金が出回るのにゃ。

(じいちゃん)

正解!と言いたいところじゃが、ちょっと違う。銀行は現金を貸すのではないのじゃ。現金を元にして「預金」を作り出し、その預金を企業や個人に貸し付けるのじゃ。

(ねこ)

にゃー、わけわかんないにゃー。現金と預金はもともと同じものじゃないのかにゃ。

(じいちゃん)

まあまあ落ち着け。昔の銀行のことを思い出してみるのじゃ。昔の銀行は金貨を元にして金貨の預り証として銀行券を発行しておった。そして銀行券は金貨と交換ができた。さて現代の民間銀行にこれを当て嵌めて考えてみるのじゃ。民間銀行は現金を元にして現金の預り証として預金を預金通帳に発生させる。そして預金は現金と交換ができるのじゃ。ほれ、そっくりそのまま当てはまる。つまり現代の民間銀行のやっていることも、昔の銀行のやっていたことも同じなのじゃ。現代では民間銀行が現金を元にして預金を発生させておる。だから、預金とは民間銀行が作るおカネなんじゃ。そして預金通帳を銀行へ持って行くと、いつでも現金と交換(通帳の数字と交換)してくれるのじゃ。現金を元にして作り出した預金を銀行が企業や個人に貸しておるのじゃ。

(ねこ)

本当かにゃ。預金は民間銀行が作ったおカネなのかにゃ。う~ん、でも民間銀行は紙幣は刷らないにゃ。

(じいちゃん)

おカネは必ずしも紙幣の形を取るとは限らない。帳簿に数字があるだけでも十分なんじゃ。みんなの持っている預金通帳には数字しかない。じゃが立派におカネとして通用するじゃろ。通帳にある数字を使って振り込みで支払いができる。それは銀行がその数字をおカネとして扱ってくれるからじゃ。とはいえ本物のおカネ(現金)ではない。じゃから世間では預金を「信用通貨」と呼ぶのじゃ。そんなわけで、預金は帳簿の数字としてのみ存在する信用通貨じゃ。

(ねこ)

でも、数字だけのおカネだと、おカネを手渡しで誰かに渡したいときには困るにゃ。

(じいちゃん)

そこで現金が登場するわけじゃよ。預金のままだと手渡しできないから、現金自動支払機で「預金と現金を交換」するのじゃ。一般には現金自動支払機で預金を「引き出す」というが、「引き出す」は表現として間違いじゃ。預金は現金の預り証みたいなものじゃから、いつでも現金と交換できる約束になっている。預金と現金は同じように扱われているが、そもそもまったく別のものじゃから、現金自動支払機で行っていることは、正確には「預金と現金の交換」なのじゃよ。間違えてはいかん。

こうして、一般の人が預金を現金に交換することで、はじめて日本銀行が発行した現金が世の中に出回るのじゃよ。

(ねこ)

ふにゃ~、複雑怪奇なのにゃ。本当にそんな面倒なことになってるのかにゃ。

(じいちゃん)

銀行の帳簿(バランスシート)を考えればすぐわかるが、これはかなり難しいので興味があればワシの著書(金融緩和の天国と地獄)を読んでくれ。ねこは現金と預金の違いがわかったかな。

(ねこ)

うにゃ。現金は日本銀行が発行するのにゃ。その現金を日本銀行が民間銀行に貸し付けるのにゃ。民間銀行は現金を元にして預金を発行してそれを企業や個人に貸すのにゃ。だから預金は民間銀行が作り出したおカネなのにゃ。企業や個人が現金自動支払機で預金を現金と交換することで、世の中に現金が出回るのにゃ。なんだか、貸し付けが行われないと、世の中におカネが出回らないみたいだにゃ。

(じいちゃん)

その通り。現代の銀行制度は「借金」によって成り立っておるのじゃ。今までの話が理解出来れば、世の中のおカネがすべて「貸し付け」によって出回っていることがわかるはずじゃ。借金依存経済。それが資本主義経済の実体なんじゃ。ま、その話は別の機会にしようかの。