政府通貨と国債の日銀引き受けは同じ

2015.8.1

(ねこ)

政府通貨はとても有効だと思うけど、反対も多いし実現がむずかしいんじゃないかにゃ。

(じいちゃん)

まあ政府通貨といっても今までと同じお札(日銀券)をそのまま使うやり方もあるんじゃが、ちとややこしい。拙著(金融緩和の天国と地獄)に書いておるから興味があれば読んでみて欲しい。さて今日はその方法ではなく、政府通貨を発行しなくても日本銀行が国債を直接引き受ければ同じ効果があるという話をしよう。

(ねこ)

へええ、日銀が国債を直接引き受けると政府通貨の発行と同じ効果があるのかにゃ。だったら国民に馴染みの薄い政府通貨ではなくて日銀引き受けという手段もありだにゃ。それってどういう方法かにゃ。

(じいちゃん)

前にも話したが、日本銀行が現金つまり日本銀行券を発行する方法としては、主に国債の購入と民間銀行への貸し付けがある。これは日銀のバランスシートを確認すると誰でもわかる。2014年9月のデータで言えば、国債が約230兆円、銀行への貸し付けが30兆円ある。一方で現金としては銀行券が約86兆円、当座預金が166兆円じゃ。日銀は主に国債を買うことで現金を発行し、それを民間銀行に供給しておるのじゃ。ちなみに現在日銀が金融緩和政策として行っているのは、民間銀行の保有する国債を買い取って、その代金として現金を発行して民間銀行に支払っておるのじゃよ。

(ねこ)

にゃんだ、日銀は民間銀行から国債を買い取って、その代金として現金を発行しているのにゃ。だったらそんな面倒なことをしないで、最初から政府が発行した国債を日銀が買って現金を発行すればいいにゃ。

(じいちゃん)

ワシもそう思う。しかし実際には政府が発行した国債を日銀が直接買い取ることは、基本的に行われていない。あくまでも民間銀行などが政府から買い取った国債を日銀があとから買い取る。しかしどちらの方法でも日銀の帳簿上は違いがない。では日銀が民間銀行から国債を買い取る場合と政府から直接買い取る場合で何が違うのか。

まず、民間銀行が保有する国債を日銀が買い取った場合、その時に発行した現金は銀行に渡る。そのあと「銀行が誰かに貸し付け」することで初めて世の中(民間非金融部門)におカネ(預金)流れ出す。つまりこの場合は世の中におカネが流れ出す時は必ず世の中の借金が増えることになる。

一方で政府が発行した国債を日銀が直接買い入れた場合は「そのまま」世の中に流れ出す。なぜなら日銀が発行したおカネはそのまま政府に流れ、政府の財政支出として公共投資や社会福祉などに使われて世の中に流れ出すからじゃ。つまりこの場合は世の中におカネが流れ出しても世の中の借金は増えないんじゃ。

(ねこ)

なるほど、民間銀行が保有する国債を日銀が買い取る方法、つまり現在行われている金融緩和政策の場合は、世の中のおカネが増える時には必ず世の中(民間非金融部門)の借金も増える。もし政府が発行した国債を日銀が直接買い取ったら、世の中のおカネが増えても、世の中の借金は増えないんだにゃ。

(じいちゃん)

ついでに言えば、もし日銀が国債を直接買い入れたとしたら、その時に発行した現金はそのまま財政支出として使われるが、その後、そのおカネは企業や家計にどんどん流れて生産活動を次々に刺激して、最終的には誰かの貯蓄として退蔵されることになる。つまり「銀行に預金される」。そしてこの貯蓄が新たな銀行の貸し付け原資となるのじゃ。つまり日銀が国債を直接に引き受けた場合も、日銀が民間銀行の国債を買い取った場合も、最終的に同じ状態になる。つまり難しい言葉で言えば、ベースマネタリーベースが増えるのじゃ。このマネタリーベースを元に銀行が預金を発生して誰かに貸し付ければ、おカネが世の中に流れ出す。

(ねこ)

にゃんだ、だったら銀行の保有する国債なんか買わないで初めから政府から直接買えば、財政支出にも使えるし、そのあと民間銀行の貸し出しにも使えるにゃ。一石二鳥なのにゃ。

(じいちゃん)

まったくワシもそう思う。しかも日銀引き受けで生まれた現金は政府の借金も増やさない。国債は政府の債務ではあるが日銀が保有しているため、事実上、政府の借金にはならない。だから日銀が保有する国債で裏付けられたおカネを国民や企業が貯め込んだとしても、財政が破綻する心配はまったくない。将来世代の負担にならない。じゃからこのおカネは「政府通貨と同じ」役割を果たすのじゃ。

(ねこ)

でも政府の発行した国債を日銀が直接引き受けるとおカネが増えすぎてハイパーインフレになると盛んに主張する人たちがいるのにゃ。

(じいちゃん)

心配ない。みんな貯蓄が大好きなので、おカネが手に入っても貯め込んで使わないからじゃ。そもそもみんながおカネをもっと使っていたら、とっくの昔にデフレは解消しておる。それに日銀が発行しなくても民間銀行がバンバン預金というおカネを作っておるわい。じゃからアベノミクスで日本の株価がどんどん上昇しておるのじゃよ。

国債を日銀が直接引き受ける際に発行した現金も、民間銀行が貸し付けの際に借金として作り出した預金も、同じおカネの機能をもっておる。どのみち貯め込むのであれば同じことじゃよ。ただし民間銀行が借金として作り出したおカネは、誰かが貯め込めば貯め込むほど、世の中の借金がバブルのように膨らむ。だから金利が上昇するとおカネを借りている人が破綻する。一方で日銀が国債を直接引き受けして作り出したおカネは、どれほど貯め込んでも世の中の借金は増えない。誰も困らない。

もしハイパーインフレの可能性があるとすれば、銀行が信用創造で預金を勝手にどんどん発生させてバブルが拡大しすぎた場合じゃ。そのような問題に対しては、銀行の信用創造を制限するために預金準備率を引き上げすれば簡単に対処できる。それでも心配なら預金課税を創設して、しこたま貯め込んでいる金持ちの預金を吸い上げれば良いのじゃ。簡単じゃ。

おカネは単なるルールじゃから、景気活性化の方法も財政再建の方法も手法は考えればいくらでもある。もちろん方法によってメリットやデメリットはある。しかし多くの方法を知れば知るほど選択肢は広がるはずじゃ。しかし多くの人がそれを知らない。なぜなら増税に都合の悪い情報を財務省が潰し、マスコミが必死に隠しておるからだと思う。もしそうでなければ、景気活性化や税制再建の方法論について、マスコミはもっと多くの可能性を報道しておるはずじゃ。

決してマスコミを信用してはいかん。自分の頭で考えなければ騙されるだけじゃ