マイナス金利・信用通貨制度の終焉

2016.2.1

<信用通貨の終焉と政府通貨の始まり>

(ねこ)

「マイナス金利は考えるほど不自然だにゃ。預けたおカネの金利がマイナスというのはあり得ないにゃ。ゼロならまだわかるにゃ。」

(じいちゃん)

「そうじゃな、明らかに不自然じゃ。しかし、なぜ日銀がマイナス金利という不自然な考えを導入してまで「金利」にこだわるのか?それは、現代の通貨制度が「金利」によってコントロールされる仕組みになっておるからじゃ。それが信用通貨制度、つまり部分準備制度なんじゃ。前回(マイナス金利って何だ)説明したように、世の中のおカネはすべて銀行からの貸し付けとして供給される。じゃから貸し付け金利を下げれば貸し出しが増えて、世の中のおカネが増えるという寸法なんじゃ。逆に世の中のおカネが余ってインフレになると金利を引き上げて、貸し出しを抑制することで世の中のおカネの量を減らすんじゃ。こうして金利で通貨の量を調整するシステムになっておるから、あくまで金利にこだわるのじゃ。」

(ねこ)

「ふ~ん、金利で通貨の供給量を調整システムだから、不況が酷くてついにマイナス金利にまでなってしまったんだにゃ。でも、そろそろ限界なのにゃ。ところで金利じゃなくて「量的緩和」というのもあるにゃ。日銀が銀行の持っている国債を買い取っているのにゃ。あれは別なのかにゃ?」

(じいちゃん)

「別のようだが、考え方は同じじゃ。量的緩和とは、日銀が銀行の保有する国債を買い取って、その代金としておカネを銀行に支払えば、銀行の手元現金が増えて「貸し出しが増える」という考えじゃ。つまり貸し出しを増やすという意味では同じじゃよ。しかも量的緩和の目的は「インフレによって実質金利が下がる」という予測を市場に与えることにある(インフレ予測)。やはり金利なんじゃよ。現在のように負債(借金)によっておカネを生み出す方法だと、金利の考え方から逃れることは不可能じゃ。」

(ねこ)

「負債から生まれるおカネには、どんな問題があるの?」

(じいちゃん)

「現代の世界同時不況のように、金利を下げても貸し出しが増えず、世の中のおカネが増えず、デフレ不況から逃れられない事態に陥る危険性がある。これは以前から知られていて「流動性の罠」と呼ばれておる。仮に流動性の罠の状態にあっても、量的緩和やマイナス金利でその状態を脱することができるというのが、現在の主流派経済学の説じゃ。じゃが、それが正しいという保証はない。

しかも、金利を下げると資産バブルを引き起こす可能性が高い。金利を下げると銀行が信用創造によって貸し出しをどんどん増加させる。この時に生まれるおカネはすべて「負債」じゃ。バブルが膨らみ続けている間は良いが、バブルが成長しなくなると、その負債を返済する必要が生じてくる、しかも「金利」を銀行に返済しなければならない。このとき、もし金利を引き上げるとどうなるか?金利が払えず、バブルが崩壊する。その時に騒いでも、すでに手遅れじゃ。

バブルが崩壊して投資した連中が損するだけなら問題は無い。ところが実際には世の中のあちこちに借金が山のように残されてしまうので、おカネが回らなくなる。しかも借金は返済しないと消えないので、企業も個人も借金の返済に走ることになる。いわゆるバランスシート不況じゃ。おカネは借金によって生み出されるので、借金が返済されると消えてしまう。こうして世の中のおカネはどんどん減ってしまう(これを信用収縮という)。

このような現象は、おカネが「負債」として作られていることが原因として引き起こされるんじゃ。このため、借金を減らすと世の中のおカネが減るし、景気を良くするためには借金を増やすしかない。借金を増やさないと景気が良くならないのじゃ。」

(ねこ)

「借金を増やさないと景気が良くならないなんて、気持ちが悪いシステムなのにゃ。それじゃあ、どうすればいいのかにゃ?」

(じいちゃん)

「おカネを「負債」ではなく「資産」として供給すれば良いだけなんじゃ。それは「政府通貨」の考え方になる。政府通貨といっても、紙幣も硬貨も今までとまったく同じじゃ。ただし世の中におカネを供給するルートが変化する。今までは「銀行の貸し付け」によって供給されてきた。政府通貨の場合は「財政支出」として供給されるのじゃ。」

(ねこ)

「財政支出はいまでもやってるにゃ。別に新しいことでもなんでもないにゃ。」

(じいちゃん)

「そうじゃな、じゃが今までの財政支出は「国債」を発行して財源を調達することが多かった。国債とは借金じゃ。つまり財政支出を行うと政府の借金が増える。一方、政府通貨の場合は国債は発行せず、政府通貨を「資産」として発行することでおカネを作り、それによって財政支出を行うのじゃ。そうするとおカネを増やしても借金は増えない。

また、「金利を下げても世の中のおカネが増えない」(流動性の罠)という問題も解決できる。政府通貨を発行して財政支出をすれば、世の中に直接そのおカネが流れ込んで、消費や投資に使われる。だから無理矢理に金利を下げて銀行からの貸し付けを増やさなくても、世の中のおカネは増えるんじゃ。」

(ねこ)

「でも、マスコミは「おカネを増やすとハイパーインフレがー」と騒ぐにゃ。」

(じいちゃん)

「その心配はまったく無い。政府通貨制度の導入と同時に銀行の信用創造が停止されるからじゃ。信用創造とは「負債によって通貨を生み出す行為」じゃから停止するのは当然じゃ。具体的には準備預金制度における「法定準備率を100%」にする。もし停止しなければ、バブル(過剰な信用膨張)が発生して本当にハイパーインフレになるかも知れんぞ。信用創造を停止すれば政府の供給量以上に通貨が勝手に膨張することはないから、インフレになったとしてもコントロールはより容易になる。そうすると「政策金利」は意味を成さなくなる。

ちなみに信用膨張が無いので預金者の預金は100%保護されるようになり、取り付け騒ぎは生じない。すべてのおカネを引き出したいなら引き出しても良いが、まあ、そんなことをするやつはおらんじゃろ。

ちなみに、政府通貨を発行し続ければ世の中のおカネの量がどんどん増え続けるのは確かじゃ。世の中のおカネの量が増えるとどうなるか?誰かの貯蓄が増えることになるんじゃ。必ずそうなる。じゃから、もし世の中のおカネをあまり増やしたくないのであれば、金融資産課税を新たに定めて、膨大なおカネを貯め込んでおる企業や個人が居れば、彼らから徴税する。そうすれば通貨発行量をその分だけ減らすことができる。

こうして通貨を発行して世の中のおカネを増やし、税金として回収することでおカネを減らすことが出来る。金利に頼らなくてもおカネの量を調節できるんじゃ。もちろん、やたらに財政支出を増やせば良いわけではない。景気が良くなっても財政支出を増やし続ければインフレが激しくなるじゃろ。適切な範囲で財政支出を行なう必要がある。」

(ねこ)

「にゃー、負債の通貨より、資産の通貨の方がよさそうだにゃ。資産の通貨だと、その他にどんな良いことがあるのかにゃ。」

(じいちゃん)

「資産の通貨、つまり政府通貨の利点について詳しく書くと長くなるから要点だけ説明しよう。まず信用膨張が無いので、バブルとバブル崩壊は無くなる。バブル崩壊の後遺症であるデフレ不況が解消する。財政支出を強化できるので雇用を生み出し失業が減り、所得格差も少なくなる。政府通貨を発行すれば国債を発行する必要が無くなるので財政赤字の問題が解決する。通貨を発行するとそれだけ税収が増えるので、年金財源の心配も少なくなる。大きなところではそんな感じじゃろうか。

最も大きいのはバブル防止と財政健全化じゃろう。未来永劫に政府債務の問題は発生しない。財源の問題も発生せず、あるのはインフレの問題だけ、つまり財の「供給量と需要量」の問題だけとなる。政府通貨の利点については詳しく説明しないと理解が少し難しいかも知れないが、長くなるので、また別の機会に説明しようかのう。

ちなみに、この政府通貨の考え方は1929年の世界大恐慌後に、バブルと恐慌の再発を防ぐための方法論としてアメリカで提唱された「シカゴプラン」として知られておる。有名な経済学者アービング・フィッシャーをはじめ、当時の多くの経済学者の賛同を得た方法だったのじゃ。決して奇抜なアイディアではない。

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