日本語資料室

瀋陽日本語資料室の開設のいきさつ

NPO日中ボランテア活動センター

瀋陽代表理事 石井 康男

1998年秋、瀋陽郊外:道義開発区にある私学・抜萃中学に赴任をして初めて中国の教育事情に触れ、日本語教育の資料と日本に関する資料がほとんどなく、どこの学校の先生も苦労をされていることを知った。

過去に大学へ「中国へ書籍を贈る会」から贈呈された書籍も一部は梱包されたままで積み上げられており、また、その一部は大学周辺の路上で売られているという状況であった。仮に学校が管理をしている場合でも学生には公開せず、日本語学習者にとってはほとんど役に立たないというのが実情であった。

どこの学校に寄贈しても同様であることが分かり、この状況を踏まえて学習者が自由に利用できるミニミニ図書館を設立したいと考え、大阪のNPO「関西寮寧協会」「市岡国際教育協会」の支援と協力を得て、瀋陽日本語資料室の設立を企画した。

一年の準備期間を経て200年6月10日に開所式を催し、正式に発足した。

ただ、中国の公安当局・教育委員会・文化局(図書館管理)からの公認は得られず、黙認という形で運営を開始することになった。原則としては日本人教師の日本語教材に関する資料室であること。利用の対象は日本語を学習している中国人を含めても良い。ただし利用に関して金銭の授受は一切しないこと。

そして管理運営は教師会が協力をするということと、不特定の中国人が利用できることは制限する。利用者の管理(利用証の発行)と来室者の記録をすること等の指導を受けた。

このような経過を経て瀋陽日本語資料室の活動は現在に至っている。

(2003年10月25日)

資料1. 設立趣意書

特定非営利活動法人の名称

特定非営利活動法人 日中ポランティア活助センター

         設立代表者の氏名   河原寛治

1985年から特定非営利活動法人関西遼寧協会(法人化は1999年6月)は、中国・遼寧省政府を始め多くの開係機開と友好交流の実績をもっている。

また、特定非営利活動法人市岡国際教育協会(1999年5月法人化)は、1996年から在日外国人に対する日本語日常会話教室活勤の経験をしている。

この二つの経験の上に立って、1997年9月、大阪府教育委員会の承認を得て、現職高校教師が遼寧大学外語系日本語科の講師として派遣された。1999年4月には、この法人の設立者の1人である石井康男がその後任となった。

ここに至って、中国・遼寧省瀋陽市の大学・中学(日本の中学・高校にあたる)の日本語教育の実態について次のことが判明した。

1. 瀋陽市内の大学・中学には、日本の諸団体から25人の日本人教師が派遺されている。この教師たちによって、「日本人教師の会」が結成され、「帰国者センター」での帰国予定者の日本語敦育に協力しながら、年一回の「日本語弁論大会」を「日本人会」の支授の下に過去3回成功させている。これについては、日本領事館も高く秤価しているところであるが、会の事務所であり、月1回の集会場所であった「帰国者センター」がこの4月には廃止となリ、長春に移転した。9月の新学期には、メンバーが大幅に交代しその存続について検討が迫られている。また、「帰国者センター」の日本語教室は、廃止のままになっている。

2. 大学日本語科の学生の殆どが、中学では外国語として日本語を選択している。従って、2年か3年で検定の一級試験に合格する。教科書は日本の古い時代のものが使われ、新しい教材の提供が望まれる。また、語学教育における視聴覚教育についての視点がなく、そのハード、ソフト両面の整備が遅れている。コピーなどの事務機器につても同様である。

3. 大学に日本語の書籍を寄付したことがあるが、その書籍が図書館に見当たらないため、調べたところ、未整理のまま倉庫に積まれ、整理される見込みもない状況である。図書館員に日本語のわかる人が配置されていないのが原因のようである。学校に寄贈した場合、これが仮に整理されたとしても学校内の限られた人にしか利用されない。書籍の収集にかけた多大の労力と輸送費を無駄にせず有効に利用される方策が必要である。

これらの課題に対処するために、まず第一に解決しなければならないのは、場所の問題である。幸いにも、特定非営利活動法人関西遼寧脇会の協力を得て、事務所を借りる目途がついた。その事務所を集会場所にも、ミニ図書館にも、簡単な会話教室、教材センター、事務機器を備えた事務所、すなわち「瀋陽日本語センター」にすることができる。

次に第二の課題は、人の結集である。これは石井康男の努力により、瀋陽における敏師の動向について掌握することができる状態になっている。

第三として最大の問題は、日本からどれだけ支援できるかに係っている。書籍、教材送り出しから事務機器の整備費用や事務所運営等に要する資金の調達である。そのためには、多くの人の支援を仰がなければならない。

それにはまず、活動の母体として、社会貢献活動をする法人、明瞭な公開原則を持つ特定非営利活動法人となることが必要である。まして外国での行勤を伴う場合は、その国で社会的信用を獲得するための必須条件である。

ボランティア活動を都市という面で捉え、そこで力を合わせながら、より効果的な社会貢献を目指す。より多くの支援が得られるならば、瀋陽だけでなく、大連、長春、ハルピンにも、また中国・東北部だけでなく、人材があれば他の地区にも広げたい。更に教育面だけでなく、リタイアした工場技術者等が、活躍できる場所も作りたい。

中国の都市で既に活躍している多くのボランティアを支援する活動があれば、新しい多様なボランティアが参加しやすい環境となるであろう。そのことが日中の相互理解を深める国際協力の活動であると信じる。

(1999 年 7月 22日)


資料2. 活動の目標と今後の課題

1. まずは中国・瀋陽で、ミニ日本語〔教材〕図書館を

中国・東北部の中心都市である瀋陽には、日本人の日本語教師の「教師の会」(会員25名)があり、そのメンバーが、毎年催される日本語弁論大会で中心的な役割を果たしたり、帰国者センターにおける「孤児」の日本語会話の指導などのボランティア活動をしていた。その帰国者センターがメンバーの活動・交流の拠点となっていた。ところが、その帰国者センターが孤児の減少に伴い、本年(1999年4月)北の長春に移転したために、その活動の拠点を失う事となった。

また、日本語教師(国内で教師経験のない人もいる)は、自分の経験と自己努力で、教材を集めざるを得なかった。また日本国内の学校では簡単に入手できるものが、中国ではないたために悩んでいた。

こうしたボランティア活動の拠点と教材センターの必要性から、「ミニ日本語図書館」設置構想が生まれた。

1985年から遼寧省と経済文化交流をしてきた関西遼寧協会( NPO法人)の会員から瀋陽 の事務所を無償で提供するという申し出を受け、構想の具体化が始まった。

教材については、大阪市内の高校で日本語日常会話教室を開設している市岡国際教育協会( NPO法人)のメンバーの教師から積極的に集めるという協力の申し出があった。こうして、「まず瀋陽でミニ日本語〔数材〕図書館を」をつくる機運が盛り上がることとなった。 ここで、この構想を実現させるために、両NPO法人の関係者が集まり、特定非営利活動法人日中ボランティア活動センター(以下単に「センター」という)を設立した。(1999年11月2日登記完了)

メンバー以外からの協力者もあり、すでに3000冊(その約3割が教材)余の書箱の寄贈を受け、瀋陽の事務所に集まっている。この書籍の整理・管理および図書館として運営にあたる「教師の会」の中心的なメンバーには、本センターの会員(役員)として、主体的な役割を果たしてくれる事を期待している。

2. 門戸を広く

この図書館は、当初から日本人の日本語教師に限ることは想定せず、中国人日本語教師、日本語を学ぶ学生・生徒およぴ日本人駐在員(日本人会会員)は当然として、日本語のわかる人・この図書館を必要とする人なら誰でも利用出来るものにするのが理想であるが、ただ、中国の国情に反しないように注意して運営し、日本文化の押し売りにならない様にする必要がある。したがって、当面は、教師の教材センターを他の人が利用するという姿勢でいきたい。

3. ミニに徹して、まず東北部の都市に

瀋陽をモデルにして、ミニに徹して、経費をかけず、出来るだけ東北部の都市につくっていく方針である。図書館は、利用者の利便性を最優先すぺきであって、シンボル的な大きなものは目指さない。それよりも、小さなものを多くつくる。センターは、出来るだけ沢山の図書を集め、ミニ図書館に送る事に徹する。施設は、進出企業などの事務所の一角を無償で提供して貰うだけでなく、図書以外の部分(建物、盗難予防など)の管理もお願いし、現地の利用者が組繊を作り、図書の管理を中心に運営する。

本センターの定款は、代表理事制をとった。これは、各都市の責任者が代表理事となり、その都市の実情にあった運営を自主的に出来るようにするためである。

また、東北部にこだわるのは、歴史的に日本と関わりが深いということもあるが、広い中国の全土を視野に入れることは不可能であり、とにかく地域を限定したほうが効率的でもあるからである。

現在、大連で図書館の設置の希望と事務所の提供の申し出がある。瀋陽の次に手がける予定で、図書の収集もこれを念頭においている。また、長春、ハルピンでもつくれる萌芽があるため、これにも視野に入れながら準備を進めたい。

4. 課題…ボランティア活動の拠点に

NPOは、情報の公開が生命である。本センターは、中国におけるボランティア活動をインターネット上のホームページに登載することによって、活動報告をする事にしている。会員や協力者だけでなく、多くの人がセンターのホームページにアクセスすることにより、ボランティア活動を希望する人が増加する事が考えられる。現在、口コミで我々の活動を知った数人の教師がボランティア活動の希望をよせている。教師以外の分野の各種専門家もあり、図書館はこうした人達の言葉の障害を越える拠点になる。

したがって、こうした日本からのボランティアを受け入れるためには、1ヶ月程度、活動の拠点が決まるまで、滞在する事が出来る施設が必要となる。

せめて、中国における活動の中心となる瀋陽には、小さな図書館で、その上の階に3人ぐらいが宿泊できる施設あるいは建物が欲しいものである(外国人が中国で住むには障害が多い、単独ではアパートを借りる事は出来ない)。これからの重要課題である。

 

日中ボランティア活動センターは、ボランティア活動を都市という面で捉え、図書館活動によって、それを支援し、更に活動を創造する拠点とするとともに、新たな参加者の港の役割を担いたい。個々のポランティア活動は、本質的に単発的で短期なものになる事が多いため、図書館(日本語)を媒介とした組繊的活動として、面的でしかも長期的な活動に転化し、真に日中交流を図っていきたい。