ミッドナイトホラースクール 小学二年生ふろく7月号

『小学二年生』2005年7月号付録の「スーパー別冊おはなしシアター『アンデルセン7つのストーリー』」に収録されている読み物。

MHSのコーナーは表紙・情報欄含め全21ページ。まんま「ミッドナイトホラースクール」というタイトルで、副題はなし。扉ページに「わすれ去られた物たちの小学校」というキャッチが入っている。クレジットは「作/イワタナオミ」のみ。

この、挿絵がすっごく魅力的なんですよ。いわば『のってけエクスプレッツ』のタッチで描かれたMHSキャラというわけで、ヒッキーかわいいし、リディーちゃん七不思議的美しさだし、ドッキーは鋭い三白眼で、もうこれだけで惚れ直してしまうわ……

☆あらすじ

古くなったサッカーボールをなくしたと嘘をつき、まんまと新しいボールを買ってもらえることになったユウキ。隠した古いボールのことなどすっかり忘れて眠っていたその夜、部屋にふしぎな扉が現れ、ユウキはボールと共に吸い込まれてしまう。

扉の先の不気味な教室で、血を流すオルガンやガイコツの標本、絵から出てきたゾンビに襲われるユウキ。サッカーボール君の協力でなんとか逃げ切ったものの、ユウキの前に現れたヒッキーが、ボール君はミッドナイトホラースクールに入学することになったのだと告げる。サッカーボールはユウキに忘れられそうになったためにこの学校に招かれたのだ。ユウキはこれまで一緒に練習してきた日々を思い出し、ボールとの別れを泣いて拒む。サッカーボールはユウキと共に元の世界に戻ることになった。

つまり、MHSでやってることを人間側から見たらこうなるのか〜〜〜!っていうお話です。というか、そもそもMHSは「学校の怪談」を人間ではなく仕掛けるオバケの視点から見たら……という逆転の発想で始まっているわけで、それをさらに裏返したらシンプルな学校の怪談に戻ってきた、と言えるかもしれない。ですので内容にしろ挿絵にしろホラー要素強めの印象です。

主人公はサッカー少年のユウキくん。新しいボール欲しさに、まだ使えるはずのボールをなくしてしまったことにして、泣き落とし作戦を決行。思惑通り新品を買ってもらえることになり、ユウキは押し入れの奥にしまいこんだボールのことなどすっかり忘れてその夜は眠ってしまう。

ふと目が覚めると、部屋の中にふしぎな扉が立っている。挿絵ではスカルドアっぽいデザインです。「さよなら…ユウキ君…」とドアの向こうに行ってしまったサッカーボールを追って、ユウキも扉に吸い込まれていく。

扉の向こうはおなじみ「ロウソクのあかりでてらされた、気味の悪い教室」で、次々とオバケがユウキに襲いかかってくる。というのがまあ、分かる人にはこいつリディーだなとかドッキーじゃねえかとか分かるわけなんですが、これってつまりMHSの生徒にしてみれば真夜中の学校で昼間の小学生相手に実地演習って感じよね。

最初にユウキが出会うのは、廊下で勝手に演奏している古びたオルガン。

「待てえ〜!! わたしのえんそうを聞いてえ〜!!」

オルガンは、血をふき出しながらユウキを追いかけてくる。

鍵盤から血を流して、というのが一番最初のシャー芯おまけマスコット時代のビジュアルそのまんまで、ホラーワールドの原点回帰である。あ、今回は血じゃなくてケチャップなんですけど。でもオルガンに追いかけられたら普通に怖いよ。

教室に逃げ込むと、今度は見覚えのある帽子をかぶった骨格標本が。「ケタケタケタ…遊ぼうぜえ〜!!」ってセリフ、めっちゃ古典的な学校の怪談っぽくないですか。ドッキー、お前ちゃんとオバケやってるんだな……って謎の感動でちょっと胸が苦しくなる。

で次がゾンビなんですが、

「おまえは…人間だな〜…」

いきなり、かべの絵からゾンビが飛び出し、おそいかかってきた。

ゾンビはゾンビでも壁に描かれた絵のゾンビ。明言されていないので分かりませんが、挿絵の感じではおそらくゾンビは実体化しているっぽいので、これはアニメ最終回後の話だったりするんじゃないか……?

で、なんでユウキを襲ったかっていうと別にただ怖がらせたかったわけじゃなくて、ピンチに追い込むことでサッカーボールとの友情を思い出させたかったわけなんですよ。そのためにあえて悪役を演じていたヒッキーたち、と思うともうね!

どこかへ行っていたサッカーボール君がユウキの前に戻ってきて、一緒に練習してきたことを思い出せと語りかける。勇気を取り戻したユウキがボールを蹴ると、見事ゾンビに命中。そのままユウキは元の世界に帰ろうとするが、ボールは学校にとどまったままついてこない。そこへ現れる「ちびたエンピツのおばけ」ヒッキー。

「ボール君は、この学校に入学することになったんだ…わすれられた物たちの学校、ミッドナイトホラースクールにね…」

仲間が増えるっていうのにこのしんみりした口調ですよ、切ねえなあ〜〜〜。結局、MHSに入学することって物としての死なんですよね。ちびっこゴーストってそういう意味じゃん。フシギになろうとしたらその時点で、物としては忘れ去られたことを受け入れるっていうことじゃないですか。だから物である彼らが物である仲間の幸せを願うなら、ボロッカがアンブレラちゃんを諦めたように、それは自分たちの仲間でない方がいいわけですよ。なんという屈折した存在なんだ。

「ちびたエンピツのぼくなんか、君もわすれちゃうけど、ゾンビの絵に追いかけられたら、君もわすれられないでしょ?」

「人間は、使わなくなった物を、すぐに忘れてしまいやがる! だから、おれたちゃ、人間をこわがらせて、わすれられなくしてるのさ…」

ガイコツ標本のドッキーが、ちょっと、ふきげんそうに言った。

こうしてみると、ただ夜中にそこにいるだけで人をビビらせられるって生まれながらにしてフシギ作りにものすごいアドバンテージなんじゃないかと思うわ、骨格標本。ドッキーのイヤミっぽい口調がめっちゃ良い……。

ただ、何のために人間の記憶に残るようなフシギを目指すかって、自分自身の存在をアピールするだけじゃないんですね。忘れられそうになりかかっている物がまだ物としての生き方を全うできるように、その物に代わって忘れるなと人間に語りかけることもあるんだなあ。

さて、いざ別れるとなると「まだ、サッカーがヘタだったころから、いっしょに練習してきた友達がいなくなってしまう…」と思い出して「悲しくなったユウキは、とうとう、なき出してしまった」。ユウキはサッカーボールのことを忘れてはいなかった。ボール君はMHSに来るにはまだ早かったのだ。

ユウキと一緒に学校から去っていくサッカーボール。ヒッキーたちは体を張って自分たちの仲間が増えることを阻止したわけです。サッカーボールを深夜の小学校に招待するとなったとき、最初からユウキも巻き込んで連れてくるつもりだったのかは読む限りでは分かりませんが、どうなんでしょうねえ。というところで、ユウキたちを見送るヒッキーの最後の一言がやばい。

「ちぇ、ちょっと、うらやましいな…」

小さくなるとびらの向こうで、ヒッキーがつぶやくのが聞こえた。

や、やっぱりそれが本音なんだな〜〜〜やっぱりモノとして人間に使われる方がいいんだなあお前らにとってはなあ〜〜〜!! ヒッキーたちにもMHSに来る前にはユウキ君みたいな人間の友達がいたわけ?そいつのこと今でも覚えてるの?どう思ってるの?やっぱり人間の友達が欲しいと思いながら、夜中にこっそり息を潜めてフシギの勉強してるの!?とか考えるとめちゃくちゃゾワゾワしませんか。あーもうミッドナイトホラースクール2期・昼間の人間編はいつ始まるんだ!!

ヒッキーたち、別に人間を恨んでいるわけではないのですよね。MHSの生徒になって、フシギで人間をおどかして、俺たちをまた使え!とか復讐してやる!とは考えてない。フシギになることそれ自体に魅力を見いだして、楽しんでいる。でもやっぱり、物として忘れられずにいられるならそれに越したことはないというのか……叶わぬ望みと割り切ってはいても、望む気持ちがないわけじゃないという、そこに存在する諦めをはっきり意識させられたらあまりにもつらいではないか……。

翌朝、ユウキは新品を買いに行くのをやめ、古いサッカーボールを抱えて元気に出かけていったのだった。めでたしめでたし……でこのお話は終わりなんですが、ちょっと考えると、この一晩の経験も「大人になればなぜか忘れてく、見えてたものが見えなくなる」のかなあと思えてしまうのですよね……。だって、学校の七不思議は夜中の小学校でエンピツやオルガンが勉強して作っているんだって、みんなに知られてしまったらそれはフシギじゃなくなってしまうわけでしょう。

もうほんと、基本ポップで明るくてノーテンキなキャラクターだからこそ、こうやってチラッと闇が見えたときにかえってグッと来るわけですよ。人間に忘れられないためにフシギになろうとしているのに、フシギとして人間の記憶に残る存在になるためには、自分自身の存在はずっと忘れられたままでなければならないのだ……。

というわけでお話は終わり。最後の1ページは作品紹介とDVD・VHSの宣伝で、「ヒッキーたちが大活躍する楽しくきれいなCGアニメ」という文章が全くもってその通りなのでございます。しかしやはり一番つらいのは、これが10年以上前の雑誌の付録でしか読めないというハードルの高さ……ミルキーカートゥーンさんいつかなんとかお願いします……。