#13 恋するジーニー

ジーニーは何かに熱中すると極端に周りが見えなくなりがちで、他人の気持ちに対する想像力を欠いてしまうところがあるんでしょうね。今回も「恋」とはいうものの、リディーへの一途な思いというよりも、集中力のスイッチが「モテ」に向かったらこうなっちゃった……という香りがする。


第13話「恋するジーニー」

(脚本:須田泰成、絵コンテ:頼兼和男)


「さーて今年度もミッドナイトホラースクール3クラスによる不思議クイズ大会が始まりましたー!」

毎週何かとイベントの多い学校である。司会進行は例によってノイジー。クイズ大会は勉強の一環という位置づけなのか、珍しく先生も行事に顔を出しています。腕を組んでいるサラマン先生、手を揃えてお上品なペギナンド先生は今回初登場、それに両手をワキワキさせているティゲール先生。鉄棒(というか、骨棒?)みたいな足場(?)も用意されている。

イエローリザードクラスの代表回答者は我らがヒッキーです。

「やーどーもどーもみんな!」

聴衆への反応もこなれまくっている。サラマン先生は「絶対に優勝すること!」とけっこう見栄っ張りなところがありますね。

ブルースパイダー代表はウソップ!……って、ウソップ?? シルクハットが似合うから選ばれたとか?? 応援するクラスメートの中でなぜかジュノが後ろに吹っ飛ばされてノックダウンしてるんですけど、一体何があったんだ。

「ホーッホッホッホ! ヒッキーとウソップじゃうちのクラスの学級委員ジーニーの敵ではありませんわ」

ペギナンド先生、登場一発で人物像が分かりやすすぎます。ちょっと待って、じゃあイエローやブルーの学級委員長は誰なんだよ(……と思っていたら、2020年6月4日のミルキーカートゥーン公式ツイッターの投稿により、HAGがそれぞれ学級委員長という設定があったらしいことが判明した)。

「ム゛ム゛ー。確かに、ジーニーは我が校一の秀才」

「それというのも、我が校で一番優秀な教師はあたくしなんですから!」

両脇を押しのけて威張ってみたり、先生たちもまるで大人気ない。

というわけでピンクトードの代表は……なんとまさかのヤムヤム登場で、このときだけ観衆の反応が「ワー!」じゃなくて「おー…」と下がり調子なのだw ヤムヤムは「ジーニーがいないから俺様が代わりになってやったのさ」とふてぶてしい。こそこそ話をするウソップとヤムヤムを見て、「あの2人なんかヤな感じ」と鋭く察するリディー。


さて、モニター像シルエットクイズです。このシルエットの不思議は何でしょう? 真っ先にボタンを押したヒッキーに、ウソップの邪魔が入る。帽子を持ち上げたとき手がビヨッと伸びていて、そのへんのCGはけっこう自由なんだなあ。

「何するんだよウソップ!」

「すまん、ちょっと緊張してるんだ」

ウソップ君、大変良い笑顔でございますが大ウソです。時間稼ぎをしている間にハエ軍団に偽パネルとすり替えられ、ヒッキーは律儀に誤答してしまう。答えはUFOじゃなくて、ネッシーでした。正解を奪われムッとするヒッキー。ピンクトードのクラスメートはみんな喜んでますが、誰か不審に思うやつはいねえのか。

チュービーがいないのはカンニングのためなのだ。屋根の上から双眼鏡で答えを覗き、絵の具で文字を作ってヤムヤムに知らせるという連携プレー。文字を浮かばせるのってなかなかの不思議じゃないかと思うんですが、ゆきおとこ……5文字はチュービーには荷が重すぎたらしい。屋根から落ちて企みがバレてしまう。

「ピンクトードクラスの名誉にかけてジーニーを呼んできなさい!!」


というわけでヤムヤムは図書館の本の山の中へジーニーを探しにやってきました。ハエ軍団もひとりでにスコップを形作って一緒に本をかき分けてくれる。ジーニーはブツブツ言いながら先週のカンフーの本を読んでいました。

「不思議クイズ大会に出てくれよ。ジーニー!」

「クイズ大会!? そんな暇があったら本を読んでいたいです」

クイズに興味ないのめちゃくちゃ意外なんだが、こういう明らかに自分が目立てるようなイベントは好きそうなんだけどなあ、ジーニー。まあ鉛筆レースのときもあんなだったので、単に読書に熱中すると周りが見えなくなるのかもしれない。

「リディーちゃんも見てるんだぜ!」

「え!? あの学校の七不思議的な美しさのリディーさんが……?」

「全問正解すればリディーちゃんはジーニーにメロメロだぜ!」

ヤムヤムが考え出した釣り文句がこれっていうのも涙ぐましいし、それに引っかかるジーニーも、つまりヤムヤムと同レベルである。しかしこの時点で単純に頭が良い=好かれるという発想になっているあたり、やはり恋というのは本質ではなくて、私スゴイ!への証拠としての愛というか、自分の賢さを認められたいという気持ちが先行している気がします、ジーニー。


「先ほどのピンクトードクラスのインチキにより、ポイントはイエローリザードクラスに入ることになりました!」

このときのヒッキーの絶妙な笑い方ですよ!!

というわけでジーニー、頑張っちゃいます。シルエットクイズは後半になるにつれて問題が難しくなっているようですが、

「ピラミッドの中のピラミッド、エジプト・クフ王のピラミッドです!」

「失われた謎のムー大陸です!」

「ドラキュラ伯爵の……キバ!!」

即答に次ぐ即答で鮮やかな逆転勝利。クラスメートからもコールが起こる。

イエローリザードではスピモン一人が悔しそうに地団駄を踏んでいます。あ、せっかく出てきたのに何の発言も許されずに終わったフォントンは、ね……。


すっかり浮き足立ったジーニーは、のんきなインキーに声をかけられても心ここにあらずな模様で、

「ねえ、遊ぼーよー」

「すみません。大事な用がありまして……エヘ……エヘヘ……」

とスキップで行ってしまった。ここで仲良く出てきたインキーとフォントン、AW並みに二人一組っぽさ強いビジュアルだな。

「へんなの……」

『?』


リディーは骨山の裏でオルガンを演奏している。なんというかこの子、男子の自尊心を満たしてあげるのがうまいんだよなあ。ジーニーのわざとらしい咳払いに気付いて駆け寄ってきたかと思うと、サッとこんな嫌味のない褒め言葉が出てくるところが強い。

「クイズ大会はすごかったわね!」

「他に何か言いたいことがあるんじゃないですか?」

当然キョトンとするリディーに、ジーニーは自信たっぷりにたたみかける。

「とぼけたって駄目ですよ。私のことが好きなんでしょ?」

「何それ? どーいう意味?」

「えっ、私は不思議クイズ大会全問正解だったんですよ……」

「だからってどうして私がジーニーを好きになるの!?」

「わ、私はピラミッドの名前を全部知ってるし……中国の不思議だって丸暗記してるし……」

「やーん! ジーニーって気持ち悪ーい!!」

リディー、良いことにしろ悪いことにしろ、言葉を包むオブラートというものをまるで持っていない。今のジーニー、マジで気持ち悪いもんな……その自覚が本人にはないせいで、ますます気持ち悪いことを言っちゃう気持ち悪さが、見てていたたまれないわ……。

早速「ジーニーがリディーちゃんにフられたズラ!」と煽りに来る極悪トリオ。「クイズができたくらいで女の子にモテるかよ!」が正論すぎて、さらにいたたまれない。


とはいえここでヤムヤム相手に怒ったりせず、なんとかリディーを振り向かせようと努力できるのがジーニーの良いところ。で、努力の方向を間違ったまま自信満々で突き進んでしまうのが、ジーニーの困ったところ。

校庭から黄色い声がすると思ったら、どこから出したやらステージの上でヒッキーが踊っている。ムーンウォークしたり、頭でくるくるブレイクダンスしたり、もてはやされるヒッキーを見て何かをひらめいてしまうジーニー。

『ダンスdeオンナにモテル本』

……時代錯誤なディスコスタイルが逆に似合ってしまうんだよなあ。後ろ向きで近付いてからのターン、短い足でよく頑張った。

「ね、フィーバーしない? フィーバーフィーバー!」

とリディーに迫ると、返事も待たずに勝手にフィーバーし始める。これはオンプーも呆然ですわ。勝手にリディーをくるくる回しておいて「リディーちゃん喜んでますね!」と完全にカンチガイしたまま、腕をクネクネさせてステップを踏み、戻ってきたリディーを抱き留めると

「これが僕らの……アヴァンチュー!」

と放り投げてしまった。落ちてきたリディーをキャッチして、今がチャンスとばかりに決め台詞……

「リディーちゃん、僕のこと好き?」

「ふふふふ。……そんなわけないでしょっ!!」

「わ、わ、私のどこが悪かったんですか……」


で、次の本のチョイスがそっちに行ってしまうのが謎なんですが、

『美女と巨大モンスター』

キングコングと化したジーニー、リディーをさらって校舎の上まで走る。

「リディーを返せー!」

「うわ~ん、またジーニー!?」

もうなんか恐怖とか疲れとか嫌悪感とかいろいろ入り交じった悲鳴が痛々しいです。

「ここまで来たら誰も邪魔できない……愛しのリディーちゃん、俺様のことが好きだろう?」

個人的に、ここまで同じセリフ3回、それぞれ私→僕→俺様と本によって微妙に口調が変わっているのがポイント高い。リディーももはや笑顔を見せる余裕がありません。またしてもビンタの犠牲になる眼鏡。

「そんなわけないでしょ!!」

「私のどこが悪かったんですか……」


いろいろダメすぎてどこが悪かったとか一言で言えないんですが、そんなジーニーにもアドバイスをくれるふくろうじいさん。って突然当たり前のように会話してますが、初見だと謎の存在すぎるよね、この鳥。

「ありのままの不思議が一番なんじゃよ。もっと自分の本に自信を持つのじゃ」

人真似ではない自分らしいフシギ、というのはMHSがすごく大切にしていることですよね。それは分かるんだけど、今回ジーニーが失敗したのはそもそも自分を偽ったからではなく、ありのままの自分を無理やり受け入れてもらおうと詰め寄ったせいなので、ちょっと落とし所がズレちゃってませんかね。ありのままの自分であってもなくても、相手の気持ちを無視して押しつける恋はそりゃうまくいかないよね。だいたいジーニーほど自分の本に自信持ってる子もそういないと思うぞ!!

「大変だモン! リディーがユルマキ草に巻き付かれたモン!」

と、突然のピンチ。どういう状況で捕まったのか、身動きのとれないリディーを囲んでみんな途方に暮れている。

すぐさまジーニーも駆けつけるが、AWMも「ジーニーだ!」「どうするんだろう」「心配だマグ~」と信用がなく、リディーに至っては「やだあ、またジーニー!?」と露骨な拒否反応。でもここでジーニーが伺わせる態度は、自分には助けられる知識があるから助けるのだという純粋な自信であって、リディーに好かれるためにそうするという打算ではないのだよね。

一旦みんなを下がらせたのは単にカッコつけるためだけだと私は思う。でも、頭の本のページをめくる俊敏な音は、これまでのやらかしを全部帳消しにするほどカッコいい。

(ユルマキ草を眠らせる呪文は、確か……これだ!)

「ユルマキ・キマルユ・キマルユ・ユルマキ・緩く~巻けっ!」

ジーニーの呪文を受けて、眠るというか枯れたようにしぼんでいくユルマキ草。リディーも無事に解放された。さっきの今で素直に謝る言葉が出てくるリディーは、キツい言葉もストレートだが、優しい言葉もストレートです。

「ありがとう、さっきはごめんね」

「いえ、こんな呪文、基本中の基本ですから……」

「やっぱりジーニーは物知りなところがかっこいいのよ!」

いやー今回は本当にリディーがすごいなあって思いました。思っていることと言うことに全く段差が存在しないんだなあ。裏表がないし引きずらないし、キツいことも言うけど、それを補って余りあるほど褒め上手の人たらしだよこの子!


後日、階段から突然現れて小走りでリディーに駆け寄るジーニー。あえてちょっと気持ち悪い動きなのはフェイントかましてますよね。

「よろしければ今度、ピラミッドの不思議を一緒に見に行きませんか? 詳し~くガイドしちゃいますよ」

ピラミッドってエジプトまで行っちゃうんだろうか。リディーちゃん、今度は笑顔のまま、快くOK。輝くジーニーの笑顔。


……いやまあ、「ありのままの不思議が一番」っていうのは、やはりこの話の教訓としてはジーニーのアプローチと同じくらいズレてると思うんですけど、嫌いなときは嫌いとはっきり言ってくれるリディーが相手だったおかげでさっさと大事なことに気付けたという面もあるんじゃないかと思うので、今回はリディー様々です。

ジーニーは秀才気取りで自意識過剰なところはあっても、それはただ単に自分に自信がありまくるだけで、そのために人を馬鹿にしたり見下すようなことは全然言わないんですよね。だからこれだけやらかしても「いいやつ」なんだよなあ……。


ふしぎコレクション「自由に入れ替える本」

今夜のふしぎはジーニーじゃ!

「自分に合った本を頭に入れんからこんなことになるのじゃ。己を知らぬ者、七不思議に近付けず!」

いや『ダンスdeオンナにモテル本』、モテるかどうかはともかく、似合うことにはめちゃくちゃジーニーに似合ってるでしょ!!


アイキャッチ:G

ジーニーの眼鏡はいつも良いタイミングでずり落ちるので目が離せません。


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