#18 セント・エルモの火

前半で好きな回はと聞かれたらこのエピソードを挙げたい。ロッソと炎さんの交流による泣かせの話でありながら、目立たないパーティーというインパクト絶大なシュール要素もあり、でも締めはやっぱりいい話という。ジュノロッソの回は本当にいい話ばかりだ……今回以降もうロッソにはほとんど出番がなくなっちゃうんですが……。


第18話「セント・エルモの火」

(脚本:小川勝慶、絵コンテ:破李拳竜)


霧の濃い校庭に激しく鳴り響く雷。DVDのあらすじにも「めずらしく雨と霧につつまれたミッドナイトホラースクール」とありますが、天気のせいか滅多にないピンクトードメインのせいか、なんとなくいつもとは違うという感じがあって、もう雰囲気作りの時点で大勝利ですよ。なお今回、18話目にして初めてヒッキーが全く登場しない。

「深い霧に雷とはうちの学校らしくていいな!」と身震いして喜ぶヤムヤム。ビンセントやクイッキーまで雷にビビってますが、「そんな根性じゃ世界の不思議にはなれないぜ!」はヤムヤムの方が正論のような気もする。そういえばこのときエントンと?以外はクラス全員そろってるのね。

突然ロッソの頭の上に青い火の玉が現れた。怖がって教室の隅で泣き出すロッソ、あざとい。

「おいロッソ、お前消火栓だろお!? 水出して火の玉なんか消しちまえばいいじゃねえか! それとも、俺様が泣かしてやろうか?」

なんて酷い二択だと思いましたが、泣かされれば水が出るっていうことですね。クラスの中では子分抜きで堂々いじめっ子するヤムヤムが拝めるわけですが、孤高の親分たるヤムヤムはなんとなくカリスマ2割増しくらいに見える。

ただ、驚いたのはロッソだけではなかったらしい。火の玉も教室から飛び出して逃げて行ってしまった。ジーニーも覚えていなかったその正体は「セント・エルモの火」……深い霧の夜、木の枝や船のマストのような尖ったものの先に現れる熱くない不思議な炎。

「卒業生のエルモスが作った世界の不思議の一つよ。あの子、霧に紛れてここに来ていたのね」

母性あふれるペギナンド先生、「あの子」という呼び方がいかにもかわいがっていた卒業生に対する口ぶりという感じで素敵です。

コリアラの木の枝にろうそくのように無数の炎が灯り、校庭は神秘的な美しさに。だが、霧と共に炎は消えていってしまう……ヤムヤムは「捕まえてリディーちゃんにプレゼントしようと思ったのに!」と相変わらずなことを言ってますが。


ロッソは何の用がなくてもパパの隣が定位置なのね。階段下に逃げ込んでいた火の玉を見つけたロッソだが、正体が分かれば怖くないのか、今度は積極的に接触しようとする。炎さん(声はゾビーだ)は大人びているようで幼くて不思議なキャラクターに見えますが……

「怖いよ……だって君は水を出す消火栓じゃない……」

「そうか、君は炎だもんね。分かった、これ以上近づかないよ……」

不安げに揺れる動きと声だけで、顔も手足もないただの火の玉にここまで表情を付けられるのがすごい。

「大丈夫だよ、お水は出さないから……」

「木。木の枝に止まりたい。ここは落ち着かないんだ」

ロッソが外に出て枝を拾ったところで、ばったり出てきた極悪トリオ。セントエルモの火と聞いて思わず大きく反応しちゃったり、ロッソ、隠し事できないタイプね。チュービーが脅している隙に隠し持っていた枝を奪って「やったーいただきだぜ」って言うウソップがかわいすぎる。

泣き叫んで走り去るのはロッソの専売特許です。「あいつセントエルモの火を隠してるぜ」と勘の冴えまくるヤムヤムが、やはり今回謎の強キャラ感に満ちているぞ。


せめて消えるまで落ち着く場所にいたいという炎さんに、霧が晴れれば消えていく炎のはかなさを知るロッソ。「この学校で一番あやしい場所を知ってる?」って語感が面白い。

扉をバーンと開けながらバーン!!って自分で言っちゃうヤムヤムですよ! 炎さんを奪われるまいとロッソは必死で息を潜める。「消火栓のパパのところにもいねえみてえだズラ」と、パパ扱いはいじめっ子公認なのね。

「誰だい!? あの怖そうなのは……」

「ヤムヤムっていういじめっ子だよ」

今回、一貫して落ち着いた雰囲気のまま妙な語感がポンポン飛び出すので本当に面白い。ヤムヤムに捕まることを恐れる炎さんに、ためらいなく言い切るロッソ。

「心配しないで、炎さん。ぼくが守ってあげるから。ぼくが!」

ロッソからこんなに力強いセリフが出てくるとは……『泣き虫ロッソ』のときといい、上から叱咤激励されるよりも下に守るべき人がいる方が強くなれる子なのだなあと思う。


炎さんはお墓を気に入ったようで、火の玉は枝の上で一気に増殖。うっとりしていたら地面からゾビーが湧いてきました。ゾビーの一言でロッソ、ちょっといいことを思いつく。そう、目立たないパーティー!! そのネーミングといい人選といい、一度聞いたら忘れられない存在、目立たないパーティー!! しかもこの目立たないメンバー、出番の多寡といったメタ要素は一切関係なく、真に内面的な地味さによって選出されているのが偉い。

とまあ、じめじめしたメンツがじめじめした場所で開くじめじめしたパーティーなのですが、広いテーブルにお菓子がたくさん並んで、お墓はすっかりにぎやかに。チョコがけのドーナツは骨を丸めた形で、コップにはポッキーみたいなお菓子(スティックが骨)がたくさん、カラフルな包み紙のいっぱい入ったバスケットもあり、紙コップ(骨柄)にはピンク色のジュース。このささやかな豪華さが実にリアルで、小さいころ友達の家にみんなで集まってパーティーを開いたあの感じそのままで本当に楽しそうなんだ……。

「アタイが目立たないパーティーの参加者ってのはどういうことよ」

「あ、あの、やっぱりジュノを呼ばないと後で怖いかなと思って……」

「た、たまには暗くて目立たない仲間に入るのも面白いゾビ」

いちいち真剣にうなずくピラニンwww

「アタイの存在は学校の華なのよ! もう帰らせてもらうわ!」

花と華をかけるなんて誰がうまいこと言えと…………炎さんが燭台の枝に火を灯して、ジュノさんもお城の晩餐会みたいと気を取り直してくれました。

ゲームをしようと場を取り持つゾビー(ウインク)。ゾビーはゲテモノ趣味がアレなだけで、性格的には割と朗らかでとっつきやすい子だよなあ。

「ゲームって何をするのよ」

「し、しりとりなんか、どうかな?」

「「いいねえ~!」」

で、個人的にMHS屈指の名シーンに挙げたいくらい好きな、目立たないしりとりです。

R「じゃあ、おはか」

P「か……か……かんおけ」

B「け、け……けんか!」

I「か? か……か……」

(悩むインキーをにらむ一同)

I「……ああ、かさぶた!」

「「おおー」」

このシーン、めちゃくちゃ雰囲気良いんですよ。しっとりした優しいBGMで、全くギャグっぽくなくて、で、やることがこれっていう!!

「暗い……この連中やっぱり……」と顔を引きつらせるジュノさんの後ろで「たこつぼ→ぼうれい→いかいよう?→うそなき→…」と続くしりとり。そういえばエントンはこんなところで初のセリフであった。

そりゃー暗くて怪しいけどにぎやかで楽しいパーティーなんて私も初めてですよ。とにかく炎さんが喜んでくれて何よりである。しりとりも盛り上がってるしね。

E「くさりバナナ」

Z「な? な……」

Y「なんだと!?」

ここでヤムヤムのセリフにつながるの、天才すぎて5ドッキー分くらい脱帽します。

「やいやいやい貴様ら、俺様に内緒でこんなパーティーしやがって!」

だってヤムヤムは全然目立たなくないじゃないですか!! 気まずそうな顔をしているピラニンとボロッカに、こちらまで気まずい気がしてくる。ヤムヤムとロッソ、ここはもしかしてあえてちょっと体格差を強調している?

「なあロッソ、炎を少し俺様に分けてくれねえかなあ?」

「リディーちゃんに気に入られようと親分は必死ズラ」

「文句ねえよなロッソ?」

言い返せないロッソに代わってジュノが反論するが、極悪トリオは構わず虫取り網を持ち出して火の玉狩りを始めた。捕まえた炎はカゴに入れた途端に消えてしまう。炎さんとのやり取りを思い出し、勇気を奮い立たせるロッソ……

「やめろ!!」

今回に限ってまた、極悪トリオの煽りレベルが信じられないほど高い。

「おンや? 今何か聞こえたかお前ら」

「あ、ロッソが泣き出すズラ!」

「お~やっぱりいつものロッソだ。いいぞいいぞ泣け泣け!」

だけど今日のロッソはぐっと涙をこらえるのだ、もっと炎さんと一緒にいたいから、炎さんのために。

「炎さんたちはいつ消えてもおかしくないんだ。でもぼくは少しでも炎さんと一緒にいたいんだ! 邪魔しないでよヤムヤム……」

セントエルモの火がロッソに集まっていく。まるで炎さんが乗り移ったかのように青く光り出すロッソ……

「「せっかくのパーティーを邪魔したな。許さない!」」

ロッソが発した光弾のようなものは一体何なんだろう。水じゃない……? 水蒸気が上がっているように見えるので、水と炎のエネルギーが合わさったものだろうか。結局どういうパワーなのかは説明されないままなのですが、そのなんだかよく分からないところがまたフシギっぽくてぞくぞくする。お墓の外まで吹き飛ばされた極悪トリオはそのまま逃げ出してしまった。

炎さんがロッソの体から抜け出すと、ロッソには一連の記憶がない。「かっこよかったゾビ」とロッソの周りに集まってくる仲間たち。しかし、炎さんは役目を果たしたかのように消えていく。

「消えていくだけの僕らが、こんなに楽しい時間を持てたのは君のおかげだよ。君のことは忘れないよ。さようならロッソ……ありがとう……」

最後の最後まで涙をこらえようとするロッソの強さに見てるこっちの方が泣きそうになってしまうわ……。


霧深い校庭にはもう炎さんはいない。ひとり窓の外を眺めるロッソのシルエット。ガラスに映った炎はペギナンド先生のカンテラだった。

「なかなかいい経験をしたようねロッソ。卒業生のエルモスは臆病で弱虫な生徒だったのよ」

「エルモスさんが? ぼくみたいに弱虫だったの?」

「セントエルモの火はエルモスの心そのものなのよ。きっとエルモスはあの炎たちを通じてロッソを励ましていたのね」

炎さんはエルモスとは別個体の同一人格という感じでしょうか。だから炎さんはエルモスゆずりの怖がりでもあり、フシギの先輩としてロッソを後押ししてもくれたわけなのですね。

「炎さん、ぼく泣かないから、きっとまた会えるよね……」

ロッソの頭を優しくぽんぽんと叩く先生。一つだけ残った炎が、最後までロッソを見守るかのようにコリアラの木に……


「大人」の立場で子供番組を見るようになって、子供は子供の世界で勝手に成長して、大人はただ見守っているだけ、という話にいたく感動するようになってしまったんですが、今回は見守る側のエルモスが同時に炎さんという守られる側でもあったというトリッキーな関係。それもまた、フシギらしくていいじゃないですか。


ふしぎコレクション「1番あやしい場所」

今夜のふしぎは墓場じゃ!

Z「ゾンビ」

B「びんぼう」

P「うそなき」

I「それさっき言った」

P「じゃあ……うじむし」

R「し、し……しんだふり」

E「今のセーフ?」

「「「「「「セーーーフ!」」」」」」

やたらとしりとりにこだわる目立たないパーティー好きすぎる……。


次回予告

「あの、ぼくインキーです。ねえヒーローって信じる? ぼくはリディーちゃんのヒーローになりたいなあ……」

これがなかなか意地悪な予告映像だ。主役の彼、一瞬チラッと映るだけかよー!


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