#15 ミラーヤムヤム

今回も基本はコメディなんですが、すっきりさせないオチが全てをホラーにしているという、ホラースクールのくせに珍しいホラー回。


第15話「ミラーヤムヤム」

(脚本:須田泰成、絵コンテ:平田敏夫)


黒いコートに身を包み、スカしたBGMに乗せて帽子をクイッと上げるヤムヤム。こんな渋い雰囲気、らしくないね!……と思ったけど街灯に寄りかかってコケるし衣装はハエだしあんまりかっこよくなかった。

「なんて俺様はかっこいいんだ、ゲヘヘヘヘ」

全然いつものヤムヤムでした。にしても、ヤムヤムがこんな場所で一人で遊んでいるのはちょっと珍しい。

俺様のあまりのかっこよさに、鏡よ鏡……とお決まりの文句を唱えてみたら、なんと本当に鏡が落ちてきた。古代文字のような意匠が入った額に、鏡面のひび割れた大きな全身鏡。

「なんだこりゃダッセエ鏡」

「ダサい? ダサいのは君の方です」

鏡、しゃべる。長島さんがめちゃくちゃ良い味出してます。

「アッハハハハハハー! スーツの袖はチグハグ、ネクタイは長すぎるし、どーこがかっこいんだかー!」

これで「確かに……」と引き下がってしまうヤムヤムである。誰もいなくなった後、鏡に映ったヤムヤムの顔が妙に丸い目で「ゲヘ……」と笑う。


AWやHLSPやCOやらが仲良く校庭に飛び出していく中、やはり一人でかっこつけて遊ぶのは恥ずかしいのか、ヤムヤムは辺りを伺ってからこそこそコリアラの林に向かう。今日こそはと気合いを入れて衣装を身にまとうが、残念ながらハエ軍団は最初から右半身に偏ってます。

「鏡よ鏡よ鏡さん、世界で一番かっこいいのはだーれだってんだ!」

「いくよーーーっ!」

鏡、ノリノリで落下。自信満々の今日の俺様のファッションですが、丈の長さがズレている分だけ昨日より悪化している気が……もう一度ポーズ!と鏡に言われ、ついついポーズを取るヤムヤム。鏡、のはずがだんだんヤムヤム自身の声に。

「鏡の中の俺がしゃべった!?」

「鏡の中の俺? おかしなこと言わないでください。こんにちは、僕ミラーヤムヤムです」

敬語ヤムヤム、アリじゃないですか。ほら親分、頭ピンクになったりしたこともあるし、こういうの似合う素質あるんだよな。

「鏡の中にいる僕はあなたと比べると何もかもが正反対。だからあなたとは出来が違うんです!」

でも本物のヤムヤム、出来が違うのでバカにされていることも多分あんまり分かっていません。「そこでくるっと2回転」「今度は逆に3回転」「もひとつおまけに5回転」と言われるがままに回って息も絶え絶え、地面に倒れて土まみれ。汚れたところを見逃せないミラーヤムヤム。

「アーンもう、汚いのダメッ!」

鏡の中からハエが飛び出してきたかと思うと、ブラシになってヤムヤムをきれいにし始める。ハエに掃除されるっていうのもなあ……。そのまま、どさくさに紛れてヤムヤムは鏡の中に引きずり込まれてしまった。

「君みたいな汚い子供は一生そうしてなさい!」


ヤムヤムが一人でかっこつけていたころ、チュービーとウソップは絵の具とスプレーで汚し合うだけのしょーもない遊びに興じていた。

「ひでえ顔」

「そっちこそズラ」

「「HAHAHAHAHA!」」

通りがかったミラーヤムヤムは2人を見るなり「誰ですかあなたたち」。小さい目を精一杯に見開いて驚くウソップの後ろでふくろうじじいも首をかしげている。

「ア~汚い。お掃除しますっ!」

ミラーヤムヤム、当然のようにハエを操ってますけど、きれいなバナナなのにハエがたかってるんだ……? 今度は汚れを落とすだけでは飽き足らず、ハエ軍団がスプレーになって黄色のペンキを塗りつけ始める。ハエにそこまでされたらウソップの出る幕がないじゃないですか。

「君たち! 僕と同じバナナ色になれて感謝すること」

本物と正反対できれい好きというのは分かるが、バナナ色っていうのはどこから出てきたんだろう……。全身バナナ色になってしまったチュービーとウソップも当惑するばかり。

チュービー、今回は鼻を利かせてます「いいにおいだったズラ。おかしいズラ……」。黄色くなったチュービーは耳の部分だけ若干ツヤがあって、チューブとラベル部分の質感の違いがいつもよりよく分かる。


ヒッキーのお絵描きは『ふしぎ絵』以来ですね。今日はいつものメンバーにカボも一緒。

「ヒッキー、今度はさっきよりも上手ね」

「見てろよ、ほんとに飛ぶんだぞ!」

ラクガキを動かすフシギも安定的にできるようになってきたらしく、ここ十数話での成長が伺える。が、飛び出す前に黒板がバナナ色に塗りつぶされてしまった。

「汚いものはきれいにしなきゃだめですから」

顔も態度もいつもよりきれいなだけに、やっていることの悪辣さがかえって増して見える。

「さあ、お掃除スタート!」

子分に指図して横暴をはたらくところはいつものヤムヤムだ。教室中バナナ色に塗りたくるウソップ、オラオラと追いかけ回すチュービー、そういえばミラーヤムヤムはリディーちゃん大嫌いだったりするのかな……。逃げ回るスピモンとカボが衝突して倒れてたり、イエローリザードクラスは大惨事です。


教室を征服したら、次は校舎のてっぺんからバナナ色に塗らせ(U「高いとこ苦手なんだよお……」)、お墓にまで侵略の足を伸ばす。ホラースクールの生徒でもお墓は不気味で怖いものらしい、と思ったら怖がらない子がいました。泥風呂を満喫中のゾビー。これにはミラーヤムヤム我慢ならない。バナナ色攻撃にも怒って泥団子で抗戦するだけの気骨があるゾビーですが、ミラーヤムヤムに異様な圧で追いかけられ逃げ出してしまう。

「どうして親分、急にキレイ好きになったんだよ」「まるで別人ズラ」と首をかしげる子分たち。だんだん全身真っ黄色の2人にも目が慣れてきたところへ、流れてくるあの懐かしいニオイ……お墓の柵を飛び越えて着地失敗するチュービー、その上に着地するウソップ、地面に横たわる鏡を発見するとそこにはヤムヤムが映っていたのだった。


ここでようやくバナナ色を洗い落とした子分ズ。でっかい鏡は図書室に運ぶのも一苦労である。

「いたた、俺様を落とすんじゃねえ!」「「ご、ごめんなさい」」

すっかりバナナ色の図書室でも相変わらず読書に夢中のジーニー。ウソップったら「俺たちの親分」なんて言っちゃって。ジーニーは大げさに驚くと、これは「不思議な割れた鏡」ではないか、と機関車回でドミノに使われていた『MHSの歴史』の本を持ち出した。

「この鏡は、昼間の学校で子供たちに埋められ、そのまま忘れ去られたものなんです」

こういうの、昼間の学校の怪談にありそうな話じゃないですか。MHSの生徒になるものって基本的に、忘れられたことで人間を恨んでいてもおかしくないようなものたちなんだけど、そこで「フシギ」という目標を見つけて楽しく生きてるわけなんですよね。逆に言えば、MHSで問題を引き起こすようなのは、そこで恨みの方に開眼しちゃったやつということなのだ。


ミラーヤムヤムの暴走を止めるため、とうとう先生まで校庭に総出で説得が始まった。

「おーい、校長先生に怒られるぞー!」

「無駄な抵抗はやめて降りてきなさーい!」

「僕はきれいにしているんです。よいことをしているのに怒られるはずはありませーん!」

ヤムヤム、かっこよくないとか言ってごめん。ここからの登場はちょっとかっこよかった。

「そいつはヤムヤムじゃないぜ!」

「「屋根の上にいるのは親分のニセモノなんだ/ズラ!」」

「違います! そっちがニセモノなんです!」

ええー、どっちが本物なんだろう……(棒)。本物とミラーの音楽の切り替わりが小気味いい。

ここの子分たちのポーズが好きです。「じゃ、親分」「どうぞズラ」と促され、鏡の中のヤムヤムは体を洗い始める。あワンツー、ワンツー、あピッカピカ♪ 本物のヤムヤムがきれいになるに従って、ミラーヤムヤムは黒く汚れていくばかりか、言葉遣いも汚くなっていく。

「このやろおぉぉ……」

鏡が発した光を校舎の上に向けると、ミラーヤムヤムは鏡の中に吸い込まれ、コインのチャリーンというような音とともに、本物が飛び出してきた。ミラーヤムヤム、第一声は鏡の中にも世界が存在しているような口ぶりでしたけど、自分からミラーを名乗っているわけだし、背景は反射しているのにヤムヤムは手前にいっぱなしだったわけだし、ヤムヤムが鏡を覗いた時点でできた鏡の人格によるアバター、みたいな感じだったのかな……?

ともあれ、今回はチュービーとウソップが頑張って鏡を運んでくれたのがお手柄でした。「ありがとよお前たち」と褒められてちょっと照れる2人。チュービーはやはりニオイで親分を判別している。校庭にはなんかいつの間にかロッソとか出てきてます。解説のジーニーさんも登場。

「あの偽者のヤムヤムがきれい好きで、おまけに丁寧だったのは、本物のヤムヤムが汚かったからです」

よく考えたら、ジーニーがまともに知恵者として役に立ったの、今回が初めてだったのでは……しかしこれ、ジーニーでも知ってる鏡のことを先生たちは誰も知らなかったんですかね。そこツッコミ入れ始めたら本当に開けちゃいけないフタを開けることになってしまうと思うんで、やめときますけど。

リディーちゃんに「本物のヤムヤムがきれいになった」と言われ、照れくさそうに頭をかくヤムヤムがめちゃくちゃかわいいのである。ヒッキーもちょっと余計なことを言って場を和ませる。

「じゃあ、リディーがあの鏡に入ったら、とってもおしとやかなニセリディーが出てくるってこと?」

「ん゛、それどーゆーこと!?」

「「HAHAHAHAHA!」」


……で、めでたしめでたしでは今回は終わりません。お墓で古くさい鏡を見つけるゾビー。誰かがここまで運んできたのか、それとも……?

「良いもの見つけたゾビ! 後で取りにくるゾビ」

ゾビーが去った後、鏡の中に残った顔が不敵に笑う。怪しくひび割れる鏡……。


ふしぎコレクション「不思議な割れた鏡」

今夜のふしぎはヤムヤムじゃ!

「俺の代わりに宿題をやっちゃいけないぞ!」

「絶対やりますっ!!」


アイキャッチ:H

「MHS」の文字を書いて一回転、二回転!


<まえつぎ>