#34 ナゾのベンダーマシン

ホラーテイスト回ですが何が怖いって、自分がベンダーマシンにされてしまうことよりも、冒頭のベンダーマシンの壊れ方ですよ。生きた校舎の住人として描かれてきたキャラクターがあんなふうに「壊れて」しまうという、そのシーンの描き方のドライさに底冷えする……。


第34話「ナゾのベンダーマシン」

(脚本:山名宏和、絵コンテ:酉澤安施)


「アンモナイトパイにしよかな……ドクロタルトがいいかなあ……」

「んもう! そういうときは両方押しちゃうんだモン!」

優柔不断なピラニンに業を煮やしたスピモンが、カボチャ頭のベンダーマシンのボタンをでたらめに連打する。出てきたのは「うえ、カエルプリンだ……」。ベンダーマシンは煙を上げて壊れてしまった。

「先生に怒られないかなあ……」

「オンボロだからしょうがないモン」

ピラニンも自分が怒られる心配をするだけで、壊してしまったベンダーマシンに対する謝罪の念は特にないのですよね。立ち去る2人(ピラニン、走り方がかわいい)の向こうで何者かの目が赤く光る……。


パンケーキを天高く積み上げてご満悦のヤムヤムも、牛のベンダーマシンを叩き壊して顧みもしない。このシーン、一瞬ベンダーマシン側からヤムヤムを遠巻きに眺めるカットが入ることで、監視する何者かの存在を示唆しつつ、あえてどこか感情移入を許さない引っかかりを残す演出。パンケーキタワーのてっぺんから蜂蜜?をだばだば垂らして、と言えばおいしそうなんですけど、ハエに直接運ばせるのはちょっと……腐りバナナには関係ないだろうが。うっかり一時停止してハエのCGをまじまじ見るなどすることはお勧めしません。

「俺様の夢だったんだ、天井まで届くようなパンケーキを一人で食べることが!」

ヤムヤムがナイフとフォークを構えたその時、スローモーションにしてもやたらと音声が低くなり、ピラニンから逃げ出したカエルプリンがパンケーキ目掛けて突っ込んで……。

「ゲヘ……俺様の夢が……!」

「僕のカエルプリンは……」

怒ったヤムヤムが投げたパンケーキはピラニンに避けられ、リディーの顔に命中。投げ返したパンケーキが今度はチュービーに当たって……あっという間にカフェテリアは凄惨なパンケーキ合戦場になってしまった。ピラニンはオロオロ見ているだけだったのに、顔にぶつけられて倒れてしまうあたり、安定のピラニン。パンケーキの山の中から出てきたジーニーが「なんというマナーの悪さ!」と声をあげますが、すぐに飛んできたパンケーキの犠牲になって誰の耳にも届かない。


散らかすだけ散らかして放置されたパンケーキの残骸は、ベンダーマシン自身が吸い取って後始末させられるのであった。BGMがカフェテリアのテーマのアレンジなんですけど、この場面でしか流れたことのない曲ですごく寂しい気持ちになる……。

「まーったく、俺たちのこと何だと思ってんのかねえ」

「まあとにかく片付けるブヒ」

「やれやれ、これも俺たちの仕事ってわけね?」


スピモンが教室から出ると、大きな風船が浮かんでいる。手でつつくと風船は割れてスピモンを包み込み、そのまま消えてしまった……残されたのは、床にくっついた謎の伸びる物体。ヒッキーは廊下の奥にベンダーマシンらしき影を見る。

トイレから出てきたヤムヤムも、同じく風船に包まれてどこかへ消え去ってしまった。ヒッキーと同じベンダーマシンを見て、細い目を必死でこするウソップ。

謎のベンダーマシンは青白く光りながら空に浮かんでいる。「我々の恨み、思い知るがよい!」と言った瞬間、風船に捕らわれた2人の姿が変わり……。


親分を見失った2人が改めてカフェテリアに来てみると、新しいベンダーマシンが入っている。(ウソップはコーヒーはブラックで飲めるんだな)ボタンを叩くと、料理の代わりに落ちてきたのは腐ったバナナ。周りを飛び回るハエ。そしていつものニオイ……ニ・ゲ・ロ、というヤムヤム必死のメッセージに気付いたときには既に遅く、2人の背後にはあのベンダーマシンが……。


ヒッキーは謎のベンダーマシンの正体を調べていますが、ベンダーマシンのカタログ雑誌(4月号?)からは何も見つからず、手がかりは床に残っていたベタベタする物体だけ。ピラニンは「まだまーだのびーる……」なんて引っ張って遊んで、リディーの言い方も「ジーニーの邪魔しないの!」って子供を叱るみたい。

伸びる物体は「チューインガムみたい」というか、ガムそのものでした。昔のベンダーマシンのリストの中に、そのフーセンガムのベンダーマシンは載っていた。

「何十年も前、我が校でフーセンガムが大流行したそうです」「このベンダーマシンは、ガムで学校中をベタベタにしたので捨てられた、と書いてあります」

「うわあ、わるいやつだ~」ってやっぱりピラニン妙に幼いよ! 「ベンダーマシンのことはベンダーマシンに聞くのが一番だろ?」とヒッキーたちがスピモンを探しに急ぐ一方、ジーニーは図書室に残って調べ物を続ける。


カフェテリアの照明はキノコっぽくてかわいいよね……ただし今日は「なんかいつもと違うみたい……」。新しいベンダーマシンに無邪気に喜ぶピラニンの横で、「これってなんかヤムヤムに似てない?」と首をかしげるリディー、子分たちも気付かなかったのに真っ先にそこを指摘するとは。ウソップは糸目ですらないと本当にただの箱だな……。

「(リディーちゃんの顔がこんなに近くに……クーッ! うれしいけど、リディーちゃん、早く逃げてくれ!)」

ウ・シ・ロ……振り返った3人はフーセンガムから逃げる間もなく、ヤムヤムたちと同じようにベンダーマシンにされてしまった。

「これからが本当の復讐の始まりだ。今こそ我々が受けた苦しみを味わうがいい!」

ベンダーマシンになった7人の代わりに、本物のベンダーマシンがヒッキーたちに姿を変える。「(あ、スピモンがこっちに来る…嫌な予感……)」てヒッキー正直ね……。

「こうすると何が出てくるか分からないから面白いモン」

「ゲヘゲヘ、もっと回すんだ。そうすりゃ目を回して2つ出すかもしれねえぜ」

「やだー! すっごくまずそうこの料理ー!」

ドクロオムライス、こんなおいしそうなのにな……真っ赤な目に機械的な声で次々とひどいことをしていくベンダーマシン生徒に、本物のヒッキーたちは文字通り手も足も出ない。ピラニンの優柔不断だけは、悪いことというより、単にスピモンの気が短いだけだと思いますが(笑)

パンケーキ合戦まで再現し始め、「我らが受けた苦しみを永遠に味わうがいい!」と高笑いするフーセンガムのベンダーマシン。だが、ヤムヤムの姿のベンダーマシンは「もう十分だブヒ」と手を止めてしまう。

「そろそろベンダーマシンに戻してくれよ」「俺たちはやっぱりおいしく食べてくれる子供たちの笑顔が見たいんだよ」

ベンダーマシンさん、今回に限らずあれだけひどい目に遭ってきて、それでも「子供たちの笑顔が見たい」って言ってくれるのか……子供が主人公の子供向け番組を見ていると、やっぱり周りの大人がちゃんと大人していてくれることって大きいよなあと思う。

「……私も同じ気持ちだよ……」とフーセンガムのベンダーマシンはふっつり消え、ヒッキーたちは元の姿に戻った。


物置もスロット扉から行けるんだろうか? このシーン、BGMがないのが物置らしい怪しい静けさを醸し出していて良い。メモリーズデイの看板やクイズ大会の机、歯車やカボチャの傍に、クモの巣の張ったベンダーマシンは放置されていた。

「うわあ、ひどい……これじゃ恨みたくもなるよ」

それにしても看板を片付けるときとか誰か入ったりしなかったのだろうか。忘れられたものたちが通う学校で、その深夜の生徒たちにすら忘れられた存在が、また生徒のことを恨んでいるって、ちょっとつらすぎるじゃないですか……。「自分が悪いんじゃねえか…」と言いながら、それでも後ろめたそうな顔を隠しきれないヤムヤム。

「実はガムだらけにしたのは彼ではなく、生徒たちだったみたいです。……校長先生は生徒たちを退学にすると怒ったそうです。しかしこのベンダーマシンは生徒たちを許してもらうために、自分から物置に入ったんです」

もちろん、ただ単に生徒たちを憎んでいたわけじゃないのよね。せっかく自分がこうして封印されたのに、同じ過ちを繰り返されたことに我慢がならなかったのだろうなあ。早速修理を始めるジーニーのセリフが、気が利いてて好きなのです。

「皆さんフーセンガムはお嫌いですか?」

「ああ、ぼく大好き……!」

ウソップとチュービーの明るい「へい、親分!」も、さっきの抑揚のない「へい、親分」と対比になってて好きなのです。


フーセンガムのベンダーマシンは、きれいになって再びカフェテリアに並ぶことになった。ODMJそれに人喰い花まで、みんな色とりどりのガムを膨らませている。ヤムヤムとスピモンは、「ベンダーマシンにされるのはこりごりだからな」とちゃんとお皿を片付けていく……。

今週は2話とも教訓色が濃いエピソードだったなあ。ベンダーマシンの声はサラマン先生と校長、フーセンガムの方はティゲール先生、おじさんキャラの限られている番組なのでだいたいおなじみの面子って感じですね。


ふしぎコレクション「ガムをかんだら…」

今夜のふしぎはナゾのベンダーマシンじゃ!

こんなの見せられたら学校中をベタベタにしたのはやっぱりベンダーマシンのせいだったんじゃないかと思えてしまうんだけどどうなのよ……。


次回予告

「オラチュービーずら。実は、極悪トリオをクビになったずら……オラは、オラはもうおしまいずらー!!」


<まえつぎ>