#21 眠りの学校のリディー

この回、放映当時ダントツで好きだったんですよね……リディーちゃんが好きだったのもあるけど、あえて多くを語らないところに神秘的な雰囲気があって。何より、めっちゃドキドキして見てたんですよ、告白シーン……。


第21話「眠りの学校のリディー」

(脚本:小川勝慶、絵コンテ:酉澤安施)


『ハッピーミステリー』の素敵な歌声から一転、緊張感の走るカフェテリアでリディーのリサイタルが始まります。観客はみんな真っ青になって震えている。

第7話のコンサート以来、リディーが例の曲を歌うのはこれで4回目くらい。デュエット(7話)や鼻歌(17話)なら聞けないほどではなかったその歌声も、「あまりうまくない」設定とはいえ、ここまで有害なのも今回くらいのもの。おそらく自分がアイドルであることに一切疑いを持っていないリディーのことだから、もともと音感が皆無とまでは言わないが、いざ舞台に立つと自己陶酔のあまり力が入りすぎて悪い部分が全面に出てしまうタイプなのよね。

ピラニンとスピモンは最初から耳をふさぐことに遠慮がなく、ジーニーは青くなりながらも応援を送り、オンプーは苦しみを通り越して呆れ顔、そして「(リディーのやつここまで歌が下手だったとは……)」と身を縮めるドッキー。ヤムヤムは愛の力で耐えてますが、ハエ軍団は次々とリタイアしていく。何しろグラスにヒビが入るレベルの美声なのだ。ベンダーマシンたちも既にダウン。被害は上階のルーアやネジマキツムリにまで及ぶ。


歌が終わったことに安堵するあまり、誰一人として拍手にまで気が回りません。真っ先に空気を読んで手を叩くジーニーの「良かった、良かったです!」の心のこもり方、泣かせるじゃないですか。いやピラニンの「終わって良かった……」の心のこもり方も負けてないんですが。ここ、呆然としていたヤムヤムはともかく、他はドッキーだけなんですよね、拍手してないの……。

身の安全よりもリディーちゃんへの愛が勝ってしまったヤムヤム、アンコールと言いかけたところで子分に口をふさがれる。さっきまであんなに青い顔してたくせに、止められてムッとするヤムヤムの愛は本物だと思う。

当のリディーは世界を自分に都合良く解釈する能力に長けすぎていて、目の前の惨状が全く見えていません。歌い終わって満足げに微笑むと、かわいらしくお辞儀をして一言。

「ありがとう、ありがとうみんな! 次のコンサートも期待しててね!」


そんなリディーに本当のことを言えるのはオンプーだけなのです。自信を持っているという自覚すらないような完璧な自信に、親友の一言がナイフを入れる。

「親友として言わせてもらうわ。メロディーテンポ声の出し方全部ダメ。練習不足どころじゃなかったわよ!」

「でも……みんなあんなに喜んでくれてたのにぃ……」

「あれはお愛想って言うのよ! みんなあなたをがっかりさせないように拍手したり喜んでくれたの」

ここで初めて、今まで信じていたものが全部ウソだったと知ったリディー。だけどオンプーの何が偉いかって、ダメなところはごまかさずにはっきり告げておいて、しかし否定で終わらずに励ましてもくれるってとこなのだ。

「がっかりしないでリディー。練習すればきっとうまくなるわよ!」

ここ、真実を告げるときには「あなた」という呼び方で一度呼び捨ての仲を仕切り直し、優しく励ますときにはいつもの「リディー」呼びに戻るのですね。無意識かもしれませんが、こういう言葉の使い分けが私は好きなのだ……。


校庭はコリアラの木にもたれかかって落ち込むリディー。よほど堪えたのか、心なしかおさげにも元気がない。気になるのはドッキーのこと……と、さっきの会話をこっそり聞いていたジーニーが登場。今回のジーニーは本当に甲斐甲斐しく気を回してくれて、ひたすらいいやつなのだ。

「あの…その……素晴らしいコンサートでした……」

「そう、ありがとう……でも、あたしの歌なんてまだまだよ……」

「はい、そう思いました!」

あら~……と、何やら楽譜を持ち出すジーニー。リディーが歌う曲目を図書室で調べていたのだそうですが、

「突然、眠気が私を襲いました……宇宙…いや、異次元……どこからか降り注いでくる不思議な何かを感じました……」

このときの本は『HISTORY OF MIDNIGHT HORROR SCHOOL』かな。「そこにこの楽譜が落ちていたのです」って紙をポンポン叩く仕草が良い。

"Sleeping Dolls"をサラッと『眠れる人形たち』と古風な表現で和訳するリディーさん。このタイトル、結末を知ってから聞くとなるほどというところなんですが、今回のお話、不思議な楽譜の正体については特に何も説明がなくて、それがいかにも不思議っぽくて好きなのです。


さて、いざ目の前でリディーに歌われるとなると怯んじゃう正直なジーニー……だったんですが。

「素晴らしい! きっとこの楽譜はリディーさんのために私の前に出てきたに違いありません!」

やっぱりリディー、「歌が下手」といっても素質がないというよりコントロールがなっていないだけなんじゃないかな。その実力を突然最高の形で引き出してしまうのが、この楽譜の不思議たる所以なわけで。

今度は一転、手を組んで期待の面持ちで歌を聴くジーニー。フルコーラスって頭の演奏付きのことなのね。リディーの歌と共に、楽譜から音符が光の粒子となって学校中に流れていく。曲を聞いて訳知りげに反応するふくろうじじい。

イエローリザードクラスではサラマン先生がなんか腕組んでるんですけど、リディー以外の生徒はみんな教室にいるし、授業中なの……? 意味深に頭をちょっと上げるドッキーが、ほんとに意味深なんだけどもう……。

ジーニーがまどろみながら見たオルゴールのリディーは角の丸みや質感がいかにも作り物っぽくて、「眠れる人形たち」の意味を考えると皮肉ですらある。


普段からは考えられないくらい弱気さを引きずっているリディー、ここからはスーパー独り言タイムです。返事もなくゆらゆら立っているだけのジーニーに、

「失礼しちゃうわ! 歌ってる間に寝ちゃうなんて!……せめて拍手ぐらいしてくれてもいいじゃない……」

と言うとジーニーは手を叩き始め、

「もういいわ! あっちに行ってよ!」

と言うと本当に出て行ってしまった。音楽室のドア、外から見ればいつものスロット扉と変わりないんですが、なんとなく重量感あるのが防音扉っぽくて良い。


怪訝に思って校庭に出てみると、ブルースパイダーのみんなが眠っている。エディの鼻先に座るウソップたち、向かい合って立っているジュノとチャップス、フォントンは顔面からずっこけてるんだけどあなたギャグ要員でしたっけ。

イエローリザードクラスでもみんな席に着いたまま眠っている。ピラニンのポジションは安定の床。起きているのは自分だけと分かり、リディーは半泣きで叫ぶ。

「イヤ……私を一人にしないでーーー!!」

声を聞きつけたかのように、みんな眠ったままぞろぞろとリディーの周りに集まってくる。教室にいたはずのカボやゾビーが校庭から来るのは見なかったことにしよう。ピンクトードでは出遅れぎみのヤムヤム、「?」ちゃんは机はあるけど本人はここでは現れません。状況を飲み込んだ途端、リディーは元気を取り戻す。

「みんな私の言うことを聞いている……でもどうして?」

「もしかしたら、この曲を歌ったせいかも……」

楽譜の最後には5時を指す時計と、起き上がって伸びをするマリオネットの絵。

「ひょっとして、朝の5時になったらみんなの眠りは覚めるってこと?」

時計を見ると今は2時。午前2時ということは、まだ始業2時間目……よく考えると午前0時から夜が明けるまでってかなり短いんですが、この学校毎日ちゃんと放課後もあるし、一日何コマ授業してるんだろう。


みんなが思い通りに動くと思うと欲が出ちゃうわけで、早速リディーはIZGPに机を担がせたり、AWRにジュースやデザートを貢がせたり、先週の恨みを晴らすべく(?)男子にトイレ掃除させたりとやりたい放題。ヤムヤムは敬礼までして掃除に励んでいる。

「たまにはこういうお姫様気分も良いものね!」

……うん、たまには……ね。

とはいえリディー、眠っているみんなを相手にコンサートしようと思いつくくらいには、やっぱり歌が好きなんですよね。ここから1時間でステージ作って、歌って、で最後の大イベントって考えると、確かに時間キツキツではある。

突貫工事で「LIDDY CONCERT」の特設ステージがカフェテリアに出来上がった。上から頭出してるUHとか、柱に抱きついてるADとか、グラス持ったままのWとか、何度も言うようだけど細かいところがかわいいんだよなあ。


というわけで全校生徒を前に歌い始めるリディーですが、そうしたくて舞台を用意したはずなのに、なぜか歌っていて楽しそうじゃないんですよね。それは、みんなが嫌な顔をして震えているのが今度は分かってしまうから。

「(眠っているときは正直な心のままなのね……私の歌が良くないからみんな楽しそうな顔してないんだわ……)」

ちゃんと3人並びの極悪トリオとか、こんなときまで隣とちょっと距離を置いて端に座ってるエントンとか、アニキの隣を確保してるクイッキーとか、それはともかくインキーだけちょっとニヤけてるのが実にインキーだな。いや、元からそういう人相なだけだと思うんですけど、こいつの場合本当に喜んでいそうだから困る。それより何より正直な心のヤムヤム、しっかり耳ふさいじゃってるんですよ……! とうとうリディーは途中で歌うのを止めてしまった。

「私の歌、うまいと思う人手を挙げて!」

無反応な観衆に一瞬ムッとして、

「じゃあ、下手だと思う人……」

グアーッ!! ここまでされたらさすがのリディーだって心ボッコボコでしょ……こういうシーンは見ていて本当につらくなる。しかし持つべきものは友、そうそう落ち込み続けるようなリディーではなかった……

「(がっかりしないでリディー、練習すればきっとうまくなるわよ!)」

「分かったわ。私もっと練習して、みんなに喜んでもらえるように頑張る!」

やっぱり一度大喧嘩を乗り越えた2人は違う。オンプーの励ましはリディーにとっては何より信頼できる言葉なんですね……。

「(それにこんなお姫様、私だって楽しくないもの……)」

MHS、どのキャラも「根は良い子」っていうのをこういうところでうまく見せていると思うんですよね。ただし、今回はこれでめでたしめでたしとは終わらないわけで。


噴水の前で楽譜を握りしめて待つリディーに空からズームしていく。そこへ後ろで手を組んで歩いてくるドッキー。リディーはなんとなく言葉遣いまで乙女度が高くて、見てるこっちが緊張してきたぞ。

「ごめんなさい、呼び出したりして。ドッキーに話があるの。でもその前に……ふくろうじいさん、耳をふさいでて!」

ちっちゃい手で耳をふさぐじじいかわいい。ちゃっかり噴水にいるピラニンは本当に安定のピラニン。

「ピラニン、あっち行ってて!」

ぴょんと座る音がかわいい2人。あまりにも繰り返し見ていて私どうでもいいところに気付いてしまったんですが、ここ、左上に見切れているふくろうじじいの体がオンプーになってません?

「私ね……あの、えっと……思い切って話すけど…………いつもきついことばっかり言ってるけど私実はドッキーのことが好きなの!」

えええええええええええええ!!?

告白したーーーーー!!!

って、初見のときは目ん玉飛び出すくらいびっくりしました。というのも、私最初に第1話を見ていなかったんですね。見始めたのが5週目からだったので、前フリがなかったのです。ないんですよ本編でそういう前フリ。しかも先週の「冗談じゃないわよ!」とかあれやこれやの直後で、これ。

ともかく、言っちゃった!!っていうリディーの表情の動きがすごくリアルなので、このへんになるともう完全にリディーに感情移入せずにはおれないのである。

「ドッキー私のことどう思ってる? 好きだったら右手、なんとも思っていないなら左手を挙げて……」

これは呼び出す前にあらかじめよく考えておいたんだろうなあ。「好き」と「嫌い」、じゃなくて「なんとも思ってない」の二択っていうのが、ずるくてかわいい。でも、どうせ眠っているなら本心を尋ねるだけでもよかったのに、ちゃんと自分から告白するというステップは大切にしてるんだよね。

「(左? 右? どっちなのドッキー!?)」

\両手/

「なんだリディー何してるんだこんなところで?」

5時! いいところだったのに、約束の5時!! ドッキーの寝起きボイスが聞けるのは『眠りの学校のリディー』だけ!!(多分)

慌ててちょっとドッキーから離れるリディー。急いで楽譜を確認するが、音符は消えて紙はまっさらになってしまう。まるで興味のなさそうなドッキーは、「用がないなら教室に帰るぜ」と不機嫌に立ち去ってしまった。はっきり振られたわけではないというのが、かえってつらい……

「ほっほーう。そなた、あの曲を歌ったのじゃな」

今回のふくろうじじい、「そなた」なんて気取った口調してみたり、視聴者にも分からない不思議な楽譜のことも全部お見通しみたいな態度を取ってみたり、実はずっと眠らずに起きて全部見ていたとか言いかねない感じがある。

「一度歌ってみんなが眠ると、その楽譜はまた図書室のどこかに隠れてしまうのじゃよ」「だからそなたの持っている楽譜は、もはやただの紙切れじゃ」

紙切れはため息と共に、風に吹かれて飛んでいく……。


ジーニーの頭に次々と本を突っ込んで楽譜を探すリディーですが、むりやり百面相させられるジーニーはちょっと不気味ですらある。

「リディーさん、そんなに……」(WARNING! DANGEROUS BOOK)

「次々と……」(THE BOOK OF SADNESS - SAD STORY)

「頭の本を!」(ANGRY STORY 怒)

「変えられてもー、ウアハハハハハハ!」(HAPPY & SMILE)

しかし、見つけようとするリディーの元には楽譜はもう現れないのであった。

「もう一度出てきて、不思議な楽譜さーん!」


改めて見たら今回、歌の話と告白する話と全然別のテーマ2本立てなんですが、いずれにしてもリディーへの視点の寄り方がすごい。何しろ他の子はずっと眠っているわけなので、話を回すキャラクターがほぼリディー一人だけなのだ。それに表情の作り方が実に細かくて、これだけクローズアップされたらそりゃもうリディーと一緒になってもだもだしちゃうってものです。

それにしても、リディーに尽くすジーニーはリディーからは雑に扱われるし、リディー自身もドッキーには全く意にも留められていないし、なんというか、リディーのジーニーを意識してないっぷりがそのままドッキーに意識されてないっぷりの暗喩ですらあるような気がする……だからこそオンプーとの友情が尊いわけなんですが。


ところで、楽譜の効果で眠っている間って意識はどうなっているんだろうか。というのも、寝起きドッキーの反応が「あれ、俺はなんでこんなところに」とかではなく「何してるんだリディーこんなところで」なんですよね。ジーニーの描写のように意識は夢うつつで曖昧なのかもしれませんが、だとしたらドッキーは一体どんなつもりで噴水のところに来たんだろう……。

だいたい「行動はリディーの言う通りでも、心は正直なまま」っていうのもかなりいびつな状態ですよね。心は完全に自分のものなのに、体は操り人形。「眠れる人形たち」ってそういう意味なのか……と思うと、なかなかホラースクールじゃありません?


あと今回観察していて気が付いたこと、MHSキャラの目「まぶたを閉じる」と「瞳を細める・閉じる」のモーションが別々にあるんですが(インキーやエックスにはまぶたがなくて、カボには瞳の方がない)、「眠っている」の表現は別にどっちでもいいらしい。と、噴水のシーンのドッキーを見て思いました。


ふしぎコレクション「音楽のふしぎ」

今夜のふしぎは音楽じゃ!

要するにドラえもんでいう『ムード盛り上げ楽団』の話。出てくるメンツ(OPSGDHUYT)は最初のリサイタルの観客だった子たちですね。


楽しい曲は楽しい気分に!「いぇい!」

……お尻振ってるH、右左に手を出してかわいい動きのO、前向いて後ろ向いてちょこまか揺れるS、クロールっぽい動きのP(あんまり楽しそうな顔じゃねえ)、腕を横に伸ばしてフィーバーしているG、足でリズムを取ってコサックダンスみたいな動きのD、股を開く閉じるして踊るU、手拍子に横ステップにめっちゃ楽しそうなY、一番ダイナミックに回転しているT、みんなそれぞれ違う動きをしているのを見ると楽しい気分に!


勇ましい曲は勇気ある気分に!「おう!」

……ヒッキーの行進かわいすぎる。スピモンは早めのテンポでルンルン歩き、オンプーやチュービーは表情も勇ましく、ドッキーはどうしたんだそんな真剣な顔して。


怖い曲は恐怖の気分に……「わーーー!」

……でちょっと出遅れるヤムヤム。ミッドナイトホラースクールの生徒が怖い曲で逃げてしまうとは!


と、今回は特典映像も見所がありすぎて目が足りない。


アイキャッチ:K

カボチャパニック!!


<まえつぎ>