#10 ピラニン恐竜

第10話「ピラニン恐竜」

(脚本:江崎柳太郎、絵コンテ:平田敏夫)


霧が暗闇をさまよい出す……冷たい風が首筋をそっとなでる……そこには、得体の知れない何かが潜む……。

「が、がお……」

「何やってんの? 早く行かないと授業遅れちゃうよ!」

ヒッキーさん、ピラニン渾身の演出をバッサリ。噴水から出てきたピラニンは濡れた体のままその後を追う。


授業もフシギの発表会のようですが、

「なんとも迫力のない恐竜ですねえ。まずはネッシーのように体を大きくする方法を考えること」

ピラニンほど控えめな驚かし方では、まあ、何やってんの?が関の山である。波代わりの板を運んでくれるのは、KZ。

チュービーはトリオの中では愛され末っ子キャラですが、クラスにいれば十分ガキ大将なのだ。「お前みたいなちっこい半魚人が恐竜になれるわけないズラ…」と軽口を叩いて椅子ごとひっくり返るドジっ子でもあります。後ろで笑顔でパタパタしているボロッカがほほえましい。


図書室にて、ピラニンが読んでいるのは9月4日(水)の新聞『The Wonder Times』ですが、単純に曜日から考えると2002年、アニメ放送の1年前の新聞だろうか。1面トップには"Artist MOSSER"、終面にはHONE-MAGU(カフェテリアにあるタツノオトシゴカップ!)の広告や"NASKY—a mistake"という記事が伺えます。ホラースクールの世界でもみんながみんなフシギの最前線に出るわけではなく、サラマン先生のように教師になる者もいれば、新聞記者になる者もいるのかもしれない。

「本校卒業生であるネッシー氏がまたもや昼の世界で注目を浴びた。昔は昔は干からびたヤモリだった彼も、今では七不思議としてスター街道を驀進中だ……」

名誉欲とは縁遠そうなピラニンですが、ここはフラッシュを焚かれる妄想でニタニタ。いや、ピラニンの頭にネッシーの体というのはちょっと、アレですが。さりげなく怪訝な顔で見ているビンセントも。


しかしピラニン、さすがに水飲み場で水浴びはしない方がいいんじゃないかなあ。

「お前みたいな意気地なしが恐竜になんかなれないズラ!」

「金魚ぐらいがお似合いだぜ!」

「だ、だよね……」

まるでいじめ甲斐のない反応です。それでも一応、飛んできて言い返してくれる友人たち。

「ピラニンは私たちが恐竜にしてみせるわ!」

「いくらリディーちゃんでも無理だと思うけど……?」

「何を~! できなかったらリディーとデートさせてやるモン!」

まーたスピモンのリディー安売りが始まった。それも、第1話では赤くなってたリディーが今度は「私絶対にイヤ!!!」だからなあ。ヒッキーは「こうなったら恐竜になるしかないよ、ピラニン!」と、リディーのためとかピラニンのためというより、この状況自体を楽しんでいそう。

さすがにリディーも今回は「スピモンは結構です!」と断固拒絶の姿勢ですが、当のスピモンはキョトンとするばかり。こいつ、ヤムヤムにとってリディーのデートには価値があるということは分かっているのに、リディーが誰かとデートすることには特に何も価値がないと思っているのだ、そういうやつなんだスピモンは。もう自分が言ったことも覚えてなさそうな様子で、水飲み場に向かって「おいらなんか悪いこと言ったモンか?」と聞いてみるが、当然、無反応。

「分かんないか、水出してるだけだもんね。べ~」

すると突然反撃する水飲み場。


カフェテリアで談笑しているEとB。ピラニンの目の前には、ドクロオムライスやら、ツノの生えた肉まんのような饅頭やら、ハンバーガーやら、それに空になった皿が山積み。いやあのね、食べれば大きくなるというものじゃなくない!?

スピモンも、リディーのことは何とも思っていないが、ピラニンのことは陰から応援してくれているのだ。


……いや、空気を詰めて表面積が大きくなればいいというものでもないからね!?

「簡単さ! 刺されりゃいいんだよ。アタイなんて蜂に刺されただけで膨れ上がっちゃったんだから」

刺される→膨れる→大きくなる→恐竜!……って、そういう問題でもないからね!?

ジュノ取り巻きのクラスメートに紛れてちゃんとロッソがいるのがうれしい。刺すどころか人喰い花に食われる蜂さんが、ピラニンの暗い未来を予感させる。刺す要員で駆り出されたフォントンですが、このペン先、めちゃくちゃやる気満々です。助走をつけてピラニンの尻めがけて……

「うぎゃあーーーーー!!」

フォントンはこういうとき本気なのかふざけているのかまるで分からない(でも少なくとも好きでやってそうだ)から困る。


困ったときはジーニーです。埃をかぶった『THE SECRET OF NESSIE'S BIRTH』……ネッシー誕生の秘密、なんてそのものズバリの本があるんじゃないか。

「ズバリ、それにはアンプーの力が必要なのであります」

ピラニンの背後にアンプーが構え、リディーに頭を拭き拭きされてフォントンも再スタンバイ。

「ネッシーさんが恐竜になった方法とは! 恐竜の悲鳴と! 稲妻でありまーす!」

フォントンの刺激とアンプーの電撃で今度こそピラニンが大きくなった! ここでスピモン、さりげなくハイタッチに参加して、リディーとも一応仲直り。巨大ピラニンは等身大のときよりプロポーションが若干小顔。念願叶って「うれしいうれしい…」が、かわいいかわいい。


ヤムヤムはというと、既にデートは決まったも同然と蝶ネクタイでおめかし中。リディーちゃんメロメロってチュービーお決まりの文句だよね。子分たちもイカしたポーズでごますりしまくってたのに、リーダーバエからの残念なお知らせにヤムヤムが地団駄踏み始めると、アッサリ慰めモードに。

「親分、ここは男らしく諦めるしか……」

「うるせえうるせえ! リディーちゃんとデートするんだあーい!!」

「やめて親分……」

親分に八つ当たりされてスプレーを撒き散らすウソップ。顔を緑に塗られた水道の顔(こいつ正式名称がないから呼びにくいんだよな)、怒って(?)ヤムヤムに吹きかけたのは……

「ワサビだーーー!!」

「情けない」

「ズラ……」

子分たちの表情が本当に情けなくて笑いが止まらないよ。


「月のない夜に不気味な影を出すためには……」

とサラマン先生が何やら気になる授業をしているところへ、スピモンの放送が入る。スピモンはピラニンに付きっきりだったのか……元来仲間思いなんだよなあ、スピモン。ヒッキーとリディーも授業を放り出してピラニンの元へ向かう。

大きくなりすぎて水浴びができないピラニンのため、ヒッキーたちはバケツリレーを始める。消火用っぽい赤いバケツの取っ手はもちろん骨。これではらちが明かないと、スピモンは水飲み場からホースを引っ張ってきた。が、ウソップの「いい考え」で水飲み場は落書きまみれにされてしまう。

GFAの3人も様子を見にきてくれました。スピモンの持ってきたホースから勢いよく水が……

「それー!」

水が……

「あれえ……?」

……出ない。チュービーが踏んでるからだよ!!

ワサビをかけられたエディが暴走を始める。目にワサビはヤバいって! そういえば今までは「骨山」扱いだったエディが意思あるドラゴンとして動くのもこれが初めてだったっけ。エディに踏まれそうになり、今週も飛んでったバナナ。……を、踏みつぶされる手前で助けたのは、大きくなったピラニンだった!

とっさにスピモンを連れ出すリディー。オルガンで優しい子守唄を演奏して、スピーカーでエディに聞かせて鎮めるという機転を利かす。こうやってそれぞれの能力を組み合わせて解決する流れ、これが好きでMHSが好きなんだよなー!!

「親分よくぞご無事で!」

「さすが悪運が強いズラ」

ヤムヤムは無事救われたが、ピラニンは力尽きて倒れこんでしまう。それでもまだ弱々しく笑顔を見せるピラニン、めちゃくちゃネガティブなのは実はめちゃくちゃポジティブの裏返しなのではないか。校舎のモニターから出てきた青白い発光体……が校長先生の正体だと思っていいのだろうか……に、ヒッキーたちはピラニンを助けてと懇願する。

「まだまだ未熟ではあるが、ピラニンの卒業を認めよう」

両手を取り合って喜ぶヒッキーとリディー。ここ、後ろでジーニーがまた眼鏡ズレ芸をしていて、本当に細かいのだ。校長先生はエディから器用にエディの鎖に乗り移り、首輪を外してエディを解放すると、尻尾でピラニンを抱き上げて紫の空に舞い上がった。

「昼間の湖で七不思議となるのじゃ。霧深い山奥の湖で……誰も近づけることなく……ただ一人、永遠の時を生きてゆくのじゃ!」

さよならピラニン、とすっかり送り出すモードのみんなだったが、

「僕は……僕は……どこにも行きたくなぁーい!!」

叫んだ反動でピラニンの電気が全部抜けてしまう。元のサイズに戻って落っこちる寸前、俊敏に空を蹴って拾ってくれるエディがかっこいい。

「せっかく七不思議になれたのに……」

「いいよ。……うん、いいんだ」

ひとりぼっちになるのが寂しかったのもあるだろうけど、こんなに応援してくれるみんなを見て、ピラニンは多分、自分だけ抜け駆けみたいに卒業することはできなかったんだよね。まだまだピラニンには、みんなと一緒の、等身大の、噴水にいるのが極楽なんだ……。

バナナの中身はお約束のジョニークロウが持っていくオチ(3回目)で、みんな日常に帰っていくのでした。


思うに、実はみんなフシギの能力自体は結構いいセンいってるんだけど、それを世界から注目される七不思議として運営していくだけの精神的なタフさとか、マネジメント能力の方がプロとしては求められているのではないか、という気がしてきた。


ふしぎコレクション:湖に住むナゾの生物

今夜のふしぎはピラニンじゃ!

ナゾの生物の正体は……

「もしかして……ピラニン?」

「うん……」

返事をしてしまったらふしぎでもなんでもないぞ!! でもピラニンのそういうとこ、好きです。


次回予告

「はあ、僕ピラニンです……。学校にふしぎな機関車が現れて大暴れしちゃうんだ。はあ~、怖いよう……」

ピラニン、しゃべるスピードが遅いので次回予告の文字量が少ない。


<まえつぎ>