#50 つくえ手なずけ作戦
ピラニン、ではなく机が主役という変化球。机レースのときのピラニンの机の声はおそらくウソップでしたが、今回はマグネロの声でいっぱいしゃべるぞ。
第50話「つくえ手なずけ作戦」
(脚本:マキコ・イイズカ、絵コンテ:三浦隆子)
授業は不思議文字の誕生についての話。ヒッキーは何熱心にノート取ってるのかと思ったら落書きだらけだ。
いびきに鼻ちょうちんで盛大に居眠り中のピラニン。寝ぼけていたら机が突然騒ぎ出し、持ち主を放り投げて教室を出て行ってしまった。大爆笑の教室の中、ひとり呆れたように首を横に振るドッキーが実にドッキーです。
「ピラニンも大変ね~……」
「ピラニンは相変わらず机を手なずけられないようですねえ……」
ここで出てくるビンセントはもう、終盤に至るまであまりにも出番が少なかったから意図的に出番を作った、くらいなんじゃないかとさえ思ってしまう。まともにセリフがあるのは3回目にしてこれが最後なわけですが、ビンセント、登場するたびに声のトーンが違うような気がするんだ……。
「ピラニン、元気ないね。どしたの?」
「また机に逃げられちゃったんだ。どうしてなのかなあ……」
落ち込むピラニンにビンセントが手渡したのは、瓶の中に一つだけ混じっていた白いビーンズ。「気持ちを話させるおしゃべりビーンズ」ってそれ、チャップスのゴーストキャンディーと同じやつじゃないですかー!
ピラニンがビーンズを机の中に入れると、机はその場でくるくると走り出し、天板を口のようにパクパクさせ始めた。
「もしもし?」
「なにー」
この期待を裏切る超軽いノリに笑いを堪えることは私にはできませんでした。
机、要するにかっこ悪くて笑い者になってばかりのピラニンが気に食わず逃げ出したらしい。何しろこの半魚人、「水浴びした後は眠たくなっちゃうんだ…」と素直すぎる上に、怖がらせるつもりで噴水から飛び出してもトイレの流れるみたいな音しかしないのだ。
「僕だってご主人様を誇りにしたいよ! もっとかっこいい不思議を作ってるってさあ!」
そんな机の気持ちに応えるべく、ピラニンは空飛ぶ半魚人となり、恐ろしいうなり声で教室をおののかせるのであった!!
……と妄想しつつ(ピラニン意外と虚栄心があるというか、想像力たくましいとこあるよなあ)屋根の上に命綱をつないで空を飛ぼうとしたものの、足を滑らせて逆さ吊りになってしまう。教室はまたしても大笑い。ドッキーでさえこのときばかりは大笑い。ますます呆れてしまう机。
「あーあ、あんな情けないご主人なんてもうまっぴらだよ! 誰か他の生徒の机になりたいなあ」
薄暗い教室でペタンと座り込むピラニンの机に、隣のヒッキーの机が物言いたげに視線(?)を向ける。
「君のご主人はいつも明るいし、みんなの人気者でいいよねー。ねえ、僕と場所を代わってくれない?」
二つ返事で承諾され、席を入れ替わったピラニンの机は喜んで明日を心待ちにするのだった……。
ノートを広げた机がいつもと違うことに気付くヒッキー。一瞬いぶかしがるものの、いくらなんでも机がしゃべることを雑に受け入れすぎで笑う。
「ヒッキーさんの机と代わってもらったんです。よろしくお願いしますっ!」
「ふーん、まあいっか。よーし、今日はゴッホのひまわりに挑戦だ!」
「さすがヒッキーさんやる気満々! ピラニンとは大違いだ」
いきなりお絵描きのレベルが高いんですが、やる気がありすぎて鉛筆がノートをはみ出してしまいました。ゴリッと机をえぐる痛そうな音!!
ヒッキーは暴れる机を押さえつけ、強情にも絵を描き続けようとする。あんまりゴリゴリ引っ掻かれるので、隣でピラニンの席に収まっているヒッキーの机もさすがにちょっと気まずそう。とうとう痛さに耐えきれず、ピラニンの机は教室を飛び出して行ってしまった。
で、ヒッキーの机も苦労してたんだなあ、と気付くまでは良かったのだが、
「ゾビーなら面白いガラクタのコレクションで楽しませてくれるぞー」
ゾビーの机、薄汚れてクモの巣まで張って明らかにヤバい見た目してるんだけど、いいのかお前それで。
机が入れ替わった直後、緊張感あるBGMとともにロッカーから出てくるゾビー。こいつ今までだいたい「オラ」で通してきたのに、今回から突然「僕」なんて洒落た物言いするようになった。
「へへ、ゾビーさんの机と交代しました。よろしくお願いしまぁす」
「分かったゾビ。コレクションが入ればどっちでもいいゾビ」
と一切興味なさそうに言うと、ゾビーは怪しげなコレクションをどんどん机の中に入れ始める。お墓に絡みついていたクモの糸で編んだスパイダー帽子……ヤムヤム特製バナナの皮に張り付いたスパイバエのミイラ……お墓で見つけたエントンの煤を塗った黒い骸骨……!!
ケタケタ笑い出す骸骨を入れられる前に、たまらなくなって机はまたも逃亡。オエ~~~とクモやバナナを吐き出し、「さ、最悪…」と廊下にへたり込んでしまった。
「……手すりレースのチャンピオン、ドッキーの机になれば僕もチャンピオンの気分が味わえるかも!」
懲りないピラニンの机が今度声をかけたのは、かっこいい向こう傷でいっぱいのドッキーの机です。
「え、意外と大変だって? でも気分いいでしょ?」
ピラニンの机自身も度重なる災難でどんどん汚くなっているのですが、今回も「最高のご主人を手に入れたぞ!」とハイテンション。今度はご主人が気付くより先に口を開く。
「ドッキーさん。チャンピオンの机になれて光栄です」
「フッ、俺の机になりたいなんておかしなやつだ……。よし、早速一緒に階段で一滑りといくか!」
なんかヒロインと出会った俺様キャラみたいなこと言ってるんですが、やってることはいつも通り、いやいつも以上に体育会系です。直接机の上に座って廊下を駆け出し、机も「チャンピオンのお通りだーい!」と元気いっぱい……だが、ウキウキでいられたのはここまで。ドッキーが机ごと手すりに飛び乗ると、
「うっそ、こんな高さから滑り降りるのお……?」
「おい、何してんだよ。行くぞ!」
机を3階まで運ぶのはめんどくさいのか、2階の途中から手すり滑り開始。ドッキーはこんな状況でも「いいぞその調子だ!」と褒めを忘れない立派なコーチぶりなんですが、机の股間、摩擦熱で発火!!
手すりの途中で放り出されたスピードスターは何食わぬ顔で着地すると、燃える机に頭からバケツで水をかぶせて「よし、それじゃあ2本目いくぞ」……声からして体育会系がすぎる。もう勘弁、と机は今回も逃げ出してしまった。
「ドッキーなんてもうこりごりだよぉ。僕と交代した机たちもトロいピラニンに呆れてるんだろうなあ」
これが呆れるどころか、ヒッキーの机もゾビーの机もドッキーのも、うれしそうにぴょんぴょん飛び上がっているのである。
「え、ピラニンが水浴びさせてくれたおかげでラクガキが消えた? あっきれいになってる! 汚いクモの巣が取れてきれいになった? え、においも? ほんとだ臭くない! え、久しぶりにゆっくりできて良かったピラニンは最高のご主人だって!? そ、そんなぁ……!」
だんだん間接的なヒッキーたちのdisみたいになってきたぞ。
「僕は、居眠りばかりして成績もビリなピラニンは大嫌いだったけど、引っかかれることもなかったし、臭くもならなかったし、しごかれることもなかった。それどころか、ピラニンはよく水浴びさせてくれたから、僕はいつも清潔だったし、心も和んだよなあ……そうか、僕はピラニンといて癒されてたんだ!」
成績ビリ、はせいぜいクラス内での話でしょうが、チュービーより下なんて初耳だぞピラニン……。
ためらいがちに噴水にやってきた机に、ピラニンはあれだけこき下ろされたことも全く気にしない様子で、いつものように声をかけてくれるのね。隣同士並んで噴水に浮かぶピラニンと机。噴水でピラニンはいつもこんなきれいな紫色の空を眺めているんだなあ……。
「ごめんね、かっこいい不思議を見せられなくて……」
「ううん、僕の方こそごめんね。ピラニンのすごい不思議に気付かなくて」
水に浸かった机の傷がだんだん消えていく。ピラニンのすごい不思議、それはずっと目指してきた恐ろしい半魚人なんかじゃなく、180度違うところに適正があったのだ……!
「ピラニンと並んで水浴びするだけで、僕は心も体も癒されてたんだ! それって不思議じゃない!?」
「そうなのかな……」
「百点満点の不思議さ……」
机4台に囲まれてモテモテのピラニンに、「ピラニンは僕のご主人様って決まってるんだからあ!」とすっかり懐いてしまった机くん。あべこべにヒッキーたち3人は、椅子だけ残して机に逃げられてしまったのでした。
「今度は君たちが机を手なずける番ですねえ。それにしても、ピラニンにそんな不思議があるとは先生も気付きませんでした。君の不思議はとっても優しい不思議だったんですね!」
ふしぎコレクション「癒し系ピラニン」
今夜のふしぎはピラニンじゃ!
「自分らしいふしぎが一番」という話はたびたび出てきたテーマでしたが、ピラニンはネッシーよりむしろ湯治の神様とか目指した方がいい、ということに50話にしてようやく気づけたのでした。いろんな個性があって大変よろしい!
次回予告:ヤムヤム
「ゲッヘヘー、ヤムヤム様だー! みんな学校って好きか? 俺様は、俺様は、大好きだー!! それなのに、クー!! 寂しいけど最終回のミッドナイトホラースクールは『リディーの恋占い』『夜がなくなる?』の2本だぜ。見逃すなよ!」
親分もヒッキーに続いて2回目の登板です。次回予告でもう泣きそうになる……さ、最終回だあ!!