ミッドナイトホラースクール 小学二年生ふろく11月号

『小学二年生』2005年11月号付録の「スーパー別冊おはなしシアター『大わらい!よむらくご』」に収録。MHSのコーナーは表紙・広告含め全18ページ。

今回のクレジットは「文・イワタナオミ 絵・ミルキーカートゥーン」となっていて、絵のタッチは前回と明らかに違う。お話の方も前のようなホラー要素はなく、全体的にマイルドな感じ。

☆あらすじ

ユミはママの大切なダイヤの指輪をこっそり持ち出して、そのまま学校に忘れてきてしまった。途方に暮れるユミの元にヒッキーが現れ、深夜の小学校に連れていく。

ママの指輪はいじめっ子のヤムヤムに気に入られてしまったために、昼間の世界に帰してもらえなくなっていたのだ。どうせいずれ忘れられることになるのだからと、指輪を自分の子分にしようとするヤムヤム。

ユミが何百万円もすると思っていたダイヤの指輪は、なんとガラスの模造品だった。だが、ママはそのことを知った上で指輪を大切にしていたのだ。パパからもらった思い出の指輪は、どんな高価なダイヤモンドよりも大切なもの。ヤムヤムは指輪を諦めて去っていった。

今回の忘れられた物は、忘れられたとはいっても人間に使われなくなって記憶から消えてしまいそうになっているものではなく、単なる忘れ物。主人公のユミちゃんはママの指輪を勝手に持っていって、そのまま学校に忘れてきてしまう。夜になって指輪がないことに気づき、パニックになるユミ。

誰かに話しかけられたと思ったら、エンピツの男の子だった。なんと今回、ヒッキーは家まで直々にユミを連れにやって来る。

「早くいっしょに来て!」

「朝までに、ママの指輪を取り返さないと、この世界に帰って来られなくなっちゃうよ!」

このシリーズ2回とも、ヒッキーは主人公じゃなくて狂言回しなんですよね。空中にドアの絵を描いてそこから直接ミッドナイトホラースクールに連れていけるって、いつの間にそんな強力な技まで身に付けたのか。

今回は学校に行っても不気味描写はほとんどなし。

「ここは君の小学校だよ!夜はぼくたち、わすれられたものたちの学校に変わるんだ。人間はめったに来ないけどね。」

不安そうなユミに、ヒッキーがやさしく言った。

「あたし、ママの指輪のこと、わすれてなんかないわ!」

ユミは、ちょっとムッとして言った。

「ふつうはそのくらいじゃ、ぼくらの学校に転校しては来ない。でも今回はまずいやつに気に入られちゃったんだ…」

と、ヒッキーが指差した先にいるのは、くさったバナナ。本当に本文にくさったバナナって書いてあってちょっとおもしろい。挿絵のハエ軍団は生々しさが抜けてなんとなくファンシー。

指輪はヤムヤムに気に入られてしまったために、夜中の小学校に引き留められていたのだ。ヒッキーが説明するより先にヤムヤムに直談判にいくユミ。こういうリディー系の自己主張の強いタイプの女の子って、たぶん原作者の趣味なんじゃないかなあと私思ってるんですが……。

ヤムヤムのやってること、どうせなら仲間を増やしてやるぜ!って、前回のヒッキーたちとはまるで逆。学校全体が目指していること、やるべきこととはあえて反対のことをやろうとするから不良学生なんですよねえ。

「こいつは、どうせわすれられる運命なんだよ!おれさまの子分になれるだけでも幸せってもんだ!」

何百万円もするダイヤの指輪をママが忘れるはずがない、と言うユミに、これはただのガラス玉だと告げるヤムヤム。こいつちょっと宝石の目利きができるぞ。しかもイミテーションだと分かっていて「ゴージャスな子分」にするつもりだったのか。そういう懐の広さがあるからやっぱりヤムヤムって親分なんだよな……。

大切な指輪のことをあんまり否定されたので、ユミはとうとう泣き出してしまう。これにはさすがのヤムヤムもちょっと折れて賭けを持ち出す。

「ママに本当のことを話して、それでもこの指輪が大切だって言えば返してやらあ! でも、ガラス玉って聞いて、ショックを受けたら、おれさまの子分にするぜ、いいな!」

再びヒッキーの描いたドアからユミが自分の部屋に戻ると、時間は既に朝になっていた。ユミは腹をくくって指輪のことをママに話す……が、ママは、ダイヤが偽物であることを知っていたのだ。それでもパパからもらった思い出の指輪は、ママにとっては「ダイヤモンドよりかがやく、大切な指輪」だった。ユミの指に指輪が戻ってくる。

「よかったね、ユミちゃん…」「ちぇ、負けちまったぜ…」

どこからか、ヒッキーとヤムヤムの声がした。

というわけで、前回が大切にされなかった物のお話だったら、今回は大切にされている物からのアプローチ。ママの指輪はまだまだMHSには無縁な存在だったわけですが、高価なダイヤモンドだから大切なのではなくそのもの自体に大切な思い出があるのだと言ってもらえて、MHSの生徒にはどんなにかうらやましいことだろうか。

まあ、だからこそ今回ヒッキーはあくまで見守る立場の部外者という感じが強かったのかもしれない。どうもやはりこのヒッキー、自分自身がフシギの勉強中の身という感じがしないのよね。MHS入学に片足つっこんでる後輩を見つけ出して、保護者(持ち主)を説得する進路相談員って感じじゃない?