Graphics World

アイ・ディ・ジー・ジャパン『Graphics World』1998年5月号~1999年1月号にて、『GREGORY HORROR SHOW』というタイトルで読み物が連載されていた。GHSのアニメ第1シーズンの原型みたいなお話なんですが、この連載に至る経緯とか調べたので順を追って書く。


ペーパークラフトとキューブキャラ

グラフィックスワールドの前身である雑誌『Macworld Japan』1998年2月号にイワタナオミのインタビューが掲載されていたのでちょっと引用。


ペーパークラフトはもともと好きだったんですが(中略)僕はもともと絵本作家ですから、これにストーリーを絡ませたいというのがあって、それで作ったのが「ペコラ(※1)」ですね。それにメインで使っているIllustratorというソフトが、この世界にぴったりと合っていたと思います。僕はかっちりしているのが好きで、その辺の潔さみたいなものがいい。 (p68)

※1…連載に先立って『ペーパーペコラ』というCD-ROMが出ており、言わずもがな後のミルキーカートゥーンのアニメ『ペコラ』のキャラクターですが、そのペーパークラフトやデジタル絵本が収録されていた


つまり、四角いキャラクターが先にあってそれがたまたまペーパークラフトにもなったというのではなく、ペーパークラフトを作る前提で生まれたからこういう形のキャラクターになった、ということなのだそうだ。

で、もともとこのマックワールド誌ではCGを取り入れたクリエイターとしてイワタナオミが連載を持っていて、その中に登場したオリジナルキャラクターの物語が発展してグレゴリーホラーショーの話につながったらしい。


「ドローテクニック」連載

GHSの話に入る前に、その前身となったイワタナオミの連載についてご紹介したいと思います。

Macintoshの専門情報誌である『Macworld Japan』に掲載されていた『ドローテクニック』というコーナー。Adobe Illustratorを使ってCGのキャラクターを描いたりペーパークラフトの展開図を作ったりするというもので、1997年10月号から1998年4月号まで全7回、見開き2ページずつ掲載されていました。

……が、これが真面目(?)にテクニックの話をしていたのはせいぜい最初の2回くらいで、次第に登場キャラクターが暴走を始め話はとんでもない方向に進んでいく。テンションがもう後戻りできないあたりまで来たところで、掲載誌自体が廃刊・リニューアルとなり連載も終了。そんでこのマックワールドの後継誌で連載を引き継いで始まったのがGHSの読み物だったわけですが、この『ドローテクニック』もふつうに面白いのでまずはそっちの話をさせてくれ。


Macの雑誌なので(クラリスワークスとか懐かしすぎる名前が出てきて沸騰しそうになった)、Macintoshの筐体のボディを持つ白熊の子供"マック・ベア"が登場します。Macってもちろん1997年当時のMacだよ、iMacも出る以前のあのグレーの箱。ずっしりした箱体形はキューブキャラクターの四角い体にまさにおあつらえ向きなのだ。連載第1回ではキャラクターのラフ案から実際にマック・ベアのCGイラストを作り、第2回では出来上がったCGからペーパークラフトの展開図を起こしてみるところまで解説していきます。

マック・ベアは眠そうなまぶたが特徴的な「都合が悪くなるとすぐにフリーズしてしまうかわいい(?)やつ」。彼一人だけだとかわいそうだから、といって第3回で"ウインドウズ・ベア"なる新キャラが登場するんですが、このあたりから方向性が怪しくなってくる。「Windowsといえばビジネスマン、メガネ、気難しい、眉間にシワ…」ということで、不機嫌そうなインテリメガネ君が誕生するのですが。

W「僕と会話がしたいんならちゃんとアポ取ってくれなくちゃ無理だよ。僕は君と違って暇じゃないんだからね!」

M「……」

W「そんなに緊張しなくてもいいさ。君がどうしてもって言うのなら、僕の忙しいスケジュールを無理やり空けてあげないこともないけどね」

M「……」

W「用があるなら早く言ってよ」

M「アリさんどこ行くのかな…」

W「人の話聞けよ…」

てな感じでドローテクニックの話は二の次になり、焦点はクマたちの物語に急速にシフトしていくのであった。連載初回でも、キャラクターを作るときはあらかじめ性格やストーリーを考えておくといい、なんて話をしてたんですが、多分こうやって世界観がパッと広がっちゃうところが作家の作家たる部分なんだろうなあ。


第4回は、巷で耳にした(?)マック・ベアのうわさを基に、彼の部屋をペーパークラフトで再現してみるという話。その生活の実態はいかなるものかというと「安アパートに一人で住んでいるそうである。家賃を滞納しているという話もある」「部屋には日差しの当たらない窓が2つあり、しっくいが剥がれ落ちた壁にはセンスの悪い絵が掛けられているという」……いかにもイワタナオミのキャラ紹介って感じの文章で大変ワクワクします。しかも普段は笑顔も見せたことのないマック・ベアが、部屋では大好物のベアーズ・ピザをひとりでニヤニヤしながら食っているらしい。よく見ると窓の外には、そんなマック・ベアを気にしてこっそり様子を伺っているウインドウズ・ベアの姿が……「素直に話せばきっと友達になれると思うのだが」。ツンデレか!!

このあたりからだんだん、記事の書き手としての一人称であったはずの「僕」があたかもこの世界の登場人物のようにマック・ベアに語りかけたりしていて、それが結果的にGHS連載のオチへの前振りにもなっている?のが見逃せないとこ。


第5回ではマック・ベアは極悪走り屋集団"マッド・ベア"のステッカーを貼ったスクーターで暴走(?)を始め、ウインドウズ・ベアの乗っていた55年型シェビーを壊してしまう。2人とも子供のはずなのに免許を持ってたのか?……とか冷静にツッコミ入れてる場合じゃないです。どうしてこうなった。


第6回。"マッド・ベア"と対立するグループ"ピンク・グリズリー"との間で抗争が勃発。「彼らの略奪に遭い、潰されたお菓子屋は数知れない。難を逃れたのは和菓子屋だけだ」という凶悪なこの2軍団は、"おもちゃのベアーズ"建設予定地で一堂に会し、"ボリショイの熊"という地獄のゲーム(「頭のヘルメットにはゴム風船、手にはピコピコハンマー、追いつかれ風船を割られた者には死あるのみ……」)を始めようとしていた。が、問題はマック・ベアである。彼はなんとどさくさに紛れて両チームから現金を奪って逃げたのだ。

やっと見つかったマック・ベアは、第3埠頭の古い桟橋でタバコ(ではなく、シガレットチョコ)をくわえ、不思議学芸会のときのウソップみたいな格好でたたずんでいた。かわいかったマック・ベアのえげつない所業に動揺する「僕」。一方、この有事にウインドウズ・ベアは何をしているのかと思えば……彼は変わり果てた姿で桟橋の下の水面に漂っているのだった……。

もう本当に何の話をしてるのかって感じなんですけど、一応毎回新しいペーパークラフトとその解説があります。今回紹介されているのは桟橋のペーパークラフトで、「海面に漂う変わり果てたウインドウズ・ベア」のデータとその作り方まで載ってるんですが、「僕はこんなものを作るために連載してきたつもりはないのだが…」ってそりゃ読者だってこんなもん見るつもりなかったわ!! ほんとこういうところが大好きだよ。

そんなウインドウズ・ベアですが、「確かに運のなさそうな感じはしていたが、こんな最後を迎えるとは…」「そのセンスの悪い筐体を海底に横たえ、数匹のイソギンチャクを背負いながら朽ち果てていくのだろうか…」とか散々言われつつ、結局漁船の網に引っかかって一命は取り留めたのであった。


というわけで最終回です。桟橋で途方に暮れること1カ月(※月刊誌なので)、突然ネイティブアメリカン風の謎の熊がバナナボートに乗って現れた。バナナボートといっても本物のバナナでできたバナナボート、バナナ、そうです、ヤムヤムです。このバナナに貼ってあるシールのロゴがヤムヤムの頭についているのと同じ"XXXBANANA"(「まるでどこかのアダルトサイトじゃないか!」)なのだ。ただしこちらのマークはヤムヤムのものとは色違いで、バナナのシルエットがタバコをくわえている。

「ネイティブな熊」は不気味な杖を突き上げて奇声を出したり踊ったり(「アップルの転覆を謀る秘密結社か? 待てよ、そんなことを企てる必要もないじゃないか!」隔世の感あるジョーク…)するが、マック・ベアは一向に動じない。と思ったら今度はマック・ベアが奪った金ごとボートに乗り込み、「僕」が追いかける隙すら与えず、そのままどこへともなく去ってしまった。マック・ベアは一体どこへ姿を消したのか、ネイティブな熊とは何者だったのか……全ては謎のまま、あえなく連載は幕を閉じるのであった。なんつー話だ!

こうして混沌のうちに幕切れを迎えた『ドローテクニック』だったわけですが、掲載誌がタイトルを変えるのに伴い内容も一新され、後を引き継いだグラフィックスワールド誌で『グレゴリーホラーショー』の連載が始まることとなったのでした。


そしてグレゴリーハウスへ

前置き(?)が長くなりましたが、ここからやっとGHSの話です。マックワールド連載の最後で行方をくらましたマック・ベアを探すため、「僕」はウインドウズ・ベアの55年型シェビーを借りて旅に出る。が、途中で車が止まってしまい、その日の宿を求めて偶然見つけたのが「グレゴリーハウス」だった……。

「よし、彼を探しに行こう! もう一度彼に会い正しいキャラクターへと導いてやろう! そう決意した僕はこの連載の中で彼を探す旅に出ることにしたのだ。」

『ドローテクニック』連載の続編のような形で始まったグラフィックスワールドの連載ですが、こちらは最初から読み物がメインで、その内容もほぼGHSアニメ第1シーズンのプロトタイプ。全9話で、クローズアップされたキャラクターは以下の通り。

1:グレゴリー

2:ネコゾンビ

3:キャサリン

4:ミイラ夫妻

5:にせマック・ベア

6:パブリックフォン

7:エンジェル&デビルドッグ

8:審判小僧

9:死神

もちろんペーパークラフトも健在で、各回の登場キャラクターのデータが付録のCD-ROMや公式サイトで見られるようになっていました。これが2018年8月現在原作者公式サイトで公開されているものと基本的には全然変わってないっぽくて、ほんとに当時から完成されたキャラクターデザインだったんだなあ〜と今さらのように感心してしまったのであった。


第1話:マック・ベアを探せ

グレゴリーハウスにようこそ…

お客様は201号室でございます。

ゴホ…ゴホ…

けしてほかのお部屋をのぞかぬようお願いいたします。

お客様ご自身のためでございます。

ヒッヒッヒッ…

グレゴリーが世にデビューした最初の一ページがおそらくこれだったのではないか。第1話は先述のようなあらましで「僕」がグレゴリーに出会うところまでのお話。気味の悪いネズミの主人は、20年間全くブレることのないうさんくささで「僕」を宿屋に迎え入れるのであった。


第2話:奇妙な物音

もっとよく見たいニャア…

でも、目が開かないニャン…

何か食べたいニャア…

でも、口が開かないニャン…

オイラ、生きてるのかニャ…?

死んでるのかニャ…?

もう、どうでもいいニャア…

続きましてネコゾンビです。隣の202号室から聞こえてくる物音が気になって鍵穴を覗いてみると、中にいたのは継ぎはぎだらけのネコ。このへんはまるっきりアニメそのまんまだ。


第3話:看護婦キャサリン

災難でしたわねぇ〜チロチロ。

でも、あなたとてもラッキー!

ワタシ看護婦なのよチロチロ。

さあ、吸…採血しなくっちゃ。

人間の血なんてひさしぶりだわぁ〜。

…………

ジョークよ、ジョーク、チロチロ。

グレゴリーが夜食にどうぞと怪しげなスープを持ってきた。思い切って口にしてみたら意外と味は良く、ペロッと平らげてしまったはいいが、途端に目が回ってきて……。

「僕」が目を覚ましてみると、そこにいたのはピンクのトカゲ。となればあとはご存知の通り、採血です。あなたラッキーよ! ぶっとい注射器に血を吸われ再び気を失う「僕」は、薄れる意識の中でマック・ベアのモニターを見る。


第4話:ミイラ犬

ハッハッハッご病気ですか?

私も頭痛に悩まされているんですよ。

どうやらカゼでもひいたようですなあ。

そうそう、これも何かの縁。

自慢の女房を紹介しましょう。

ちょっと痩せ過ぎですが、昔はこれがまたいい女でしてな…

再び目を覚ますと、今度は包帯を巻いた犬のご登場。ミイラパパ(ここでは「ミイラ犬」としか書かれてないけど)、頭に重傷こそ負ってますが、おなじみの青龍刀が刺さってません。

この犬ときたら「どうされましたか?」なんて声かけといて相手の話は聞く気すら見せず、「家の女房も病弱でして、ダイエットをしてる訳でもないのですが、ガリガリに痩せていまして」とかなんとか言って妻まで連れてきた。

その妻というのがまた、頭に立派な花が咲いていて、どんどん養分を吸い取られているのだ。ミイラママ、どうしてアニメでは出番なくなったんだろうなあ。夫婦そろって聞きたくもない自分語りの病気自慢を聞かせてくれた後、トドメに「私のお友達をご紹介しますわ!」と言って看護婦を呼び出してきた。あなたラッキーよ!

シェフこそ出てきませんが、このあたりの一連の展開、この連載でもアニメでもこの後のヤングマガジンアッパーズに連載されたマンガでもほぼ同じ流れなので、もういっそこいつら全員グルなんじゃないかって思えてきた。


第5話:突然の来客

よう!ひさしぶり。

オレだよ、オレ、マック・ベアだよ。

ひでえなあ、忘れちゃったの?

もう、どっかの新聞とってる?

1ヶ月でいいからさ、とってくんない。

洗剤つけちゃうからさ。

つれないこと言うなよ、友達だろ…

「ボク」が早くホテルを抜け出そうと焦っていると、再び訪問者が。部屋に入るなりやたらと新聞購読を勧誘してくる「マック・ベア」は、ニキビ面で出っ歯、吊り目にメガネをかけている……お前、ちょっと見ん間に雰囲気変わったんとちゃう?

「偽物ってちょっとひどくない? あんたの捜してるマック・ベアじゃないけど、オレもマック・ベアなんだよね。そりゃあ騙したのは悪かったけどさ」

で、洗剤おまけするからと言って無理やり新聞の契約を結ばせて、そのまま洗剤も置かずに帰っていきやがった。本物のマック・ベアから預かったという手紙も渡されたが、開いてみると見事に文字化け。「Macだから仕方ない、といえばそれまでだが」。脱力する「ボク」。


第6話:秘密のナンバー

こんなシワだらけの紙幣じゃダメだと言ってるでしょ!

一応もらっておくけど。

ダメダメ、そんな渋い顔して入れたってつないであげないよ!

一応もらっておくけど。

笑顔でもう一度入れてください。

電話をかけてみようとホテルを歩き回ってやっと見つけた公衆電話。が、コインを入れてもつながらない。クシャクシャの紙幣を入れるがやっぱりダメ。綺麗な紙幣を探し出して入れてみても、「もっと嬉しそうな顔をして新たな紙幣をお入れください」。

パブリックフォン、アニメ以上にタチ悪いです。


第7話:舞い降りた天使

ほら、ドアを開けて! なに迷ってるの?

もお、にえきらない人ね…

この状況から逃げ出したいって望んだのはあなたでしょ!

天国か、地獄か、それはあなたの運次第よ!

ん〜、地獄の方がちょっと確率高いかもね。

でも、いいじゃない、今も地獄なんだから。

もう何もかもどうでもよくなりかけたそのとき、犬の天使が部屋に現れた。……よく考えたら、ミイラも犬で天使も犬なんだな、このホテル。

「あなたは逃げ出したかっただけなのよ。現実からね。マック・ベアを捜すなんて口実よ!」

「グレゴリーハウスは意識が作り出した隠れ家なのよ!」

「現実を見つめるのよ! まだ間に合うわ。もちろんあなたにその意志があればね…」

現実には戻りたい。だけど今となってはもはやグレゴリーハウスの方が「現実」のようなものなのだ。「現実」を消し去る自信もなく、吹っ切れない「ボク」の前にドアが現れた。天国か地獄か?

「どっちに続いているかはあなたの運…えーと、意志しだいよ!」

天使の声に勇気を奮い立たされ、ドアに足を踏み入れる「ボク」。その瞬間、犬は悪魔に姿を変える。

「いいじゃない地獄でも。今だって結構な地獄でしょ?」


第8話:僕のあるべき姿

ぼくの名前を知ってるかい〜♪

審判小僧って言うんだよ〜♪

本当の自分を見失っているあなた。

真実と虚栄の間でもがき苦しんでいるそこの君。私におまかせあれ!

人の気持ちを無視していきなりジャッジ!

さあ、今日も元気にジャッジメント!

この「人の気持ちを無視していきなりジャッジ!」ってセリフ、語呂の良さも言ってることのひどさも最高じゃないですか? ぼくとか私とか一人称が揺れまくってるのもめちゃくちゃ好き……。

ドアの向こうの漆黒の中を落ちていく「ボク」の前に現れた審判小僧。適当に2回ほどジャッジして「はい、ガックン!」するまではまあいつも通りなんですけど、問題はその後ですよヤバいのは。

「…可能性のことを言ってるんだよ」

審判小僧は急に声を押さえ語り出した。

「君にその可能性があることを受け入れたうえで先に進むんだ」

そして「ボク」は今度はただ落ちるのではなく、自らトンネルの先へ向かっていく。「少しでも可能性が残されているならボクは進もう。その先に何が待ち受けていてもいいじゃないか」「審判小僧の間の抜けた歌声が次第に小さくなっていった」。


最終回:死に神の出迎え

断ち切ったろか〜。

あんさんのその思い断ち切ったろか〜。

世の中せちがらいもんや。

うじうじ迷っとったってろくなことありゃしまへんで。

わいのカマでバッサリ断ち切ったろか〜。

ほないくで〜!

もうすぐ出口というところで、何かがまとわりついて先へ進むことができない。突然現れた死神に言われて見てみれば、「そこにはエクトプラズムのような姿のグレゴリーが!!」。

「あれはあんさんのあの世界を断ち切れぬ心や…」

「現実というても夢の楽園とちゃうんやで。あんさんが逃げ出したつまらん現実なんやで。また繰り返しになるんとちゃうか?」

幸か不幸か、あまり紙幅に余裕のある連載でもないので、このあたりはサクッと前向きに決断して進んでいきます。「僕」は「現実を受け入れるんだ。そして変わるんだ!」と未練を断ち切って日常に戻ることを決意する。振り下ろされるカマ。白い光に吸い込まれていく「僕」……。

……気がつくとフリーズしたパソコン、明るくなり始めている空、仕上げなければいけない原稿、そこにあるのは何もかも代わり映えのしない日常だった。現実に戻ってきた「僕」は、マック・ベアのことも、グレゴリーハウスのことも、何事もなかったかのように作業に取り掛かるのであった。


この結末、ドローテクニックから脱線しまくって最後は夢オチで終了って言っちゃえばそこまでなんですけど、もっとメタ的に捉えると、説明のために作っただけのマック・ベアというキャラクターの世界に作者自身が入り込んでしまって、そこから「現実」に戻ってくるという物語なんですよね。ここでいう「現実」って、このお話の中のキャラクターとして単に妄想を抜け出して夢から覚めるっていう意味じゃなくて、キャラクターの一人として振舞う状態から、読者である我々と同じ次元にいる書き手に戻るっていう、文字通りの「現実」のことでしょう。作者と語り手と一登場人物がごっちゃになっていく感じ、そこから決別するときの無情な引き裂き方、そのへんまさにGHSって感じじゃないですか?