#27 アンプーとワット

ジーニー、他の生徒に対してはだいたいさん付けか呼び捨てなのに、ワットだけはなぜかワットくんワットくんと呼ぶので、なんかワットにはくんを付けなくてはならないような気がしてしまう。


第27話「アンプーとワット」

(脚本:大竹康師、絵コンテ:頼兼和男)


スケッチブックとイーゼルを抱えて校庭に飛び出すヒッキーたち……は、今回はこれきりです。極悪トリオも親分のみ不在というレアケース。「あらよっと」と絵の具を操るチュービーの横で、クレヨンを広げつつスプレーでエディを描くウソップ。さすがに抽象画に過ぎるのでは……と思っていたらツッコミが入った。

「下手すぎて何描いてるのかちっとも分からないズラ!」

「そんなお絵描きで芸術とは笑わせるぜ!」

ここで一瞬ウソップの画用紙を留めるクリップ(それぞれ椅子の背と同じ形)がアンプーの形になっているミスを発見してしまった。笑われてマジになっちゃうのはともかく、他人の絵に手を出すのはよくないよ! 絵の具とスプレーの応酬が始まり、2人は怒ったエディに丸ごと食われてしまう。

とばっちりを受けCWGXは場所を変えることに。ワットは珍しくアンプーと別行動どころか、今日はアンプーがどこにいるのかも知らないらしい。


そのアンプーは悲しみ泉の前で画用紙とにらめっこ。一歩引いて絵を見ながら頭を掻く仕草がかわいい。

「今日はひとりぼっちで写生ですか。かわいそうに……」

「いいんだプー。絵を描くのは苦手だから、今日は一人でゆっくり描くんだプー」

が、早速ワットが「見せて見せて!」とぶち壊しに来る。描きかけの絵なんて一番人には見られたくないものなのにね……。

「このままだと暗くて描きづらいですねえ」

「じゃ~、僕たちが照らしてあげるよ! ねっアンプー!」

ワットの明るい表情と、断りきれずに顔中でがっかりしているアンプーの対比がつらい。みんなも喜ぶ中、悲しみの泉だけが「かわいそうなアンプー…」とそっとつぶやく。


アンプーは8色入りのクレヨンにもまだほとんど手を付けていない様子ですが、ワットのクレヨンはもう箱の中で自由奔放に散らばっています。鼻歌まで歌ってノリノリのワットくん、頼まれてはあっちを照らしこっちを照らし、アンプーはそのたびに手を止めさせられてしまう。

「オッケージュノ!」

「任せてジーニー!」

「了解ー!」

「はいは~い!」

ジュノは大胆に紙のど真ん中に泉さんの顔から描いていて、意外?と絵心のあるジーニーは柵や星空まで描き込みも細かく、ワットは影のつけ方も本格的で見るからにうまい人の絵という感じ。アンプーはというと、申し訳程度に描いてあるいびつな丸の他、ほとんど筆が進んでいない。

「あれ、アンプーまだ終わってないの? 早くしないと時間なくなっちゃうよ!」

「誰のせいだと思ってるんだプー……」

ワットはアンプーとツーカーの仲だからこそ無意識に煽るようなこと言えちゃうんだよね……。周りが次々と完成させていく中、焦るアンプーに追い打ちをかけるようにチャイムが鳴る。


ちょっと背の高い教卓にピョンと絵を提出していく生徒たち、インキーのは紫の背景にコリアラの木っぽい色合いで校庭かなと思うんですが、次のウソップのそれは、黄色くて横長で赤と黒って……お前エディ描くのは諦めたのかよ!!

しかめ面で続きを描くアンプーですが、相変わらず黒一色から進展がない。「僕も手伝うよ!」とワットが現れたときの不穏なBGM、これ普段は極悪トリオかドッキーが湧くときの曲だよ!! とうとうワットを振り飛ばしてアンプーは叫ぶ。

「ワットがいると邪魔なんだプー!!」

「邪魔邪魔ってそんなに言わなくても……。僕は、ただ……」

「邪魔なものは邪魔なんだプー! 僕がいなきゃ光ることもできないくせに、そんなの手伝いでもなんでもないプー!」

今までさんざん一人で光っといてアンプーがいなきゃもねえだろって話なんですが、まあ今回はそういう設定ってことだから、そうなんだ。アンプーの背中にちらっと目をやりつつ立ち去るワット……


で相談を持ちかけた相手がジーニーなんですが、「アンプーなしで光る方法」という時点で問題がずれちゃってるんですよね。アンプーは別に、ワットが自分で光れないことで怒ったわけじゃないのに。放っておいてほしかったというアンプーの気持ちを分かってない以上、ワットがどう手伝っても、たとえ手伝った方がアンプーのためになるのだとしても、それはアンプーの態度をかえって頑なにさせるだけなのだ。

ジーニーというキャラクターも悪い意味でうまく働いていて、自分に課せられた「ワットを光らせる」問題については親身に付き合ってくれるのだけど、肝心の「ケンカの解決」には全くピントが合っていないから、ありがた迷惑を助長してしまうのですよね。


そのジーニーが持ち出したのはPICTORIAL BOOKという分厚い全集本の第7巻"SCIENCE"。裏表紙の学帽かぶったドクロマークがいい感じ。理科の教科書っぽい『電気と磁界』のページを、ワットが横からのぞき込む。

磁石とコイルがあれば電気が流れる、というわけでマグネロさんの出番です。そういえばマグネロ「さん」でワット「くん」なんだな。「いきなりなんの真似だマグ」とマグネロが大きなコイルの中で回転させられているところへ、間が悪くアンプーがやって来る。

「あ、アンプー、見て見て! 僕、光ってるんだよ!」

「そんな光じゃちっとも明るくないプー」

そこじゃないのに、光り方の問題じゃないのに、本音はこっちなのに!

「僕がこんなに苦労してるのに、ワットのやつ楽しそうだプー……!」

一人で描いてもうまくいかず、うまくいかなくなればなるほど意地になってますます差し伸べられる手を拒むという悪循環。ジーニーが「あら?」と明らかに分かってない反応なのがまた……。


マグネロもすっかり目を回してしまったマグネロさん、今回は完全に巻き込まれ不運です。理科のお勉強回でもある今回、ジーニーは再びさっきの本を引っぱり出す。

「ダムがどうかしたマグか?」

「フッフッフ……マグネロさん、読みが甘いですよ。水力発電です!」

もったいぶって眼鏡を光らせるジーニー。水力と言えば泉!……って、またよりによってそんな場所!

大がかりな水車を運びながら、一瞬微妙な笑みで立ち止まる3人。案の定、アンプーは一層イライラを募らせる。ため息つきつつ付き合ってくれるマグネロですが、今度は冷たい泉の水を頭からかぶる羽目に。強烈な電力を得たワットはびかびか光り始める。片足上げて喜んでる姿が空気読まずにかわいいんだけど。

明るくなるほど悲しみの泉は涙を流し、水量が増えるほど明るくなり、とうとう「まぶしすぎて悲しい~!」と水をまき散らしてしまう。泉さん今回はちょっと、お咎めなしなのがズルいですね……真っ先に冷たい泉の中に顔から倒れ込むマグネロ、本当に不憫。辺り一帯ずぶ濡れの中、にじんでダメになった画用紙がやるせない……

「もう……いい加減にしてくれプー! もう二度と顔も見たくないプー!!」

怒りでスパークするアンプーに、ワットはかける言葉も見つからない。気まずい雰囲気の中置いていかれるマグネロが本当に本当に不憫。


ここで3人に助けを求められ、「先生に考えがある」と言ってくれるティゲール先生の頼もしさです。

いよいよ手つきが乱暴になってきたアンプー、もはや一人で絵を描きたいでもなく、ワットを追い払いたいという気持ちにすり替わってしまっている。違うのにね、本当は一人で描きたかったわけでもなくて、楽しく描きたかっただけなのに。絵が苦手だから、他人の目があっては楽しく描くことができないと思っていただけで。

「ワットなんかいなくたって一人でできるプー!」

と言いつつ思い出すのはワットのことばかり……そこへ襲ってくるつむじ風。……つむじ風!?

風に運ばれて、画用紙は地下通路に入っていってしまった。後を追って飛び込むアンプー。こういう入り口はお墓に何カ所もありますけど、ケムリンや秘密のキッチンのときのように危険な場所もあれば、わりかし自由に出入りできる扉もあるんでしょうか。


で、いきなり職員室に現れるドッキーなんですけど、なんでドッキーなんだよ! ティゲール先生のクラスでもないのに、ファンサービスか! しかもつむじ風の動きをコントロールして画用紙を隠すなんて器用な真似!

「先生、アンプーの画用紙なんか隠してどうするつもりなんだよ」

「いいからいいから、ドッキーご苦労だったな」

先生にもタメ口のドッキー、マグネロに近寄るときに挨拶するように手を挙げてるのが芸コマ。

ティゲール先生は直接2人を諭すでもなく、間接的に仲直りを促すわけでもなく、とりあえず絵を吹っ飛ばすからそれをきっかけにして自分たちでなんとかしろ!!ってだいぶ力技なんですけど、大人が介入せずあくまで2人の力で解決に導くのはスマートでかっこいい。「ワットの出番」と言われて理解できていないジーニーも、いくら知識があっても立場は子供、頼れる大人としてのティゲール先生との対比が映えるのだ。


先生に言われて泉にやって来たワットですが、肝心のアンプーがいない。だからって明らかに人が隠れられるサイズじゃないイーゼルの後ろを探すのは、これをあざといって言うんですか、そうですか。

「アンプーってほんとにかわいそう……真っ暗な中ひとりぼっちで、かわいそう……」

そう、アンプーはひとりぼっちで画用紙を探しているのだ。真っ暗な中、つい口をついて出てくる「こんなときワットがいてくれたら……」。ここで偶然追いついたのか、それとも黙って後をついてきていたのか、ワットはアンプーの真後ろにいた。

「僕が照らすからとにかく絵を探そう。アンプーは迷惑かもしれないけど……」

「……分かったプー」


結局絵は見つからなかった。アンプーの「いいよ、もう」のカラッとして投げやりな言い方が本当に好き……

「ごめん、結局何の役にも立たなくて……」

そうじゃないんだよね、ワットは役に立たないからダメだったんじゃなくて、アンプーの気持ちを考えずに役に立とうとしたから怒らせちゃったんだよね。だけどアンプーはもう気づいたから。ワットと一緒に楽しくできるなら、それが一番いいって思い出したから。ぽろぽろ泣いてしまうワットくんに、アンプーは今回初めての笑顔を見せる。

「もう怒ってないプー。よし、新しい絵を書き直すプー! ワット、照らしてくれるプーか」


カフェテリアに貼り出された写生大会の絵は、悲しみの泉が5人分(塗り方が雑なのが多分J、水の表現がプロっぽいのがおそらくG、あとCWX)、エディの頭らしきもの、ふくろうじじい、黒っぽくておどろおどろしいお墓、緻密な校舎の全景、水飲み場が2枚ほど、ハエが飛び交うさわやかなヤムヤム(多分Uの絵)、月とユルマキ草、コリアラの木、ロッソとパパ、ぽつねんと煙を出しているエントン、ラブレターを持って真っ赤になっているインキーと思われるもの、リディーちゃん、などが確認できました。そしてやっぱりちゃんと27人分ある。

壁にぶら下がるスピモンとか、「マグー!」って返事するマグネロとか、「ワットくん!」に「やあ!」と答えるワットとか、そのワットくんの手を引いて絵を指すジーニーとか、かわいいだらけです。ちょっと遠くから控えめに見ているアンプーを見つけ、飛んで行くワット。

「アンプーすごい! 最優秀賞だよ!」

「ありがとう!」

「僕も、ありがとう!」

中央に輝いているのは、アンプーとワット2人を描いた明るい色づかいの絵。あ、絵は別に写生じゃなくてもいいんだ……! でも意地になって写生した絵よりも、好きなものに対する気持ちがのびのび表れてる絵の方が幸せなんだよね。雨降って地固まるのお手本のようなお話でした。やっぱり2人は最高のコンビだマグ!


頑固なアンプーと無邪気すぎるワットなので、ケンカといっても今回ワットの方はアンプーに対して一切怒ってないんですよね。だからアンプーが機嫌を直したら仲直りだし、ワットはアンプーの言い分をちゃんと理解したわけじゃないので、また同じケンカを繰り返さないかちょっと心配ではある……でも多分そのたびに同じように仲直りして、前より仲良くなれる2人なんでしょう。

ラストシーン、さりげなく歩み寄ってくるドッキーがポイントだと思いました。推されている。


ふしぎコレクション「ワットの電球」

今夜のふしぎはワットじゃ!

電球が切れたとき、ワットはどうやって新しい電球に取り替えるのか?

「さあ、僕にもわかんない~」

本人も校長も知らない場所からワットの頭を取ってくるカボ、一体何者なんだよ……。


アイキャッチ:N

くるっと一回転したらごっついビデオカメラが出てくるのいいよね……。


<まえつぎ>