#41 ヤムヤムのふしぎ

オープニング『ハッピーミステリー』で使われている映像の中ではこの辺りが最終盤のエピソード、なので初回放送時はこの頃から主題歌差し替えになったはずなんだ……。


第41話「ヤムヤムのふしぎ」

(脚本:ミシェル・マナカ/ケビン・ポール・ショー・プロデン、絵コンテ:三浦隆子)


噴水の縁に並んで空を見上げるヒッキーとリディー。その活動、一般的にはデートって呼ぶやつだと思う。そしてこの学校ふつうにオーロラが見えるらしい。ヒッキーが空中に赤と青の猫のシルエットを描くと、2匹は絡み合って口を寄せ、ハートマークを浮かべていいムードに……。

「かわいいー!」

「どお、ロマンチックでしょう」

と鼻をこするヒッキー、何がロマンチックか分かって計算ずくでやってるあたり割とリアリストだと思うのよね。


チュービーは「神秘的」なんて難しい言葉よく知ってるねえ、ウソップ「心が洗われる」なんて語彙を使いこなせてえらいねえ。極悪トリオも屋根の上でオーロラを眺めているが、ヤムヤムはロマンチックとは似ても似つかぬにおいを発しながら「なんで俺様のリディーちゃんがいつもヒッキーと仲良しなんだよっ!」……仲良しって言うの、かわいいね。

「リディーちゃんはヒッキーを好きってわけじゃないんですから」

「どうして分かる!?」

「えーと……だって、それは……リディーちゃんはヒッキーじゃなくて、ヒッキーの作るふしぎが好きなんですよ!」

本当のことを知って知らずか一瞬言葉に詰まるものの、ここで失言はしないのがウソップの頭の回るところ。

「そうそうそうズラ! 親分もロマンチックなふしぎを作れば、リディーちゃんのハートをゲットできるズラよ」

ふしぎ作りって要するに勉強なんだけど、リディーちゃんのためならそれも頑張ってしまうヤムヤムなのだ。


「……でね、ヒッキーったらその2匹の猫にチューさせたのよ!」

「へ~すてきじゃない!」

「ヒッキーって意外とロマンチストよね」

いつもの女子3人組でもヒッキーは大評判。ヤムヤムはリディーを呼び止め、「ゲヘヘ、これ、あげる」と黒いハートマークのついた紙を手渡す。茶化されたリディーは「あんたたちうるさいわね……」と顔をしかめつつ、照れる様子は全くないのがシビアだ。

ラブレター、一体何書いてたんだろうか……ハエでハートマーク作ってロマンチックって、不器用というか、けなげというか、涙ぐましいにもほどがある。ハエに囲まれたリディーたちは気持ち悪がって逃げてしまった。残されたぐちゃぐちゃの紙が切ない。


ふられたヤムヤムは相当傷心のようで、ウソップに肩を揺すられてもうつむいたまま。チュービーがおごってくれたプランクトンジュースがキラキラ音を立てて光る。

「……じゃあ、親分の得意技を整理しましょう。親分はスパイバエを操れる」

「ハエ語もぺらぺらズラ!」

「なんたってバナナの中身は腐ってるし」

「そのくささといったら天下一品ズラ!…………あ」

ずっと頬杖ついてるヤムヤム、40話過ぎて初めてここまでしょげる姿を見た気がする……

「どれもこれもロマンチックからは程遠いよな……しょせん汚いフシギか、くさいフシギしか俺様にはできねえ……」


チュービーとウソップはロマンチックなふしぎを作って親分にプレゼントしようと張り切ります。美術室、タージ・マハルとかスフィンクスの置物?があるの気になるんですが。チュービーが描いたリディーの肖像画はもはや不思議じゃなくてただの絵ですがふつうにうまい。が、絵の具の使いすぎでチュービーは貧血を起こし、真っ青になって頭からキャンバスに突っ込んでしまった。


「親分に約束したもののなんにも思いつかないぜ。何かヒントはねえかなあ……」

ウソップはロッカーに手をかけるが、建て付けが悪いのか詰めすぎなのかなかなか開かない。なぜか上に置かれていた頭蓋骨が転げ落ちてきて頭に命中、偶然出たスプレーが月の光を浴び、ほの暗い教室でキラキラ光る。

「さっきのオーロラみたいじゃん! シシシシ、親分喜ぶぞお……」


ヒッキー、今度は女子3人にせがまれて蝶々を2匹描いてみせる。「ステキー!」「もっともっと!」大興奮のところをぶち壊しに来るハエ軍団。「これは失礼、ちょっと邪魔だったもんでねえ」と木箱の台を用意するヤムヤム、「俺様の新しいふしぎの方が百倍ロマンチックなのだ」と自信満々です。

「悪いけどもうハエは嫌よ?」

「大丈夫。とってもキレイなんだから! それでは、俺様のふしぎ『夜空の光』どうぞ」

星やハートや雪の結晶の形の光が骨山の中から流れてくる。ヒッキー、さっきまで怒りでわなわな震えていたのに、ケロッと感心しているところが素直でいい。

「誰のふしぎだモン?」

「ヤムヤムだって!」

「うそお~」

骨山の中に隠れたウソップが型にスプレーを吹き付け、チュービーがうちわで扇いで送り出しているのだ。が、「もっと大きなのを見せてやるズラ!」なんて調子に乗るから、失敗して正体がバレてしまった。チュービーのくしゃみかわいい。

「人のふしぎなのに自分のものだって言うなんて……!」

「見損なったね」

「ま、待って、これはなにかのまちがい!」

ふしぎ自体は素晴らしい出来だったんだから、俺様のふしぎってウソさえつかなければ良かったのにね……むしろみんなウソップの実力は認めてやってもいいようなものを、とは思うがしかし、ウソップ本人はみんなに褒められるより親分ひとりが満足してくれる方がうれしいんだよな多分……。


「『人のふしぎを自分のものだと言ってはいけない』これはミッドナイトホラースクール校則第1条ですよ!」

「はあい……」

この学校そもそも校則なんてあったのか。そりゃまあ、剽窃はダメって一番の基本ですもんね。と思えばなおさらジーキ伯爵のやったことは悪辣だったのだなあ……

「でも先生、俺にはくさいのとスパイバエしかないんだぜ……こんなんじゃ、女の子にモテるふしぎなんて一生できねえよ……」

「ヤムヤム、あなたにはあなたにしかできない特別なふしぎがきっとあるのよ。努力し続けなさい。いつかきっと乗り越えられる時が来るから」

あ、これは『恋するジーニー』と同じ気配がするぞ。MHS、モテるためには自分らしさが一番大事、っていう話好きだな……。


職員室の外でヤムヤムを待つウソップとチュービーだったが、

「お前たちの気持ちはありがたいけど、俺様なりのフシギを考えてみるよ。じゃあな……!」

親分のこの涙、別れの涙でもないし、叱られて泣いたとかでもないと思うんだよね、優しくされると泣けてきちゃうっていうのあると思うんですよ。ペギナンド先生も子分たちもこんなにヤムヤムのこと考えてくれてて、だからこそ自分が不甲斐なくて優しさがしみるのだ……。スピモンのときも触れましたが、ガキ大将のヤムヤムみたいな子でも時にはアイデンティティに悩み、自信をなくし、誰かに頼りたくなったりするという、その描き方の真摯さがオムニバスアニメとしていいところだなーっていつも思います。


一人で屋根にやって来たヤムヤムを、エントンは嫌がるわけでも詮索するわけでもなく、ただ驚いて受け入れるのね。他人の干渉を嫌うエントンだからこそ、他人にも干渉しないでいてくれるのだ。

「よお、ちょっと……隣、いいかな……」

「どうしたモク?」

「ゲヘヘ、ま、いろいろあってな」

ハエ軍団も親分のためにギョロ目からぽとぽと涙を落とす。そっとヤムヤムの顔を覗き込もうとするエントン、その煙を嫌ってハエたちは猛スピードで飛び去っていく。何かに気付いたヤムヤムは、エントンの頭を無理やりつかんで(こういう横暴さはいつものヤムヤムそのものなのが立派になりすぎなくて良いんだ)煙を向けると、ハエ軍団は輪の形に逃げていった。これだ!!


いつの間にヤムヤムのふしぎ発表会ということになったのか、ちゃっかりノイジーが木箱の上で司会してます。観客も少ないしみんなテンション低いのが期待感の薄さを感じさせるみたいでつらいんですけど。

「皆さん、お集まりいただいてありがとうっ! それでは俺様のロマンチックふしぎショーをご覧ください!」

次々と打ち上がる色とりどりの花火! その正体はペンキを塗ったハエ! 花火自体がふしぎというより、花火にしか見えないものが実はハエでできている、ってところが不思議と言えるかもしれない。とにかく、その美しさにみんな大盛り上がりです。子分たちはあふれる涙をこらえきれない。

「親分、すごいっす……」

「きれいズラ……さすがはオラたちの親分ズラ……!」

先生たちも窓から覗いて感心している。大本命リディーちゃんも「今までで一番ロマンチックなふしぎよ!」と大喜びで、ヤムヤムは丁重なお辞儀を返す。ここ、リディーとヤムヤムがふつうに仲良くしてるのがめちゃくちゃ好きなんですよ。デレデレしたり得意になったりもせず、お互いにリスペクトのある感じが。

「ハエに色をつけるのだってウソップとチュービーの手を借りずに自分でやったんだぜ!」

「ハエでこんな素敵なフシギができるんだもん、ヤムヤムってセンスあるのね!」

ハエたちを率いる天性のリーダーシップこそ「ヤムヤムにしかできないふしぎ」だったのだ。さらにヤムヤムは何やら箱を並べると、

「リディーちゃんへのスペシャル花火なんだ。よく見ててね!」

合図と共に猛スピードで飛び出すハエの群れ。その速さの秘訣は……

「よくぞ聞いてくれましたっ! それが一番苦労したんだよなあ~」

箱の中には、ヤムヤムのバナナの中身。「くさいから、順番がきたらものすごい瞬発力で夜空へ駆け上がっていくっていうわけ!」

そう、校舎裏でハエ軍団の特訓をつけた指導力と、強烈なにおいを有効活用する発想力、そしてそれを実現させる地道な努力が、どんなロマンチックさよりもヤムヤムの魅力だったってわけですよ!!


ふしぎコレクション「花火の上げ方」

今夜のふしぎはヤムヤムじゃ!

や、ヤムヤムの靴下かわいい……どこに履くのかわかんないけど!!


アイキャッチ:U

スピンすっごいんですけど!!


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