#2 ボロッカの初恋
このミッドナイトホラースクールというアニメ、26人もキャラクターがいて、2話目からして主役にボロッカという、華のあるメインキャラでは決してない子を持ってくるのである。ヒッキーが主人公である世界に26人のキャラクターがいるんじゃなくて、一人一人にその子の世界があるんだってことを描こうという気概、既にめちゃくちゃ感じます。
ところでボロッカってボじゃなくてロにアクセントを置いて発音するのが正しいんでしょうか……
第2話「ボロッカの初恋」
(脚本:高橋孝之介、絵コンテ:北田伸)
今回狂言回し的な役割のジョニークロウですが、コリアラの枝の上で一体何を読んでいるんだろう。
教室の中はまだなんとなく机と机の感覚が狭い気がする。のっけから「ああピラニン、頼むからもうちょっと元気良く」のしょうもない感じ、本当に好きw
ボロッカが欠席しているのだが「地味だから分からなかったモン」としゃあしゃあと言うスピモン。カボが椅子から乗り出して後ろを覗くと確かに誰もいない。こういうときドッキーはだいたいうつむいてて表情が見えないんだよな。
どうもボロッカは何かで悩んでいるらしい。先生が「ある者」(一体何クロウなんだ…)(ていうか昼間の学校の写真どこからとってきたんだ…)から入手したという写真を見ると、昼間の学校の傘立てに、赤と青2本の傘がポツンと置き忘れられている。
「ほんとに地味だモン」
「スピモン、そういうこと言うなよ……」
たしなめるヒッキーに屈託のない笑顔で返すスピモン、こいつ大人しめの子には基本態度がキツいよな。
「この子はアンブレラと言ってな、今まさにボロッカと同じ置き傘になろうとしている女の子の傘なんだ」
「じゃあまだ転校生ってわけじゃないんだ……」
なんかまるで死にそうだけどまだ幽霊にはなっていない相手をあの世から眺めているかのような言い草じゃないですか。
そのアンブレラに、ボロッカが片思いしているらしいのだ。そういうことあんまりクラス中にバラすもんじゃないと思うんですけど先生!! TKSの横一列がバカにして笑っている間に、本人が湧いて出るようにやって来てしまった。思わず絵の具を引っ込めて言い訳するチュービー。
「あんまり目立たないからいつ来たのか分からなかったズラ……」
しかしボロッカは怒るでもなく、ため息をついてしぼむだけなのである。
とはいえヒッキーも「とてもじゃないけどボロッカの恋がうまくいくとは思えない」と思ってはいるわけで、とりあえずボロッカの気持ちが離れるまでそっとしておこうと呼びかける。「失恋してきっと立ち直れなくなるよ…」とあえて悪い想像をするさすがのピラニン。しかしなんといっても、ずっとジュースすすってるスピモンがマジで我関せずという顔で、もうね……。
このシーン、COが仲良く歩いていたり、後ろのテーブルでJRが相席していたりと、モブにもちょっと目を引かれるのだ。というところで、
「ミッドナイトホラースクールアワー、深夜の目玉!」
『ボロッカくんの恋愛発覚!』
この放送です。アンブレラちゃんのイラストだけで赤くなってしまうあまりにも純なボロッカに、極悪トリオが直接ちょっかい出しに来た。
「だいたいお前みたいに無口なやつがどうやって愛の告白をするズラ!?」
「やめろよ! 大事なのはボロッカの気持ちだろ!?」
「なんズラ! お前だってうまくいかないと思ってるズラ~?」
「……ッ!! うるさい、黙れ!」
止めに入ったヒッキーもチュービーの発言を否定しきれず、ちょっと口ごもってから言い返すこの感じ。慎重に言葉を選びつつ、でも嘘は言えないんだよなあ~! 投げ縄ヌンチャクを振り回すチュービーと真っ赤になったヒッキーがにらみ合いを始めたのを見て、ボロッカの頭上に不穏な雲が浮かぶ。
「ま、待てボロッカ! な、泣いちゃダメだ!」
「いかん、泣いたらいかんズラ!」
この微妙に子供らしからぬ2人の口調が好きなんですが、泣くなって言われたらこらえてた涙もかえってあふれるというもので……。
カフェテリアに降り注ぐ大雨の中、ピラニン一人がリディーに引きずられながら喜んでおります。ノイジーだけちゃっかりレインコートを着てるんですが、「本が濡れる!」と慌てるジーニーが転んだのを見て至極軽い反応をするのがカワイイ。
泣きっ面に蜂、もとい電撃です。ワットと一緒にカフェテリアに降りてきたアンプー、また若干演技の方向性が違ってるみたいで、「なになに? 下でなんかやってるみたい」っていうのが妙に幼くてかわいいのだ……。
というわけで、黒こげになってみんなちょっと反省。「ボロッカ、そんなにアンブレラのことを…」と問われ、無言でうなずくボロッカの背中が愛おしい。
ボロッカの本気を見たヒッキーたちは、2人の仲を取り持つ作戦に方針転換。リディーの一声で手っ取り早くラブレターを書くことになった。スピモン、「それなら口下手なボロッカでも…」とかポロッと言っちゃうあたり、今回すごーく言葉に気を遣ってるヒッキーとの対比が鮮やかなんですが、謝るときはちゃんと意地張らずに謝れるので根っからの嫌なヤツじゃないのは分かるんだよね。
「ボロッカ、僕たちがついてるから、もう泣くんじゃないぞ!」
ヒッキーに励まされて、ボロッカも控えめに笑顔を取り戻します。
手紙といえば、で万年筆とインクの登場です。このフォントン、ラブレター執筆経験は「もちろん」あって、インキーが赤くなるとそれとなく目をそらし、しかもラブレターの宛先を平気で答えようとする、なかなかのツワモノである。
インキーも今回はちょっと声のテンション高めな感じです。そのトーンがリディーちゃんの前で一層高くなるのを見て、やらしい笑いを浮かべながら冷やかすヒッキーとスピモンがやたら息ピッタリだ。
アンブレラの笑顔が好き、というボロッカに、「一番大切なことは思いやりだよ」とサラマン先生がいいことを説いていた……その頃、図書室ではケンカが勃発していた。ヒッキーとスピモン、ラブレターの書き出しをどっちが書くかでモメているということですが、ヒッキーはまたも真っ赤になっていて、今回結構ヤンチャなとこ前面に出てるよね。天井にぶら下がって応戦するスピモンも、オイラじゃなくて僕って言ってるし!
頭の後ろで手を組んでしれっとしているフォントンの呆れっぷりもいい感じだ。結局、ヒッキーの顔に本が直撃して停戦に……鼻にバッテンのバンソウコウはオープニング映像にも使われているおなじみの場面ですね。
完成したラブレターには小綺麗な「アンブレラさま」の文字が並び、青い傘にBのイニシャルが入ったシーリングまで気が利いている。
「これを持ってアンブレラにアタックしてこい!」
ヒッキーの励ましに嬉し涙を流しつつ、ボロッカは急に元気になって2階からパラシュートで降りていった。結局誰が書いたやら、「あのラブレターを読んでグッと来ない女の子はいない!」とヒッキーも太鼓判を押す出来、だったのだが。
数日にわたる長雨で事態は急変……雨雲付きで教室に入ってきたボロッカの、やっとギリギリで歩いている感じ。二頭身のシンプルな体で、表情が実に真に迫っている。
「やっぱりダメだった……?」に深くうなずく背中の緊張感……
「泣いたらダメズラよ……」と言われて思わず振り返った絶望的な顔……
堰を切ったような号泣。巻き起こる大洪水。みんながとっさに机に飛び乗る中、一人机を蹴っ飛ばしてご満悦のピラニンが、もう本当にマイペースだなあ!!
みんな「あれれれれ~」などと言いながら机ごと流されていくのですが、ゾビーがいまいち体勢保ててなかったり、ドッキーはさすがに机に乗り慣れてる感じだったり、もちろん一人だけ楽しそうに泳いでいくピラニンだったり、こういうところが楽しいんだよなあこのアニメは。
涙の大雨は窓ガラスを突き破るまでの大惨事となり、その後も「すっかり傘と浮き輪が必需品に」なってしまった。スピモンだけ傘の代わりにゴーグル着用で泳ぐ気満々の様子。そして手ぶらのピラニンは、かえって幸せを隠しきれないふうです。
しかし、その日ボロッカは妙にスッキリした表情で現れた。「もう失恋の傷は癒えたズラか……?」とチュービーすら遠慮がちに尋ねる(何しろ最後のシーンでは出席取られながら机に足をかけている悪ガキのチュービーなのだ)ところ、ボロッカは無言のまま、綺麗にカットされた紙を取り出した。
『ボロッカさん、あなたの気持ちはとても嬉しいけど、私はもう少し子供たちがさしてくれる傘でいたいのです』
『ボロッカ、ありがとう。あなたのことは忘れないわ。アンブレラより』
「アンブレラはまだ忘れ去られるのは嫌だったんだよ」
先生の一言が地味に刺さる。だって、MHSの生徒たちはもう忘れ去られることに関しては諦めて受け入れている、ということだもんね……。
「ここんとこずーっと雨続きだったボロ。そしたら持ち主の女の子がアンブレラを持っていってくれたボロ……」
「これでいいんだボロ。アンブレラが幸せなら僕は満足ボロ……それに、僕にはこの手紙が何より嬉しかったボロ……」
なんて、初恋なのになんて大人の別れ方なんだボロッカ……!!「持っていって『くれた』」なんて。好きな子が自分とは違う道を、しかし彼女自身の選んだ道を行けることを、素直に祝福できるなんて。
……と思ってたらボロッカ、すぐまた好きな子ができたって、惚れっぽいだけかい!!とズッコケたオチがつくのも、年相応に立派になりすぎない良い塩梅です。
やはりMHSの生徒になるということは、子供たちにモノとして使ってもらうことを諦めて、フシギとして記憶に残ることだけに存在意義をガラッと切り替えなきゃいけないんだよね。ちびっこゴーストたちは、モノとしては一度死んでるのだ。
それでもそこに自分たちを忘れた子供への恨みつらみといった負の感情は入り込まず(逆にこれをテーマにしたのがボロゾ・ジーキ伯爵なのかな)、みんなアッケラカンと楽しそうにしているのが、このアニメのユニークさというか、お気楽さというか、私の好きなところでもあるのです。
ボロッカは主役とはいえセリフがごく最小限しかなくて、無口なんだけど体全体で語る表情がものすごく雄弁で、本当に感受性豊かで繊細な子なんだなあ……というところが魅力的な第2話でした。
ふしぎコレクション「どこにでも雨を降らす雲」
今夜のふしぎはボロッカじゃ!
バナナを食べながら歩くのはフラグすぎるよ! ポイ捨てはやめようね!
次回予告
「やあみんな、僕ヒッキーです。チュービーが新しい不思議に挑戦したんだ! でもドッキーのつむじ風に巻き込まれて、大変なことになっちゃったんだ!」
アンプーやインキーも声高めでしたが、このヒッキーもなんとなくまだ猫かぶってる気がする。