#45 秘密のキッチン

ベンダーマシンさんは同じ型でも出てくるたびに声も口調も違ってるので、同一機種の別個体がいっぱいいるということなんだろう……多分。


第45話「秘密のキッチン」

(脚本:荒島晃宏、絵コンテ:三浦隆子)


カフェテリア、本日の営業開始。ベンダーマシンたちが一斉にエレベーターに寄ってくる。

「コケーココココ、ドクロチキンスープですよ~」

「さ~おなじみ溶岩コーヒーだよ! 一口飲めば頭も大噴火。ア゛ーッ!!」

出てきた極悪トリオ、なんと既にホカホカの料理を持っているではないか。ピラミッドカレー、タランチュラバーガー、エイリアンスパゲティー……カレーのターメリックライスがなんか魅力的なのよね。

「チャップスの料理の腕も大したもんですね!」

「ああ、これだったらベンダーマシンなんてなくてもいいな!!」

大ショックのベンダーマシンでお話の始まり始まり。


チャップスが階段下に開いたお店はにぎやかに風船で飾られて、メニューの黒板も置かれ、赤い布を引いたテーブルにはキャンディーの皿が用意してある。

H「僕はウミウシシャーベット!」

名入りのデニムっぽいエプロンに赤いスカーフ姿でオーダーを受けるチャップス。人だかりを押しのけて、溶岩コーヒーとチキンスープのベンダーマシンが文句を言いにやって来た。

「お客様割り込みは困ります!」

「困るのはこっちです……」

「こんなところで店を開かれたら、商売の邪魔だいっ!」

「ベンダーマシンの食べ物、どれも飽きちゃったもん」

チャップス、全く嫌味がないのが何よりもイヤミに聞こえる、という点でレベルが高すぎる。

「この学校に来たときからずっと同じだよ……」

「人気があるからずっと変えてねえんだい!」

「栄養だって満点です!」

「でも、好みって変わるし、ね~~~?」

牛のベンダーマシンさんは鼻息も荒く、「こんな店壊しちまえ!」と玄関の方から助走をつけて突っ込んできた。チャップスは赤い布をヒラヒラさせ「オ・レ!」めくった裏には、さっきまでなかったはずの真っ赤な……消火栓。

「お店を壊しちゃ、ダメ!」

パパが敵を撃退したのでロッソも「わーいわーい!」と大喜びです。用が済んだら消火栓を引っ張って元の位置に戻すという描写も細かい。チャップスは先生の許可ももらってやっているらしいのだが、ベンダーマシンは引き下がらない。だったらこうしましょうとリディー、

「新しいメニューを作ってどっちの料理がおいしいか勝負すればいいじゃない!」

「それ面白そう。僕審査員やるよ!」

おいらも!私も!僕も!ほんとノリと勢いだけで動いてる学校だなー!! こうしてチャップスも骨の額にタンコブ作ったままのベンダーマシンさんたちも、放課後の勝負を前に火花を散らすのであった。

「よーしベンダーマシンさん、かかってきなさい!」

「望むところでい!」


マグネロがネジを締め、アンプーが跳び上がって頭にコンセントをかぶせると、その電力で動き出したのは「ジーニーたちにずっと前から頼んであった」というチャップス型の新しいベンダーマシン。ワットくんも一応一緒にいますが、特に何もしません。

早速ノイジーがカメラを持って入ってくる。ジーニーの「ふしぎ認定だって取れそうな傑作」はかえって危ない気がするんだけど、チャップスは胸を叩いて自信たっぷりです。

「このベンダーマシンは、チャップスさんの料理の作り方を全て記憶させてあります。ですから、あとは材料を入れるだけ!」

背中から「お砂糖に、お水に、フレーバー!」の計量カップを入れてボタンを押すと、口からキャンディーが2、3粒飛び出してきた。本当に材料を入れるだけで、包み紙付きで出てきやがった。

これで済めば良かったんだけど、ベンダーマシンは突然暴れ出し、キャンディーの弾丸を発射しながら生徒たちを追い回し始める。チャップスはやっぱり走るの遅いしすぐ転ぶし運動苦手なんだなー。美術室の外まで追いかけてきたベンダーマシンだったが、自分で出した飴玉を踏んで転び、そのまま止まってしまった。


中継を見ていた極悪トリオは「やっぱりジーニーの発明は大したことねえや!」と大笑い。どんな料理を作ろうかと悩むベンダーマシンたちに、

「俺様が味見をしてやるよ」

「親分はグルメだから役に立つズラ」

役に立つ、ってまるで物みたいな言い方する無遠慮さがさすがチュービーだよ。

てなわけで、白いテーブロスをかけた長机の前にベンダーマシンが横一列に並び、美食家ヤムヤムに試食してもらうことになりました。親分の脇にはギャルソンUTがトーションを持って控えている。

これが、スープの中のカボチャが声を上げて笑うゴーストカボチャスープ(「おっかねえ!」)とか、皿に羽が生えて飛んでいってしまうフライングチキンスープとか、食べる前からぐちゃぐちゃになるような料理ばかり。ヤムヤムは「俺様をバカにしてんな!?」と怒り、強烈な悪臭でベンダーマシンを全滅させて「ざまあみろ」と出て行ってしまう。

こうなったら、秘密キッチンのシェフに相談するしかない……机の下に隠れて様子を伺っていたチャップスは、もう勝負のためというより、秘密のキッチンなんて楽しそうな話を聞いたら首を突っ込まずにはいられないのだ!


墓場の地下通路に一台ずつ飛び込んでいくベンダーマシンの後を追い、ためらわず中に入るチャップス。ベンダーマシンは目を赤く灯して通路を奥へ奥へと進む。

何もない壁に浮き上がってきたSECRET KITCHENの扉は、色といい形といい冷蔵庫の戸みたい。調理室と同じく調理器具がみんなバカでかくて、材料の入った背の高い瓶の中身はコリアラの木の枝とか、ピーナッツとか唐辛子?とか、赤ワインとか、それにカボチャもあるし、骨つき肉もぶら下がっている。

「秘密キッチンのシェフはミスターショータイムだったの!」

謎の人物の正体はなんと身近なあの人だった!みたいな感じですが、ショータイムが本編に出てきたのは初登場『ふしぎを釣り上げろ』以来、実はまだたった2回目という。

「勝負のための特別料理! オーエブリバデー!! お前たちが作っている料理はミーが子供たちの健康を考えて作った自信作さ! チャップスに負けるわけはnothing!」

「言ったわね、ミスターショータイム! お料理勝負は絶対負けないから!!」

名前を聞いてつい反論してしまったチャップスは、「あ、スパイだ!」と言われてとっさに逃げ出す……ひとりでに行き止まりができたり天地が逆転したり、刻一刻と姿を変える危険な地下迷宮の中へ……。


放課後のカフェテリアに集まった生徒たちは事態を知らされて騒然となる。溶岩コーヒーさんの「それがー、入っちゃったんだなー」が妙に脱力なんですけど。

ショータイムはコック帽外したらちゃんとマイク持ってくるんだね。立ち入り禁止の地下迷宮に勇んで助けに入ろうとするヒッキー。絶えず変化するゆがんだ空間の中、ベンダーマシンはなぜか秘密キッチンにだけは迷わず行けるらしいのだが。

「チャップスを助ける方法はあるぜ」とかっこよく現れたのは極悪トリオ。ヤムヤムは思いっきり指笛を吹くと「匂いを頼りにチャップスを探せ!」とハエ軍団を地下迷宮の中に送り込む。甘いキャンディーの匂いで行き先を探させて、腐りバナナの臭いで帰り道を教えようってわけ!


迷宮の中でチャップスがつまづいたのは、たくさんの人骨……いや、人の骨なの……? ていうかゴーストに骨ってあるの……?? カンテラの炎も消え「あたしここで骨になっちゃうのかな…」と膝を抱えるチャップスのところへ、救いのハエの羽音が!

ヤムヤムが踏ん張って出した臭いを、ウソップとチュービーがうちわで送り込む。通路の幅が狭まり、今にも挟まれそうになる寸前、ハエ軍団に背中を押されてチャップスは地上に戻ってきたのだった!

「さあさあ疲れたでしょう、温かいスープはいかが」

こんなときにサッと料理を振る舞ってくれる大人がいるって、子供たちにとってはそれだけで本当に心強いことだと思います。

「おいしい……! こんなの初めて……」

「いつもと同じですよ。疲れているからそう感じるんです」

「ううん、そんなことない。私こんなおいしいスープまだ作れない……勝負は私の負け。こんなにおいしいものを飽きただなんて、ごめんね」

「いやいや、新しい料理に挑戦するチャップスにはいい刺激を受けたよ」


今回、一方的にどちらかが負けるような話じゃないのがほんとに良いんだよね。ドクロチキンスープマシュマロキャンディー風味という恐ろしい名前の代物ですが、チャップス柄×鳥さん顔のかわいい容器に入れられて、評判も上々らしい。

「自分のお料理がベンダーマシンに並ぶなんてうれしい!」

人真似したってうまくいかない、自分らしくあれ、というのは何度も触れられてきたテーマですが今回はそれで終わらず、らしさとらしさを掛け合わせたらもっといいものができた、という一歩進んだオチ。長年の思いが込められた健康的な地味な(いや、地味ではないが)料理も、新鮮で楽しいアイデアを詰め込んだ奇抜な料理も、良いところを認め合えばもっとおいしいものができちゃうのだ。あー、あったかいスープ飲みたくなってきた!


ふしぎコレクション「秘密のキッチンの入り口」

今夜のふしぎは地下迷宮じゃ!

「心配をかけてごめんなさい!」

チャップスかわいい!!!


アイキャッチ:W

また自分で光ってるよ!

ワットの特徴「怒りが頂点に達したり、過電圧がかかると割れてしまう」って書いてあるんですけど、割れるの……!? そこまで怒る羽目になることがなくてよかったよね……。


<まえつぎ>