#9 UFO大作戦

ウソップはウソつきというか口が達者なんですよね。前回のマグネロンを連れ出すシーンとか、『ティゲール先生の涙』で図書室の個室を申し出るシーンとか、あることないこと何でもスラスラ言えちゃう。あんなふうにケロッと作り話ができる機転と演技力からすれば、芝居の主役も実は適任だったのではないだろうか……?


第9話「UFO大作戦」

(脚本:荒島晃宏、絵コンテ:奥山潔)


霧の濃い校庭にトレンチコート姿のウソップがかっこいい。

「……遅かったな、待ちくたびれたぜ」

「改まってお話って何……?」

ファー付きのコートに身を包んだヒロインはリディー。かなり演技してるよね、いつもより声がワントーン高い!

「今だから打ち明けるが、実を言うと俺は宇宙人なんだ」

「ええっ!?……うふふ、またいつものウソね」

「まあ、見てな。UFOよ……来い!」

「うわあ」

リディーちゃん、驚くところでちょっと素が出る。UFO……の役を務めるのはアンプーとワットでした。どうやって飛んでるのかと思ったらルーアに吊ってもらってるのね。

ジーニー監督の「UFOの正体がバレた……」で、お芝居の練習はいったん中断。人喰い花に照明を持たせて突っ立ってるジュノはともかく、台本に顔をうずめているヒッキーは何の担当だろう。

役者から一気にワルの表情に戻ったウソップは、偉そうにマグカップを傾けてワットくんに押しつける。それを気にも留めずキャイキャイ話しかけるワットくん。

「僕らのUFO本物っぽかった?」

「ああ、効果満点だったぜー」

「ほんと!?」

「ウソ! 俺の霧スプレーのおかげでUFOみたいに見えただ・け!」

頭をぐるぐる回され「僕は一生懸命やってんのにー!」とカッとなった途端、フィラメントが切れてしまった。アンプーとワットは汎用性がめちゃくちゃ高い代わりに、脆弱性にはどうも問題があるな。アンプーまで「ワットくーん!」と駆け寄ってきて、この話はなぜかみんなワットを君付けで呼んでいるので、私もワットくんと呼ぶことにするぞ。アンプーは後ろでずっとウソップに文句を言い続けていて、そういうの躊躇ないところがぼくは好きだよ。

「ウソップが主役なんて面白くないモン!」とみんなの気持ちを代弁するスピモン。抽選なのか立候補なのか知らないけど、だってウソップだもん、ねえ……。

一人校庭に残って空を見上げるリディーに、ヒッキーはUFOなんてお芝居だと笑う。フシギの学校でそんな夢のない態度を取っていいのか。陰から見ていたウソップがちょっと本気になって無邪気にも「UFOよ来ーい!」と呼んでみると、なんと本当に光る物体が空から飛んできた。


UFOを見たと真剣に主張するウソップと、鼻であしらうヒッキーたちという、いつもと逆みたいな構図が見られるのは第9話だけ!

J「それっていつものウソでしょ」

H「不思議学芸会は放課後だよ?(笑)」

U「芝居の話じゃない! 俺は本当にUFOを呼べるんだ!」

乗せられて熱くなったり、本気でUFOを呼ぼうとしたり、今回のウソップはいつものひねくれた態度がウソのようにピュアだ。ウソップに呼ばれて現れた発光体はUFO……ではなく、光るペンキを塗ったハエ軍団だった。「イカすだろ?」と相変わらずの親分に、

「これはUFOじゃない!」

「じゃあさっきの話はウソ!?」

「違う!! えっと……たぶん今UFOの調子が悪いんだよ。放課後ならきっと……」

こうやってペラペラと話を盛ってしまうところがウソつきウソップなんだよな。

「じゃあ、放課後の不思議学芸会はUFOの呼び出し実験に変更だな」

で、お前はなんなんだ。この回この一言くらいしかセリフないのに、わざわざあまり縁のないブルースパイダークラスに来てまで画面に映るドッキー。しかも何、勝手に学芸会のプログラム変更しちゃってんの!!


ウソップは思い詰めた様子でヤムヤムとチュービーを校舎裏に呼び出す。

「親分、さっきの光るハエ、校庭で飛ばしたかい……?」

「おう見てたか! UFOみたいだったろ?」

途端に無言でスプレーを吹き付けるウソップ! 親分に歯向かうウソップなんてレアな構図が見られるのは第9話だけ!!

「親分のせいで俺はUFOを見せる羽目になっちまったじゃないか」

「ケッ! お前が勝手に勘違いしたんじゃねえか」

「親分の悪ふざけには付き合いきれねえ!!」

こんなまじめなこと言っちゃうウソップも、第9話だけ!! 2人の間でオロオロするチュービーも相当珍しい。

「おいウソップ、親分はなあ、お前が主役になったことが嬉しくて、芝居を盛り上げようとわざわざハエをUFOにしたズラ!」

その言葉を聞くなり、すぐ後悔の顔に変わるウソップ……結局やっぱり親分大好きなんだよなあ。ヤムヤムだってやり方がゲージュツ的すぎるとはいえ、単純に仲間思いでやってるのだし、イタズラもケンカも真剣勝負な極悪トリオがたまらなく愛おしい……。


そして、仲良く機械いじり中のAWMにあえて離れた場所から声をかけるウソップがあまりにもいじらしい。しかしウソップ、この3人に何をどう頼むつもりだったんだろうな。

「ワットくんをいじめたマグ! そんなやつの頼みは聞けないマグ!」

「そうか、悪かったな……お前たちは仲が良くていいな……」

いや、あんたたちも負けないくらい仲が良いだろ、私は知ってるよ!! 「なんか寂しそうだプー…」と哀愁を感じ取るアンプー、あーもうだからアンプーのこういうとこ好きなんだよ。そして、その寂しそうなウソップの背中をリーダーバエは見逃さないのだった。


そんな中、ガラクタ盗難事件が発生。ロッカーの中で「おらァ幸せだゾビ…」と植物のツタやいろんなガラクタに埋もれているゾビーを謎の影が襲う!

ゾビーが抱きしめているアヒルみたいな人形は、エンディングでも持ってるやつですが、お気に入りのコレクションなんでしょうか。実はこれ、『ペコラ』に出てくるパパゾーニ市長のオモチャと色違いだったりする。

「被害総額はガラクタだけあって……0円でした」

ニュースを伝えるノイジーの口が▲形になっててかわいい。解説のジーニーさんによると、

「被害者の証言を総合すると、怪物の姿はこんな感じだと思われます。まさに宇宙人です!」

生徒たちはイラストの恐ろしい姿にビビりつつ、宇宙人が本当ならウソップのUFOの話も本当だったのだとコロッと信じ始める。ウソップはストローを口にくわえてシイシイと、どういう態度を取っていいのか分かりかねている様子。意図的についたウソではないからこそ引き下がれないのか、今日のウソップはいちいち真剣だ。


「宇宙人さん、お願いです! 放課後、UFOをを見せてください!」

土下座までして頼み込んだ宇宙人さんの正体は、布をかぶったヤムヤムとチュービーだった。ヤムヤムの耳にくくりつけた懐中電灯がバナナの有効活用でイイ感じ。

「UFOの材料を持ってきたぜ!」

「どうしてそれを……」

「親分はなんでもお見通しズラ!」

「俺たちの手でUFOを飛ばしてみんなをアッと言わそうぜ!」

や、やっぱりヤムヤムは親分の器だあああ!!


すっかり仲直りしてUFOを飛ばす方法を画策し始める3人。まずはお手製のUFOをハエ軍団に持ち上げさせようとするが、ハエ軍団は根性を見せきれず、失敗。マグネロにタカる次の作戦へ。

「ワレワレノUFOノ修理ニ協力セヨ」

今度の宇宙人はヤムヤムが布をかぶって……ではなく、ハエ軍団の幻影らしい。極悪トリオは何かとハエとスプレーが万能すぎる。

マグネロがいじっていたガラクタの中からは、なんとマグネロン2号が!! 胸にM2マークの光るコントローラー操作式ロボ。こういう前のエピソードを踏まえた描写は本当に嬉しいなあ。協力を拒むマグネロは恐怖で涙目になりながら、部品につまづき転んで自滅。ヤムヤムの「助っ人は諦めて材料だけかっぱらおう!」という言葉の選び方が、ワルくて良い。


「毎年恒例となっています不思議学芸会。今年は大幅にプログラムを変更いたしまして、ウソップによるUFO呼び出し実験を行います」

霧スプレーの自演で雰囲気を盛り上げるウソップ。ヤムヤムとチュービーは、さっきの試作品よりも格段に豪華になったドクロ顔UFOに乗り込んで待機中です。このクローズアップしていってうなずくカット、緊張感があって良いなあ。主役ウソップは霧の中から後ろ手で現れて一礼すると

「来たれUFOよ……ビーチュープッソウムヤムヤー!!」

と、なんやアレな呪文を唱える。UFOは本当にやってきた! 控えめにガッツポーズするウソップだが、足こぎ式UFOの中ではすでに2人が息絶え絶えになっていた。

「親分もう限界ズラ……」

「頑張れウソップのためだ!」

まあ、進路フラフラなおかげで「あの複雑な飛び方はまさにUFOですね」とジーニーさんのお墨付きも頂きましたが。

遠慮ということを知らないリディーちゃんは「もっと近くで見たい! 着陸させて!」などと勝手なことを言う。とうとうUFOは力尽き、通路を破壊しながら無残に落下。墜落するとき一人だけウソップの脇で構えてるドッキーがむちゃくちゃ気になるんですけど、シナリオ段階ではつむじ風フォーエバーの出番があったのが尺の都合でカットされたとか、そういう事情だろうか。ほんと今回のドッキーはなんなんだ。

極悪トリオの目に写ったのはリディーちゃんの顔、ではない、でかい、でかすぎる、本物のUFO! 校舎よりでかい!

「これも……あんたたち……?」

んなわけないじゃんって。

UFOさん、なんか目玉で校舎と会話してます。小さなUFOの光に誘われてやってきたこの大先輩、なんと校長先生直々の教え子だったらしい。ひょうたんから駒、本当に本物のUFOを呼んでしまい極悪トリオは恐れ多さに震えている。

「先輩はお前たちを気に入って、誰か一人アシスタントとして欲しいそうじゃ。行ってみるか?」

校長は基本的に生徒の卒業とか不思議デビューを許可する基準が緩い。トリオは顔を見合わせるが、

「誰か一人だったら俺は行かねえ!」

「オラもズラ!」

「……俺もだ!」

で、決めポーズといいセリフといい格好良すぎる、これ。

「3人は一心同体なのさ……!」

か、かっこよすぎ……!! こういう、お笑いと感動スレスレの狭間を行くことのできる存在、キャラクターとして大成功だと思うんですよ。極悪トリオ、今回信じられないほど輝いている。

友達を大切になと先輩からのメッセージを受け取り、「来てくれてありがとう!」と柄でもないさわやかな笑顔で手を振るウソップ。リディーちゃんも見直したわとウインクまでくれました。よかったね。そしてこの回はここからが最高なのだ。

「あんなでっかいUFOのペダルは漕げねえ!」

「親分、あのUFOもペダルで動いてるズラか?」

「決まってんじゃねぇか! ありゃペダルもでっけえぞ!」

そして最後にホッと息をつくウソップ……このおバカさ加減で私は泣いてしまいました。こんなおバカな親分が愛おしいからこそ、その日常を愛しているからこそ、ここに残ることを選んだのだよね。極悪トリオ、尊い……。本当にギャグとシリアスのバランスが絶妙な好編でした。


ふしぎコレクション「銀色に光る謎の宇宙人」

今日のふしぎは宇宙人じゃ!

って、せっかく良い話だったのにヤムヤムってばおシモ担当なんだから……!!

「もう親分の下は嫌ズラ!」


アイキャッチ:E

前を向く動きがノンビリしててかわいい……。


<まえつぎ>