#30 カキカキとケシケシ

2017年11月時点で、原作者の公式サイトではMHSは過去の映像作品として文章でのみ紹介されていたのですが、よく読むと「ちびた鉛筆、すり減った消しゴム、音のでないオルガンなど」とケッシーがまるでメインキャラのような書き方になっていたのであった。

DVD裏のあらすじでは文字数の関係か(ただの誤植だと思う)「消しゴースト」になってます、ケッシー。


第30話「カキカキとケシケシ」

(脚本:荒島晃宏、絵コンテ:破李拳竜)


ああ忙しい忙しい、と言いながらさほど急ぐ様子でもないペギナンド先生が面白すぎる。教室の入口は2頭身サイズだから先生にはちょっと狭そうですね……流れてきたゾウの絵とぶつかって、倒れてしまうペギナンド先生。

「ほお、空中に絵が描けるんですな」

「しかし、書きっぱなしはけしからんことです」

マイペースなサラマン先生とティゲール先生のところにも落書きが流れてくる。と思ったら、それどころではない量の落書きが吹き抜けから降ってくるではないか。


落書きの鳴き声でにぎやかな図書室に、「いたずら書きと言えばあなたたちです!」と呼び出されたのはUHTの画材組。個人的に、イカタコカニの海産物の落書きが好き。

親分が駆けつけてくれたからかヒッキーが突き飛ばされたからか、ウソップはニッコリ笑顔。そりゃ確かにスプレーや絵の具で描いた絵じゃないもんな、先生、そこは言われる前に気付こうよ。ウソップとチュービーは無実を認められ「やったあ」とハイタッチ。となると、残る容疑者はヒッキーです。

「ちょ、ちょっと待って! 空中に絵が描けたらサラマン先生に真っ先に見せます!」

「確かに。空中に絵が描ければ立派な不思議ですからな」

「うんうん」

「でも、あんな変な絵を描くのはヒッキー以外には……」

ペギナンド先生、いきなり暴言。顔を強張らせてぼやくヒッキー。

「あはははは……ひどいなあ……僕の絵のどこが変だって言うんですかあ」

「あたしも変だと思うわ、ヒッキーの絵」

突然、なぜかヒッキーのスケッチブック持参で、リディー登場。描いてあるのは、ワニ、かな……いや、問題は誰が落書きを描いたかであってヒッキーの絵自体の良し悪しは関係ないんだが、スピモンとピラニンまでカジュアルに暴言に加勢してくる。

「オイラもそう思うモン!」

「どっちかというと、変かな……」

こうけなされてはヒッキーも黙っていられません。スケッチブックを取り上げて、

「僕の絵は変じゃない! えい、カキカキカキ~! どうだい!」

と描いたニワトリの絵は、脚が3本。ますます笑われてしまい、ヒッキーは決まり悪そうに絵を隠す。そこへ聞いたことのある、いや違う、聞いたことのない声が(MHSのCV岡野・乃村使いすぎ問題(?)、この辺がピークなのではないか)。

「伸びやかな線、この躍動感、素晴らしい! なんてステキな絵なんでしょう」

ヒッキー、急に褒められてポカンとしてます。声の主はヒッキーより少し背の高い、白い体のオバケ。

「ちょっと、そこの見慣れない方。あの絵を描いたのはあなた?」

「はい、つい調子に乗って、持っていたクレヨンを全部使ってしまいました」

これは失礼しましたと白い人は丁寧にお辞儀して、空中で体を震わせると落書きは全部消えてしまった。

「あなたはもしや、我が校の不思議の一つ、消しゴムゴーストでは」

「僕聞いたことある。校内で絵を描くと、いつの間にか消えているんだ。それは消しゴムゴーストの仕業だって」

「ヒッキーのお絵かきが楽しそうなんでつい出てきちゃいました。ケッシーといいます」

ケッシーさんは先生方にも大人気。今日はティゲール先生がなんか紳士です。

「これはこれは。校内をきれいにしてくれるありがたいお方」

「職員室でお茶でもいかがかな」

「お構いなく。ミーはヒッキーとお絵かきします!」


実は今回、ヒッキーのお絵かきは『ミラーヤムヤム』以来15話ぶり。怪獣を描き上げたヒッキー、両手を広げてじゃーんというポーズはかわいいんだけど、壁は絵を描くところではありません。

「怒られちゃったら……ケシケシケシ~!」

ケッシーが着地するときのゴムっぽい音と反動の揺れ方、今までのMHSキャラになかった質感でいい感じ。


今度は黒板にさっきと同じニワトリを描くと、

J「変なニワトリ!」

P「足が3本もある」

C「へたくそ~」

相変わらずひどい言われようだけど、みんなから一目置かれるヒッキーがこういうところでは遠慮なくコケにされまくるということで、一応、バランス取ってるのかもしれない。

「皆さん、ヒッキーの絵は走っているニワトリなんです!」

「そうだよ。僕の頭の中ではいつも元気に走っているんだ」

ケッシーがその場の思いつきで言ったのか本当にそのつもりで描いたのか分かりませんけど、言いながらステップ踏んでみせるヒッキーはかわいい。

これに感心してみんなもスケッチブックを取り出します。スピモン、モアイと「尻尾をSに」の絵描いてる! ジュノの絵は植物、ピラニンは噴水、チャップスは何か羽が生えている絵……?

「自分が感じたままをのびのびと描いた絵はすてきですね」と見守るケッシーに、ヒッキーはきれいな鉛筆を手渡した。「僕の宝物、七色鉛筆。友達の印に…」とちょっと照れたように言うヒッキー。早速ケッシーは空中に七色の線を描いてみせる。「心の中でそこにあると信じて描くんです」と言われヒッキーも挑戦してみるが、絵は描けず落っこちてしまうだけ。

新顔と見る邪魔せずにはいられない極悪トリオです。混ぜて、と言いながら他の子を追いやって「おえかきズラーーー!」。

絵の具とスプレーで汚れた教室も、ケッシーにかかればこの通りきれいに……ヤムヤムの頭まできれいさっぱり消えてしまった。体だけのヤムヤムにサッと手鏡を見せるウソップ。つい手元が滑って、と笑うケッシーは、教室中の汚れを大量に消したせいかここで明らかに背が縮んでいる。

ヤムヤムさっき「こいつらも絵が得意」って言ってたくせに、チュービーの申し出は「他に絵のうまいやつ!」と断固拒否。何を思ったかリディーが名乗りを上げ、頭のあるあたりをぺたぺたピンクに塗り始めた。鍵盤にペンキがはね返ったリディーは、ちょっとホラーワールドの血塗れオルガンのイメージもあるかもしれない。

出来上がった顔は、キラキラお目目に赤いリップのきれいなヤムヤム。これがもう、リディーが悲鳴をあげるほどかわいい! 背景にバラが咲くほどかわいい! みんなげっそりしてますけど、まあ本人は気に入ってるようなので……。


いつの間にかケッシーはヒッキーの半分ほどにまで小さくなっている。消しゴムだから消すたびに小さくなって、このままだと「なくなっちゃいます!」とあっけらかんと言うケッシー。

「ミーたちは姿がなくなって初めて一人前、ヒッキーたちの卒業と同じなんです。ミーが消すたびにヒッキーの新しい絵が見られる。ミーは幸せな消しゴムです!」

姿はなくなるが、不思議という概念として存在するようになる、ということでしょうか。消しゴムゴーストって既に不思議として確立しているものだし、ケッシー一人のことじゃないみたいだし、個々の創作ふしぎに取り組むホラースクールの生徒とはちょっと立場が違ってるよね……。


外に出て改めてスケッチブックを広げるが、ヒッキーはモジモジするばかりで絵を描こうとしない。

「ごめんね、ケッシーにばかり絵を消させて……」

「消しゴムが鉛筆を消すのは当たり前です!」

「でも、これからは自分で消すよ。ケッシーがいなくなったら悲しいもん……」

こう、悲しいって面と向かってためらいなく言えちゃうとこ、ヒッキーの強みだよなあー。ちょっと目を拭って、2人は再びお絵かきを始める。

「ヒッキーは怪獣が好きですねえ」

「うん。大きくて強いもん!」

「だったら、もっと元気に大きく描かなくては!」


その様子を伺っている極悪トリオ……なんですけど、

「本当ですの、チュービー?」

「……なんか調子が出ないズラ」

ヤムヤム、リディーちゃんに描いてもらった顔だからノリノリなのか、もともとこういうスタイルが肌に合ったのか、口調どころかBGMまでいつもと違う。実際やってることは普段と変わらないんですが。

「あなたたち! でっかい絵を描いてヒッキーとケッシーをギャフンと言わせるのよ!」


それでわざわざ消させるためだけにバナナ頭の怪獣の絵用意したのか……ケッシーはこれ以上もう消せないっつってんのに、3階まで届くほどの大きな紙をハエ軍団に運ばせて「ホーッホッホッホ、消しゴムさん、早く消してちょうだいな」。こんな連中にもケッシーはあくまで誠実だ。

「ミーは消しゴムです。消してほしいと頼まれたら嫌とは言えません」

決死のケッシーを止めるため、「僕がなんとかしなきゃ……」とヒッキーは力を込める。自分の描いたものではない絵を飛び出させるって実は新技だったのでは。紙から出てきた怪獣は、ゲヘヘ~と鳴き声をあげながら極悪トリオを襲い始めた。

「君の不思議はすごいです!」と喜んだのも束の間、怪獣は今度は校舎に目を付ける。ヒッキーの力にしては長く動きすぎ、なのはサイズの問題なんだろうか。校門のライトに特撮さながらに照らし出され、コリアラの木をなぎ倒し、建物を破壊していく怪獣。ヒッキーが今にも踏みつぶされそうになったそのとき、ケッシーが動いた!

舞い散る消しカスの中、怪獣は「ゲヘ~~~!」と断末魔をあげて消えていく。そしてケッシーも……。


落ち込むヒッキーの背中を、いつものメンバーもジュノもただ見つめることしかできない。「僕のせいだ」と涙を溜めるヒッキーに、サラマン先生が声をかける。

「ケッシーは消しゴムゴーストとして卒業したのです」「ケッシーはこれからも不思議としてこの学校にいるんですよ」

ここで「心の中でそこにいると信じるんです」という言葉が、消えていったケッシー自身と、ヒッキーの目指す不思議の両方に効いてくるのが美しい。目に見えるものよりそこにいたという記憶、そこにいるという確かな感覚こそがフシギなのだ。そういう意味でケッシーは間違いなく、ヒッキーたちが目指すフシギそのものだったのだ。

ヒッキーが空中に描き上げた、のびのびとした優しいケッシーの絵。その隣に応えるように現れた、七色のヒッキーの絵。

「僕があげた七色鉛筆だ! ケッシー、これからも僕の絵を見ててね!」


最近MHSを見直していると、当時なんとも思わなかった話でもうるっときてしまうことが多いんですが、今回もやられてしまった……。ケッシーは我々には見えない存在になってしまっただけで「死んだ」わけではないと思うんですが、いなくなってもそこにいると思えばいつでも会えるのだ、というのは一つの死生観でもあるように思いませんか。姿が消えただけでいなくなったわけじゃない、それって「そこにいるのに忘れられてる」ちびっこゴーストたちと対照的でもあるんだよね。アニメも折り返し地点を過ぎ、久しぶりに主人公の成長エピソードでした。


ふしぎコレクション「消しゴムゴースト」

今夜のふしぎはケッシーじゃ!

ケシ♪ ケシ♪ ケシケシケシケシケシ~……ウォーミングアップするケッシーかわいいなあ。

噂には聞いておったが、って校長ですら噂でしか知らなかったのか。消しゴムゴースト、ここのホラースクールとは別の管轄の不思議なのだろうか……

「校長先生、今夜の終わりはミーにお任せ!」


次回予告

「わたくしジーニーです。学校のお墓に眠っていたゴーストがゾビーに取りついてしまったのです! 大変なことになってしまいました……」


<まえつぎ>