#24 赤ヒッキー青ヒッキー

2020年12月現在、ウィキペディアでもAmazonプライムの配信ページでもこの回のタイトルが『赤ヒッキーと青ヒッキー』になってるんですが、放送時の表記では「と」は入ってません。どうでもいいんですけど……


第24話「赤ヒッキー 青ヒッキー」

(脚本:小林弘利、絵コンテ:破李拳竜)


「生徒会長選挙」の不揃いな文字(ふりがな付き)、散りばめられた星、学校名のロゴ……黒板は子供たちが書いたんだろうなあ、かわいいなあ。

「もう待ったって無駄よ! 他に立候補する子がいないんならあたしが生徒会長で決まり。でしょ先生?」

じれったく机をコツコツ叩くノイジーですが、この子こんな権力志向だったっけ。ていうか今までは誰かが生徒会長をやってたの? ティゲール先生、「ですね」しか言わないけど渋くてかっこいいよー。

イエローリザードクラスに集まった生徒たち、AWMは安定の3人組で、あとどういうミスか分からないけどスピモンの下半身が透けてて怖い。ノイジーにやたら辛口なリディーは

「このままだとノイジーで決まっちゃうわ」

「嫌ならリディーが立候補したら? 1票入れてあげる」

とオンプーにかわされ、ピラニンに雑に振り返す。笑顔が妙に腹黒いノイジーの無投票当選が決まる寸前、何を思ったかスピモンが前に出た!

露骨に嫌そうに腕組みするノイジーと、選挙をアトラクションくらいにしか思ってなさそうなスピモン、2候補が出そろったところで、息を切らしてヒッキーが駆け込んでくる。ヒッキー、集合場所を間違えるというドジ踏んじゃったのだ。

リディーも「これで面白くなったわ」って選挙をショーかなんかと勘違いしてるし、髪をかきあげる動作が妙に高飛車。「おいらの応援演説よろしくだモン!」というスピモンの信頼ゆえのノリの軽さが、ヒッキーにとっては重いのだった……。


ピラニンはスピモンより一歩引いているというか、ヒッキーを自分より上に見ている節があるけれど、こういう悩みに寄り添ってあげられるのもなんだかんだピラニンだよなあと思うのです。机に座ってため息をつきつき、回想するのはノイジーのこと……

……エディにぴょんと飛び乗って話を聞くヒッキー。「へーすごいね!」とか、こういうテキトーなあしらい方というか相槌のうまさこそコミュニケーション能力だよなあと思う。

「あんたに応援演説させたげる」「あんたみたいな人気者と組めば、選挙は楽勝だも~ん!」

高笑いまでしてみたり、ノイジーの描き方は明らかに嫌なやつって強調されてるよなあ。それでも、一度引き受けたものを断るという選択肢はヒッキーにはない。一方的に頼まれただけでも、その約束と親友のスピモンを天秤にかけて悩んでしまう真面目なヒッキーなのだ。


噴水で所在無げに足を揺らしたりして今日のヒッキーはいちいちかわいい。

「なんであんな約束しちゃったんだろ。もし僕が2人いたら、約束も守れるし、スピモンの力にもなれるのに……」

私信で勝手に放送を使うわ、10秒以内に来いとカウントダウン始めるわ、もうノイジーはやりたい放題。急かされて「今行くよ……」と重い腰を上げるが、迷う気持ちがそのまま留まったかのように、水面には青一色になったヒッキーの姿が……

……ということは、カフェテリアに現れたヒッキーは真っ赤っか!

「さ、応援してやるぜ。何から何までオレに任しときな!」

やる気の表れ赤ヒッキー、どれもこれも普段のヒッキーが言いそうもないセリフばかりなので聞いていてゾクゾクするぜ。


スピモンは尻尾をぴょこぴょこさせながら寝っ転がってなんか書いてて、これだけで十分かわいいんですけど、

「おいらが生徒会長になったら、まず、えーと、校庭にジェットコースターを作ります。んー、これは実行できないモン~……」

と言いながら、紙には

『ボクが、せいとかいちょうになったら、すべてのベンダーマシンにオマケをつけます。』

って書いてて、いくらなんでもかわいいがすぎる。

こちらに現れた青ヒッキーは「やあ……」と声にも力がない。どうしてもスピモンの応援がしたくてとはいうものの、動きのうるさいスピモンに質問攻めにされて、答えようとしただけで泣き出してしまう。


ヒッキーは友情と約束どちらを守るか迷うあまり2つに分裂してしまったらしい。というときのスピモンの反応が、大雑把さがおおらかさとして良い方に発揮されていて、とても好きなのです。

「でもヒッキーの気持ちすごく嬉しいモン! 青いヒッキーに応援お願いするモン」

スピモンにとっては、赤だろうと青だろうと大好きなヒッキーには変わりないんですよね。

青ヒッキーは頑張るとは言ったものの、いざ応援演説となると音を立てて震えるばかり。観衆が冒頭と微妙に入れ替わってるんだけど、やっぱりAWは2人一緒にいる。

極悪トリオ、普段はヒッキーのことを実力ではバカにできないから、ここぞとばかりにヤジ飛ばしてくる。「いつもの威勢の良さはどうした!」というヤムヤム、さりげなくヒッキーを認めているような言いぶりがよいですね。

スピモンが偉いのは、頼りない青ヒッキーに怒ったり呆れたりせず、あくまでヒッキーを応援してくれるところなのだ。って応援する側とされる側があべこべなんだけど!


ノイジーは「青ヒッキー泣き出しちゃったらしいわ」って伝聞みたいに言ってますが、あなたさっき教室にいなかったっけ。ノイジー組の演説はこのときやらなかったのだろうか……

「あんな弱虫に応援なんかできるわけねーよ」

赤ヒッキーはスピモンのポスターにせっせと落書きしていた。リディー、ルール違反をとがめるのはともかく、ノイジーの目の前で「あたしはスピモンに投票するの!」と相変わらず当たりがきつい。赤ヒッキーは落書き以上に「秘密を全校放送させる」という脅しが卑劣すぎるし、ペンをポイっと投げて

「それにもう……いっしょにあそばなーい」

と、困惑するノイジーの手を引いて逃げてしまった。呆然とするリディーとオンプー。

「とにかく赤ヒッキーってひどい子だわ!」

だから、一緒に遊ばない、が脅しにならなくなっちゃうんだよね……。

スピモンのポスターはお目目キラキラで『生徒会長はスピモンだもん!』、ノイジーの方は『ノイジー生徒会長にとつげき立候補!』、どちらもちゃんと選挙管理委員会の文字が入っていてなかなか立派なのだ。


深夜でもおはようと教室に入ると、ジーニーとヤムヤムがノイジーを待ち構えていた。不正を怒るのかと思ったらこいつらただのリディー親衛隊。

さすがにノイジーもご立腹だけど、赤ヒッキーが汚い手を使ったことより、そのせいで自分が不利になったことの方に怒っている風なのよね……

「ちょっと赤ヒッキー! あんたものっすごく評判悪いわよ」

赤ヒッキーはエレベーター中に『スピモンはこんなにダメダメ』と貼り紙をしていて、汚いイラストは意図的なネガキャンなのか画力のせいなのか、どうでもいいけどテープを上からぺちぺち叩くのかわいいな。

「要は勝ちゃあいいんだろ?」

「あのね! あたしがヒッキーに応援を頼んだのは、あんたが人気者だからなのよ。それにこんな汚いことしなくったって、あたしは勝てるわ!」

貼り紙を一瞥する冷たい目……自分で頼んでおいてこれだから、今回のノイジーは完全に憎まれ役だ。

「あんたなんかクビよ! あたし一人で勝ってみせるわ!」


スピモンも貼り紙に憤慨していますが、自分をひどく描かれたからというよりも、ヒッキーがひどいことをしているということの方に胸を痛めているのだよな。

「今の赤ヒッキーはおいらたちの好きなヒッキーじゃないモン!」

この言い方、つまりスピモンにとってはどんなひどい赤ヒッキーもあくまでヒッキーってことなんですよね。今はちょっとやりすぎだけど、赤ヒッキー自身が悪いやつ、ダメなやつとは一言も言ってないのだ……。

一方の青ヒッキーもベンダーマシーンのおもちゃにされちゃったりしてやっぱりヘンなので、一同、元のヒッキーに戻す方法を探しに図書室へ。オンプーは20話台あたりからは準レギュラーくらいの頻度でヒッキーたち4人組と一緒にいる印象がある。


ヤムヤムは評判ガタ落ちのヒッキーに代わって人気者の座を狙っていた。

「あれ、親分は嫌われ者になりたいのかと思ってた」

「バカ!! 俺様はリディーちゃんにステキ♡って言われたいんだい」

ここで赤ヒッキーがヤケクソ気味に手を貸そうとした意図がいまいち読めないんですが、ヤムヤムの手助けをして間接的に脚光を浴びて、ノイジーに見直されたかったのだろうか。

「お前らを学校一の人気者にしてやるよ。ついてきな」

提案したのは、ボロッカを大泣きさせて学校中が水浸しになれば授業が潰れてみんな喜ぶ、という作戦。ウソップは「それは……すごいな」と言葉に迷う様子こそあれ、赤ヒッキーの意見を否定はできないのだが。

「俺様がリーダーでえ。俺様はお前の命令なんかに従わねえ!」

ヤムヤム、ボロッカを泣かせて喜ばれるなんて何か違うと思ったんじゃないか。いじめっ子だからこそ、そういうことは賞賛されるためにやるわけではないと分かっていたんじゃないか。赤ヒッキーの差し金で人気者になるなんてプライドが許さなかったのかもしれない。それを「俺がリーダーだ」という一言でズバッと切るのが、かっこいいんだよ、親分……。

極悪トリオにも見放された赤ヒッキーのひねくれた表情に胸が痛む。


さて山積みの本の上のジーニーですが、何か発見した拍子に雪崩を起こし、一人で泣いているらしい青ヒッキーを巻き込んで、また階段を滑り落ちてゆく。

「ヒッキーに起こったのは、ドッペルゲンガーという不思議なんですー!!」

抜け出した心を体の中に戻してやればいい、って簡単に言いますけど。ジーニーはすっかり本に没頭して肝心の青ヒッキーすら2階に放置。本ごと置き去りにされた青ヒッキーはとうとう赤ヒッキーと対面する。

「オレは人気者のはずだぞ。なのにみんなに嫌われてる」

「自分がみんな悪いんじゃないか」

「悪いのはお前だ!」

赤ヒッキーから逃げてスピモンの後ろに隠れる青ヒッキー……スピモンはヒッキーがいじめられるのを目の当たりにして初めて、ヒッキーを拒絶するのだ。

「なんでそいつをかばうんだよ」

「お前に言っても分からないモン!」

「分かっていないのはそっちの方だ! オレはノイジーとの約束を絶対に守りたいと思っただけなんだ。頑張ったのに……なのに……なのに、どうしてみんなオレを嫌うんだ。必死で約束を守ったのに、どうしてオレはひとりぼっちなんだよ!!」

この瞬間にはもう、スピモンも半ば赤ヒッキーに同情するような顔をしていて。赤ヒッキーも、ほとんど気づくか気づかないかかくらいのさりげなさで目に涙を溜めていて、やばい。ここはもう演技がやばい。

「違うよ、ぼくがいるじゃないか……」

「お前みたいな弱虫なんて、オレには必要ないんだ!」

ジーニー、今回はちゃんとかっこよく決めてきます。

「君だけではダメなんです。それは本当のヒッキーじゃない!」

そう、本当のヒッキーじゃないんですよ。単純に赤ヒッキーと青ヒッキーを足して2で割ったら元のヒッキーになるかというと、そうじゃないと思うんですよ。赤の熱意も青の優しさも、どちらも確かにヒッキーの一部分ではあるけれど、ヒッキーの本質はむしろ、その両方を制御してつなぎ止める部分を持っているところにあるのではないか。

そもそもヒッキーにとって、ノイジーとの約束は「守らなくちゃいけない」もので、スピモンの方は「守りたい」ものなわけで、後者を取る方が素直な気持ちなんですよね。それを捨てて責任感を取ったのが赤ヒッキーなのだから、まあスピモンに付いてウジウジしている青の存在が疎ましくもなるでしょうよ。

自己否定することでしか存在意義を確認できない赤ヒッキーは思い詰めて攻撃的になってしまい、約束を破った後ろめたさを抱え続ける青ヒッキーは常に何かに怯えていて覇気がない。でも、ヒッキーにそういう極端な部分がないというわけじゃなくて、極端に走らずにバランスを取っていられることこそ、本当のヒッキーらしさだと思うんですよね……。


カフェテリアに設置された大きなピラミッドに、抵抗する赤ヒッキーと怖がる青ヒッキーを押し込み、スピモンとピラニンが扉を閉める。このシーン、DQが一緒にいるのを確認して満足しました(?)

金属質のピラミッドはどこから用意したやら、アンプーの電気、マグネロの磁力、ワットの光、まではいつものって感じなんですけど、ノイジーのゴシップパワー……!? なんかすごいエネルギーを受けて光り始めるピラミッド。逃げ遅れるピラニン。マグネロは頭の鉄板を外してちゃんと脇に置いているのが細かい。

「ピラミッドパワーよ、2つの心を一つに戻すのです!」

ふいに画面が真っ暗になるので動画が止まったかと思った……最初に口を開くのはやっぱりリディーなのな。入口から顔の真っ赤なヒッキーが見えた瞬間ノイジーが肩を落としていて、今回かなり嫌なやつだったけど、ここでちょっと救済されたなって思ってます。

元に戻ったヒッキーは、「あれ、みんなどうしたの?」と分裂中の記憶は共有されていないのか。ジーニーの眼鏡ズレが適度にシリアスを和らげて本当にいい仕事している。ヒッキー、真っ先に何を言うかといえば、2人に謝ることなのだ……!

「そうだ、ノイジースピモン、ごめん……僕、やっぱりどっちか片方の応援なんてできないよ」

「そんなのもうどうでもいいモン! ヒッキーだモン、元通りのヒッキーだモン!」

ヒッキーに飛びついて、ヒッキーがヒッキーらしさを取り戻したことにただただ喜ぶスピモンなのであった。


「というわけで、今回ピラミッドの不思議を発見し、見事ヒッキーを元に戻したジーニー君が生徒会長に決定しました」

『とうひょう けっか』と書かれた黒板の正の字を数えてみると、ジーニー18票+ノイジー9票=27票……つまり「?」もちゃんと選挙権のある生徒の一人なのだ。

結局スピモンは棄権したのかしら、立候補してないのに当選しちゃったジーニーですが、生徒会長だから何かという話も今後特にありませんので、まあこれでいいんだモン、よね。


ということで24話、ヒッキー回かと思ったらヒッキーのこと大好きなスピモン回でもあったのですが、振り返れば前回23話でもヒッキーはスピモンに対して一言も役立たずとか言ってないのね。そういう2人なのだ、ヒッキーとスピモンは……!


ふしぎコレクション「ピラミッドパワー」

今夜のふしぎはジーニーじゃ!

「というわけで、誰かピラミッドパワーの実験台になってほしいんですが……」

フシギにも再現可能性が大切なんだそうです。


次回予告

「みなさんこんにちは! えー今日は私ノイジーが、次回の最新情報をお伝えします! 煙でできた不思議な男の子が学校に出現。これは大ニュースよ!」


エンドカード

スリーピングドールズの楽譜を抱いて眠るリディーとその側にジーニーのオルゴール。「またみてね!」の文字もゆらゆらしていて芸が細かい。この絵は放送当時から好きだったのでちゃんとDVDに収録されてくれてうれしい……


<まえつぎ>