#40 氷河期がやってきた

ヒッキーたち4人+極悪トリオというレギュラーメンバーが輝く輝く……MHSの一エピソードから劇場版作るとしたらこの話じゃないですか。地味に細かいスケート描写、凍った校舎の中での声の残響、そういうあたりも作り込まれていて今回は特に見所満載なのだ!!


第40話「氷河期がやってきた」

(脚本:若林弾、絵コンテ:頼兼和男)


その日、校舎の中はなぜか息が白くなる寒さ。教室で震えているヒッキーたちに、いつものBGMも寒そうなアレンジが効いてます。

が、校庭に出てみるとこれが寒くもなんともない。噴水の無事を無邪気に喜ぶピラニン……と一瞬目を離した隙に、校舎の扉はおろかロウソクまで炎ごと凍りついているではないか。校舎はあっという間に一面の氷の世界!! ツルツルに凍った床は歩くこともままならず、4人は階段までたどり着く前に次々と倒れてしまった。

「きっと僕たちは外にいたから助かったんだ」

「じゃあ中にいたみんなは凍っちゃったの……?」

とピラニンが言った瞬間、手すりを滑り降りてくるドッキー……の、氷。驚いて駆け寄ろうとするリディーは、とっさに本心出ちゃってる気がします。ヒッキーは深呼吸して空中に赤い物体をたくさん描く。

「なんでこんなときにニンジンなんて描いてるのよ」

「みんなスケートできる!? これを履くんだ!」

平面のニンジンの絵を薄いスケートの刃に見立てて縦に履くという発想の大勝利。身震いして滑り出すスピモンはじめ、みんな一目見てスケート初心者ではないんだなって分かる動きで頼もしい限りなんですが、ピラニンだけは足をガタガタ言わせて下ばかり見てるのね。別にセリフで説明も何もないので気付かなければどうってことない部分なんだけど、だからこそ「いかにもスケート履き慣れてない人」の描き分けが徹底してるのすごいなって思っちゃうんですよ……!


とりあえずピンクトードクラスを覗いてみると、やはり生徒たちはみんな凍りついている。今にも消えそうなモニターにかろうじてペギナンド先生が映っていた。

「良かった、あなたたち無事だったのね……」

どうやら校長先生が風邪を引いたらしく、早く治さないと全てが凍ってしまうのだという。 校長の風邪で校舎の中だけ寒くなる、ということはやはり校舎=校長の体なのか。ここでもまだ足元がおぼつかないピラニンです。

「じゃあジーニーに調べてもらおうよ」

「ジーニーも凍ってるよ……」


そしてもう一組、校舎の外にいて無事だった連中が。

「親分もうサボるのやめましょうよ」

「また怒られるズラ」

「怒られるのが怖くて……!」

凍りついた校舎を見て絶句する極悪トリオ。恐る恐る床に足を伸ばしたチュービーは一歩目で転んでしまった。

「助けてズラ……冷たいズラ……」

「バカだなあ。氷の上はこう歩くんだよ!」

と言った瞬間にウソップも転ぶ。根性見せてつま先で3歩も進んだヤムヤムも、突然ヒッキーに呼ばれて慌てた拍子にアウト。事情を聞き、「心配いらねえぜ!」とリディーちゃんにかっこいいとこ見せようとして再び転ぶヤムヤムでありましたが、「図書室で調べれば何か分かるんじゃねえか!?」と言い出したのは本日一番の冴えた発言でした。ここもピラニンだけ止まり方が下手だ……足を大きくハの字に開いて、ちゃんと静止できていない。

「その前にヒッキー、俺様たちにもその滑るニンジン描いてくれ」

「ニンジン……」


というわけで7人は図書室へ向かうのだが、一面スケートリンクになった2階の廊下で、ヤムヤムは縦横無尽にフィギュアスケートを始めてしまう。

「いやっほーーーーーう!!」

「親分なんであんなにうまく滑れるズラか……?」

「遊ぶことにかけては天才的だからな……」

そんな理由で2回転ジャンプまでできてしまうのか……。

「ヤムヤム、何やってるのよ! 行くわよ!」

「おれさーまはーーーーっと! てんさいだーーーー!!」

親分を気にするウソップに対して、チュービーは「ほっといて行くズラ!」と見切りが早い。


スケートの足では階段も一歩ずつ横歩きで進むしかなく、3階にたどり着くにも一苦労。この辺になるとピラニンも多少慣れてきたのか、立ち方に安定感が出てきているのがまたリアル。

どんどん寒さの増していく中、すっかり「氷の洞窟みたい」な図書室の奥から、凍りかけた返却機さんが力なく出てきた。何十年も前に校長先生が風邪を引いたときのことを知っていた返却機さん、もしかしてペギナンド先生よりも古参なのでは……?

「じ、実はこの学校にはボイラー室があるケロ。そのボイラーのスイッチを入れれば、氷は溶けて校長先生の風邪は治るケロ」

ボイラー室に行くには、凍りついたスロット扉を通らなければならない。スピモンは先走って「とにかく行ってみるモン!」と意を決したように飛び出すが、その直後、叫び声だけ残して……。

「風邪はどんどんひどくなってるケロ。今はもう校舎に一瞬触れるだけで凍ってしまうケロ。おそらくスピモン君は……」

そう言う返却機さんも、さっきより氷の面積が広くなっている。ヒッキーたちはニンジン……もといスケートのおかげで氷に触れずに無事だったのだ。

完全に凍りついてしまった返却機さんに手を伸ばすリディーに、ヒッキーは一声だけかけて振り向かずに立ち去るのだった。


スロット扉を目指し、そーっと階段を下りていく5人。手すりの上で凍りついたスピモンに「きっと助けてあげるからね……」とリディーが声をかける。

「そういえば親分は……」

「忘れてたズラ!」

忘れてたんかいー!!……親分、廊下の真ん中で、目を見開いたまま凍りついてました。

「お、親分ー!!」

「ウソップ、触っちゃだめズラ!!」

ここ、冷静なチュービーの叫びで一瞬我に返りつつ、どうせもう止まれないならいっそ心中しようと手を伸ばしてるよね……ウソップお前、本当にお前はなあ……!!

「あの2人も私たちで助けてあげましょう」

「うんズラ……」


ガチガチに凍ったスロット扉の前に着くと、チュービーは一瞬の迷いもなく「オラに任せるズラ!」と投げ縄絵の具をレバーに伸ばす。凍ったレバーから、絵の具を伝って氷が上ってくる……

「チュービーやめて、凍っちゃうわ!」

「後は任せたズラ! そりゃー!!」

うっすら笑みすら浮かべているのがかっこよすぎて泣く……。

レバーが動いた。スロットの目がボイラー室を示し、氷を押し破って扉が開く。ハイタッチで喜ぶヒッキーとピラニンの向こうで、勇ましい表情のままチュービーは凍りついていた。

「チュービー、絶対にスイッチ入れるからね!」

今回、こうやって一人ひとりに言葉をかけてくれるリディーにすごい愛情深さ感じるんだ……。


吹雪の舞うボイラー室の中、突き当たりのスイッチまでの長い一本道を、残された3人はひたすら滑る。

「なんかスケートの様子がおかしいよ、消え始めてるみたい」

「僕の力じゃここまで絵をもたせるのは限界なんだ。僕の絵はもうすぐ消えちゃう……」

ヒッキーを追い越して先を急ぐリディーの真上に、天井から雪の塊が……!

「よけろリディー!……リディーーーーー!!」

ここの2人、グッときて仕方ないんですけど。凍りついてしまったリディーの前でヒッキーが一瞬立ち止まらなかったら、最後間に合ったのかもしれないんですよね。でもリディーの横を無視して通り過ぎるなんてこと、ヒッキーにはできなかったんだよ。

とうとうスケートが消えた。ピラニンの足が床につく。凍ったピラニンは慣性で前に滑り出す。最後にヒッキー一人だけ残るの、展開熱すぎて見てるこっちの心がボイラー室だわ。

「絶対にみんなを助けるんだ……!」

今にもスイッチに手が届く……だがそれよりも、スケートが完全に消え、ヒッキーの体が重力に従って床に落ちる方が一瞬早かった……


何もかもが凍りついた校舎。動くものは誰もいない、氷に閉ざされた世界。

雪だけが音を立てているボイラー室で、つららの一本がひび割れて落ちた……氷が当たったピラニンが倒れ、前にいたヒッキーを押し出し、その手がスイッチに触れる……ボイラーが音を立てて動き出す……!


校舎が真っ赤に光り、氷が溶け始める。水たまりと蒸気の満ちた教室で次々と目を覚ますみんな。どうでもいいことなんですが、これだけ何回も繰り返し見ていると、2階から来たはずのUYが階段と逆の方向から登場する……とかそういう演出上の細かい矛盾にすら気付くようになってしまって困る。

スピモンと喜び合う極悪トリオの前に、ヒッキーたちは光り輝くボイラー室から勝利の帰還を果たしたのであった! 校長先生の盛大なくしゃみでピラニンが尻餅ついてます。

「校長先生、風邪は治りましたか!?」

「み、みんな、よく私の氷を溶かしてくれた。私が風邪をひくなんて、全く恥ずかしいことになったものだ……。お詫びのしるしに、何でも願い事を叶えてやるぞ!」

校長、ちょいちょい何でも願い事を叶えがちだな。7人は顔を寄せ合って相談すると、ニッコリ笑ってこう答えるのでした。

「「どうか校長先生が風邪をひきませんように!」」

「ああ! お前たち、あんな目に遭ったのに私を気遣ってくれるのか」

「違うよ。もう凍っちゃうのはこりごりだよってことさ……」


いや本当に大好きなんですよこの話。最初に解決の糸口を見つけ出すヤムヤムの天性のセンス、親分思いを貫くウソップの覚悟、確かな信頼が見せるチュービーのタフなかっこよさ……さんざんボケキャラ扱いされてきたチュービーが今回は完全にヒーローの顔してるんだよ……そしてくじけることを知らないスピモンの行動力、みんなを気遣うリディーの慈愛、スケート苦手なのに最後まで頑張って大役を果たすピラニン、たった一人になっても責任感と希望を失わないヒッキー……。10分番組で物語はここまで盛り上げられるという好例のような熱い回であった。


ふしぎコレクション「ボイラーのスイッチ」

今夜のふしぎはボイラー室じゃ!

校長先生のどこにホコリが入ったって……?


次回予告

「ラーララーラ、ラーララーラ、オンプーです。ヤムヤムがリディーのハートを射止めたいってはりきってるの。でもあのスパイバエのふしぎじゃね……」


エンドカード

ヘンテコ優秀トリオとキラキラ極悪トリオ!


<まえつぎ>