#23 悲しみの泉

HLSPがいつも4人一緒にいるかと思うとそうでもなくて、今回はまたいつもの顔ぶれにピラニンがいない。ピラニンはもう2回メインをやってますけど、スピモン主役回は20話過ぎてこれが初めてなのね。


第23話「悲しみの泉」

(脚本:高橋孝之介、絵コンテ:西川伸司)


視聴者に優しく2Dアニメで缶蹴りの説明をしてくれるヒッキー。

「ドッキーが蹴った缶を、僕が持ってくるまでにみんな隠れるんだ。僕に見つかって缶を踏まれたらアウト。僕が缶を踏む前に誰かが缶を蹴ったら初めからやり直し!」

ヒッキーも、クイッキーのせっかちが感染ったみたいなドッキーも、優等生もいじめっ子も目立たないっ子も、12人で一緒に缶蹴り遊び。オバケマークのパイナップルの缶を蹴り上げてゲームスタート!

「いいとこ知ってるよ」とアンプーを連れて校舎に入るワットくん。お墓に隠れるのをためらう、ジーニーとスピモン。鬼のヒッキーは缶を蹴って器用に円の中に着地させると、真っ先に屋根の上のエントンを発見。エントンがこういう場に参加しているのは相当レアな気がするが、たまたま出くわしてヒッキーか誰かに誘われた、とかかな……。


ヒッキーはいちいち確信的に見つけ出してる感じが、みんなの考えなんてお見通しと言わんばかりでニクイ。これだけごちゃごちゃした学校なら隠れ甲斐もありそうだなあ。

なぜか明かりが消えている教室でわざわざ光るワットくん、「なーんで見つかっちゃったのかなあ」「ワットが光るからだプー」って天然なとこあるよね! 図書室では本棚から出られなくなるジーニー。それに、YTUが極悪トリオって呼ばれるのは実は今回が初めてなんですよね。

「極悪トリオみーっけ!」

「ちゃんと名前で呼べ名前で!!」

見つかって無念そうな子分はともかく、親分怒ってますけど、もしかしてトリオ名はヒッキーが今とっさにつけただけなの……?


鬼に見つかった子たち、ヤムヤムが両脇に子分を従えているおかげでウソップがリディーと手をつないでいたりする。

「頼みの綱はドッキーだけね……」

「でも、まだスピモンもいますよ」

先週の今週でリディーはそういうこと言うし! スピモンは隠れる気もあるやらないやら木の上から高みの見物で、「あのお調子者じゃねえ……」とため息をつかれる始末。チュービーは「あいつが何かの役に立ったことがあるズラか?」と今回やたら天然毒舌炸裂してます。

校舎から飛び出してきたDHは走り方がマジすぎて完全に2人の世界。足の早さだけならドッキーに利があったはずが、スピモンのハウリングのせいで形勢逆転。枝から落ちそうになって尻尾でぶら下がるスピモン。鬼のヒッキーが缶を踏んで勝利を宣言し、ゲームはお開きに。

L「ドッキーが負けちゃったのはスピモンのせいだわ!」

Y「役立たずだよなあ……」

AW「「黙って隠れてればなー!」」

D「全く余計なことばかりしやがって」

スピモンがやらかしたのはこれが初めてでもないのでしょうが、それにしてもねえ……。


翌日も同じメンツで缶蹴りですが、やはりスピモンへの風当たりは冷たい。

「来んなよ!」

「お前が一緒だとすぐに見つかってしまうズラ!」

それに澄ました顔でうなずくウソップ。

これだけ言われれば、スピモンだって「お墓に隠れたい気分」になることもあるのだ……。

お墓の奥から暗ーい声が聞こえたと思ったら、声の主は涙を流す泉。泉があること自体はみんな分かっていたと思うんですが、それが生きてるとは知らなかったのだろうか。

「私は悲しみの泉。ああ悲しい悲しい……」

スピモンはさっきまで自分もあれだけ落ち込んでいたのに、泉さんに「そんなに泣くことないモン」と声をかけてみたり、自分のことを指摘されると「そんなにおいらかわいそう……?」と驚いてみたり、この単純すぎるほどのお気楽さがいいのだよね。

「お調子者で、何をやっても失敗ばっかりで、なんて役立たずなんだろう……」

泉さん、人を落ち込ませる才能がありすぎる。今回はスピモンの気を引くために狙って言っている部分もあるかもしれませんが、まあでも本心だよな……。


「ったく、よりによってエントンが鬼のときに真っ先に見つかるなんて、恥もいいとこズラ」

「煙を送り込んで見つけるなんて、俺たちはゴキブリじゃねえっつーの!」

昨日と同じ場所に隠れるお前らが悪いのではないかと思うのだが、骨山はもう極悪トリオのアジトみたいになってるよね。エントンはいつも煙のせいで疎まれがちだから、煙が役に立ってどれほど嬉しいやら、見てくださいこの満面の笑み。ここまで見つかった順番がYTU→AW→G→LO→H→Dというのもなるほどという感じですね。のんびりと「スピモン見つけたモク~!」と缶を踏もうとしたところで、

『エントンはかわいそうだなあー』

「ええっ」

『いつも屋根の上でひとりぼっち……おまけにみんなから煙たがられて……』

そ、それは笑えないからやめろ!! 無表情のまま泉の声を流し続けるスピモンが怖い。それもただの作戦としか思っていなさそうなチュービーですが、

『みじめだよねええ、絵の具が垂れてるのって。いつまでも止まらない鼻水みたいで……』

「う、うるさいズラ! フタがないんだから仕方ないズラ……」

今回はフタを忘れてる設定がちゃんと生きてるのね。泉さんは『みんな自分を見てごらんよ……』と勝手にみんなをかわいそがり始める。ここでジーニーの眼鏡ずれポイント。

ヒッキーがろくな絵を描けないのは鉛筆が短いせいなのかはちょっと判断しかねますけど、でも鉛筆が短すぎるということは、そのせいで人間に忘れられてMHSに入学することになってしまった原因なわけで、コンプレックスをえぐるには致命的すぎやしませんか。

『リディーはオルガンのくせに歌が下手だし、ヤムヤムなんか腐っwwwちゃっwwwてるしwww』

「ワナワナワナ」とバナナの皮がめくれるヤムヤム。泉さん、みんなとおしゃべりできてテンション上げ上げ絶好調です。

『みんな、みんな、かわいそすぎる゛ー!!』

手をつないだままどんよりうつむく生徒たち。我に返ったスピモンはすっかりいつもの調子、というか自分が何をしたか自覚なさげで、放送している間は自我を支配されていたのではと疑うレベル。ジーニーの眼鏡ずれポイント2回目。ヒッキーなんか涙声になってる!

「缶蹴りなんかやってる気分じゃないよ!」

「鼻水だなんて最悪ズラ」

ここなあ、酷いことを言われたヒッキーたちより、遊びを放棄されたスピモンの方に同情しちゃうんですよね私。欠点を責められるより、楽しさが空回りする方がずっとつらいんだ……


「これがきっかけで翌日から学校はミョーな雰囲気になっちまったんだよな」

第2話以来のジョニークロウのナレーションは脚本の手癖だろうか。学校はもう、回想シーンかと思うほど画面がセピア色。

「やあ、調子はどう……」

「もうダメかもしれないズラ……」

「僕もさ……」

これがヒッキーとチュービーの会話というだけで末期感がすごい。リディーのお下げもへにゃっと元気がない。ピラニンに関してははいつもと変わらない気がしたけど、むしろ変わらないどころか元気になってる連中がいました。

「この学校もいい雰囲気になってきたゾビ」

「ずっとこのままでいてほしいボロ」

『ゾビーってほんとに地味で目立たないよね……』

「ンフフ、もっと言ってゾビ~♡」

ゾビーは独特の価値観をお持ちのようだし、ボロッカは何なの、湿気の多い雰囲気が好きなの? 唯一スピモンだけが色鮮やかなままの教室で、チュービーは床を這う赤いコードに気付く。ここ延々とゾビーがクネクネ動いているのが良い。


セピアの校舎を抜け出し、コードをたどってお墓にやってきたHLT。リディーちゃん、「やだぁお墓……」ってヒッキーの手なんかつかんじゃって! それを流し目で見るに留めるヒッキー、お前も大概慣れてるなー!!

「やあみんな、暗いね……楽しんでる……?」

「冗談じゃない! お前のおかげで学校中は真っ暗闇だよお!」

さっきまでもうダメとか言ってたくせにこんな強い口調で責め始めるヒッキーである。他の缶蹴りメンバーも駆けつけてきた。「こんなやつぶっ壊しちまおうぜ!」という親分に一瞬ギクっとするチュービー。ただ一人、スピモンだけが泉をかばう。

「悲しみの泉をみんなの仲間に入れてあげたかったんだモン!」

「でも、こんな根暗で役立たずな泉なんて要らないズラ」

ほんと今回の鼻水は毒舌キレキレだな。

突然現れてスピモンに加勢するZB「そーだそーだ!」「根暗のどこが悪いボロ!」。……これ、ちょっとしたギャグシーンかと思ったらすごく良いことを言っていて、私は泣いてしまいました。役に立つからいていいとか、役に立たないからダメとか、そんなことを言う資格は誰にもないのですよね。ただそこに存在しているという時点で等しく価値があるのである。あまりにも力強い、存在の肯定! 根暗のどこが悪い!!

「それに、役立たずはおいらだモン……」

しょげるスピモンを見て俺の方が涙が止まらないよ。お前は役立たずじゃないし、仮に何の役に立たなかったとしても必要な存在なんだ……! スピモン、他人の気持ちを考えられないわけじゃなくて、いつもはただ考えてないだけだったんだな~と思いました。能天気に見えてちゃんと思いやりとか反省とか持ってる子なんだよな。

「スピモンを責めないでください。スピモンにマイクをつないでくださいと頼んだのは私なんです。そうすれば皆さんとおしゃべりができると思ったんです……ありがとうスピモン、もう十分です……」

まあスピモンも放送垂れ流しにする前に一言みんなに説明してやればよかったのにと思いますが、そこんとこフォローするヒッキーのコミュニケーション強者ぶりがさすがなのだ。

「スピモンは役立たずなんかじゃないよ。だって、悲しみの泉に友達を作ってあげたじゃないか!」

「そうよ! 私たちはもう友達よ。ね、みんな?」

「ええ、壊すんじゃなかったズラか?」

「友達を壊せるはずねえだろ! ねえリディーちゃん!」

親分に蹴り入れられるし、ほんと今回のチュービーはどうなってるんだ。

「嬉しいときはそんなに泣いちゃだめだモン!」


ラストの缶蹴りで捕まってるのが女子→G→極悪→AW→Dなんですけど、ドッキーは何が何でも最後まで逃げ切るんだな、エントンは離脱しちゃったのかな、とか深読みが楽しい。早速ニュースに取り上げられた悲しみの泉さんは、今日も涙が止まらない。

「なんて悲しいんだ。今日は誰も遊びに来てくれない……友達だって言ってたのに……」

しょうがないなと言いつつ、ヒッキーはスピモンと一緒に悲しみの泉に会いに行く。今週は2話ともヒッキーとスピモンが熱いのだ……

「友達だって言ってたのにー!!」

というわけで、別に続かないけど24話に続く。


ふしぎコレクション「暗いひとり言」

今夜のふしぎは悲しみの泉じゃ!

「校長先生はかわいそう。もう若くないし、出番は少ないし……」「そのうちもっと出番が減ってフェードアウト……」

今夜はもうおしまいじゃ……


アイキャッチ:L

4オクターブ2ペダルの懐かしい感じのオルガン。頭の鍵盤も動きが軽やかです。


<まえつぎ>