#37 ティゲール先生の涙
「男/女らしさ」の描写に関しては、MHSは2000年代前半当時並みというか、15年たった今の視点ではステレオティピカルに感じられる部分も多いのですが、そのコテコテの「男らしさ」を半ばギャグ扱いとはいえ真っ向から否定するこんなエピソードもあるあたり、そんな規範よりも自分の本当に好きなもの、自分の生まれ持ったものを大切にしようという姿勢では一貫してるなと思うのです。
第37話「ティゲール先生の涙」
(脚本:荒島晃宏、絵コンテ:奥山潔)
校庭10周まで残り3周。ティゲール先生に怒鳴られた勢いで、ヤムヤムはバナナの皮がめくれている。
「ぐすっ、もう一歩も走れません……」
「反省しましたズラ……」
「もうチャップスの耳を引っ張ったりしません!」
演技なのかマジなのかうるうるお目目で懇願する3人ですが、
「男が涙を見せるんじゃなあーーーい!!」
その大声というもの、校舎は傾き、ガラスはひび割れ、ピラニンは噴水に落ち、極悪トリオも思わず直立不動の姿勢をとるほど。「さっきの言葉に嘘はないな」と言われ、勢いよくうなずくヤムヤムとウソップ……をチラッと見てから真似してうなずくチュービー。
解放された3人は、水飲み場に絵の具を浸したり顔を洗ったりして疲れを癒やしている。白いタオルで顔を拭きながら、恨みの矛先をなぜかチャップスではなくティゲール先生に向けるヤムヤム。「いっぺん泣かしてやる!」と意気込んで、リーダーバエに先生の弱点をスパイさせようとする。
「学校一怖いティゲール先生が泣くズラか……?」
えーと、つい4話ほど前に思いっきり泣いてた気が……しますが……。
そんな先生ですが、チャップスにお礼を言われ、調子に乗って骨の上腕二頭筋(???)をアピールするなどしています。チャップス「先生はちょっと乱暴だけど、強いから好きよ……」なんててれてれしちゃってかわいいなあああ。
リディーに誘われ、『ゴーストロマンス』を借りに図書室へ急ぐチャップス……と、なぜか一緒についてきたティゲール先生。リディーにウインクを投げられ、先生は焦る、汗、汗、汗!!
「男らしいティゲール先生が女の子が読む本を借りるわけないじゃない。ね、先生?」
「……そ、そうだともー。チャップス、先生をからかうんじゃないぞー。えーっと……あ、べつのようじをおもいだしたー!」
3本指の足で階段上るのが大変器用でいらっしゃいます。
「みんなお待ちかねの『ゴーストロマンス』最新刊の解禁だケロ!」
本日発売!!と紙を垂らした返却機さんの口にはピンクの表紙が積み重ねられている。次々手に取ってキャイキャイ下りてくる女の子たち。図書室までは一本道なんだからそりゃどう隠れたってすれ違うよ。ティゲール先生は天井に張り付いてなんとかやり過ごします。見張っていたリーダーバエは鼻息でイチコロにされてしまった。
妙に頭が回る返却機さんと焦るティゲール先生、今回もDQ並みの一人芝居なんですよね……。
「ゴーストロマンスをお探しですかケロ?」
「バ、バカな。なんで私がハンサムな王子(※イメージ映像)と瞳キラキラーなお姫様(※イメージ映像)との胸がキュンとするような甘いラブロマンスの本を借りなくてはならんのだ!!」
「やけに詳しいケロ。ティゲール先生、愛読者ケロ」
「しまった……お前私をハメたなあ!?」
舌を引っ張って脅す先生、怖いです。仕切り直して聞いてみるが、肝心の本は全部貸し出し中と。
「ゴーストロマンス、王子様、お姫様、出てきてくれー!!」
「そんなに早く読みたかったら、借りて行った女の子たちに直接頼むケロ」
~妄想始まり~
お花の中にたたずむ女の子たち
L「あの強くて男らしいティゲール先生が恋愛小説の大ファンなんだって!」
C「そんな先生キラーイ……」
J「先生って軟弱者なのね!」
~妄想終わり~
先生が勝手な思い込みで勝手に窮地に陥っている頃、極悪トリオは木の上でリーダーの帰りを待っていた。ただ泣かすのならいい手がある、と進言するウソップ。この無意識に背中を掻く仕草、こういうどうでもいいところがほんとこのアニメは信じられないほど緻密で困っちゃうんですよ。チュービーは、寝てます。
ヤムヤムとチュービーが机ごとウソップの隣に入ってきていて、教室の後ろが狭い。マグネロめっちゃ邪魔そう、と思ったらこいつ次の瞬間には寝てやがる。
「お前たち、クラスが違うぞ!」
「俺様たちは~、先生みたいな男になろうって決めたんだ!」
「だから先生の授業を受けさせてほしいズラ!」
チュービーいい子ちゃんぶってんなあ。担任の許可は本当に取ってたんだろうか……ティゲール先生は怒れば怖いけど怒りっぽいわけでは全然ないんですよね。
「先生しつもーん! 先生が泣くのはどんな時ですか……?」
「男に涙は禁物なのだ!!」
すかさずジュノが「先生ステキ!」と持ち上げる。何があっても泣かない、そうだね、ティーチャーズデイでインキーが立派なこと言っても全然泣かないもんね。極悪トリオは「じゃあ、これは!?」と玉ネギの山を持ち出し、ちゃっかりゴーグルをかけ、一気に皮をむいてスプレーの風で教室中に吹き飛ばす。
「モニターにタマネギは効かーん!」
3人おんなじセリフにおんなじポーズで驚いててかわいいなあ。
「「先生かっこいい! それに比べて……」」
極悪トリオは授業を邪魔した罰として再び校庭10周を命じられてしまった。フォントンの笑みが意地悪いです。
ゴーグルを人喰い花に没収され、玉ネギを抱きかかえて涙ぐみながら走る3人。だが返却機がやって来たのは目ざとく見逃さなかった。運良く一冊見つかったゴーストロマンスに「会いたかったよ~!!」と口づけて喜ぶティゲール先生が、我慢できずに玄関ホールで本を開いた瞬間、
「ちゃんと見張ってないと俺様たちはサボっちまうぜ?」
ああーいやらしい。腕を振り回して怒る先生に「はあーーい」と返事だけして、やっぱり3人おんなじ動きで去っていくのがいい感じにやな感じ。
「本を読みたいんだが他に人がいると気が散るんだ。個室はねえのか?」
返却機さん、読書週間であれだけ苦労させられておいて、ウソップにそんなこと言われてあっさり信じるのか。持ってきた本は『The Arabian Love Story』ターバンをかぶったキューブキャラクターが気になります。天井から出てきた紐を引っ張ると、図書室の一角がカーテンで仕切られて個室になった。ウソップは「後で使わせてもらうぜ」と本を預けて去っていく。
先生、「階段の下に入れるか、た、試していたのだー!」なんてウソが下手すぎるとこほんと大好きです。何食わぬ顔で生徒に挨拶しながらいよいよ汗ダラダラですが、『図書室で個室はじめました』のポスターを見るなり期待通りに食いついた。ウソップ、この作戦のためだけに用意したポスターのクオリティが高い。ティゲール先生は返却機を叩き起こし、とうとう自分だけの空間を手に入れて大満足。むしろこれまではどこでこっそり読んでたんでしょうか……。
チュービーのタレコミを受けたノイジーが、図書室からヤムヤムの中継を流す。え、エックス、パンケーキ手に持って食べてる……かわいい……!
「これがティゲール先生の、秘密だ!!」
カーテンを開けると、そこにはハンカチを絞るティゲール先生の姿が! モニター越しにハンカチを噛みながら(!?)目に涙をいっぱいためて、ゴーストロマンスを読みふけるティゲール先生!!
「みんな見たか、この情けない姿!!」
カメラに気づき必死で顔を隠す先生、ちょっとさすがにかわいそうっていうか、人が恥ずかしがる姿って本当に見ていてつらいんですよね……。「よしなよ、恋愛小説で泣く先生なんて、もう怖くないぜ!」なんて先生を脅すヤムヤムはもう一丁前の悪そのものです。
「リディーちゃん、早速ティゲール先生を笑いに来たのかい、大歓迎だぜ!」
しかし女子たち、極悪トリオには一瞥もくれずにものすごい勢いで突き飛ばしていく。
L「先生、どうして恋愛小説のこと隠してたの!?」
Y「男が恋愛小説なんてかっこ悪いからに決まってんだろ……」
L「かっこ悪くない!! 恋愛小説に感動して泣くなんて、先生ってピュアでステキ……」
極悪トリオ今回ほんといちいち同じ動きしてかわいいな。「先生、強いだけじゃなかったのね!」「もっと好きになった」と言い寄られ、ティゲール先生は改めて泣き出してしまった。
「みんな、恋愛小説を恥ずかしいなんて思って悪かったー!!」
男は泣いちゃダメとか、恋愛小説は女のものとか、そういうの全部ひっくり返してくれる素晴らしいオチ。男とか女とかイメージとか関係なく、誰でも好きなものを好きなように読めばいいのだ。女の子が好きなものをバカにする男が一番かっこ悪い!!
モニターにタマネギは効かないけど、鼻息も出るし、涙も出るらしい。先生が「バカ者、小説を思い出したんだ!」と泣き笑いする一方、抜き足差し足で逃げ出す極悪トリオに、リディーたちはすごい剣幕で言い渡す。
「よくもこんな良い先生をいじめたわね!」
「恋愛小説もバカにして!!」
「罰として校庭10周!」
女の子たちにお勧めの本をどんどん貸してもらい、「これはしばらく泣きっぱなしだなあ……」とうれしい悩みのティゲール先生なのでした。
ふしぎコレクション「ティゲール先生を泣かせた恋愛小説」
今夜のふしぎはティゲール先生……
「いや〜私がふしぎデビューだなんて……」
……を泣かせた恋愛小説!
「ええ! 恋愛小説がふしぎデビューですってー!」
実際ちょっと読んでみたいんですけど、ゴーストロマンス。
アイキャッチ:S
耳だけ動くのが天才的にかわいい……。