#28 ふしぎ放送局

今回なんとなく『赤ヒッキー青ヒッキー』と似た画面が多くて、ヒッキーとスピモンの友情についてのアンサー回って感じもあるんですよね。ヒッキーが考え込むようなことをスピモンは気にしなかったり、スピモンの悩みをヒッキーは悩まなかったりするんだけど、そこを自然に埋め合える関係で。引き合いに出してしまえば、ヒッキーとドッキーはいつも意識し合う仲間なんだけど、ヒッキーとスピモンは意識しなくても友達、みたいな。


第28話「ふしぎ放送局」

(脚本:小川勝慶、絵コンテ:なかの★陽)


「ミッドナイトホラースクール深夜の目玉、特別番組『不思議になれたかな?』」

モニターに"MIDNIGHT EYE" "NOISY SPECIAL"のタイトルが踊る。大盛り上がりのカフェテリアで今日もモブを埋めるAWMです。皆様お待ちかねのプログラム、と『特集!不思議レポート』のテロップに続いて出てきた〈スピモンとオンプーの恐怖のラップ音〉。オンプーは憂鬱そうにグラスを揺する。

2人の作戦は、オバケの音を作って廊下から教室に流そうというもの。オバケはお前らだろ!というツッコミは置いといて、大パニックになるイエローリザードの面々とニッコリ笑顔な2人の対比が愉快です。さてどうなったのか、VTRスタート!


ヒッキーとカボがじゃんけんしてるんですけど(あの手でどうやって…)、この後カボが手を前に出してポーズを取っているので、ジェスチャーゲームか何かだったのかな。

スピモンは尻尾をマイクにつなぎ、オンプーの声を怖ーいオバケの音にして流す。2人とも実にいい顔です。不穏な音に合わせ、空気を読んで暗くなる照明。ドッキーの怖がる姿を確認してやろうと思ったのに、ドッキーの席ゾビーが座ってて本人いないんだけど!!

が、スピモンがつい楽しい音楽にしてしまい、ノリノリイエーイ! つられてオンプーもオバケイエーイ! 教室でヒッキーたちも踊り始めるし、ZBTは机の上に乗っちゃうし、机たち自身も一緒になって、ラップラップでイエーイ! ふしぎ挑戦はあえなく失敗。もう、スピモンのバカ!!


個人的に人の失敗を笑うギャグはギャグとしてダメだと思うんだが、とにかくこれが大ウケなのである。ていうか踊らされた側のヒッキーたちは笑える立場じゃなくない? 突然出てきたヤムヤムにもサラリと切り返せるオンプーは強い。

「2人がかりでこれじゃ卒業はまだまだだな」

「あら、ヤムヤムは何か成功させたっていうのかしら?」

「俺様は世界ふしぎ級の技を成功させたばかりだ。か、カメラの故障でそのときの映像は残ってないんだがな」

とかなんとか言ってヤムヤムは今月のふしぎチャレンジランキングなるものを発表させるわけですが、

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チャレンジ記録だからテストの成績ではなく意欲関心の評価みたいなものなんでしょうが、見どころしかないぞこのグラフ。主人公とライバルキャラがワンツートップ(ほとんど差はなさそう)でそれに一歩及ばない秀才とか、こんなところまで隣同士のAWとか、比較的健闘している女子たちやどうも振るわない目立たないパーティ組、意外にも半分より上位のT、自分のことはすっかり棚に上げているY、優秀トリオとかいうわりにこのポジションのフォントン、そして、あえてはっきり画面に映る下から4番目の謎の白い四角!

チュービーはグラフに拍手までしちゃっていやらしい。「罰としてもう一度さっきのVTR見ようぜ」なんて言うウソップに悪乗りするノイジーを見ていると、確かに彼女、ワルなハートにビンビンくるよなって思わずにいられない。

スピモンの声、文字で書き取れないんですけどそこがかわいいんだよな……「もう見ないでいいモン!」とノイジーのところに押しかけて何をしたかと思うと、

「勝手に別のテープ入れないでよ!」「スピモンがビデオ壊しちゃったみたい」

そう、ビデオテープ時代なのだ、MHS!!

砂嵐と共に流れる『泣き虫ロッソ』や『マグネロン』など初期数話の映像。VTRが始まるなり、ヤムヤムは慌ててモニターに飛びつく。

「俺様の汁で滑って転んで気持ち悪くさせてやる」って、どういう文脈があったらそんな状況が生まれるんだよ! 変な臭いをかぎつけてやって来たペギナンド先生、強力消毒薬(危険)を床に垂らして「あらヤムヤムでしたか」と全く慣れたご様子です。

笑い者にされたことより何より、リディーちゃんに「ヤムヤムったらおかしい!」と笑われたことが、ヤムヤムのガラスのハートに突き刺さる。子分たちはさすがにこのときは笑っていないんだけど。

元はと言えばヤムヤムの自業自得なのにちゃんと謝ってくれるスピモンは素直だ。「お前がロクな不思議を作らねえからこんなことになったんだぞ!」「もっと不思議に挑戦しなけりゃひどい目に遭わせてやる!」って、まあ完全に言いがかりですけど、よく考えたらこれってただスピモンが真面目に勉強するように応援してくれているだけなのでは……?

お祭り脳のノイジーが「それいただき!」と食いついて、1週間後にスピモンのふしぎ挑戦イベントが開催されることになってしまった。モニター越しにどうやって会話できてるのか分かりませんが、ヤムヤムの顔を反射させて映す構図が凝っている。とここまで文章まとめてて思ったけど今回は起承転結の起が重い構成だな。


スピモンが教室で一人思い悩む姿、ちょっと選挙のときのヒッキーを思い出すんですよね。

「そういえばオイラのふしぎって何だモン? ヒッキーは動き出すラクガキ、ドッキーはつむじ風……オイラはただのスピーカー……」

机の上をピョンピョン飛び跳ねたり尻尾でぶら下がったり、ほんとスピモンの動きって見ていて気持ちいい。普段何も考えていなさそうなスピモンがこうして真剣になるシーンがあるからこそ、本編で描ききれなかった部分でもみんなそれぞれ悩む場面があったんだろうなあ、と想像が広がるんですよね。


「自分のふしぎのことなんて考えたことなかったモン」と言いつつ、いざとなったらパッと決めて行動に移せるからスピモンは偉い。本の山に囲まれてスピモンが向かっているのは、その名もド直球『迷ったら読め!MHS先輩作品集』、金ピカの学帽をかぶったキャラクターがかわいい本だ。ジーニーは慣れた手つきで本を頭の中に入れて機敏にページを繰り、「モアイ像の不思議」を提案する。

「モアイ像は卒業生のイースタルが作り出した不思議です」

「聞いたことある。はるか南の島イースター島にある謎の巨大石像だモン!」

「多くは謎ですが、宇宙人から見た目印、交信のための電波タワーだったのではと言われています」

本にまとまっているような先輩のふしぎでも「多くは謎」なのか……だから不思議なのかもしれないが。宇宙人と交信するモアイ像という先行研究から着想を得て、それによって受信した電波の放送を目指す、というテーマ選びも正攻法。ヒッキーの言う通り、スピモンにぴったりのふしぎだよ!

「ふしぎ放送局、スタートだモン!」


というわけでまずは校庭にモアイ像を手作りするところから。この切り替えの早さがスピモンのいいところ。極悪トリオの冷やかしにも負けず(チュービーの顔よ!)、粘土細工でスピーカー耳のモアイ像を作り上げる。早くも不思議電波を受信する上首尾ですが、電波が聞こえるようになったと思ったらスピモンはすぐ休憩に行ってしまった。

ここぞとばかりに出てくる謎カメラ目線の極悪トリオ。「こんな粘土細工ぶっ壊しちゃうズラ!」って、口調がワルになりきれてなくてかわいいよなあ。こうなることも想定済みと、物陰から見守っていたジーニーとヒッキーがモアイにアフレコし始める。

「「コレオマエタチ、サテハワシヲ壊スツモリジャナ……不思議電波たわーデアルワシヲ壊スト、恐ロシイ呪イガ降リカカルノダゾ」」

読書週間のときは変声スピーカー使ってましたが、今回は喉をトントンやって声色を変える演出です。トントンやるせいで眼鏡がずり落ちてきたり、それを一瞬直したりする細かさが良い。あとヒッキーがめっちゃ悪い顔してて好き。

「「やむやむハサラニ腐リ果テ、ちゅーびーハぺしゃんこニナッテ、うそっぷハ錆ビテ空キ缶ニナルノダ……」」

うわーなんて恐ろしい呪いなんだー。邪魔者撃退大成功で2人のハイタッチも軽やかです。


今回、スピモンの動きのうるささが存分に活用されているのが好きなんだ。耳で斜め45度に立つと電波をビンビン感じることを発見したスピモンですが、ふと尻尾で立ってみると、さっきまでの掃除機の音のような電波とは違う誰かの声が聞こえてくることに気付く……

『お、おいら、オイラは、未来の……』


1週間後、特別番組『スピモンのふしぎになれたかな?』はカフェテリアからの生放送。イラストのスピモンは口がV字でかわいいな。モアイの呪いに怯えつつ、イベント会場にはちゃんと来るマメな極悪トリオである。

ドラムロールに急き立てられ、スピモン、どうにでもなれと言いつつすぐにポーズ取って受信できるあたり、きっと1週間ずっと練習してたんだろうなあ……

『オイラは未来の、君だ、モン』『未来を、そして失敗を、恐れてはいけない、モン』

今の声どこかで聞いたことがあるよ? 誰だろう……

「そう、これは未来のオイラの声。オイラは多分、失敗してしまうんだモン……未来のオイラは失敗って言ってる。その証拠に、この電波しか受信できないモン……」

『悲しみの泉』ぶりに自信喪失気味なスピモン、こういう、能天気そうな子でも実はコンプレックスに悩んでいるのだ、という部分にスポットを当ててくれるところ、ほんとMHSのキャラクター描写の誠実さだと思う。その上でもちろん、くよくよするよりも楽しいことに対する感度の方がずっと強いから、スピモンはスピモンなのだ。

「電波の声は失敗ではなく、失敗を恐れるなと言っています」

「だって、未来から電波を受信したんだよ。すごいじゃないか!」

今回ジーニーとヒッキーが甲斐甲斐しくて泣かせるなあ。スピモンは応援を受けて瞬く間にやる気を取り戻し、「エイヤァ!」とポーズを取り直す。今度はさっきとは別の、低くて太い声が聞こえてくる。

『尻尾……Sに……』

謎の声の指示するまま、逆立ちして尻尾の形をS字にすると、ものすごい電波がモアイ像に降り注いできた。カフェテリア中央の巨大な造形物に謎パワー、っていう画もピラミッドのときとダブるんだよな。

電波が強すぎたのか、スピモンは黒こげになって吹き飛ばされてしまった。モアイ像は自壊。だが散らばる粘土片を見つめながら、スピモンの表情はすがすがしい。

「きっと、一つのモアイ像では不思議電波の受信は無理なのですよ」

「いいモン! 今度はモアイ像に頼らないで、一人でチャレンジしてみるモン!」

失敗を恐れず挑戦してみることで、さらにその先へ挑戦する道が開ける、こういう途方もなく前向きなお話は見ていて元気が出るなあ。

「モアイ像が崩れたズラ~!」「呪いだー!」「腐るぞー!!」と逃げ回る極悪トリオに、さっきのポーズをもう忘れてしまったスピモンでした、という二段構えのオチ。誰かポーズを教えてったって、尻尾があるのはお前しかいないんだから!!


近い未来のスピモン自身が過去へ電波を送ろうとして送ったというわけではないと思うんですが、失敗を恐れるな、という強い思いがモアイのパワーで過去に届けられたという感じだろうか。あるいは、将来ふしぎとして名を成したスピモンが、若かりし自分に向けて送った遠い未来からのメッセージ……?

「尻尾をSに」の声の主だけは謎のままですが、ここからは妄想ですけど、これは本当の宇宙人が、それこそUFO先輩みたいにスピモンに送ってくれた電波だったとか。でもそうなると、未来からの自分の声と、オンタイムでの宇宙人とのやり取りと、2種類の電波を受信できたってこと? 先行研究が超メジャー分野だったおかげでなんかものすごい不思議に片足突っ込んでる気配。


ふしぎコレクション「モアイクイズ」

今夜のふしぎはモアイ像じゃ!

「実は全部偽物じゃ」じゃないですよ!! 中からあんなでっかいガイコツ出てきたら怖すぎるわ!!


次回予告

「ウキー! スピモンだモン! カボがいつもみんなにイタズラするから、ジーニーとビンセントが怒っちゃったモン。カボってほんと、困っちゃうモン!」


エンドカード

煙の文字で「またみてね!」、エントンとケムリンにバックダンサーズのリディーとオンプーも一緒。


<まえつぎ>