#1 ふしぎなラクガキ

大好きな第1話です。脚本=原作者なのは今回一度きりですが、ヤムヤムの声が渋めだったりキャラクターの演技がまだ定まっていない感じもあり(4話くらいからみんないつもの感じに落ち着く)、パイロットフィルムという雰囲気も強く。


DVD裏のサムネイル画像が溶岩コーヒーを飲んだドッキーで、この話でそこ選ぶんだ……って思いました。あらすじはこう。

「自分の描いた落書きを動かそうと努力するヒッキー。ところがなぜかドッキーと階段手すり滑りレースで対決するはめになってしまう。」

いや本当になぜかですよ。


第1話「ふしぎなラクガキ」

(脚本:イワタナオミ、絵コンテ:奥山潔)


「世の中には不思議なことがたくさんあるものじゃ。そんな不思議はどこで生まれているのか知っているかな? それは、深夜の学校ミッドナイトホラースクールで作られているのじゃ。今夜はどんな不思議が生まれることやら……」


ちょっぴり不気味なBGMに乗せて、校長先生のナレーションで物語はスタート。おなじみの校門から玄関を通り、イエローリザードクラスの教室へ入っていくと、ヒッキーが顔を文字通り真っ赤にして、黒板の犬を飛び出させようと気張っている。

「と、飛び出せーーー!」

黒板から今にも出てきそうな犬の絵はしかし、後一歩のところで元に戻ってしまった。真っ青になって座り込むヒッキー。

「残念。これじゃまだまだ不思議とは言えませんねえ」

と天井を歩いてきたのはサラマン先生です。「君たちは人間に忘れられてしまった存在です」と何人かの正体を説明してくれるのだが、この4人はホラーワールド時代からの古参だし、作品紹介なんかでもよく例として挙げられるモノたちなので、キャラクターの中でも一番に生まれた子たちなんだろうなあーと思っている。

先生に頭をなでられるヒッキーは、教室の隅に転がりっ放しのちびた鉛筆。

物置に入れられたままのオルガンであるリディーは深いため息を一つ。

もう使われていないボロ傘のボロッカは無言でしぼむ。

そして、「半魚人の噂なんてもう時代遅れです!」と叱咤されるピラニンは、よだれと鼻ちょうちんがすごい。このセリフからだと、ピラニンの正体が半魚人なのか、目指している不思議が半魚人の噂ということなのか、判断しかねるところではある。

「このまま忘れ去られてしまえば、君たちの存在は消えてしまう」、つまり彼らは存在し続けるためにフシギの勉強をしているのだ。学校生活は死活問題なのである。

先生の問いに挙手して答えるリディーが得意気な顔を見せると、怪訝な表情を返すヒッキー、この関係がもうたまんないですね。


「卒業生のモッサーを知っていますね。モッサーは物置で忘れ去られてしまった芝刈り機です。彼は不思議を作るため、毎晩毎晩小麦畑で丸い模様を作り続けました。人間たちは眠っている間にできるその畑の模様を不思議がりました……今ではミステリーサークルと呼ばれ、世界の七不思議としてモッサーは存在し続けているのです」


モニターにWONDERマークが乗っかったところで、今日の授業はおしまい。終了と同時にスピモンがキィー!とピラニンを飛び越えていく。

「ところで、あの絵は猫かな?」

「…………犬です!」


エレベーターホールではルーアとネジマキツムリが一緒にうたた寝している。壁に猫、じゃなかった犬の絵を描いて練習しているヒッキー。スピモンが延々とキャイキャイ言っており、目にうるさい(かわいい)。と、空気を変える例のBGM! 出たーーー極悪トリオだーーー!!

ウソップの「間違っても犬には見えねえぜ」という茶化しに「猫じゃなかったの……」と真面目にこぼすピラニン。即座にその口をふさいでフォローするスピモンが、結構こういうとこ気の回るやつなのだ。

「お前たち、本当の犬を描いてやれ」

「いくぞチュービー!」

「ほいズラ!」

UTが良いコンビ感発揮してます。ただし肝心の絵は、リディーちゃんに言われなくても犬じゃなくてナメクジとブタだ。リディーちゃんに反論してくれと、親にせがむ子のように親分の手をつかむチュービー。だが当のヤムヤムはというと……

「親分リディーちゃんに弱すぎるズラ!」

「ええうるさいうるさい! リディーちゃんが正しいったら正しいの!」

「いつもそれなんだからもう……」

さらに、騒ぎを脇目に階段の手すりを滑ってくるものが一人……「フッ、くだらねえ……」と皮肉っぽく漏らす彼こそ問題のドッキーです。


このドッキーがどのくらいかっこいいかというと、溶岩エスプレッソ砂糖抜きをわざわざ背中越しに頼むほどのかっこよさなのだ。

「うれしいねえ! この味が分かるのはあんたぐれえだよ」

頭から溶岩を流しながらコーヒーを抽出するベンダーマシンさん。と、同じ声のルーアは、やっぱりまた釣り台の上で居眠りしている。

机に水滴で描いた絵を消してため息をつくヒッキー。「やっぱり僕にはフシギは無理なんだ!」との弱気な発言に、ドッキーが耳から湯気を出しながら口を挟む。

「お前のフシギはそんなものだったのかあ。見損なったよ」

この「見損なう」という言葉選び、本当はヒッキーのことを高く買っていたのだと暗に言ってるようなものじゃありませんか。そしてヒッキーの方もすぐに反論するでもなく、顔を背けて言葉を絞り出すという、この関係なんですよ……。

「ドッキー、君には分からないよ、僕の気持ちは……」

「フン、分かりたくもないね」

「何よ気取っちゃって! あんたに何ができるのよ!」

リディーが食ってかかると、ドッキー、突然マグカップを放り投げ、猛烈なつむじ風を巻き起こした。飛ばされるヒッキー、落ちるグラスとフォーク、そしてまっすぐドッキーの手に戻ってくるマグカップ。

「究極のスピードが作り出すフシギ……名付けて『つむじ風フォーエバー』」(顔中から湯気を噴出)

「かっこいい……」

「そんなスピードがなんだい!!」

基本その場の感情に素直なピラニンと、落ち着きはないけどヒッキー第一なスピモン。仲良し4人組でもヒッキーとスピモンは格別の親友なんだろうなあとうかがわせてきます。

そしてスピモンの発言で、ヒッキーとドッキーはなぜかリディーをかけて階段タイムトライアルで勝負することになってしまった。本当になぜかだよ!!


仕事が早いノイジーは「ニュースニュース大ニュース!」とイベントのビラをまき始める。

人喰い花の拾ったチラシを見ながら「あんたもなかなかやるわね」とリディーをからかうジュノ。チャップスもニヤニヤしながら「あれ、赤くなってる! どして?」とリディーに迫り、キャラクターを一発で印象付けてきます。

スパイバエも早速仕事してます。リーダーの報告に「俺様を差し置いてリディーちゃんをめぐる戦いだと!?」と怒るヤムヤムは、憤慨のあまりはみ出たバナナの中身を押し戻す手つきがさりげない。


「ただ今1階エントランスにおきまして階段手すりタイムトライアルの特別番組を放送しておりま〜す!」

さて、ノイジーの全校放送でお待ちかねのイベントが始まるわけですが、ここではまだ「階段手すりすべり」という正式名称(?)も定まっていない様子。解説のジーニーさんの体を張った実演によると、スピードの上がる2階踊り場のカーブがポイントらしい。

ここで働いているのは、実況のノイジー、スピーカーの猿(モニターにだっこしてるのがとても猿っぽい)、シグナル担当の電球(自力発光)、ワットの頭替え係のカボチャ、そして顔でタイム計ってるクイッキーです。

「アニキ〜、新記録頼むだぎゃ〜!」

アニキことドッキーはスタートラインについてなお「フッ…」とクールさを欠かしませんが、その顔つきは真剣そのもの。

レースが始まると、ウソップの仕掛けたオイルスプレーでスピードの制御を失いかけたものの、なんとか1階まで滑りきりNEW RECORDまで叩き出してしまった。

即座にヤムヤムの企みを察知しレース中止を呼びかけるドッキーだが、クイッキーの猛烈ラブコールに足止めを食らってしまう。「アニキ、アニキぃ~」って絶対語尾にハートマーク付いてるでしょ……これが一人芝居だっていうんだからすごい話ですよ!!


エレベーターが開かないからってすぐドアよじ登っちゃうリディーもなかなか良いお転婆っぷりだと思いますが、レースの二番手ヒッキーは、オイルの罠であわや手すりから落ちかける羽目に。ノイジーをハウリングさせながらヒッキーを応援するスピモン。

極悪トリオはオイル作戦に加え、お邪魔スプレー(つまり、風)で直接攻撃に出た。が、駆けつけたドッキーの「ミニつむじ風」がいろいろといろいろなものを巻き込んで1階まで転げ落ち、飛び出したヤムヤムの中身がエレベーターを直撃。エレベーターはロープにしがみつくリディーだけを残し、暗い地下へと吸い込まれていった!

こういうときちゃんと指示出しできるあたりが「いざというとき意外と頼りになる(公式プロフィール)」ドッキーである。スピモンが身軽さを生かしてリディーに手を伸ばすが、間一髪間に合わず……リディーが落ちる瞬間、目を伏せるドッキー……!

「飛び出せーーー!!」

何かがカフェテリアに飛び込み、再び飛び出してきて、ピラニン逃げる。みんなが忘れたころの、ふしぎなラクガキですよ!! ヒッキーの描いた絵が床から飛び出してリディーを救ったのだ。

「すごいフシギよ、空飛ぶペンギンなんて!」

「なかなかやるじゃねえか、ペンギンを飛ばすとはな。やられたぜ……」

「プテラノドンなんだけど……まあいっか!」

速さにはこだわるが勝ちには執着しないドッキーが、その実力を認めたかのようにヒッキーに手を差し伸ばす。この関係なんですよ……!! バナナの中身をジョニークロウに持ち去られたヤムヤムも、いいオチをつけてくれたのでした。

「結局どっちが勝ったのか分からなかったモン!」

「あら、ヒッキーは勝ったのよ! 自分にね!」

「リディーちょっとざんねん……?」

相変わらず空気を読まないピラニン……を盛大に踏みつぶしていくチャップス。ヒッキーは空飛ぶペンギン、もといプテラノドンを満足げに眺め、みんなの後を追うのだった。


わずか10分の映像で設定や背景についての説明をきっちり織り込み、主人公の成長物語も見せた上で、10人以上の登場キャラクターを描き分けるという、第1話として必要なことが全部詰まっている第1話の中の第1話じゃないですか。何回見直しても新しい発見があって、これだけの文章書くのに本当に何年もかかってしまったわ。本当に大好きな第1話です。


ふしぎコレクション「動く落書き」

今夜のふしぎはヒッキーじゃ!

ラクガキが動くだけでは怖くない。やっぱり人間の記憶にとどめてもらうにはちょっとドキッとさせる要素が必要なのだ。

ここで犬が書かれている壁は昼間の小学校……? 特典映像はたまに舞台がいつものミッドナイトホラースクールではないのが興味深いです。


アイキャッチ:A

アニメ初見時はこのアイキャッチで初めて正体を知ったキャラクターがいたものです。

アルファベット順なので当然、トップバッターはアンプー。


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